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Apple TV 4Kは電源ケーブル交換で配信最強画質プレーヤーに! サエク「PL-3800MM/4400MM」

サエクの電源ケーブル「PL-3800MM」と「PL-4400MM」をApple TV 4Kで使ってみる

今でこそオーディオ機器のレビューの仕事をさせてもらうことも多い筆者だが、元々はDVDの時代から、映像圧縮(ビデオエンコード)の技師「コンプレッショニスト」を生業にしていた人間である。元来の凝り性な性格が災いして(幸いして?)、2007年には渡米を決意。ロクに英語も話せないくせに、ハリウッドで画質の聖地と謳われた「PHL(Panasonic Hollywood Laboratory)」の門を叩いてしまうという、今思えばかなりブッ飛んだ「画質オタク」だった。そのあたりのことはAV Watchに当時のインタビュー記事があるのでご興味がある方はご一読いただきたい。(オレ、若い!)

帰国後はコンプレッショニストを引退し、縁あって執筆・評論の仕事を始めることになるのだが、その一方で、PHLでの経験を買われて「我が社の配信画質を向上させてもらえないか?」とコンサルを依頼されることもあった。

その時に初めて知ったのが、海外の映像配信サービスの急速な画質向上だ。ずっとパッケージソフト畑を歩み、BD、UHD BDこそ最高と信じてやまなかった私にとって、それはかなり衝撃的なことだった。2017年頃の話である。

中でも、Appleが展開していたiTunes映画の4K HDR作品は、「配信映像のビットレートは低い」というそれまでの常識を覆し、平均20Mbps超えの作品を数多くラインナップ。なかにはUHD BD版と同等というものさえあった。音声こそロッシー圧縮だったが、販売価格がパッケージソフトより安く、UHD BD化されていない作品もどんどんリリースされている状況を目の当たりにした私は、その詳細レポートを執筆。「iTunesはUHD BDに試合で負けて、勝負に勝った」と結論づけた。

「PHLで世界一のBDを作りたい!」と渡米までした人間の発言ということもあり、この記事はAVファンの読者だけでなく、業界内からも結構な反響があったが、その影の立役者だったのが「Apple TV 4K」だ。

第3世代Apple TV 4K

実は高画質なApple TV 4K、電源ケーブルを変えてさらなる高みへ

まだ知らない方も多いようだが、Apple TV 4Kは非常に高度な映像エンジンを持つストリーミングプレーヤーで、iTunes映画だけでなく、Netflix、Amazonプライム・ビデオ、YouTubeといった他社サービスも、最も高品位かつ忠実に再生できる、AVファンならマストバイなアイテムである。

同じコンテンツをFire TVといったライバル端末やテレビ内蔵アプリで比較してみると、あまりの画質差に目から鱗が落ちること間違いなしだ。ひょっとしたら、Apple TV 4Kの開発者は相当ヤバい画質オタクなのではないだろうか?

そうなると、「Apple TV 4Kの画質や音質をもっと良くしたい!」と考えてしまうのが、我々マニアの性だろう。

ところが、本体自体は脚すら付いていない真っ黒な小箱であり、思いの外やれることが少ない。もちろん、良質なHDMIケーブルとLANケーブルを用意することは大事だが、Apple TV 4Kの潜在能力を引き出すという意味では、電源ケーブルの交換がそれ以上に重要となってくる。

オーディオの世界では電源ケーブルで音が変わることはもはや常識だが(否定派がいることも承知しているが)、その一方で、映像機器の電源ケーブルにこだわっている人が少ない気がするのは気のせいだろうか。これはじつにモッタイナイことである。

ここで断言しておこう。「映像も電源でメッチャ変わる!!」と。

馬鹿だと思われるかもしれないが、拙宅の有機ELテレビ「レグザ X930」やUHD BDプレーヤー「パナソニック DP-UB9000」には、本体よりも高価な大蛇のような電源ケーブルが刺さっていて(麻倉先生宅の床をのたうち回っているアイツだ)、その威力は筆舌に尽くし難いものがある。

もちろん、Apple TV 4Kにも同じ電源ケーブルを使うことを考えたのだが、ここで大問題が立ちはだかった。そう、Apple TV 4Kの電源インレットは「メガネ端子」なのである。

IECインレット→メガネ端子の変換プラグ。極性の印をつけている

仕方がないので、IECインレット→メガネ端子の変換プラグを噛ましてみたが、今度は大蛇の自重でApple TV 4Kが空中に放り出されてしまう(マジで空を飛ぶから要注意)。そもそも、端子周りにスペースがないApple TV 4Kでは変換プラグを使うこと自体に無理があり、特に第1世代、第2世代は、メガネ端子の横にHDMI端子があるので、幅の広いHDMIケーブルを使うと、変換プラグと干渉して接触不良を起こしてしまう。

第2世代Apple TV 4Kはメガネ端子の横にHDMI端子があるので、幅の広いHDMIケーブルを使うと、変換プラグと干渉してしまう
第3世代Apple TV 4Kなら干渉しない!

この問題を一発解決してくれるのが、メガネ端子を採用した電源ケーブルである。ところが、個人的にもいろいろな製品を試してみたものの、残念ながら筆者のお眼鏡に適うものは今日まで見つけられていなかった。

しかし、あのサエクが、隣の端子に干渉しないスリムなメガネ端子を採用したガチな電源ケーブルとして「PL-3800MM」と「PL-4400MM」という2本を開発してくれた。この2本ならば、変換プラグを使わず、Apple TV 4Kに直接接続できる。まさに世のメガネ端子難民を救う救世主が現れたわけだ。

サエクの電源ケーブル「PL-3800MM」と「PL-4400MM」では、どちらもスリムなメガネ端子を採用している
見よ、「PL-3800MM」と「PL-4400MM」なら変換プラグを使わずに接続でき、隣の端子とも干渉しないのだ! (左端が電源ケーブル)

ここまでで1,800字超え。秋山史上最長の前置きになってしまったが、ようやく主役PL-3800MMとPL-4400MMの登場だ。

サエクの電源ケーブル「PL-3800MM」
「PL-4400MM」

PL-3800MMとPL-4400MMの概要

まずは双方の特徴から。見た目で一番違うのはコンセント側のプラグで、PL-3800MMはモールド型の2ピンプラグ、PL-4400MMはフルテック製の3ピンプラグ「FI-11M-N1(G)」を採用。どちらもブレードには金メッキ処理がされている。

「PL-3800MM」のコンセント側プラグははモールド型の2ピンプラグ
「PL-4400MM」はフルテック製の3ピンプラグ「FI-11M-N1(G)」を採用

インレット側のメガネ型プラグはどちらも同じフルテック製で、制振効果と静電効果があるとされるNCF素材を使った「FI-8.1N NCF」となっている。仮に市販品と同じであれば端子部分はロジウムメッキだろう。前述の通り、スリムな形状で、Apple TV 4Kのように小さな機器に接続しても、隣の端子と干渉しないように配慮されている。

インレット側のメガネ型プラグはどちらも同じフルテック製「FI-8.1N NCF」

ケーブル部分はどちらもPC Triple C導体の2sq・2芯構造のようだが、手触りや硬さも違う別の線材だ。PL-4400MMの方は同社の切り売り電源ケーブルAC-3000が使われていて、PL-3800MMに較べるとシースがツルツルとしていて硬い。ケーブル外径はどちらもφ8.5mmとあるが、実際に持ってみるとPL-4400MMの方が僅かに細く感じられた。

メガネ型プラグ側には、よく見るとLとNの文字が刻印されている。L(Live)がプラス(ホット)、N(Neutral)がマイナス(コールド)という意味だ。極性を合わせることは電源対策の基本中の基本なので、テスターを使ってしっかり管理しよう。特に、PL-3800MMの2ピンプラグには極性の印が無いので注意が必要だ。

メガネ型プラグ側には、LとNの文字が刻印されている
2ピンの場合は極性に注意
テスターを使ってしっかり管理するのが理想だ

もちろん、Apple TV 4K側のメガネ型インレットにも極性はある。筆者は歴代全てのApple TV 4Kを所有しているが、端子類のある背面側から見て、第1世代は右側(内側)、第2世代と第3世代は左側(外側)がマイナスだ。しかし、製造ロットによっては逆になっている可能性もあるので、こちらもテスターで確認することをオススメする。確認の仕方は「電源 極性 調べ方」などでググると見つかるはずだ。

第2, 3世代の場合、指の向きがマイナス側になる

PL-3800MMを接続する

普段は中央にApple TV 4Kを置いている

まずはPL-3800MMのテストから開始。

iTunes映画で「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター(4K/HDR/Dolby Vision/Dolby Atmos)」のデイシーンを再生すると、付属ケーブルに比べて画面全体が明るくなったのがすぐに分かる。惑星パンドラの陽射しが強くなったと感じられるほどだ。

筆者のこれまでの経験では、厳重なシールド処理が施された太いケーブルほど輝度向上が著しい傾向があるのだが、PL-3800MMのような細いノンシールド構造のケーブルでこれほど変化があるのは珍しい。それでいて、明部のエネルギーに引っ張られて暗部が浮くこともなく、ナイトシーンでもしっかりとしたコントラストが確保されているのが好印象だ。これが超低歪率と高伝導率を謳うPC-Triple C導体の特徴なのだろうか。

続いて視聴したのは「すずめの戸締まり(2K/SDR/5.1ch)」だ。新海作品は残念ながら4K/HDR版の配信が行なわれておらず、Amazonプライム・ビデオの場合、平均映像ビットレートも約5Mbpsと、BD、UHD BD版からは大きく見劣りするスペックとなっている。ただし、これでも2K配信のなかでは恵まれている方で、なかには3Mbps、2Mbpsなんていう作品もザラにあるのが現状だ。

PL-3800MMのメリハリが効いた明快な画調は、低ビットレートゆえに解像感や精細感が欠落しがちな2K配信の弱点を視覚的に巧くカバーし、本作でもキャラクター描線のエッジをキープしながら、持ち前の高輝度パワーでHDRライクな表現も垣間見せるなど、相性の良さを感じさせた。

20,900円(1.5m)という価格はApple TV 4K本体とほぼ同じであるが、個人的にはこれくらいの投資はネット動画の高画質再生に最低限必要だと感じる。余談になるが、これからApple TV 4Kを購入する方にはWi-Fi + Ethernetモデル(23,800円)をオススメしたい。Wi-Fi接続はノイズ面で不利であり、極力使用を避けたいからだ。

PL-4400MMの実力は!?

PL-4400MM

続いてPL-4400MMに差し替えてみると、こちらの第一印象は意外にも肩肘張らない端正な画調である。てっきりPL-3800MMの延長線上のような画が出てくるだろうと身構えていたので、少々肩透かしを食らった感じだ。ところが、段々と眼が慣れてくると、この一見穏やかそうな電源ケーブルが“羊の皮を着た狼”であることに気づく。

ピーク輝度はPL-3800MMに較べて明らかに伸びていて、解像感、精細感についてもパッと見のシャープさではなく、情報量の違いとして提示してくる。さらに、このケーブルの真骨頂は、画面の奥へ奥へと展開していくことで生み出される自然な立体感だ。これを可能にしているのが緻密な階調表現である。

「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」の見どころでもある海中シーンでは、青のグラデーション(明暗と濃淡)を正確に描き分けることで、この先、海がどこまでも続いているような感覚に捉われる。加えて、水の透明度まで上がったように感じられるのは、前述したピーク輝度の伸びと情報量アップの合せ技だろう。全てCGで作られた映像だというのに、この没入感。これぞ真のアバ体験である。

「すずめの戸締まり」でもPL-4400MMの恩恵は計り知れない。画素数をアップさせたような解像感、精細感は、UHD BD版と比較した際の物足りなさを大幅に軽減してくれる。色の再現力も素晴らしい。持ち前の端正さは、新海作品の瑞々しい色使いを、折り目正しくピュアに伝えてくれた。

ちなみに、ここに列挙したPL-4400MMの特徴は、これをそのまま「筆者が日頃、最も大切にしている映像表現」と言い換えることもできる。それくらいPL-4400MMのパフォーマンスにはシンパシーを感じたのだ。

問題はPL-4400MMの42,900円(1.5m)という価格だ。私のような変態から見れば「お手頃なケーブル」だが、いくら電源ケーブルで画質・音質が変わるといっても、機器本体の2倍近い金額を払うのはちょっと……という感覚。大蛇を何匹も飼っている私が言うのもなんですが、正常だと思います!

だが、しかし!!

Apple TV 4Kは現時点で最強のストリーミングプレーヤーであり、他に代わりがないこともまた事実なのだ。むしろ、こういう時のために高価な電源ケーブルは存在していると言ってもいい。この23,800 + 42,900 = 66,700円の組み合わせを私は激推しする。少なくとも大蛇を飼うよりはよっぽど安上がりだと思いますが、いかがでしょうか?

音質も変化する

最後に、PL-3800MMとPL-4400MMの音質についても触れておきたいが、本稿の「画質」を「音質」に置き換えて読んでいだければ基本OKだ。別に手抜きをしているわけではない。本当にそうなのだ。

例えば、拙宅で愛用しているサウンドバーのPolk Audio「REACT」(実売23,000円前後)の場合、元々が穏やかで耳当たりのいいウォームなサウンドなので、ワイドレンジでフラットなPL-4400MMよりも、適度にパンチが効いたPL-3800MMの方が相性が良いと感じた。逆にもっと高級なサウンドバーであれば、PL-4400MMの方が好結果を得られるかもしれない。このあたりは組み合わせの妙だろう。

Polk Audioサウンドバー「REACT」にも接続してみる

昨今人気のサウンドバーも、スペースの制約で多くの製品がメガネ端子を採用している。サエクが作ったこの2本の電源ケーブルは、サウンドバーにとっても救世主となってくれるに違いない。

秋山真

20世紀最後の年にCDマスタリングのエンジニアとしてキャリアをスタートしたはずが、21世紀最初の年にはDVDエンコードのエンジニアになっていた、運命の荒波に揉まれ続ける画質と音質の求道者。2007年、世界一のBDを作りたいと渡米し、パナソニックハリウッド研究所に在籍。ハリウッド大作からジブリ作品に至るまで、名だたるハイクオリティ盤を数多く手がけた。帰国後はオーディオビジュアルに関する豊富な知識と経験を活かし、評論活動も展開中。愛猫2匹の世話と、愛車Golf GTI TCRのローン返済に追われる日々。