小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第719回:雑誌付録を超えた音! バックロードホーンスピーカーを作ってみた

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第719回:雑誌付録を超えた音! バックロードホーンスピーカーを作ってみた

また工作の季節がやってきた

 子供達も夏休みに入り、なんとなく毎日が土日のような気がしている昨今、皆さんはいかがお過ごしだろうか。夏休みはそれなりの期間があるので、機器のセッティングや自作など、“オーディオの虫が騒ぐ”という人も多いだろう。また今年も、簡単にできる自作スピーカーに挑戦してみたい。

「Stereo 2015年8月号」と「Stereo編 スピーカー工作の基本&実例集2015年版」の付録を合わせてスピーカーを自作してみる

 近年の企画を振り返ってみると、2011年にはStereo誌付属の自作スピーカーキットとオーディオパワーアンプキット、2012年にはStereo誌付属のScanSpeak製フルレンジを使いった塩ビパイプスピーカー、2013年にはやはりStereo誌付属の5cmフルレンジを使い、ダイソーで部品を買ってスピーカーを製作した。

 昨年はアナログシンセモジュールを使って遊んだりしたが、今年はまたスピーカー製作に戻ってみたい。毎年Stereo誌8月号にはスピーカーユニットが付属するのが恒例となっているが、今年は“付録史上最大径”の10cmフルレンジスピーカーだ。7月18日に発売されており、雑誌の価格は3,990円(税込)。自作派にはお馴染みのフォステクスが、P1000KというユニットをStereo誌のために再設計した「P1000」という特別モデルである。

 加えて別冊として、このユニットに合わせて設計されたバックロードホーン・エンクロージャ・キットが付属するムック「スピーカー工作の基本&実例集 2015年版」も販売されている。こちらは4,860円(税込)だ。

Stereo誌、2015年8月号。ユニットが付属している
エンクロージャ・キットが付属する「スピーカー工作の基本&実例集 2015年版」

 今回はこの2つの付録だけを使って、10cmフルレンジのバックロードホーンを作ってみる。合計8,850円、必要なものはドライバーと木工用ボンドだけという、お手軽工作だ。以前の記事はだいぶ工作のハードルが高かったが、夏休みとは名ばかりで時間がないと言う人にも、1~2時間で作れて満足度も高いので、ぜひトライしてみて欲しい。

まずは組み立て

 ではさっそく組み立てであるが、その前に付録の内容を確認しておこう。Stereo本誌付録の10cm径フルレンジユニット「P1000」は、ベースとなったP1000Kよりもマグネットサイズが小さい。雑誌のパッケージに収めるため小型化する必要があったわけだが、それだと能率が下がってしまう。そこでエッジをゴムから布に変更し、駆動系の軽量化を図ったという。

付録史上最大の10cm径フルレンジユニット、P1000
マグネットの小型化に伴い、随所に変更点が
背面にはStereo誌のロゴ
誌面にはユニットについての解説も

 インピーダンスは8Ω、最低共振周波数は90Hz、再生周波数帯域はf0~16kHzとなっている。周波数特性としては、60Hz付近からだら下がりになるので、これをエンクロージャ側でどれぐらい救えるかがポイントとなってくる。

P1000の周波数特性

 一方エンクロージャは、5.5mm厚のMDFを使ったキットで、高さ290×幅113×奥行き204mmのバックロード型となっている。付録エンクロージャとしては大型だが、10cmフルレンジユニット用バックロード型としては、小型の部類に入るだろう。

ユニットとエンクロージャのキット。左右でかなりの量になる

 バックロードホーンというのはその名の通り、ホーンの原理を使ったものだ。ただ、ユニットの前にホーンを取り付けるのではなく、背面、エンクロージャの中に折りたたむようにして配置している。ユニットの前後の音を効率的に使える構造で、出力が小さいアンプでドライブしても、大きな音が得られるのが特徴だ。

 バックロードホーンはここ数年、低域の出方も含め独特の響きがあるということで、自作では人気が高まっている。背後の音道を折りたたむようにして配置しているため、低域が稼げる割にはコンパクトにできるという点も、今の住宅事情に合ってるのだろう。

 本連載で最初に自作型バックロードホーンを扱ったのは2004年の事で、長谷弘工業の「重ねて作る! バックロードホーン」だった。今回の付録はこれの1/4ぐらいのサイズである。

 作業としては、紙面の写真通りに組み立てていけばいいが、バックロードは仕切り板が沢山あるので、2本分だとかなりの数になる。まず左右のパーツをより分けてから、製作すると混乱がないだろう。

 最初は小板の接着だ。スピーカーの真後ろの板と底板に貼り付ける。側面の板は、片方にだけ板を置く位置を示す罫書きがある。これをガイドにしながら、まずは外側の板を接着していく。底板は、小板を張り付けたほうが奧になるので、間違えないようにしよう。

小板の張り付け。こちらはスピーカーユニットの真後ろの仕切り
こちらは底面となる
側面の板には片側のみパーツ貼り付け位置の罫書きがある
まず外側から組み立て

 板の工作精度がいいので、直角にピッタリ着けられるはずだ。木工用ボンドが乾くまで、形が歪まないようにドラフティングテープなどで止めておくといいだろう。ハタガネを使ってもいいが、今回は板が長いので、手持ちのハタガネでは届かなかった。

形が歪まないよう、テープで止めておくとよい

 外板が接着できたら、いよいよ中のホーンを形成していく。とは言っても、罫書き線どおりに上から仕切り板を置いていくだけなので、難しくはない。4番の板を2枚使うので、一度仮置きしてみて、板に間違いがないかチェックしてから接着していこう。

内部の仕切り板を接着

 外板、内板ともに接着されたら、内部配線である。付属のケーブルは左右合わせて4本。すべて同じ色なので、プラスとマイナスがわからなくならないよう、2本は両端にフェルトペンなどで目印を書いておくといいだろう。また先端金具は両端でサイズが違うので、大きい方がスピーカー側になるよう穴を通していく。

太い方がスピーカー側
プラスマイナスがわかるよう、目印を付けておく

 スピーカーターミナルの方に結線し、仮止めしておく。ケーブルが通った穴は、付属のブチルテープを使って塞いでおく。ここまでできたら、反対側の側面の板を張り付ける。乾くまで重しを載せて密着させるといいだろう。

付属のターミナルに取り付ける
付属のブチルテープで穴を塞ぐ
ここまでやったら、反対側の側面を貼り付け

 続いて吸音材の貼り付けだ。貼り付け位置は、実際に音を出しつついろいろ研究するのも楽しいが、ここではセオリー通り、天面裏側からスピーカーの背面にあたる位置に貼り付けた。バックロードはあまり吸音材を入れすぎるとモヤッとしてしまうので、定在波を殺すだけ、くらいの感覚で少しだけ使うに留めるべきであろう。

吸音材をスピーカーのすぐ後ろの仕切り面に貼り付け

 スピーカーの取り付けは、内部結線を接続したあと、付属の木ねじを使って4点で止めていく。実際の試聴は、完全にエンクロージャの接着材が乾燥するまで待った方がいい。それまで適当に音楽を流して、スピーカーのエージングを行なう。今回は2日間エージングを行なった。

スピーカーを取り付けて完成

 エージングの期間は昼夜ずっと音楽をならしっぱなしなので、それなりにうるさい。家人から苦情が来るかもしれない。そこであまり音を漏らさずにエージングする工夫として、筆者が編み出した方法をご紹介しよう。スピーカー同士を向かい合わせにして近づけ、片方を逆相に結線するのだ。そうすると、定位がセンターにある音の振動を打ち消し合うため、ボリュームを上げた割にはそれほど音量が出ない。特に振幅の大きい低域が大きく減衰するので、近所迷惑にもならないだろう。

これはイケる! 付録にあるまじき音

 今回の試聴環境だが、再生機としてはMac MiniのUSB出力で、Apple Musicの音源を再生。USB DACはTEAC「UD-301」で、アンプはエレキットの「TU-879R」を使っている。アンプの真空管はSovtekの「5881/6L6WGC」に変更している。

 3日目から実際に試聴してみた。正直エージング途中はポコポコした音だったが、木が乾いてユニットのエージングが進むと、音がどんどんまとまってきた。

 一昨年は5cmフルレンジで、バランスは良かったが量感に乏しかった。だが今回はさすがの10cmだけあって、音量にしても音像にしても、量感的に十分である。元々10cmフルレンジは、古くはAura Tone「5C」などスタジオモニターでも活躍したサイズだ。エンクロージャも多彩な設計が可能である。P1000の素性もいいが、今回の付録バックロードの設計も、その特性によくマッチしている。

 夏向きの音楽ということで、Roxy Musicの「Avalon」を鳴らしてみた。特徴的なのはボーカル帯域の表現力で、中高域にかけて伸びがあるので、倍音も綺麗に出る。声の手触り感の表現はなかなかのものだ。

 低音は、ベース音の量感もなかなか。ただベースのハイトーン部は、ちょっとうるさい感じもする。そのあたりに周波数特性の山がある感じだ。ドラムはキック音が弱く、トントンとした軽い音で、ベース音に埋もれがちである。その点で、サウンド全体のパンチ力が弱く感じる。

 続いて高橋幸宏の「Ego」をかけてみた。トップのビートルズカバー「Tomorrow Never Knows」が聴き所である。イントロから終始鳴り続けるタブラやガタム(インドの太鼓や打楽器)の音の広がりが見事に表現されている。音が綺麗に整理されたサウンドゆえに、このスピーカーにはよく合う。スネアのエコーなど、細かいところも良く聞こえる。

 オールドサウンドということで、Chicago「XI」を聴いてみた。個人的には'70年代の名盤だと思っている。故テリー・キャスのギターカッティングが良く拡がり、ピーター・セテラの量感たっぷりのベースもなかなか楽しめる。当時のミックスはあまりキックを前面に出さないサウンドのため、このスピーカーでもキックの不足感はない。

 '87年のDavid Sanborn「A Change of Heart」はすでにCD時代で、当時ベースはエッジの効いた輪郭の固い音が好まれた。このスピーカーで聴くと、それほどエッジが前面に出てこない。高域の不足感はないが、音の張りやスピード感みたいなものは、バスレフや密閉型に軍配が上がるのかもしれない。

 反対にDeep Purple「Machine Head」のような暑苦しい(?)やつもかけてみたが、解像度がいいので妙にすっきり爽やかに聞こえる。グシャッと音が団子になる感じもなく、綺麗に整理される感じだ。なかなか潜在能力が高いスピーカーだ。

 All Time Rowのような最近のロックではやはりキックの不足感と、ベースの低域に一部ボン付く感じが気になるが、ある程度ボリュームを上げると、これはこれで聴かせる音にまとまる。サブウーファを足すと、今どきのサウンドにも化ける可能性も十分あるだろう。

総論

 これまでもStereo誌付属のスピーカーユニットと別冊エンクロージャは何度か作ってきたが、正直今回のセットはずば抜けて良い。工作としては非常に簡単にも関わらず、出てくる音の満足度が高いのである。

 特性的にはハイレゾまでは届かないが、そういう世界ではなく、手元にある音源をいつもとは違った音場で気軽に楽しめるというのが、自作オーディオの面白さだ。既成品の高級スピーカーならもっといい音がするのは当然だが、一つのユニットをいろんなエンクロージャに入れて楽しむ事もできる。

 Stereo本誌では、本家フォステクスのエンジニアが設計した2種類のほか、常連筆者の作例として7種類の図面が掲載されている。一部工作の難しそうなものもあるが、MDFの板さえ入手できれば易しく作れそうなものもある。自分で切り出すのは大変と言う人には、音楽之友社のWebサイトで今回のユニットを使うエンクロージャキットが2つ販売されている。

 筆者も何か一つ自作してみようと思っていたのだが、あいにく近隣のホームセンターが思いのほかMDFの販売を縮小しており、大きなものが入手できなかった。そんなわけで記事には間に合わなかったが、少し遠出して材料を揃え、何かもう一つ作ってみようと思っている。

Stereo本誌には、常連筆者らによる作例の図面が掲載されている
Amazonで購入
Stereo
2015年8月号
スピーカー工作の基本&実例集
2015年版
(エンクロージャキット付き)

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。