小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1107回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

Electric Zooma! 2023総集編。アクションカメラと耳を塞がない系が成長の1年

やっと日常が戻ってきた1年

2020年から始まったコロナ禍も、5月に季節性インフルエンザと同じ5類に引き下げられたことで、多くの人は肩の荷が下りたように感じたことだろう。引き続き感染対策には留意しつつ、多くのイベントや展示会も復活し、仕事も生活も以前のようなスタイルに戻りつつある。

こうした生活の変化も当然、趣味性の高いAV機器の消費には影響を与えるわけだが、以前のように活況を取り戻したもの、コロナ禍以降の変化がそのまま続いているものに別れてきた。加えて原材料費の高騰と円安により物価上昇が収まらず、なおかつ増税議論が活発化し、今年の漢字に「税」が選ばれるなど、我々一般庶民の生活も明るい兆しが見えないところである。今年取り上げた製品の人気も、そうした世相を反映しているようにも見える。

さて今年1年で本連載が取り上げた製品をジャンル分けすると、カメラ×17、オーディオ×16、制作・HowTo×4、ガジェット×3、スマートディスプレイ系×5、レポート×2という結果となった。カメラの中にはドローンとスマートフォンも含む。

では早速ジャンル別に、今年のトレンドを振り返ってみよう。

カメラ編

Insta360 GO 3

撮影機器は本連載でも人気の高いジャンルだが、今年はアクション系カメラの躍進というか、業界地図が大きく塗り替えられた1年だった。カメラ系16のうち、アクション系だけで6製品もある。

個人的に感心した製品はいくつかあるが、まずは「Insta360 GO 3」を上げておきたい。これまでの「GO」シリーズは、親指大であることが売りだったが、撮影時間も短くディスプレイもないということで、今一つスマホアクセサリーの域を出なかった。それがディスプレイ+バッテリーユニットと合体してアクションカメラやVlogカメラとしても使えるようにしたことで、ようやく活路を見出したように思う。

Insta360はアクションカメラでも合体分離ではなく、ストレートにGoPro競合モデルをリリースしており、特殊カメラメーカーから一般カメラメーカーへ脱却を図ろうとしている様子が伺える。

もう1つ感心したカメラとして、DJI「Osmo Pocket3」がある。同社が得意とするジンバルカメラだが、これまでディスプレイはオマケ程度だったのに対し、ディスプレイを回転させて展開することで大型化できるようにしたのはいいアイデアだった。画質や発色も改善され、もはや空を飛ばなくてもDJIはカメラメーカーとして安定した評価が得られるようになってきている。

DJI「Osmo Pocket3」
Feiyu Techの「Feiyu Pocket 3」

一方スマホジンバルで知られるFeiyu Techの「Feiyu Pocket 3」も、ジンバルカメラ部とハンドル部が着脱できるというコンセプトは面白かった。ただ製品全体としてみたときに若干不格好だったのが気になった。もう少し形が洗練されれば、何通りにも使えるカメラとして一定の市場を掴むだろう。

一般のカメラとしては、パナソニックのビデオカメラ「HC-V495M」にも言及しないわけにはいかない。ビュー数からすればカメラ系では本製品がトップ、全体でも2位のアクセスを記録している。

ご承知のように現在動画撮影はデジタル一眼かアクションカメラ、スマホの三択となっているわけだが、HD解像度のビデオカメラがまだ現役製品というインパクトが大きかった。28mmスタートで光学62倍、iAズーム領域で90倍ズーム、重量はバッテリー込みで304gしかないという驚異的な洗練度に、ネットでは改めて驚愕したという意見も多かった。

パナソニックのビデオカメラ「HC-V495M」

実は他社にも同様の技術はあったが、コンシューマから撤退したため、ビデオカメラはもはやロストテクノロジー化してしまっている。一方でネット動画を中心に考えればHDで十分という層もある。ただ録画フォーマットはもうさすがに古く、互換性ももう問題ではなくなりつつある。デジタルカメラ時代にあわせたビデオカメラの再起動の時期なのではないだろうか。

ZV-E1レンズキットモデル

Vlog向けということでは、ソニーからは「ZV-E1」、「ZV-1 II」、キヤノンからは「PowerShot V10」が登場した。アクションカメラもVlogを意識して集音設計を強化している。Vlogは2021年に「ZV-E10」がヒットしたことでその市場性が認知された格好だが、これは単に動画に強いリーズナブルなカメラとして受けたという背景もある。一方「ZV-E1」はもはや価格も機能もほぼシネマカメラであり、Vlog市場にこのようなハイエンドニーズがあるのか、あるいはPowerShot V10のような専用機が今後日本で伸びるのか、まだはっきりしない。カメラの新モデルは春・夏なので、来年の動向に注目したい。

オーディオ篇

今年のオーディオの見所は、やはり「耳を塞がない系」が市場として確立したことだろう。元々はコロナ禍のリモートワーク、さらに言えばリモート会議から端を発したムーブメントだったが、すっかり普段使いとして定着した。方法論も様々で、あのAVIOTも骨伝導で参入したほか、AnkerやJBLも耳外から音を吹き付けるイヤースピーカータイプで参戦した。かねてから参入済みのソニー、アイワも「Float Run」、「Butterfly NEO」で後続製品を投入してきた。

左からOLADANCE AUDIO「Oladance OWS Pro」、JBL「JBL SOUNDGEAR SENSE」、Anker「Soundcore AeroFit Pro」

周囲の音が聞こえるという実際の利益もさることながら、「音の新しい聞こえ方」が次々と発見・発明されており、これも一種の空間オーディオ的な流れのようにも見える。

アイワ「ButterflyNEO」

また今年は面白いスピーカーが沢山出てきた。オーティオ系16のうち、7製品がスピーカーである。特にFiiO初のデスクトップスピーカーは、これまでポータブルアンプなどでコンパクトなハイエンドオーディオを楽しんできた人達にも刺さったようだ。

小型ながら1ペアで3kgを超えるFiiO初のデスクトップスピーカー「SP3」

またAnkerの「Soundcore Motion X600」は、小型ラジカセ的なサイズながら低音がバカスカ出て空間オーディオにも対応するという意欲作だ。取っ手が折りたためないのが難点で、これがクリアできていたなら個人的にも購入していたであろう逸品だった。

またPCとも組み合わせられるCreativeの小型サウンドバーは、ここのところ矢継ぎ早に新製品を投入しており、人気の高い分野なのだろう。昨今は動画コンテンツもネットサービスが中心となり、テレビ以外、スマホ以上のディスプレイとして、一定数のPC派がいることを伺わせる。

PCサウンドバー「Creative Stage SE」

ノイズキャンセリング製品としては、ボーズの「QC Ultra EarBuds」がなかなか強かった。まさかキャンセル力でソニーに勝つとは思わなかっただけに、あらためてボーズの本気を感じた製品だった。

ボーズの「QC Ultra EarBuds」

伝送プロトコルとしては、今年ソニーとCreativeから早くもLE Audio製品が登場してきた。普及にはスマホ側の対応が必要になるので、まだ数年かかる。今から慌てて購入する必要はないが、今後リファレンスとして下記製品は多く使われる事になるだろう。

ソニー「WF-1000XM5」

ディスプレイ篇

ディスプレイと言えばテレビやPCモニタが思い当たるところだが、本連載においてはプロジェクタやスマートディスプレイ製品を多く扱ってきた。中でもEcho Show 15のアップデートネタは、本連載今年のビューランキング1位を獲得した。

アップデートによりFire TV対応となったEcho Show 15

元々Echo Show 15は2022年4月に発売された製品である。ディスプレイとしてまずまずの大きさながら、機能的にはスマートスピーカーなので、せっかくのディスプレイの使い道が微妙だった。それが同年12月のアップデートでFireTV対応となったことで、コンパクトオールインワンFireTVに化けた。新規に購入しても3万円程度なので、コスパもいい。ネットコンテンツの消費に新しい選択肢を開拓した。

またディスプレイ製品として、過去度々バッテリー内蔵のモバイルプロジェクタを扱ってきたが、昨今では電源は必要なものの、小型で仮設に対応でき、300から500ルーメン程度出せるポータブルプロジェクタが登場してきた。

また中型クラスでも3色LEDと赤色レーザーを組み合わせて2,300ルーメン出せるものも登場した。フルレーザー光源よりも安価で高輝度の光源として、今後採用が拡がるものと思われる。

制作・How To編

Adobe Premiere Proの文字起こし機能

制作技術としては、今年はまさにAIの年であり、映像編集にも当然その波は訪れる。以前から文字の書き起こし技術は存在したが、それが映像編集ソフトに導入されることで、字幕入れの効率化のみならず、テキストベースで映像を編集するという新しい手法も誕生した。

現在編集ツールとしては、マルチプラットフォームで動作するAdobe Poremiere ProおよびBlackMagic DesignのDaVinci Resolveが先頭を走っており、両ソフトはすでにクラウド上でも動作している。カメラ映像も撮影と同時にクラウドに上げて、即時に編集してしまうなど、リモートプロダクションは大きな発展を遂げた。

また動画配信も、クラウド上で動作するスイッチャーでスイッチングしてしまうなど、手元にハードウェアがない状態でもライブ配信が可能になるソリューションがコンシューマ向けにも登場し、プロとコンシューマどっちで普及が早いかの勝負になってきた。

一方で各企業が行なうオンラインイベントやセミナーも次第に手慣れた格好になってきており、もっと上手くかっこよくやりたい派と、まあこんなもんで十分じゃないの派に二分されてきた。全員が手探りで上を目指す時代でもなくなってきた感がある。

Ankerのワイヤレスマイク「AnkerWork M650」

もう1点制作系のトレンドとしては、Ankerの参入でワイヤレスマイクの認知度がかなり高まってきた点は新しい。2.4GHz帯を使用するので免許が不要で、数10mぐらいなら問題なく使える。個人的にもRODEのWireless MEをVlogや取材で活用しており、音質的にもワイヤードのマイクに劣るという事もない。特にAIを使った文字起こしを利用するとなると、いかにしゃべりをきちんと録るかがポイントとなる。簡単なセットアップでそこが強化できる点はありがたい。

総論

そんなわけで2023年のElectronic Zooma! も本稿で終了である。全体を振り返ると、今年は撮影系とオーディオ系のバランスがとれた記事構成ができたように思う。記事のビューによる傾向としては、今年はハイエンドだけでなく低価格な製品の記事もきちんと読まれるようになっており、買いやすい価格の製品でも購入にはより慎重になっているのがわかる。

デジタルカメラは次第にスペックも落ち着いてきて、あとは低価格と小型化へ進む様子がうかがえる。マニアも多く評価が厳しい分野だが、どれを捨てるか、どこを尖らせるかの差別化が可能になってきたとも言える。

オーディオ系は相変わらずノイキャンも人気だが、逆に耳を塞がない系で聴かせ方のバリエーションが飛躍的に増えており、新しいスタイルが定着しつつある。またスピーカーも、小口径ながらかなりの低音が出るようなユニットが数多く登場し、製品のバリエーションを広げているのも面白いところだ。

来年には増税が控えていることもあり、財布の紐も堅くしなければならなくなるかもしれないが、ただ生きているだけでは人生に潤いがない。コストをかけず、自分が楽しいと思えることにきちんと向き合うことがますます重要になってくるのではないだろうか。

本連載もそんなAVライフのお手伝いができるよう、アンテナを張りめぐらせて楽しい製品を沢山ご紹介していきたいと思っている。それではまた来年。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。