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ターンテーブルを宇都宮で1台ずつ手作り。Technics製造現場と“道場”を見た

 パナソニックは、Technics(テクニクス)のリファレンスクラス新製品となるダイレクトドライブのターンテーブル「SL-1000R」と「SP-10R」を発表。これらを1台ずつ手作りで製造する栃木県宇都宮市「モノづくり革新センター」内の製造現場で、厳しいチェックを経て製品としてでき上がるまでの過程を見てきた。

「モノづくり革新センター」内にあるテクニクスのターンテーブル製造の工程

 今回発表された新製品は、ターンテーブルシステムの「SL-1000R」が160万円、旧モデルSP-10MK2またはMK3ユーザー向けに、手持ちのキャビネットに格納できる「SP-10R」が80万円。いずれも5月25日より受注生産で発売する。

ターンテーブルシステム「SL-1000R」
ターンテーブル単体の「SP-10R」
テクニクスのターンテーブルなどが製造されている「モノづくり革新センター」

 両モデルは、約50年の伝統を持つダイレクトドライブ方式を継承しつつ、新開発した高い回転精度のモーターや、安定した回転の重量級ターンテーブルプラッターなどを搭載。新規ユーザー向けのSL-1000Rは、ターンテーブルとコントロールユニット、キャビネット(トーンアーム付き)で構成し、手持ちのアンプなどのシステムと組み合わせて利用できる。SP-10MK2/MK3ユーザー向けのSP-10Rは、SL-1000Rに含まれるコントロールユニットとターンテーブルのみ。各モデルの特徴などは別記事で掲載している

SL-1000RとSP-10Rができるまで

 今回の新モデルなどが作られている「モノづくり革新センター」は、栃木県宇都宮に1967年の工場創設以来、「クイントリックス」や「画王」といったシリーズを生産。現在もパナソニックのテレビVIERAや、ホテル/病院などの業務用液晶テレビ、CATV向けSTBなどが作られている。有機ELテレビも'17年から生産を開始。なお、4K有機EL VIERA「EZ1000/EZ950シリーズ」の製造工程などについては'17年の記事でレポートしている

宇都宮駅から車で移動し、「モノづくり革新センター」へ

 テクニクス製品は、既存モデルのリファレンスクラス「R1シリーズ」や、グランドクラスのターンテーブル「SL-1200シリーズ」(SL-1200G/GR)が、'14年の同ブランド復活当初から生産されている。その内部が報道向けに公開された。

テクニクスの生産工程はこの中に
「モノづくり革新センター」の生産品目
モノづくり革新センターの歴史
センター内のレイアウト

 今回訪れたテクニクスの生産工程は、大きく3つに分けられる。1つは部品の「組み立て工程」、その組み立て後の「検査工程」、最終的にセットの「包装工程」。検査工程はさらに3つに分類され、機構的な部分、電気的な性能面、最終的な製品の外観の各検査が行なわれている。

テクニクスの生産工程

 作業の担当者は、チリ/ホコリ対策として、帽子やヘアキャップ、マスクなどを装着。エアシャワーを浴びて室内に入る。各メーカーから届いた材料も、箱から取り出して中見だけを入れるなど、チリホコリを室内に入れないように徹底している。

制服にTechnicsのロゴ

 真鍮、アルミダイキャスト、高減衰ラバーの3層で構成するターンテーブルの回転部分であるプラッターは、回転のムラを示すワウフラッターを0.015%まで低減。既存のSL-1200Gの0.025%からさらに抑えている。完成したプラッターを手に取ってみると、見た目の大きさに比べてずっしり重いのが分かる。プラッター部だけで総重量7.9kgに及ぶ。

SL-1000Rのプラッター部
ワウフラッターを0.015%まで低減

 プラッターの組み立て工程も見ることができた。材料をボンドで貼り付けた後、バランス調整器で測定。1分に450回転という高速で回し、重心がどこにあるかを計測。重い位置をドリルで下から穴を開けることで調整する。その後再検査を行ない、バランスが正しくなっているかを確認する。

 開けた穴の部分には、「BALANCED」という印をつけ、調整された跡であることが分かる。1つのプラッターに複数の穴が開いていることもあるという。

プラッター部に「BALANCED」の印

 次は、これらの部品を合わせてターンテーブルとして組み立てる工程へ。「1台完結のモノづくり」という生産システムを採用。1台分の部品を1つのカートに収めており、そこから担当者が組み立てる形となる。

1台分の部品がカートに

 次の検査工程では、先ほどの重いターンテーブルを回転させたときの上下の面ブレをチェックしている作業を見ることができた。

上下の面ブレをチェック

 実際にターンテーブルを回し、レーザーとパソコンを使って、面ブレを測定。モーターとプラッターのセットに対し、ベストな設置位置を割り出し、モーターのスペーサーに印を付けてこれらをペアとし、次の性能テストへ移行する。

 性能テストへは別室へ移動。ここはオーディオの試聴室のようにアンプやスピーカーが用意され、機器による測定と実際に音を聴くことの両方でチェックする。

 計器での測定では、ワウフラッターが0.015%という特性をキープしていることを1品1品確認。ここで使われるレコードは、音楽スタジオ制作時のカッティングに使われるラッカー盤。これをどれだけキレイに再生できるかを確認するという。

 ワウフラッターだけでなく、総合的な面でエラーがないかどうかをチェック。SN(ノイズ)などの項目も確認する。

性能検査工程へ
ワウフラッターの測定
ラッカー盤を再生してチェック

モノづくり道場に“テクニクス専用”の訓練も

 センター内には、「モノづくり道場」というスペースも用意されている。パナソニックとパートナー会社が協力し、新人の即戦力化やリーダーの育成などを目的としたもので、各スタッフはスキルを評価したカードを持ち、それに応じた工程に就くことができる。保有スキルは各自のカードに記載され、各要素作業において「黒帯(上級者)」、「緑帯(中級者)」、「青帯(初級者)」といった形で色分けされる。

モノづくり道場
自分のスキルをカードに表示

 ビス締め付けのためのドライバーの扱いなど基本的なものから、ナット締め、フレキケーブル挿入など様々な作業を訓練でき、新人だけでなく、改めて作業を訓練する人なども利用するという。

様々な技能の訓練コーナー

 同センターで多くの面積を占めるのはテレビの製造工程だが、この道場にはテクニクス製品を担当するための訓練コーナーも設けられている。1台1台手作りで、ピンセットやラジオペンチなどで極小の部品をを素早く正確に扱える必要があるためだ。

 ピンセットでビーズをつまみ、細いピンにビーズの穴の部分を通すといった訓練があり、1つクリアするとより小さなサイズにチャレンジする。ビーズを移動する距離は、実際の作業のものに近いように設定されており、訓練がそのまま現場に活かせる仕組みとなっている。

テクニクス専用の訓練コーナー
ラジオペンチの訓練
ピンセットで部品を移動

 同センターの阪東弘三所長は「“モノづくり道場”をはじめとして、匠と呼ばれるレベルまで訓練されたメンバーで1品1品作り、最新の測定技術で確認しながら出荷につなげている」と説明。

モノづくり革新センターの阪東弘三所長

 モノづくり道場内にあるテクニクス用の訓練コーナーは'14年のブランド復活時に、R1シリーズ生産に合わせてが作られたもので、その後ターンテーブルを製造するにあたって、その工程に合わせて訓練内容も進化していったという。

 今回は性能テストの部屋で試聴も行なった。ドナルド・フェイゲンのNIGHT FLYから「I.G.Y.」を再生。回転安定性やブレ抑制を徹底していることもあって、くっきりした音像でアナログの持つ豊かな情報がロスなく聴きとれる。アナログの良さでもあるノイズを完全に取り去るのではなく、現代のシステムであるR1シリーズのスピーカーやアンプと組み合わせて聴いても違和感はない。最新技術を駆使してよみがえったプレーヤーでアナログレコードを聴くことは、CDやハイレゾとも違った魅力があることを再認識できた。

 受注生産で販売されるSL-1000RとSP-10Rは1台ずつ手作りされ、今回見てきたように数値の測定だけでなく、実際に出る音もチェック。厳しい工程を経てようやく製品となる。さらに、確実かつ効率的に1台を作り上げる“匠”を育てるための仕組みも見ることができた。長く使いたいリファレンスモデルとして相応の価格の製品だからこそ、こうした工程を知ることができるのは、製品を選ぶ際の一つの安心材料にもなるだろう。