レビュー

壁際に置いて100型大画面。パナソニックお手軽シアター、6スピーカーの音も迫力

大画面で映画などを楽しみたいけれど、大型テレビを置くスペースはない……そんな人にも検討の候補になりそうなのがプロジェクターだ。特に60型を上回る超大画面となると、液晶テレビや有機ELテレビは高額でなかなか手が出ない。その点、プロジェクターなら部屋の壁面をスクリーンにしてしまえるので、手軽に100型超の大画面環境も作り出せる。

パナソニックのプロジェクター「インテリアシアター TH-100FP1」

本格的なホームシアターを構築するなら、遮光できる部屋に専用スクリーンを設置するのがベストだが、そうした場所がなくてもリビングなどの白壁に明るく投写できて、しかも6つのスピーカー内蔵のため1台で映像も音も楽しめるフルHD DLPプロジェクター「インテリアシアター TH-100FP1」がパナソニックから登場した。価格はオープンプライスで、店頭予想価格は30万円前後。

筆者は自宅の居室にエプソンのホームシアタープロジェクター「dreamio EH-TW5350」(2015年発売)を設置しており、100型超の大画面で映画を観ている。今年開設した仕事部屋にもプロジェクターを置きたいと考えており、最新プロジェクターの中でも特に気になっていた「インテリアシアター」を借りて実際に試してみた。

壁の近くに置いて投写可能

壁から45cmにおいて、目の前には100型の大画面!

多くのプロジェクターは、画面を投写するために、スクリーンから一定の距離を取って設置する必要がある。この距離は製品によって様々だが、基本的には大画面で投写するためには、それだけ離れなければいけない。

筆者が自宅で使っている「EH-TW5350」では100型で投写するためには最短でも2.72m離す必要がある。このとき問題なのは画面とスクリーンの間には映像を遮るものを一切置けないということ。多くの場合、プロジェクターは棚の上に置いたり、天井に吊るしたりして利用する。

四角い箱状のデザインが特徴的な超短焦点プロジェクター「TH-100FP1」

今回紹介する「インテリアシアター TH-100FP1」は、壁から1m以下の至近距離で大画面を投写できる“超短焦点タイプ”のプロジェクターだ。

“プロジェクターっぽくない”外観も特徴的。表面にファブリック素材を配し、未使用時にはレンズが隠れる構造となっているため、一見すると“四角い黒い箱”といった印象だ。電源や各種端子類も裏側(壁のある側)に配置されているため、リビングの壁際に置いてもごちゃごちゃ感はない。

小型筐体の家庭用プロジェクターは既に様々なモデルがあって、海外製の低価格な製品も多いが、大画面で楽しむための製品選びで、まず重要なポイントが「明るさ」。部屋を真っ暗にできなくても、色やコントラストがはっきりして字幕なども見やすくするために必要な基本性能だ。

「100FP1」の明るさは2,700ルーメン。低価格なポータブルプロジェクターだと数百ルーメンというモデルも少なくないが、実際に投写するとどれくらい明るいのか、使いながらチェックしていこう。

天面をオープンするとレンズが現れる
付属のリモコン。台形補正など、使用頻度が高いボタンが並ぶ

投写する壁から17~48cm間をあけた位置に本体を設置。天面パネルを開いて電源を入れる。最短投写距離は約17cm。この場合、約60型の画面サイズで投写が可能だ。画面のピント合わせ(フォーカス)は、側面のスライド式レバーを使って手動で行なう。

壁際に寄せて設置したところ。壁に対して正対させて置く
本体右側にフォーカスレバーを配置。ピントは手動で調整できる

筆者の仕事部屋には横幅がほぼ100型サイズとなる2.5mの壁があり、壁から約44cmの位置に本体を置くことで、横幅いっぱいに映像を投写できた。なお、最大投写サイズは120型で、その場合は壁からの距離が48cmだ。

約100型で投写したときの壁からの距離は約44cmだった

最短投写距離の約17cmの位置なら、床置きでの常設も可能だった。この近さなら、使用中に画面の前を横切ることもなく、邪魔だと感じなかった。ただし、100型サイズで投写できる、約45cmの位置は、この部屋で常設するには中途半端だった。本体の奥行きが約23.1cm(カバーオープン時33.4cm)あるため、壁から60cm以上飛び出してしまったのだ。普段は60型サイズで楽しみ、視聴するコンテンツに合わせて本体を動かすことで、大画面にするのが良さそうだ。

ちなみに「TH-100FP1」の本体質量は約11kg。内部にスピーカーやウーファーが合わせて6基内蔵されていることもあり、見た目よりは重い。また、ハンドルや手をかけるフックなどもないので投写位置の調整はやや面倒だ。とはいえ、プロジェクター本体を固定することなく、使いたいときに壁際のベストな位置に置くだけで大画面が見られるようになるのは非常に便利だった。何度か使ってくるとベストな置き場所がわかってくるため、すぐにセッティングできた。

至近距離からの投写で、非常に明るくクリアな映像

今回は壁面に直接投写する利用方法だったため、精細感など細かな画質について厳密には評価しないが、映像は非常に明るかった。光源となる250WのUHPランプは2,700ルーメンと非常に明るい上、投写距離が近いことで、映像は非常にくっきりとしていて高コントラストで表示できた。本格的なホームシアター利用の場合は、反射率の高いスクリーンを用意すればさらに高画質で映像を映し出せそうだ。

床置きで壁全面に投写したところ。発色も非常に鮮やかだ
最短距離となる17cmで投写したところ。壁紙投写ながらキレイ

ただし、至近距離から映像を映し出す超短焦点プロジェクターは画面の歪みに非常にシビア。画質をあまり気にしないテレビ番組などなら大きな問題はなさそうだが、映画などを歪みなく投写したい場合なら、できるだけ凹凸の少ない壁紙に投写氏、より厳密に本体を設置することをおすすめする。

なお、レンズシフト機能や水平方向への台形補正機能は搭載していないため、本体は壁に向かって正対させて置く必要がある。脚部ネジでの高さ調整機構や、垂直方向の台形補正機能は搭載されているため、床置きでも映像は真っ直ぐに映し出せた。

脚部の高さ調整機構
台形補正のメニュー画面。映像を見ながら縦の台形補正ができる

レコーダーやHDMIスティックを接続して再生。USB電源供給は不可

「TH-100FP1」でコンテンツを観る場合は、Blu-rayやDVDなどの外部のメディアプレーヤーやレコーダー、HDMIスティック端末などと接続して再生するのが基本的な使い方。本体正面(壁面側)に入力端子としてHDMIを2基搭載している。さらにUSBメモリなどが読み込めるUSB端子なども配置している。

本体の壁面側に各種端子類を配置

実際に複数の機器を接続してみたが、2つのHDMI端子の位置が近いので、Fire TV Stickを挿す場合は付属の延長アダプターを使わないと隣の端子と干渉してしまった。Fire TV Stick以外にHDMI端子を使わないなら、直付けでも利用可能だった。

Fire TV Stickや、BDレコーダーを接続。端子間が近いので干渉に注意

残念だったのはUSB端子が0.5A出力にしか対応しないことだ。このため、今回使ったFire TV Stickの電源供給には利用できなかった。試していると、セットアップ時に電力不足のアラートが表示され、セットアップ途中で落ちてしまった。別途、USB-ACアダプターに接続すると問題なく設定は進められた。この電源供給ができれば、「TH-100FP1」の電源ケーブル以外ケーブルレスで運用できた。

本体のUSB端子からは十分な電源が供給できなかった

今回組み合わせて使ったレコーダーは、パナソニック「おうちクラウドDIGA(ディーガ)」の2018年発売モデル「DMR-BRT1060」。地上/BS/110度CSデジタル3チューナー搭載で、横幅215mmの小型ボディと、ホワイトのカラーも特徴的だ。HDD容量は1TBで、直販価格は62,880円。

BDレコーダーやFire TV StickをHDMI端子に装着した場合は、プロジェクターのリモコンのHDMIボタンで入力が切り替えられる。 他のモードとして用意されているのが「USB」と「DLNA」。それぞれボタンを押すと、各メニューのトップ画面が表示された。ホームボタンを押したときに表示されるメニューは、 「HDMI」「ネットワーク」「USBコンテンツ」「アプリ」「設定」の5つ。

リモコンの「ホーム」を押すと表示されるホーム画面

初めてプロジェクターを使う人にも注目されそうな製品なだけに、操作説明の用語はなるべくわかりやすくシンプルな方が良いと思うが、「DLNA」と「ネットワーク」のように、表現が統一されていなかったのはやや気になった。

この「DLNA」や「ネットワーク」は、接続するレコーダーなど(サーバー)がパナソニックの「お部屋ジャンプリンク機能」対応なら、レコーダーの受信中/録画済み番組を、ホームネットワーク(Wi-Fi)経由で、寝室などに設置したプロジェクターからでも観られる機能だ。つまり、プロジェクターが「DLNA/DTCP-IP対応クライアント機能を持っている」ということを指す。

正確にはプロジェクター自体が「お部屋ジャンプリンク対応」ではない(同機能には様々な基準があり、全てを満たしてはいない)という事情もあるようなのだが、それはともかく、ネットワークに詳しくない人にも「DLNA」よりなじみやすい機能名のボタンの方が、もっと家族全員で使いやすいのではないだろうか。

パナソニック「DIGA」のお部屋ジャンプリンク対応レコーダーから、Wi-Fi経由で録画番組が再生できた
「ネットワーク(DLNA)」を開くとネットワーク内のDLNAサーバーが表示される。下のDIGA(DMR-BRT/BCT1060)を選択
録画番組の一覧が表示。観たい番組を選んで再生

「USBコンテンツ」は名前の通りUSBメモリに保存した写真や動画を再生するメニュー。USBメモリを指してあると保存しているデータがフォルダツリーとして表示され、そこから選んで再生できる。

「アプリ」はHDMI、ネットワーク、USBメモリ内のデータを一覧して表示するメニュー。TH-100FP1はAndroidベースのOSを搭載しているが、いわゆるスマートフォン的なアプリのインストールはできない。

このほかユニークな機能として、Bluetoothスピーカーとしても利用可能。スマホの音楽をBGMのように部屋で聴くなど、映像を投写していないときも使えるのはうれしい。

設置性や映像、スピーカーが魅力的

約一週間ほどTH-100FP1を使い、ドラマや映画など様々なコンテンツを視聴してみた。USB端子の供給電力など、「こうだったらいいのに」と思う点がいくつかあり、特に気になったのはソフト周り。例えばLGエレクトロニクスのWebOS搭載プロジェクターのように、単体で定額動画配信サービスが利用できるプロジェクターも登場している。それらと比べると、ソフト面の機能は寂しい。また、画面UIは、パナソニックのテレビなどと比べても、決して洗練されているとは言いがたかった。同社としては2007年モデル以来の家庭用プロジェクターとのことで、こうした点は世代を経て進化していくのかもしれない。

それでも個人的にTH-100FP1には強く惹かれている。ひとつは短焦点ゆえ設置が楽で邪魔にならないことだ。仕事部屋は14畳のリビングダイニングなのだが、投写距離の長いプロジェクターだと、ダイニングスペースに置くことになってしまう。しかしTH-100FP1なら、スクリーン代わりになる広い壁際に置くだけなので、使っているうちに、存在はそれほど気にならなくなった。さらに電源ケーブル1本なら寝室に運んで使うといったこともできる。

そしてもうひとつのポイントが、 総合出力32Wのスピーカーを内蔵することだ。具体的には4基のスコーカーと、ダブルウーファー、さらにパッシブラジエーター2基を搭載。本体サイズからの想像以上に中域の音や重低音がしっかりと響き、映画も迫力で楽しめた。100型の大画面で映画を投写しても、音が映像に負けることはなかった。別途アンプやシアターシステムを用意しなくてもいいのはうれしい。

実際に購入するとなると、最も気になるのは実売約30万円という価格だろう。棚置きや天吊りができるなら、同価格帯で(画素ずらし方式の)4K対応プロジェクターも販売されているほか、フルHD画質の超短焦点プロジェクターにも10万円を切る価格のモデルはある。そう考えるとどうしても高価に感じてしまう。

TH-100FP1の利点は、デザインの良さと、最大2,700ルーメンという明るさ、そして内蔵のサウンド性能の高さだ。多くのプロジェクターもスピーカーは搭載しているが、それはあくまでおまけ的なレベルで、映画などの視聴には耐えられない。しかし、TH-100FP1なら広がり感と音圧のある、高音質が同時に得られる。しかもそれらを配線することなく、1台で利用できるのが最大のメリットだ。

DIGAで録画したコンテンツをWi-Fi経由で視聴するのがメインなら、電源ケーブル以外ワイヤレスで使えて、スッキリした状態のままのリビングで100型の大画面が楽しめる。基本性能に加えて、使い勝手とインテリア性の高さなどトータルで考えれば、この価格も納得できそうだ。

コヤマタカヒロ