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庵野シン・エヴァ舞台挨拶。「ロボットアニメで100億目指せるのありがたい」
2021年4月11日 14:53
4月11日、東京・新宿にある新宿バルト9で、公開中の映画「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の大ヒット御礼舞台挨拶が行なわれ、庵野秀明総監督、鶴巻和哉監督、前田真宏監督、碇シンジ役を演じた声優の緒方恵美さんが登壇。ファンに感謝を伝えた。この模様は全国328館の劇場にも生中継された。
3月8日に封切られ、4月7日時点で累計興行収入が70億円、累計観客動員数が460万人を突破し、シリーズ最高記録を更新している「シン・エヴァンゲリオン劇場版」。本作のヒットを記念した舞台挨拶は3月28日に続いて2回目の開催で、庵野総監督は「エヴァンゲリオン」シリーズにおいて、一般の観客に向けたイベント初登壇となった。
庵野総監督「みなさんに直接、お礼を言う最後のチャンス」と登壇決意
舞台挨拶は緒方さんのMCで進行。庵野総監督は「僕がエヴァ関連で表に出るのは制作発表のときと、1本目(の劇場版)が春に間に合わなかった時に『すいません』という謝罪会見の時以来。今日はみなさんに直接、スタッフの代表としてお礼を言う最後のチャンスかなと思って出ることにしました」とファンに挨拶。興収、動員ともにシリーズ最高記録を更新している本作について「80億円ちょっとまで行ったら、前に総監督を務めた『シン・ゴジラ』を超えてくれるので、そこは僕のなかでレコード。100億を超えるとアニメ業界の活性化にいい」と語った。
「鬼滅(の刃)とか、新海(誠)さんの作品は100億超えるのが当たり前なんですよ。100億超えを狙って当然の作品群です。ジブリもそうなんですけど。でも、エヴァってロボットアニメなんですよ。ガンダムですら100億円はいっていない。こんなニッチなロボットアニメで100億を目指せるのはありがたいことだなと思っています、こういうものでも100億超えるのはアニメ業界にとっていいんです」
鶴巻監督も「僕も『:Q』(の興行成績)を超えてくれたので安心していますし、庵野のレコードとしても『シン・ゴジラ』は超えたいなと思いますね。もう少しいけたらいいなと、ちょっと思っています」とシン・ゴジラ超えに期待を寄せた。
シン・エヴァンゲリオン劇場版の制作が終了した当時の心境を問われると、鶴巻監督は「スタッフ初号(試写)で涙しているようなスタッフもいたので申し訳ないんですけど、僕はもうただ『終わってよかったな』と思っていた。『明日終わるのかな』という日々が終わってくれたという感じでしたね」と回答。前田監督も「いろいろ直しがきていたので、それを直す作業だけをしていたんですけど、『もうこないの?』『本当にこないの?』と疑っているところもあって。でも本当に終わったんだと安心しました」と当時をふり返る。
これを受けて庵野総監督も「僕も安堵ですよね。終わった、終わったと」と心境を吐露。「終わったときは感謝の気持ちばかりでした。スタッフがメインですけど、お礼を言って終わり。NHKはこういうところを撮っていないんですけど。各セクションに行って頭を下げて『ありがとうございました。ありがとうございました』と言うのが僕の終わりです。キャストに言えなかったのが残念ですけどね」と密着取材を受けたNHK「プロフェッショナル」の話題も交えながら回想。
さらに「(プロフェッショナルは密着)4年間って謳っているけど、4年べったりだったわけではなく、途中何カ月も来ていないという時期もありました。アフレコも緒方のときは来ていたけど、ほかの人のときは来ていない。もっといいシーン、『これ撮っておけばよかったのに!』というのは現場で結構ありましたよ。本当いいところに来ていない。バーチャルカメラも最終日がよかったのに、最終日に来ない。大抵、初日に来て最終日に来ない。最後がいいのにね」と、先日放送されたプロフェッショナルにぼやくと、見守るファンからは笑いもこぼれた。
エヴァの画面は「物語上必要なもの、美しいもの、好きなもの」で構成
本作については、序盤に登場する「第3村」をミニチュアで作ったり、モーションキャプチャーを使いながらアングルを探るなど、従来のアニメ作品とは違う制作手法も話題に。その意図について、庵野総監督は「ミニチュアを使ったり、モーキャプ(モーションキャプチャー)を使ったり。これらがなくてもアニメはできるんですよ。手で描けば済むので。でも、手で描けば済むものだけにしたくないという思いが『:序』のころからあった。あれから時間が経って、いろいろな技術が上がってきて、実現できた」と明かした。
「頭のなかでできた画面ではなく、存在するものを切り取ってアニメーションを作るということをやった。時間も、お金もかかるので、ほかはやらないと思いますけど。エヴァは自主制作なので、なんとか。本当に大変なのでやらないほうがいいです」
「実写とのハイブリッドは『:序』のころからやっていたけど、あのときはCGに近かった。ちょっとずつ、ちょっとずつ、そういう要素を増やしていって。『:Q』と『シン・エヴァ』の間があいて、そこで『シン・ゴジラ』ができて、そのノウハウを活かせると。『シン・ゴジラ』を作っていなければ、『シン・エヴァ』はこうはなっていなかったと思います。だから、あの映画を作らせていいただけてよかった」
ここで話題は、まだファンが気付いていないであろう監督の密かなこだわりポイントに移ると、終盤パートを担当した前田監督は「みなさんの考察のほうが先を行っている気がする」としながらも、終盤に描かれるシーンについてポイントを明かした。
「アスカが(エヴァンゲリオン)2号機のなかでビースト化してオリジナルアスカが迎えに来る場面があるんですけど、もともとのシナリオでは、あのシーンで本当は(渚)カヲルがいるんですね。エヴァ13号機は(パイロットが)ふたりいないと動かないので。なのでコピーして作られた複製カヲルがいるという脚本だったので、画にしていました」
「ただ制作が進んでいくと画の力関係が変わって、鶴巻さんはオリジナルアスカを画面の中心に出してきたので、ほとんど映らなくなった。よく目を凝らしていただくと人影がいるんじゃないかなと」
また庵野総監督も「エヴァの画面って物語上必要なものと、画として美しいものと、あとは僕自身の人生においてかかわりのあるものと、あとスタッフの好みが描かれている。僕の好みだけじゃなくメインスタッフの好みも入っていて、それが世界観を広げていると思います」と続けた。
「アニメーションはフィクションなので、基本的に自分の好きなものだけで画を構成できるんですよ。例えば実写だと『あのビル邪魔だな』と思ったらCGでお金かけて消さなきゃいけない。撮っちゃいけない“なんとかタワー”というのがあるんですけど、そういうのがあったらお金かけて消さなきゃいけない。でも、アニメは最初から描かなければ、CGで作らなければいい」
「基本的にエヴァは、僕の好きなものかスタッフの好きなもので構成されています。僕のなかでは宇部新川駅やクモハ42とかね。実は(劇中で)モデルになっている駅の周辺って電化されていないので、電車があるのはおかしいんですよ。キハ40という気動車を置いているんですけど、本来電化されていないところに電車があるのは変なんですが、僕が子どものころ、見たり乗ったりしていたので、思い出のところとして画面が構成されているんです。クモハ42も、妻の絵も僕が大好きなものなんです」
最後に監督陣があらためて挨拶。前田監督は「最初に感謝の気持ちを述べてしまいましたけど、本当にその気持しかありません。内容も見る人を選ぶ作品だと思いますし、(シリーズの)途中から観るというような、さまざまなハンデが1本の映画としてあると思いますけど、多くの人が面白いと言ってくださって。また制作中、コロナで大変だったんですけど、僕たちが在宅で作業している間、制作のみんなが動き回ってくれたり、いろいろな頑張りをしてくれたので、そこにも感謝を伝えたいです」とコメント。鶴巻監督も「今日もコロナの関係で不安があるなかで、観に来ていただいてありがたいと思っています。ありがとうございました」と続けた。
最後に庵野総監督は「頭にもお礼を申し上げましたけど、あらためてまたお礼申し上げます。本当にありがとうございました。制作の途中から、コロナ禍に見舞われて、僕たちだけじゃなく日本中、世界中が同じ状況になって、今もそれが続いています。そんな大変な時期に足を運んで頂いて、作品を面白いと言ってくださって。厳しい時期になっても映画館に足を運んで頂けること感謝いたします。本当にありがとうございました」と感謝の気持を伝えると、現地で舞台挨拶を見守っていたファンからは長い拍手が送られた。
また庵野総監督は退場間際も2度、3度と観客に向かって頭を下げ、感謝の思いを伝えると、そのたびに大きな拍手が沸き起こっていた。