プレイバック2023

マランツAVアンプは順調。薄型TVの高輝度化とプロジェクタの未来にワクワクした1年 by 鳥居一豊

マランツのAV 10 + AMP 10

今年もさまざまな新製品が登場した。しかも新しいトレンドの誕生も期待できる楽しい1年だった。

まず、お約束の散財報告だが、今年は地味にマランツのAV 10 + AMP 10導入のみ。昨今の景気の悪さを言い訳にはしたくないが、サブウーファー4発などのグレードアップは来年のお楽しみ。導入後も細かなところでいろいろと手を加えているが、これについては別の記事でご報告させていただきたい。

今年の大きな事件は、薄型テレビ。それも有機ELテレビだ。LGディスプレイが投入した最新パネルは、MLA(マイクロレンズアレイ)を採用してさらに高輝度化を実現したというもの。これまでも有機ELテレビは高輝度化を進めてきていた、重水素を使ったことで長寿命化を果たし高輝度化にも寄与するなど、数々の進化を果たしてきた。

MLAは画面の前面に数億にも及ぶ微小なレンズを重ねるというもの。レンズによって光の拡散方向を制御しこれまではムダに散乱してしまった光も活用することで画面輝度を高めるという理屈だ。極端に言えばレンズで光を集めるわけで利用効率は高まるし同時にレンズ設計による視野角による影響も抑えられるという。

この方法の良いところは高輝度化のために高い電力を必要としないこと。従来は寿命と引き換えに高い電力を注ぎ込んで高輝度化を果たしていたが、自発光型のディスプレイでそれをやれば焼き付き等の問題も増えるしなにより消費電力が上がってしまう。しかし、ムダな散乱光を効率良く活用すれば消費電力も増えない。電気代の高騰が話題になることも多い昨今では重要度の高い進化でもある。

今年のモデルでMLAを採用したのが、LGエレクトロニクスのG3シリーズとパナソニックのMZ2500シリーズだ。

驚くべきことに、最大輝度は70%向上ともいわれており、実際に目にすると有機ELとは思えないほど明るい。コントラストは高いが明るさでは液晶に劣ると言われてきた有機ELだが、実用レベルならば液晶と変わらないレベルの明るい画面が実現できてしまった。

LGのG3シリーズは、高輝度化に加えて正確な色再現も実現してただ明るいだけでなく黒と同じように色が抜けてしまいがちな明るい空や白い雲の豊かな色を実現している。基本的には映画館のような部屋を暗くした環境で視聴することを前提にした映画でさえ、明るい部屋で映画らしい質感を再現できる。従来ならば画面全体の明るさが足りず暗部が見えづらくなったり元気のない映像になったが、G3シリーズならば周囲の明るさに負けずに映画らしいトーンや質感を十分に再現できていた。

もちろん明るい環境で本格的な映画画質を楽しむなどという提案は今までにはなかったもので、画質的な練り上げなどについては決して十分ではない。個人的には映画館と同じように部屋を暗くして見ると画面が明るすぎると感じるくらいになる点も気になるし、画質的には十分だとしても映画の雰囲気がないとも感じる。

その点、どちらかというと映画鑑賞に全振りで画作りをしているとさえ感じるパナソニックのMZ2500シリーズは、余裕のある高輝度をうまく活かしながら暗い環境で優れた映画鑑賞ができる画質に仕上げている。基本的には同じ有機ELパネルを使っていながら、アプローチが正反対というのは面白い。

パナソニックの65型「TH-65MZ2500」

保守的と言われようが老害と言われようが筆者は映画を見るときには部屋を真っ暗にして視聴するので、現時点ではパナソニックの画作りの方が好ましいと感じている。しかし、それでもLGエレクトロニクスの明るい場所で本格的な映画鑑賞をするという提案は魅力的だった。

それは大画面だ。55型や65型というサイズは十分に大画面だが、発売されるテレビも増えて見慣れたサイズになりつつある。現在はそれよりも大きな77型や83型(4Kパネル)、8Kパネルならば97型なんてサイズもある。LGエレクトロニクスでは77型の「OLED77G3PJA」が発売されているが、この映像が凄まじかった。

LGエレクトロニクス77型の「OLED77G3PJA」

今年の映画ソフトでは、奇しくも「ワイルド・スピードX」と「ミッション・インポッシブル:デッドレコニングPART ONE」で、実際に観光したことがある方もいるであろうローマの市街地でカーチェイスを起こっていて、同じ映画というジャンルであっても同じ街がこれだけ印象の違う撮り方になることがわかって興味深い。これらの作品をOLED77G3PJAで見ると、これまでの映画を見るという感覚ではなく、実際に自分がローマの街にいる感覚が味わえる。

間違いなく画面の明るさによるもの。陽光の眩しい輝き、街や建物のリアルな感触が伝わってくる。こういう明るさ(それこそサングラスが必要と感じるレベルの明るさ)は従来のディスプレイでは見られなかったものだ。人間の目はどこまで解像度を上げれば肉眼視と区別できなくなるのかを考えたこともあったが、おそらくは解像度としては4Kないし8Kで十分で足りなかったのは絶対的な明るさなのかもしれない(フレームレートとか色再現範囲とか他にも要素はいろいろあるが)。そう思えるほどの映像の本物感があった。

そんな映像が77型という見慣れない大画面のサイズで迫ってくると、映像の見え方や感じ方も変わってくる。現在のところはどちらの映画を見ても作り手が意図した映像とは違うと感じる。だが、動画配信の普及で映画館での公開ではなく、配信での公開作品も増えている現状で、映画の作り手がこうしたディスプレイが現実にあると気付けば映画の撮り方も変わってくるかもしれない。「映画館で上映された作品だけが映画である」なんていう、今でも違和感を感じる定義はますます古びていくのかもしれない。そんな将来さえ予感させるインパクトがOLED77G3PJAにはあり、今年一番気になるディスプレイだったのは確かだ。映画でなくドキュメンタリー映像のような作品ならば間違いなくOLED77G3PJAが現在最高の体験を得られるディスプレイだ。

OLED77G3PJAを褒めているのかけなしているのかわからんぞ。と言われそうだがその通りで困っているのだ。スクリーンに投影するプロジェクター方式が主流の映画館では物理的に直視型ディスプレイのような高輝度化はできないが、それでもHDR化など高輝度化は進んできている。そんな筆者は自宅ではプロジェクターがメインのディスプレイであり、部屋を暗くするから絶対的な高輝度は必要ないとさえ思っているが、それでも有機ELテレビで映画を見るとプロジェクターの画面の明るさに物足りなさを感じることもある。OLED77G3PJAを見た後は特にそうだ。

サイズ的にも直視型ディスプレイはプロジェクターの家庭における画面サイズ(100インチ前後)に迫っていて、プロジェクターの優位性は映画館と同じ投写型で映像的にも映画館の質感に近いというだけになってしまうかも。プロジェクターもかなり高価格になっているが、100インチ級の直視型テレビは現在のところはそれ以上に非現実な価格なのでプロジェクターの方がお買い得という負け惜しみみたいな言い訳も近い将来できなくなるかもしれない。

ビクターはそんな近い将来をよくわかっていた。昨年に続いて、DLA-V90R LTD/V90R/V80R/V70R/V50のソフトウェアアップデートが行なわれた。

ソフトウェアバージョンはv3.00。昨年のアップデートによる「Frame Adapt HDR」の改善も効果が大きかったが、今回は「Frame Adapt HDR Generation 2」に進化。HDR映像のダイナミックトーンマップのアルゴリズムを見直し、輝度ピークだけでなく画面の平均輝度も参照してより明るく力強い映像を楽しめるようになった。

DLA-V90Rの設定画面。データ表示画面を見るとソフトウェアバージョンを確認できる。最新のものはv3.00だ
すっかり見慣れた存在になっている「DLA-V90R」。毎年アップデートが行なわれることもあり満足度は極めて高い

ありがたいのは、晴れ渡った青空がメインの映像など画面の平均輝度が高い映像では空や雲が白飛びしがちだったことが抑えられたこと。映画ではあまりないシーンかもしれないが(しかし増えてきている。ゴジラも今や真っ昼間に街を破壊しにくる時代だ)、そういったシーンでの映像の力強さが増している。

そのため、画面を明るくしたいと思ったとき、今までは白飛びのせいで十分な明るさを得られなかったようなシーンでもより明るい映像で楽しむことができる。

画質調整にあるHDR Levelの設定はHDR作品の画面全体の明るさを調整できるが、基本的にはオートでいい。この場合、平均輝度や輝度ピークを参照しながら画面全体の明るさを動的に自動調整する。この機能にv2.00でオート(ワイド)が追加されたがv2.00の頃は画面全体は明るくなるが白飛びが増えてしまうのであまり実用的ではなかった。それがv3.00で白飛びが大幅に抑えられたためかなり有効な機能になったのだ。

新しくなった「Frame Adapt HDR Generation 2」と「HDR Level:オート(ワイド)」を組み合わせ、このほかに「ダイナミックコントロール:モード3」とするのがおすすめの設定。最新のHDR制作された映画にぴったりの調整で、動画配信で楽しんでいる「モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ」や「窓際のスパイ」にもベストマッチ。映画館と同じくほぼ暗室とした環境でならば、OLED77G3PJAで複雑な思いを感じた明るい映像の力強さに近い感触が味わえるようになった。これはうれしい。

なお、4K HDR化された「エクソシスト」のような制作年代が古いものだと明るさの表現などが過剰になりがちなので、元の「Frame Adapt HDR」の設定と使い分けるといいだろう。

液晶もミニLED + 量子ドット技術で大幅な進化を果たしたし、有機ELもQD OLEDという手強いライバルの出現で進化を止めることはないだろう。そして、プロジェクターも古き良き映画画質に留まることなく、進化を続けている。こうした新しい技術やトレンドの発生が新しいスタイルを生み出していく未来を感じられたことが今年の一番の収穫かもしれない。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。