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薄いのに高音質化、無線でついにロスレス対応! Bowers&Wilkins「Px7 S3」を聴く。Px8を超える下剋上なるか?
- 提供:
- ディーアンドエムホールディングス
2025年4月25日 08:00
市場には様々なスピーカーがあるが、その大半は“振幅するユニットを箱に取り付けたもの”だ。そしてヘッドフォンも、ハウジングにユニットを取り付けた“超小型スピーカーを頭に装着したもの”と言える。
スピーカーであれば、サイズは大きくもできるが、頭に装着するヘッドフォンの場合、際限なく大きくはできない。Bluetoothヘッドフォンであれば、アンプやアンテナ、バッテリーなどのパーツを搭載するスペースも必要だ。これが“ポータブルオーディオの制約”なのだが、逆に制約があるから、各社の技術の見せ所となる。
そんな制約の中で、技術で見事に進化を遂げたヘッドフォンが登場した。Bowers & Wilkinsの「Px7 S3」(68,200円)だ。
遠目で見ると、前モデルの「Px7 S2e」と似たデザインに見えるが、手に持って、ハウジングを横にすると違いは一目瞭然。イヤーパッドを抜いたハウジング部分が、Px7 S2eより、S3の方が大幅に薄くなっている。
ヘッドフォンにおいて、ハウジングが薄くなると、デザイン的にスマートになるとか、折り畳んだ状態でカバンに入れやすいなど、メリットが多い。だが、スピーカーに例えるとわかるが、ユニットを取り付けた箱が薄くなると、音質にとってマイナス要因となる。そこをどうクリアしたのか?というのが、Px7 S3のポイントだ。
結論から先に言うと「薄くなっても、前と同じ音質を実現した」のではなく、「薄くなったのに、前モデルより音質がさらに良くなり、上位モデルにも肉薄する」という驚きの進化を遂げている。さっそくPx7 S3を使ってみよう。
Bowers & Wilkinsとは?
第二次大戦後、英国で小さなラジオ店をはじめたジョン・バウワース氏は、既存製品の音質に満足できず、それに手を加えて、一部の愛好家に販売するビジネスを開始。そのサウンドが話題となり、スピーカーの分析や設計にのめり込むようになり、1966年にBowers & Wilkins(B&W)を創業した。
「理想のスピーカーは、最も多くのものを与えるものではなく、失うものが最も少ないもの」という理念を胸に、様々なスピーカーを開発。伝説的なスピーカーのオリジナルノーチラスや、アビー・ロード・スタジオで採用され続けている801シリーズなどを生み出し、ピュアオーディオを代表するスピーカーメーカーの1つとなっている。
B&Wのイヤフォン/ヘッドフォンの特徴は、こうしたスピーカーを手掛けているチームが、イヤフォンやヘッドフォンなどのサウンドも監修している事だ。
Px7 S3の進化点を見ていこう。
Px7 S2eからPx7 S3と、型番の変化だけを見るとマイナーチェンジモデルに見えるが、実はバイオセルロース・ドライブ・ユニット以外は、全て新規に設計されたものだ。
ドライバーのサイズは40mm径。振幅して音を出すユニットの振動板には、歪まないように剛性の高さが求められるが、同時に、固有の音を出さないよう、適度な内部損失も求められる。それらを実現するため、バイオセルロースと樹脂による複合素材を採用。混ぜ合わせる比率などを工夫する事で、剛性が高く、軽量ながら、高い内部損失を実現。スピーカーのユニットにも使用される素材となっている。
その振動板の裏側の根本にあるボイスコイルは、軽量なものとすることで、インパルス応答を改善。音の精度を向上させたという。
この振動板はグリルで保護されているのだが、そのグリルの形状にもこだわった。音を素直に通すため、開口率の高さを追求。同時に、音の色付けやエネルギーの減衰を抑えるため、ハニカム型かつ、開口部の大きな形状としている。
ユニットを支える周囲のエッジには、ビッグロールデザインを採用。スピーカーのドライバーのロールエッジに似た構造となっている。
磁気回路も進化。厚いトッププレート設計のショートコイルを採用し、ポールピースには銅キャップを採用。マグネットもより強力なものになっている。
Bluetoothのコーデックは、aptX Losslessに加え、最大96kHz/24bitの再生に対応するaptX Adaptiveにも対応。SBC/AAC/aptX/aptX HDにも対応している。
一般的なBluetoothヘッドフォンでは、Bluetoothチップに内蔵されたDSPやアンプを使うが、Px7 S3はそれとは別にハイパフォーマンスなDSP、DAC、アンプを搭載し、音質を追求している。このあたりは、オーディオメーカーらしいこだわりと言える。
容積を小さくしつつ、音質も高める
Px7 S3最大の進化点と言えるのが、ハウジングの刷新だ。
前モデルのPx 7S2eが発売された2023年からハウジングの再設計に着手したそうで、約2年の年月をかけて、理想のサウンドと美しいデザインを両立できる、薄型でもサウンドパフォーマンスは変わらないハウジングを実現。それをPx7 S3に採用している。
ハウジングサイズを変更した理由は、薄くしてデザイン性を高めることだけでなく、密閉感をより高め、サウンドパフォーマンスを向上させるためだったという。
また、ハウジングサイズは小さくなったものの、搭載するユニットの取り付け角度は、Px7 S2eと同じ角度を維持している。この角度は、ドライブユニットの放射面と耳までの距離を一定に保つ工夫であり、音像や音場の感じ方にも影響を与える部分。ここも妥協せずに追求しつつ、ハウジングを小さくできたというのもポイントだ。
実際に装着すると、ハウジングが薄くなったことで、“頭の側面からヘッドフォンが出っ張っている”感覚が少なくなり、ヘッドフォン自体が目立たなくなったと感じる。また、頭によりフィットし、耳のまわりをイヤーパッドがまんべんなく覆ってくれている感じも進化。ハンガー部も、頭との隙間ができにくくなっているようだ。
これにより、密着が甘くなりがちな、耳の裏側下部も、よりピッタリと密着するようになった。これは再生音、特に低音の違いにも良い影響がありそうだ。
ハウジングの仕上げも従来モデルから変更されており、より明るく、ロゴが目立つものになった。
Px7 S3はアクティブノイズキャンセリング(NC)機能も搭載しているが、密閉度が上がると、パッシブの遮音性も高まるため、アクティブNCと組み合わせた、総合的な静かさもアップしていると思われる。このあたりは、後ほど屋外で試してみよう。
なお、ハウジングにはANC用の左右各4箇所、合計8個のマイクを搭載。マイクの配置位置を調整する事で、ノイズの打ち消しがさらに効果的にできるようになったという。各種操作ボタンもANCマイクに干渉をしない位置に移動させている。
ANCマイクの内、2つが通話用マイクを兼ねている。ビームフォーミング技術と音声処理アルゴリズムによって、クリアな声で通話できるようになっている。
バッテリー持続時間は、1回2時間の充電で30時間の使用が可能。15分の充電で7時間再生も可能なので、朝の忙しい時間に充電忘れに気がついても、身支度をしているわずかな時間でも通勤通学時に十分使えるだけの充電が可能だ。
なお、有線接続も可能で、USB-Cでのデジタル接続も可能。その場合は96kHz/24bitまでのデータに対応する。ステレオミニ-USB-Cのケーブルも同梱しており、ステレオミニのプラグの機器とも接続可能だ。
ANC性能をチェック
音を聴く見る前に、ノイズキャンセル能力を体験しよう。
騒音が大きな地下鉄でPx7 S3を使ってみると、「グァアア」というトンネル内の反響音や、電車の車体が振動する騒音の大半を綺麗にキャンセルしてくれ、高音の「サァー」というノイズが僅かに耳に入るくらいだ。他には、電車が加速する時の「クーン」というモーター音と、レールの連結を越える音が耳に入るくらい。それも「ガタンガタン」の低音部分はキャンセルされ、「タタンタタン」という小さな高音が耳に入る程度。
いずれの消し残ったノイズも、音楽を再生してしまえばほど気にならなくなる。NC性能として、業界最高とか世界最高という強さではないのかもしれないが、実用的に不足を感じさせない性能は持っている。NCをON/OFFした時の音の違いも少なく、ONにすると少し低域の量感が増えるくらいだ。
屋外の幹線道路沿いでは、車の音がほとんど気にならなくなる。工事現場でも、突発的な音は残るが、発電機のエンジン音や、コンクリートを砕く音など、定期な静音は見事に気にならなくなる。
前モデルPx7 S2eのNC性能と、Px7 S3を比較すると、低域のノイズはPx7 S3の方がより小さくなっていると感じる。アクティブNC能力の進化もあるのだと思うが、Px7 S3になって、密閉性がより高まった事によるパッシブノイズ低減の進化もあるのではないかと思う。
aptX Losslessで、無線でもロスレス伝送が可能に
Amazon Music HDを中心に試聴。Px7 S2eとPx7 S3を聴き比べてみる。
その前に、Px7 S3が新たに対応したaptX Losslessを聴いてみよう。PCに、Bluetoothトランスミッターの「Creative BT-W6」を接続。このトランスミッターはSBC/aptX/aptX HD/aptX Adaptiveに加え、aptX Losslessにも対応している。
Px7 S3とBT-W6をペアリングし、CDクオリティの楽曲を再生しつつ、クリエイティブアプリのアプリから送信クオリティを44.1kHz/16bitに設定すると、LEDがaptX Losslessで伝送している事を示す黄色になった。
「ダイアナ・クラール/月とてもなく」などを聴いたが、アコースティックベースの音像に厚みがあり、ピアノやボーカルの歌声が空間に広がっていく様子も丁寧。音痩せや空間の狭さなどを感じさせない、十分にハイクオリティな音だ。
これまでのBluetoothヘッドフォンでは、どうしても音楽データを圧縮して伝送し、情報の欠落が生じていたが、aptX Losslessを使えばワイヤレスでもロスレス伝送で聴く事ができる。ワイヤレスヘッドフォンにおいて音質を追求する上で、ワイヤレスである弱点を克服するという意味でも、aptX Lossless対応の意義は大きく、ここにこだわるのもオーディオメーカーらしさを感じる。
一方で、「フォープレイ/Foreplay」のようなハイレゾの楽曲を再生しつつ、クリエイティブアプリで96kHz/24bitを選択すると、Px7 S3とBT-W6がaptX Adaptive最大96kHz/24bitで伝送するハイクオリティ モードで伝送している事を示す紫色にLEDが光る。ハイレゾ音源を楽しむ時は、こちらのモードが良いだろう。
なお、aptX Losslessに関しては、対応するスマートフォンやDAPがまだ少ないという現状もある。それを見越して、Px7 S3とPi8を対象とした「ロスレスサウンドをワイヤレスで楽しもうキャンペーン」が2025年7月31日まで実施される。
対象製品を購入し、期間中に申し込むと、前述のBluetoothアダプター「BT-W6」(クリエイティブ直販価格7,980円)がもらえるというもの。スマホやPCに接続すればaptX Lossless伝送が気軽に楽しめるので、これは注目のキャンペーンと言えるだろう。BT-W6が不要な場合は、Px7 S3の交換用イヤーパッド(6,600円)を選ぶ事も可能だ。
Px7 S2eからPx7 S3で音はどう変わったか
Px7 S2eとPx7 S3を聴き比べてみる。Px7 S2eはaptX Adaptiveまでの対応なので、比較時はaptX Adaptiveをメインに使っている。
まずはPx7 S2eから聴いていこう。
「月とてもなく」を再生すると、冒頭のアコースティックベースや、ピアノ、そして女性ボーカルと、それぞれの音が色付け無く、ニュートラルな音で再生される。解像度も高く、ボーカルの口が動く様子や、その合間に「スーッ」と息を吸い込む小さな音までしっかりと聴き取れる。この情報量の多さ、ナチュラルさは、まさにB&Wサウンドという印象だ。
ベースの低域は深く沈み、「グォーン」とまるで地を這うような迫力もある。その一方で、音の輪郭はシャープで解像度も高い。密閉型なので、音場はそこまで広くはないが、中高域の抜けも良いため、あまり閉塞感は感じない。
同じ曲をPx7 S3で聴くと、大きく音が進化しているのがわかる。誰が聴いてもすぐに違いがわかるほどで、音を聴いただけで、これはマイナーチェンジではないなと実感できる。
振動板が同じということもあり、ニュートラルで色付けのない音は従来モデルと同じであり、ピアノの綺羅びやかな中高域や、ベースのぬくもりのある響きなど、音色の異なる音を、しっかり描きわけてくれる。
進化が大きく感じられるのは、スピード感とキレだ。例えば、無音部分からベースやピアノの音が現れる時のトランジェントが良く、音がスッと素早く立ち上がる。ベースの低音も、豊かな響きだけでなく、指で弦をはじいた時のブルンという音や、弦がなにかに当たった時のベチンッという硬く、鋭い音までより鮮烈に描かれる。ピアノの左手も、指の動きが曖昧にならず、鍵盤を強く弾いた時の音もより鋭くなる。
低音の沈み込みの深さもより深く、凄みが増している。Px 7S2eのベースが「ブォーン」ならば、Px 7S3の低音は「ゴォーン」という感じで、音がより重く、中央に芯がある。安定感がある、ドッシリとした低域なので、聴いていてとにかく気持ちが良い。
Px 7S3は前述の通り、ボイスコイルの軽量化によるインパルス応答の改善、磁気回路の強化などが行なわれているが、こうした進化が、低音のキレやスピード感の違いとして実感できる。
「米津玄師/KICKBACK」のようなハードな曲をPx 7S3で聴くと最高だ。エレキベースの低音が、キレッキレで襲いかかって来る。まるで頭蓋骨を揺さぶられているよう。低音に重さがあり、頭のてっぺんからお尻まで、鉄の杭を打ち込まれた気分。
感心するのは、これだけ迫力あるサウンドになっても、描写が雑にならないところ。ベースやギター、コーラスが乱れ飛ぶ中でも、ドラムが乱打される1つ1つの音が細かく見える。「ハードなロックには、低域のキレと重さが大事なんだな」と、改めて気がつくサウンドだ。
しばらくPx7 S3の音を楽しんだ後に、Px7 S2eに戻ると、キレが甘くなるため、音楽のテンポが遅くなったようにも聴こえてしまう。音のダイレクトさ、鮮度感もPx 7S3で向上しているため、ステージにかぶりつきで聴いているPx 7S3に対して、Px7 S2eはアーティスト・楽器と、自分との間に薄い膜があるように感じてしまう。
最上位のPx8とPx7 S3を比較する
ここまでPx7 S3の音が進化すると、気になるのは「Px8と比べたらどちらが良いのか?」という点。聴き比べてみよう。
Px7 S3とPx8の大きな違いは、振動板の素材。Px8は専用設計の40mmカーボンコーン・ドライブユニットを採用している。これは、B&Wのスピーカー「700シリーズ」に使われているカーボンドーム・ツイーターにインスパイアされたもので、超高速レスポンスと周波数レンジ全体にわたって極めて低い歪みを両立させているのがポイントだ。
「もしかしたら、Px7 S3の下剋上もありえるのでは?」とドキドキしつつ、「月とてもなく」で聴き比べてみると、この違いが非常に面白い。
確かに、低域のキレ、トランジェントの良さといった「音の鮮烈さ」ではPx7 S3の方が勝っている部分はある。しかし、Px7 S3の音には「頑張って高解像度でハイスピードな音を出している感」がある。
それに対して、Px8の音は非常にナチュラルで、音の輪郭のエッジを強調するような事もない。そのため、一聴すると派手さや鮮烈さは無く、悪くいうと“地味”なのだが、しっかり聴くと、音がどこまでも自然で、それでいてベースの弦が震える様子や、ボーカルのブレスといった細かい音はしっかりと聴き取れる。Px8はまるで「私は頑張らなくても、余裕でこのクオリティの音が出せますよ」と言っているような余裕を感じさせる。
この違いは、クラシックやジャズを聴くと顕著だ。
例えばヒラリー・ハーンのヴァイオリンとロサンゼルス室内管弦楽団 による「J.S. バッハ:ヴァイオリン協奏曲集 BWV 1041, 1042, 1060」から「I. Allegro」で聴き比べると、どちらもヴァイオリンの音を微細に描写するが、Px8の方が音にしなやかさ、艶っぽさがあり、その美しさに聴き惚れる。
スムーズジャズの「フォープレイ/Fourplay」も、Px7 S3で聴くと、キレと重さがある低音がしっかりと張り出して気持ち良いのだが、Px8の方が、個々の音を描き分けつつ、それが分離し過ぎないで一体になって、ゆったりとしたムードを作り、それに身を任せたくなる気持ちよさがある。総じてPx8の方が、大人っぽいサウンドで、アコースティックな楽曲を質感豊かに聴かせてくれる。
だが、Px7 S3の音も負けてはいない。例えば、「米津玄師/KICKBACK」のようなロックは、Px7 S3で聴くと疾走感があり、気持ちが良く爽快に楽しめる。このあたりは聴く人の好みによって、評価が変わってくるだろう。
いずれにせよ、どちらのヘッドフォンも色付けを抑え、高解像度で情報量が多く、音場も広く立体的に描くという、B&Wのスピーカーと同じ“地力の凄さ”で圧倒してくる製品だ。そしてPx7 S3は実売6万円台の価格で、ハイエンドのPx8の背中にかなり肉薄する、意欲作と言っていいだろう。