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立体音響に注力。「2~5年先」見据えるファーウェイ音響技術研究室

品川にあるファーウェイ・ジャパン東京研究所のエントランス

ファーウェイ・ジャパンは、10月中旬に同社の東京研究所を紹介するメディアツアーを実施。同研究所の音響技術研究室で室長を務める角田直隆氏が、ファーウェイにおける東京研究所の役割や、現在取り組んでいるイマーシブオーディオ(空間オーディオ/3Dオーディオ)について説明した。

ファーウェイとデビアレが共同開発したBluetoothスピーカー「HUAWEI Sound Joy」
体重計「HUAWEI Scale 3 Pro」

ファーウェイは1987年に中国で創業。現在は170以上の国と地域で製品を展開している。ファーウェイと言えば、真っ先にスマートフォンが思い浮かぶかもしれないが、完全ワイヤレスイヤフォンやBluetoothスピーカー、さらにはディスプレイ、体重計など、さまざまジャンルの製品を送り出している。特に近年はイヤフォンやスピーカー製品を、フランスのデビアレと共同開発するなど、音質にも力を注いでいる。そうした製品づくりを支える技術研究を行なっているのが、研究所だ。

東京研究所の音響技術研究室で室長を務める角田直隆氏

同社は2021年度の時点で19.5万人におよぶ従業員を抱えている。この全社員のうち、研究開発に従事している社員の割合は54.8%で、研究開発費のランキングでも2021年度は全世界2位だったといい、角田室長は「技術に投資している会社と言える」とする。

同社の日本法人であるファーウェイ・ジャパンは2005年に設立。本部も含めて国内には9事業所があり、このうち東京と横浜、大阪には研究所が設けられている。オーディオに関する技術研究を行なうラボは全世界で6か所(フィンランド、ドイツ、フランス、上海、深セン、日本)にあるが、日本のオーディオラボは東京のみ。角田室長によれば、東京研究所の従業員の約2割がオーディオ関連の技術研究に従事しているとのこと。

ドライバーユニットの試作室
試作室にはオシロスコープや電子はかりなども用意されている

品川駅横のビルの一角にある東京研究所には、ドライバーユニットの試作・評価ができる試作室を用意。3~5名ほどのスタッフがCADで設計したユニットの組み立て、評価といった一連の作業を行なっている。

イマーシブオーディオに対応するスタジオ

その試作室から数歩行ったところにはスタジオも完備されている。現在はイマーシブオーディオに注力しているため、スタジオ内にはAuro 3Dを想定して最大22.2chまで対応できる設備が整っており、Dolby Atmosや360 Reality Audio(360RA)などのフォーマットにも対応できるという。スピーカーはECLIPSEブランドやGenelecブランドのものが置かれていた。

研究所に所属するエンジニアは、音楽業界で活躍するトップエンジニアと交流があり、ファーウェイのためにイマーシブオーディオの楽曲を制作してもらったこともあるという。

横浜研究所にある無響室

そのほかJR横浜駅にほど近い横浜研究所には無響室も用意されており、ドライバーなどの特性を計測する用途などに使われている。

東京は「2~5年先」を見据えた技術開発を担う

角田室長は東京のオーディオラボの役割について「オーディオ領域において、日本が培ってきた学術界、産業界にある科学的な知見や経験を活用して、次世代のオーディオ商品、オーディオ基礎技術を開発して、ファーウェイ全体のビジネスに貢献するというのがミッション。もう少し噛み砕くと、2~5年先の商品搭載を想定した技術を開発しています」と説明する。

「もうひとつ、東京は日本の中でも特別な街で“芸術と技術が近い街”と言えると思います。ファーウェイは社内のコンペティションが激しく、ヨーロッパに負けたり、本社に負けたりということはよくありますが、東京に位置している強みを生かして負けないように活動しています」

もともと東京研究所のオーディオラボでは、スマートフォンに搭載するスピーカーなど、スマホ関連のオーディオ技術研究を長く行なっていたというが、角田室長が加わった後「Earphones for Life」というスローガンを打ち出し、イヤフォンやヘッドフォンの研究開発に注力し始めたという。

ただ研究指針として、イヤフォンの重大性能である音質や装着快適性については「今、東京でやらなくてもいいだろう(角田室長)」との判断で注力していないとのこと。

新開発のマイクロ平面振動板ドライバーを搭載した完全ワイヤレス「HUAWEI FreeBuds Pro 2」

今年7月に発売したマイクロ平面振動板搭載の完全ワイヤレスイヤフォン「FreeBuds Pro 2」についても、東京研究所は関わっていないが、角田室長は「我々がタッチしなくても、あれぐらいのものができるんです」と語った。

そんな東京研究所が現在取り組んでいるのはイマーシブオーディオ。なかでもコンテンツ制作をサポートするツールづくりに力を注いでいる。角田室長は「従来のオーディオでは、音像の位置がスピーカーの配置によって変わってしまいます。音量ベースで音像定位を実現しているから、こういうことになるんですが、オブジェクトオーディオになると、スピーカーの配置が変わっても、部屋が変わっても、制作意図どおり音像定位ができるのが利点です」と説明する。

「オーディオの歴史としては1870年代に蓄音機が発明され、1950年代にステレオレコードが発表されるまで、オーディオ技術はモノラルで発展してきました。つまりモノラルの時代が80年ほど続いたわけです。そして、ステレオレコードの発明から2022年の現在に至るまで、今度はステレオの時代が70年ほど続いているので、『そろそろ技術的に変わるべきなのでは』というのが、私たちの認識です」

「そもそも人間はイマーシブな世界で生きているので、ステレオの世界に留まっていてはいけないというのも、イマーシブオーディオを推進しているモチベーションです」

また音楽との接し方がスピーカー中心からイヤフォン・ヘッドフォン中心になったことに加え、音楽制作の手法もコンピューターベース、打ち込みが主流になり、作り手側も「音(像)はどこにあってもいい。どんな聴取環境でも、どの方向からも音が入ってこないといけないという欲求が高まっている」という。

イマーシブオーディオ自体は、アップルがDolby Atmosを採用した空間オーディオとしてApple Musicで配信。またソニーも360RAを展開し、対応楽曲がAmazon Musicで配信されるなど間口が広がりつつあるものの、「ユーザー視点で考えると、イマーシブオーディオを聴いている人はあまり多くない」と角田室長は分析する。

「ひとつの理由は魅力的なコンテンツがないこと、もうひとつはステレオで聴いたほうが音楽的に優れている場合が多いこと。コンテンツが少ない理由としては、手間はかかるし、お金もかかるし、設備も必要だしと、そもそもクリエイターが作りたいと思える環境ではない点が挙げられます」

「また消費者側にとってイマーシブオーディオが一般的ではないから作らないという考えもあります。このふたつの問題は、いっぺんに解決しないといけません。ファーウェイ全体として、このふたつを改善するべく取り組んでいます」

そこで現在研究開発を進めているのが、クリエイターの障害となっている要素のうち“手間”を省くもの。「クリエイターの意図を尊重しつつ、トラックを簡単にイマーシブオーディオにできるようなものを考えていきたいと思っています」という。上述したオーディオルームは、このクリエーションツールの動作を確認する用途にも使われている。

また角田室長は、将来的にはDolby Atmosと360RAの2バージョンのファイルを同時に生成できるツールや「特殊なスタジオ設備がなくても、イマーシブオーディオのモニタリングができるようなシステムにも取り組んでいきたいとも思っています」とも語った。

酒井隆文