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アップルが突如発表、カラオケ機能「Apple Music Sing」に迫る

Apple TV 4Kにも対応するので、テレビでカラオケを楽しめる

アップルが「Apple Music Sing」を発表した。提供開始は「年末」とのことで、まさにクリスマスプレゼント的なサービスになりそうだが、技術的にも機能的にも、ちょっとすごいものである。

短時間だが、実際のサービスの内容を確認できたので、現状でわかっていることを少しまとめておこう。動画や画像などを自由に使って説明できるわけではないので、文章中心であり、分かりにくいところもあるかと思うがご容赦いただきたい。

追加料金なしで「カラオケ」搭載、歌詞はバックコーラスやデュエットにも対応

シンプルに言ってしまえば、Apple Music Singは「カラオケ機能」だ。

Apple Musicの契約者は追加料金なしに、Apple Music内の楽曲でカラオケが楽しめる。

といっても、配信楽曲とは別にカラオケトラックが用意されるわけではない。配信楽曲そのものが使われる。

配信されるすべての楽曲が対象ではないようだが、アップルは「世界中の最も歌いやすい数千万の楽曲」とコメントしており、もちろん日本語の、日本配信の楽曲も含まれる。

まずは「歌詞」の話から行こう。

現在もApple Musicでは「歌詞」が表示される。

ただこれはカラオケそのものではない。1行ずつ表示されるようになっている。

参考までに、今のApple Musicの歌詞表示。1行ずつ流れていく感じだ

だがApple Music Sing導入後は変わる。カラオケでよくあるように、1文字ずつボーカル進行に合わせて表示される形式に変わるのだ。

さらには、バックコーラスやデュエットにも対応する。

次の画像をよく見ると、文字サイズが異なる歌詞が並んでいるのがわかるだろうか? このサイズの違いが、メインボーカルとバックコーラスの違いである。メインボーカルは大きな文字で表示されつつ、バックコーラスは小さな文字で併記、という形になるわけだ。デュエットの場合には、一人の歌詞は左寄せ、もう一人の歌詞は右寄せ……という感じの表記になる。

Apple Music Singの歌詞表示。大きな文字と小さな文字が混ざっている点に注目。これがメインボーカルとバックコーラス

歌詞情報はすでにApple Musicにあるものを改良して使っているように見えた。なので、これはあくまで筆者の予測だが、「Apple Music Sing対応の楽曲」とは、現状歌詞に対応している楽曲が中心になるのではないか……と考えている。

ボーカルは「機械学習」で自由に音量調整

では、ボーカル部分はどうなるのか?

ここで重要なのが「マイク」の描かれたボタンである。Apple Music Singに対応した楽曲には、これが表示される。

前掲の画像の一部を拡大。「マイク」ボタンとボリュームがあるが、これが「ボーカル音量」になる

このボタンを押すと、以下の画像のように「ボリューム」表示が現れる。簡単に言えば、これが「ボーカルの音量」だ。ゼロまで下げればボーカルだけが完全に消えて、途中までにしておけば、ボーカルのアーティストと一緒に歌う感じになる。

前述のようにApple Music Singは、「カラオケ専用のトラックを用意しない」サービスである。すなわち、配信されている音楽を加工してボーカルを小さくしているのだ。

ここでは機械学習技術が使われており、楽曲の中でボーカルと思われるところだけを、デバイス内でうまく小さくするようになっている。すなわち、元々の楽曲がサーバー上で加工されているわけではない。

昔から「ボーカルを小さくしてカラオケにする技術」は存在した。筆者が中学生だった35年前にも、「センターチャンネルに近い部分の音を小さくすることでカラオケにする」機械や、それを作るためのキットが売られていたものだ。その種の処理では声以外の成分も消えてしまうので楽曲が不自然になるし、ボーカルもセンターでずっと鳴っているわけではないから、ちゃんと消えるわけでもなかった。要は割と「がっかり技術」だった。

しかし今は、機械学習によって「人の声だけを残す」技術が発達している。その延長線上で開発すれば、音楽からボーカルだけを小さくすることは十分に可能である。

実際にたくさんの楽曲を確認できているわけではないので、ボーカルキャンセルの状況(他の演奏などへの影響)はわからない。だが、今の技術水準ならば、そこまでひどく不自然なものにはならないだろう。

テレビでも歌える。カラオケサービスには強力なライバルか

Apple Musicが追加料金なしでカラオケに対応するのは、かなりインパクトが大きい。しかも、テレビに接続する「Apple TV 4K」でも使える、というのは、利用シーンを考えると非常に魅力的なことだ。

スタート段階ではiPhoneとiPad、それにApple TV 4Kのみでの対応だが、Apple MusicはMacやPC、PS5やXbox Series Xなどのゲーム機、さらには、Fire TVなどライバルメーカーのテレビ接続デバイスでも使える。将来的に、それら多くのデバイスに対応していくことになれば、より利用の幅が広がりそうだ。

別の言い方をすれば、カラオケ自体を提供している企業にとっては大変なライバルが登場した、ということにもなる。なにしろ、広く普及したiPhoneのようなスマホで、「本物の楽曲の演奏」で歌えるのだから。採点機能など、強力な差別化要素はもちろんあるが、今後競争は激化していきそうである。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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