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“B&Wの音を持ち歩く”。音楽の持ち味引き出す「Px7 S2e」と「Px8」のプレミアム体験
- 提供:
- ディーアンドエムホールディングス
2024年2月29日 08:00
Bowers & Wilkinsと言えば、多くの人は「800 D4」シリーズに代表される高級スピーカーを思い出すだろう。日本でも愛用者の多いスピーカーブランドであり、800シリーズばかりでなく、エントリークラスの600シリーズまでラインナップも豊富でいずれも人気が高い。筆者もオーディオ専門誌の編集者時代の若い頃にリファレンススピーカーとして付き合っていた「Matrix801 S3」に愛着があり、今では801 S3をフロントとサラウンドスピーカーに、802S3をサラウンドバックスピーカーに使っている。
性能という点ではもはや古さを感じるところもあるが、自分が重視する音の色づけの少なさや音楽のジャンルに左右されずに持ち味を引き出す表現の上手さなど最新のスピーカーにも負けない魅力があると感じている。モデルこそ違ってもBowers & Wilkinsのスピーカーをお使いの方の多くも同じように感じているだろう。
一方でB&Wはヘッドフォンやイヤフォンも手掛けており、ヘッドフォンも古くは「P5」や「P7」から進化を重ねている。製品づくりのコンセプトというか思想はスピーカーと同じ。“高忠実度のHi-Fi再生の追求”だ。
その証拠として、ヘッドフォンの開発は専属のチームが行なっているが、チューニングはスピーカーの「800シリーズ」の開発をしているメンバーが担当し、“Bowere & Wilkinsの音”として仕上げられているという。今回はそんなB&Wのワイヤレスヘッドフォン、Px8とPx7 S2eを聴いてみる。
B&Wのヘッドフォンとして注目度を高めたPx7と、最上位Px8
以前はヘッドフォンやイヤフォンの有力メーカーと比べると、知名度も今ひとつの印象があったが、有線時代の2013年に登場した「P7」、2014年の「P5 S2」などは、見える部分にプラスチックを使わず、レザーやメタルなど"本物"の素材だけで外装が構成されたデザインのこだわりと音の良さが評価されてヒットモデルに。ワイヤレスでは2019年の「PX7」で注目され、PX7 S2と改良を重ねて人気や評価を高め、そして2022年に登場したのが最上位モデル「Px8」(オープンプライス/実売約117,700円)だ。
実売価格で10万円を超える高級機だが、振動板には40mm口径のカーボンコーン・ドライバーを採用。ヘッドフォンの振動板としても珍しい素材だし、700シリーズで採用したカーボンドーム・ツイーターとの共通点を感じる人も少なくないだろう。超高速レスポンスと周波数レンジ全体にわたる低歪みを実現している。
ハウジングやヘッドバンドにはナッパレザーを採用。美しいだけでなく、しなやかな手触りで質感も上質だ。ハウジングを支えるアーム部分は軽量かつ高剛性のアルミダイキャスト製。イヤーパッドには形状記憶フォームを組み合わせて装着時のフィット感にもこだわっている。
シンプルなフォルムでラグジュアリー性まで追求したデザインの良さを含めて高級ヘッドフォンとして満足度の高い製品だ。
そして、Px8の開発で得たノウハウをフィードバックしてPx7も進化し、「Px7 S2e」(オープンプライス/実売5万円台後半)となった。バイオセルロース振動板の採用はそのままに、Px8のDSPチューニング技術をPx7 S2eでも活用する事で、さらに音質を磨き上げている。
両者の電子回路は共通で、SBC、AACのほかapt-Xやapt-X Adaptiveにまで対応するコーデックやノイズキャンセル機能などの機能性も同等だ。デザインもほぼ同様だが、素材が異なり、Px7 S2eのアーム部は樹脂製、ヘッドバンドやハウジングの表面にはファブリック素材を使っている。コストを抑えながら、質感やデザイン性の高さはキープしたものになっている。
Px7 S2eは実売5万円前後と各社のワイヤレスヘッドフォンの高級価格帯の激戦区になるが、強力なライバルがひしめくなかで注目度を高めてきている。発売はPx8の方が先だが、Px7 S2eの評価が高まるにつれ、上位機のPx8にに興味を持つ人が増えるなど、互いに刺激しあっている好循環となっている。
ファブリック素材の感触もよく、軽快で使いやすいPx7 S2e
さっそくPx7 S2eから試してみることにしよう。
ファブリック素材をハウジングやヘッドバンドに採用したPx7 S2eだが、安っぽく感じるようなことはなくむしろ一般的な樹脂製のハウジングよりも手触りもいいし見た目にもユニークだ。
重量は307gとワイヤレスヘッドフォンとしては標準的で形状記憶フォームを採用するイヤーパッドの感触がよいためフィット感も良好で装着してしまえばあまり重さは感じない。
装着したまま歩き回ったり頭を強めに振ってみたりしてもグラつく感じはなく、アーム部を中心としたヘッドフォン自体の剛性も十分。屋外で使っていてもすぐにズレてしまうようなこともないし、長時間の装着で肩が凝ったり耳が痛くなるようなこともあまりない。
ノイズキャンセリングはフィードバックとフィードフォワードを組み合わせたハイブリッド型を採用しているが、ノイズキャンセリングの効果はほどほどで、低周波のノイズはきちんと抑えるが人の声や高周波のノイズはやや残る。
絶対的な効果の高さというよりも、心地良い静けさとなる聴き心地の良さが印象的だ。ノイズキャンセルのオン/オフで音質が変化することも少ないし、パススルーでの外音の聞こえ方がヘッドフォンを外した状態の聞こえ方に近く、違和感なく使えることに感心した。あえてノイズキャンセル性能自体は実用上十分なところで止め、音質を最優先した結果だと思われる。
バッテリーの持続時間は約30時間で15分の充電で7時間の再生ができるクイック充電にも対応。Bluetooth接続によるワイヤレス再生のほか、USB DAC機能も備えUSB-Cケーブルの直結による再生も可能だ。
試聴はAstell&Kernの「A&Futura SE300」を使った。Bluetoothのワイヤレス接続で、コーデックはApt−X HDだ。
音質は色づけの少ないニュートラルなバランスだ。低音もしっかりと出るし量感も豊か。クラシックのオーケストラ演奏を聴くと、ホールの響きも豊かで響きの余韻まで鮮明に出る。開放型ヘッドフォンのような頭の外にまで音が広がるような音場感ではないが、頭の中でこぢんまりとオーケストラが鳴っているような感じがなく、解放感のある音場になっている。
音場が広がり過ぎないので音像定位も芯の通った厚みのあるものになるし、個々の楽器の粒立ちも良い。これはいいバランスだ。
サラ・オレインの「One」から「ボヘミアン・ラプソディ」を聴くと、背後に立つコーラスと前に立つボーカルの前後感やステージの広がりも良好。ボーカルのニュアンスや抑揚の豊かな歌声の再現など情報量は豊かだが、カリカリに高解像度という感じではなく自然なたたずまい。高い声の伸びも自然だし、ギターソロの高域もあまりギラギラとはせずにスムーズな鳴り方になる。ドラムのリズムなどでもアタックがやや柔らかいもののリズムはよく弾む。
穏やかというほどではないが、上質で落ち着いた感触だ。こうした音の傾向は一聴してすぐに良さがわかるタイプではないので店頭などでの短時間の試聴では良さがわかりにくいかもしれない。
人気のポップス曲やアニメソングを聴いても、ガチャガチャした聴きづらい感じにならず聴きやすくしかも情報量はきちんと出す鳴り方をするが、パンチ力は少し足りないかなと感じる人もいそうだ。あまり褒めていないように思う人もいるかもしれないが、実はこの音、我が家で聴くB&WのMatrix801 S3の鳴り方に通じるものがある。
後述するPx8に比べると現代的な高解像度な音という感じは少し差を感じるのだが、よく耳に馴染むというか、聴いているうちにヘッドフォンとかスピーカーで聴いているのではなく音楽を直接感じているような気分になる。必要な情報量はきちんと出ていて、音楽のジャンルや録音によって鳴り方が変わる。言い方を変えれば音楽の持ち味を引き出してくれるような鳴り方をする。こういうところがMatrix801 S3を今でも飽きずに使い続けている理由で、一言で言えば表現力が豊かだ。
話題は少し逸れるがMatrix801 S3は最新モデルに比べれば技術的にはずいぶん古く、特性という点でも劣るだろう。それでも当時の最新の技術と設計思想を投入して、モニターとして信頼できる忠実度を維持できること、表現力というかきちんと音楽を楽しめる音を両立する絶妙なバランスで仕上げているところがB&Wが日本で人気を得た理由だと筆者は考えている。
決してPx7 S2eが古臭い音だというわけではなく、聴き手に緊張感を強いるガチガチのHi-Fiサウンドではなく、もう少し多くの人にフィットする聴き心地の良さとか音楽を楽しめる音にチューニングした意図がよくわかるし、その音作りのノウハウにMatrix801 S3の頃からの音作りと共通したものを感じる。経験上、長く使っていて飽きない音といって間違いのない仕上がりだ。
デザインは同じでもさらに質感を高めたPx8
では上位機のPx8だ。
SE300を使用し、先程と同じapt-X HDコーデックで接続する。
。前述の通りアーム部はアルミダイキャスト製となり持ち上げた時点でかなり剛性が高くなっているのがわかる。それでいて重量は約320gと両方を持って比べてやっと差が分かる程度の違いだ。
このほかにもヘッドバンドやハウジングはナッパレザー仕上げとなっていて、ハウジングの中央にある楕円形のロゴプレートもダイヤモンドカットのアルミ製と同じデザインとは思えないほど上質な印象だ。
ファブリック生地を使うことでPx7 S2eは、手触りが良く、滑りにくいグリップ感を実現していたが、Px8のナッパレザーは指に吸い付くような感触だ。持ち上げた時の手触りだけでなく、装着するときにハウジングの位置を微調整するときに手の平に触れた感触のよさ、アームの長さを微調整するときの調整のしやすさはこの手触りの良さが貢献していると思う。
使っている電子回路などはもともとPx7 S2eがPX8譲りなので機能的にもほぼ共通。ノイズキャンセル機能についても同様だ。ところが、面白いことにノイズキャンセル効果を比べてみると、低周波ノイズの低減はPx8の方が明らかに性能が良い。そのためより静かな感じが得られる。Px8の振動板がカーボンコーンである事や、それにともなって音質チューニングが変わっていることが理由と思われる。
一方で、音の自然さを重視し、ノイズキャンセル効果だけを追求していない姿勢はPx7 S2eと同じだ。オン/オフでの音質差をなくしていたり、パススルー音声の自然な聴こえ方も共通している。
側圧の強さや、形状記憶フォームを採用したイヤーパッドの感触などは同様なのだが、ヘッドフォン自体の剛性が高いので、実際に装着すると、Px8の方がよりシッカリとした感触がある。それを含めて積極的に「音楽を聴くぞ!」という気分になる。
最新のBowers & Wilkinsの音がする!!
Px7 S2eとの対比で言うと、Px8は最新のB&Wの音がする。音色が明瞭で、映像で言うと画面全体の輝度が向上したような見晴らしの良さがある。
弦楽器や金管楽器、木管楽器の音の質感はもとより音色の鮮やかさが違う。カーボンのような硬い素材は、メタルコーンと並んでスピーカーではよく使われるが、ヘッドフォンでは使いこなしが難しい。固有のクセが出やすいためだ。
そんなカーボン素材をしっかりと使いこなして、不自然な色づけや、いかにもカーボン素材の音がするようなクセのないニュートラルな音色に仕上げているのはさすがだ。
“最新のB&Wの音”というと、いかにもカリカリの高解像度だとか聴き手を選ぶ音だと思われるかもしれないが、そうではない。どういう音が鳴るというよりも、音楽をどう鳴らすかを記した方がわかりやすいと思う。
ジャズ映画「BLUE GIANT」のサントラから「N.E.W.」を聴くと冒頭からテナーサックスの吹き上がりに驚かされる。音のエネルギー感がダイレクトに伝わる感じだ。音自体のスピードも速いし反応がいい。それでいて金管楽器特有の管共鳴で高域に歪み感を伴う感触、逆に太い管から音が出る分厚い音の感触も出る。
ピアノはピアノ線をハンマーで叩く感触どころかそれらを支える鋼鉄製のフレーム が共振している感じまで出る。ドラムスは(ネタバレになるが)叩いている人がまだ まだド素人なのでソロを叩くどころではなくてリズムキープだけを必死にやってい る。だからパワフルなピアノの低音パートに埋もれて聴き取りにくいくらいのバランスだ。しかし、堅実にリズムを刻んでいることがきちんと音で確認できる。 この低音の質の高さは圧倒的だ。
サラ・オレインの「ボヘミアン・ラプソディ」では、音像定位に感心する。いかにもシャープな音像が現れるかと思えばその輪郭はソフトと感じるほど。ただし、後ろのコーラスとの距離感、ハーモニーの重なりやステージ全体の音の広がりなど全体を見渡すと写真でピントを一段階深く絞ったようなフォーカス感になる。エコーの付加などによるミックスでのバランスがそのまま現れているかのようだ。
声の余韻やかすかなリップノイズ、力強いドラムスの量感たっぷりの音の響きなど、きめ細かな音がたっぷりと出ていて、しかも混濁しない。生のステージでどんなに良い席で聴いたとしても聴き取ることのできない、録音ならではの最良のバランスが感じ取れる。これぞオーディオ再生の喜びだ。
久石譲とロイヤル・フィルによるジブリ音楽集から「風の谷のナウシカ」の一連の演奏を聴く。比較的残響を多めに収録しているし、全奏でのエネルギー感とか迫力がたっぷりの録音だ。特に映画冒頭でも使われるタイトルバックの曲、「The Legend of Wind」での全奏は音が飽和したりやや歪みを感じるほどなのだが、歪み感なしできれいに鳴らす。
続くピアノソロによる「ナウシカのテーマ」は前出のジャズライブのようなピアノの鋼鉄製のフレームの音まで収録するような録音はしておらず高音のメロディの美しい響きが主体のバランスだ。それでも低音パートでは芯の通った強い音が出ているのがわかる。混声でしかも少年合唱隊まで編成されたコーラスも各パートの声をきちんと描き分けしかも美しいがハーモニーが響く様子まで鮮明に描く。
アニメソングは「葬送のフリーレン」の前半の主題歌である「勇者/YOASOBI」を聴いたが、音数の多いガチャガチャしがちな楽曲をクリアに再現。ボーカルの明瞭な再現も感心するが、リズム感の良さがいい。スピード感も十分だが反応がよいし、長い残響を伴いがちなドラムスや低音楽器の不要な残響が少なく余計な音を出さない。だから量感たっぷり迫力たっぷりでもむしろすっきり爽やか。
同様に「岸辺露伴は動かない/岸辺露伴ルーブルへ行く」での「ザ・ラン」のリズムというよりスピードの速さが凄い。多彩なパーカッション群によるスリリングでハイスピードなリズムが気持ちよい。アコースティック主体の演奏では自然体でソフトな感触だと思っていたが、キレ味の鋭い録音や演奏ではキレッキレの鋭い音が出てくる。このあたりの曲による豹変ぶりもなかなか楽しい。
最後は、惜しくも亡くなられた小澤征爾。哀悼をこめていくつものアルバムを聴き直しているが、個人的に好きなのが、「奇蹟のニューヨーク・ライブII ベルリオーズ:幻想交響曲/小澤征爾、サイトウ・キネン・オーケストラ」。病気療養からの本格復帰となった2010年12月のカーネギーホールでのコンサートだ。ホールの響きを豊かに収録した録音で、それだけに第5楽章での大太鼓などはホール自体が揺れているかのようなエネルギーたっぷりの音が収録されている。この躍動感というか高揚感たっぷりの音を堂々と鳴らすのも素晴らしいが、気力に満ちあふれ情熱たっぷりに指揮をする小澤征爾とぴったり息の合ったサイトウ・キネン・オーケストラの熱演がありのままに再現された。
B&Wを知っている人も、そうでない人も必聴
筆者自身は、いかにも高性能な音がする機器は大好きだが、それで音楽が楽しいかどうかは別だ。B&Wに限らないが、“優れた性能を聴かせてくれる”のではなく、“音楽を存分に味わうための優れた性能”という視点というか思想を持って作られた製品こそ名機と呼ばれると思う。Px8はそういう優れたプロダクトだと感じた。
B&Wのスピーカーを使っていて、ヘッドフォンの音に苦手意識を持っている人がいたら、ヘッドフォン再生への先入観さえ変えてしまうと思う。また、B&Wの音を外に持ち出したいと思うならばまさに最適な純正品だ。
外で使うワイヤレスヘッドフォンに10万円以上は高価だと感じる人もいるだろう。Px8はUSB DAC機能も備えており、USBでPCなどと直結してバッテリー残量を気にせず楽しむ事もできる。なお、USB接続時は48kHz/24bitとなり、欲を言うと192kHz/32bitあたりまで対応して欲しかったところだが、有線でさらに高音質化するヘッドフォンという路線は今後アリだろう。
実売5万円前後のPx7 S2eは、B&Wをよく知っている人も、まだB&Wの音に触れた事がない人にも、気軽に手にとってほしい。デザイン性の良さはPx8譲りであり、音の傾向としてはより広い層に受け入れられるサウンドになっている。どちらのモデルも、ただ性能を追うのではなく、“音楽の聴かせ方”が上手い、表現力豊かなBowers & Wilkinsらしさに満ちた製品だ。ぜひともじっくりと聴いてみてほしい。