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ソニーの「360 Reality Audio」本格始動へ。サウンドバーや車でもリアルな立体音響

ソニーが「CES 2020」に合わせて披露した、立体音響の「360 Reality Audio(360RA)」対応スピーカー。ワイヤレススピーカーやサウンドバーの試作機が、CESのソニーブースに参考展示されている。

360 Reality Audio対応のサウンドバー参考展示機

これまでも技術デモは行なわれてきたが、ソニーは今回のCESを“360RA本格立ち上げ”の場と位置付けている。製品化に向けた最新のアップデート内容など、担当者への取材で分かったことや、各コーナーで体験したインプレッションをお伝えしたい。

取材に応じてくれた、ソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツの担当者。左から、河合哲郎氏、岡田知佳子氏、岡崎真治氏、佐々木信氏

「360 Reality Audio」の技術でソニーが目指しているのは、「演奏や録音の現場で音楽が生まれた空間を、その場に居合わせているかのようにリアルに再現する」こと。クリエイターのイメージする、立体的/動的な音楽空間をリスナーに届けられるようになるという。

従来の5.1chなどチャンネルベースのサラウンドとの大きな違いは、スピーカーの位置に制限されず立体的な音を再現できるオブジェクトベースの方式である点。また、オープンフォーマットのMPEG-H 3D Audioがベースのため、ソニーだけに閉じた技術ではなく、他社の製品やサービスとの連携も普及のカギになる。

360 Reality Audioにいち早く対応したAmazon Echo Studio

既報の通り、Amazonの最上位スマートスピーカー「Echo Studio」が対応済みで、音楽配信サービス「Amazon Music HD」で360度オーディオ対応楽曲が提供されている。ソニーではなくAmazonが機器とサービスの両方で最初に対応したのも興味深いことではあるが、本家であるソニーのいち早い対応が待たれるところだ。

サウンドバー、ワイヤレススピーカー、ヘッドフォンで体験可能。車でも実現へ

ソニーとしては、昨年のCES 2019などのイベントでもデモを行なっていたが、今回は、テレビに組み合わせる「サウンドバー」と、コンパクトな1ボックスの「ワイヤレススピーカー」の試作機を用意。さらに、ヘッドフォンとスマートフォンでも体験できるコーナーも設けている。

360 Reality Audio対応のサウンドバー参考展示のコーナー

テレビのある部屋をイメージしたデモルームには、サウンドバー1台と、リアスピーカー2台、サブウーファー1台を配置。360RA音源に含まれるオブジェクトデータを解析して、フロント3ch、上方向の反射に2ch、リア2chと、サブウーファーのそれぞれに、オブジェクト信号を再配置して再生した音を体験できる。

サウンドバーとサブウーファー
リアスピーカー

現状の360RAの仕様では、オブジェクト信号の数が10個/16個/24個の3段階、音質は約640kbps~1.5Mbpsの3段階から選択可能となっている。

実際にデモ音源を聴いてみると、メインボーカル以外の楽器やコーラスなども広いサウンドステージの中に立体的に配置されるため、多くのバーチャルサラウンドとは異なり、それぞれの音がボヤけるようなことはない。音の生々しさが損なわれず、アコースティックなライブを間近で聴いているような贅沢さが味わえた。

音源の位置を視覚的にわかるように映像で表示した例

現在のデモ構成では、ライブ会場の歓声などの音はリアスピーカーから出しているとのことだが、今後は、リアスピーカーを使わない従来のサウンドバーと同様のレイアウトでも、360RAコンテンツを楽しめるように検討を進めるという。

ライブ映像もリアルな音響で楽しめる

もう一つのワイヤレススピーカーのコーナーでは、小型スピーカー1台で360RAの音を再現。音の迫力としてはサウンドバーの方に軍配が上がるが、こちらの利点は「どの場所で聴いても大きく音が変わらない」こと。スピーカーのハードウェアとしては2.1ch構成で、解析されたオブジェクトデータを3つのユニットに再配置することで、部屋中に音楽を満たすような音場を実現しているという。スピーカーの筐体も、前回の試作機に比べてコンパクトで存在感を主張しないデザインのため、テレビがリビングの中心ではない家にも適したスピーカーといえそうだ。

1台のワイヤレススピーカーで360RAを再生
広い部屋でどの場所に移動しても同じような聴こえ方になるのが不思議な感覚だ

ヘッドフォンのコーナーでは、ワイヤレスヘッドフォンWI-1000XM3と、スマートフォンアプリ「Headphones Connect」の進化版を用いて、個人に最適化された360RA音声を体験可能。スマホのカメラで耳を撮影すると、その形に合わせて音質が調整される。

ヘッドフォンとスマホでも360RAを体験可能

同じ曲でステレオと360RAを比較して聴くと、ステレオ音源も耳にダイレクトで届いて心地いいのだが、360RAはそれとも違った広い音場で、より立体的なサウンドが楽しめた。自分に最適化されているため、スピーカーで聴くよりも、効果が分かりやすいのも印象的だった。

アプリの指示に従って左右の耳を撮影、音を最適化する

さらに、今回のCESで注目されている、ソニーによる電気自動車のコンセプトカー「VISION-S」もこの360RAに対応。車室内で360度オーディオが体験できるという。

V&S事業本部 オートモーティブ・ビジネス部門 設計部の佐々木信 統括部長によれば、車室内でも最適に立体音響を聴けるように3種類のスピーカーレイアウトで実験しているとのこと。今回のコンセプトカーは、フロントとリアで分けた構成で、上記のサウンドバーに近いものだという。

電気自動車のコンセプトカー「VISION-S」も360RAに対応

現時点では、サウンドバーやワイヤレススピーカーの商品化予定や発売地域、価格はいずれも未定とのことだが、360RA音源についてはUniversal Music GroupやWarner Music Group、Sony Musicが提供予定で、海外の配信サービスではDeezer、nugs.net、TIDALが連携。環境としては整いつつあるようだ。今後ソニーの音楽配信サービスも対応すれば、国内でも多くの人が楽しめるようになるだろう。