レビュー

攻めてるぜNetflix、AVの帝王・村西とおると黒木香の「全裸監督」を観た

「村西とおる」や「黒木香」の名前に強いインパクトを覚えるのは40代後半より上の方々だろうか。1980年代、“AVの帝王”村西とおるの駆け抜けた時代を、Netflixがオリジナルドラマ「全裸監督」として制作。“大人向け”に8月8日より全世界配信する。その前半部分の3話までを一足先に鑑賞した今、続きが気になってしょうがない。筆者のように「バブル」や「'80年代」が身近でなかった人にも強くお勧めしたいと思える作品だ。

最初から“怪物”ではなかった

筆者は村西とおるの存在を知ってはいたものの、世代的には少し下でリアルタイムではないため、“お世話になった”というよりは、既に“レジェンド”あるいは“怪物”となった後のイメージが強い。アダルトビデオ制作に革命を起こしたというエピソードについて知ってはいたものの、歴史上の人物のような、少し遠い存在に感じていた。

アダルトビデオ作品そのものよりも、ブログでの歯に衣着せぬ発言がネットでもたびたび話題となったので、それで初めて村西を知った人も多いかもしれない。性に深く長く向き合ってきた人だからこそ、男と女、人間の核心についてよく見えている部分があるのだろう。逮捕&懲役や莫大な借金といった波乱の過去からも、一人のAV監督という枠に収まり切らない存在なのが分かる。そんな男の半生を、Netflixがドラマ化して日本だけでなく世界で配信するという。

武正晴総監督は、6月に行なわれたキャスト陣とのトークセッションで「普通の人間が、どんどん変わっていくさまが本当に見事」と表現した通り、村西は、最初から怪物ではなかったという。成績の決して良くないセールスマンだった男が、色々な人との出会いや世の中の変化をきっかけに、アダルトビデオ業界で伝説へ上り詰めていく。

武 総監督と、佐原恵美(後の黒木香)役の森田望智

「全裸監督」あらすじ

会社は倒産、妻に浮気され絶望のどん底にいた村西(山田孝之)はアダルトビデオに勝機を見出し仲間のトシ(満島真之介)、川田(玉山鉄二)らとともに殴り込む。

一躍業界の風雲児となるが、商売敵の妨害で絶体絶命の窮地に立たされる村西たち。そこへ。厳格な母の元で本来の自分を押し込めていた女子大生の恵美(森田望智)が現れる。ふたりの運命的な出会いは、社会の常識を根底からひっくり返していくのだった……。

「人間ドラマ中心で、アダルトな描写は控えめなのでは」と危惧する人もいるかも知れないが、そこは安心してほしい。作品の重要なテーマということもあって、映像面でもかなり真正面から性に取り組んだシーンがいくつもある。キレイごとではなく、人の醜い部分も含めて内面をさらけ出すことで、ただの怖いもの知らずな怪物ではない、一見普通の人がどんどん変わっていく姿に惹き込まれていく。人の美しい部分だけを見ていたい人は、知らない方が幸せな世界かもしれない。

警察や、クセのあるライバルとのしびれるやり取りなど、数々の見どころがある中で、テーマである性にしっかり向き合っていることで、過激さだけではなく時に笑えたり、思わずジン……と来てしまう場面もある。その根っことなる部分が、彼を動かすきっかけにもなった性と性欲。そこを曖昧にしてしまったら、彼の言葉の重みも失っていただろう。

村西だけじゃない、強烈な個性が次々集まってくる

英語教材のセールスマンだった男が、なぜアダルト業界へ飛び込み、成功していったのか。その理由は物語の中で紐解かれていくが、描かれている一つ一つの事実が強烈なだけでなく、演じる山田孝之が村西になる“スイッチ”が入った時の変貌ぶりが見事。

「完コピのモノマネをしようとは思っていなかった」と山田が語っていた通り、顔や風貌だけでは、そこまで本人には似ていなかったと思う。しかし、あるきっかけで“スイッチ”が入った時、丁寧な口調で畳みかけるような圧は、画面の中と分かっていても、芝居ではなく生きた人間がそこにいることを強く実感させる。

いくつかの重大な出来事から“人の性欲を金に換える”と決めた時の行動力が凄まじく、その勢いに圧倒されているうちに「この男は次にどう動くのだろうか」とすっかり目が離せなくなってしまう。

これまでの作品で、数々の個性あるキャラクターを自分のものにしてきた山田に「撮影を終わりたくなかったのは20年間で初めて」とまで言わしめた、現場の熱狂のようなものが、完成した映像の中にしっかり残されており、他の役者だったらここまで夢中で見入らなかったのではと思える。

'80年代当時の熱狂や、異様さなどを語るのには、村西だけでなく周りの濃すぎる面々の存在も欠かせない。村西を裏の世界へ誘う荒井トシの役は満島真之介。すぐ調子に乗るチャラ男でいい加減な性格なのに、ときどき男気があってどこか憎めない部分を、満島が見事に演じている。

荒井トシ(満島真之介)

玉山鉄二演じる元出版社社長の川田は、風貌こそ真面目な男だが、こうと決めた時に突き進む力と、村西への尊敬度合いが半端ない。目的のためには周りの目や常識など全く気にしない、見ていて爽快なほどのクレイジーさが魅力だ。

川田研二(玉山鉄二)

そのほかにも、村西の天敵となる警部を演じたリリー・フランキーの悪徳っぷりや、黒澤明に憧れてなぜか村西のチームに入ったちょっとかわいそうな若手スタッフ・三田村康介(柄本時生)の今後も気になる。加えて、吉田鋼太郎、板尾創路、余貴美子、小雪、國村隼といった豪華な顔ぶれが、それぞれアクの強いキャラクターで登場するのも注目だ。

【本編映像】村西とおるvs天敵/武井警部! 因縁のはじまり…決死の逃走!

先行公開された本編映像の中では“チーム村西”が本格始動する前夜の様子も観られる。村西というメチャクチャで強烈な男の個性に惹かれて集まり、予想もつかない新しい力が生まれていく。そんな前触れを思わせる高揚感のあるシーンだ。

【本編映像】伝説の幕開け!“チーム村西”結成!?

もう一人の主人公と言ってもよさそうなのは、村西たちとは全く別世界の住人のようなお嬢様から、AV女優の道へと進む佐原恵美(後の黒木香)。演じたのは、22歳の森田望智(みさと)だ。

佐原恵美(森田望智)

恵まれた環境で育った人が、どんな人生を経ると、ここまで凄まじい個性でAV業界の伝説となっていくのか。学生の頃から見せるその片鱗にもかなりのインパクトがあり、「この人が村西に出会ったらどんな事態になってしまうのだろう」とワクワクが止まらなくなってくる。

村西と恵美が出会う「全裸監督」第二弾予告編

人を動かす欲と、それを商売にする男

数話だけでも観て分かるのは、この作品が決してセンセーショナルな意味だけで性を扱っていないこと。その人が、今に至るまで何を経験してきたのか、どんな人に出会うと考えが大きく変わってしまうのか。その核心をごまかさず、変に美化せずに真正面からぶつけてくることで、人の業や因果について考えさせ、「ここまでストレートに描くことが必然だったのだ」と思える強い説得力が生まれている。人寄せのためだけのエロ要素だったら、観た後で腹にズシンとくる重みは残らないはずだ。

一方で、村西という人や物語の内容よりも“どれだけ過激な映像なのか”興味本位で観たいと思うのも、とても自然な気持ちであって、変に考えすぎず観てほしい作品でもある。自分の欲求にいちいち理由を付けなくても、ただ「観たいから」で十分楽しめる内容だし、そんなシンプルな一人一人の欲が、これまでも世の中の色々な物事を動かしてきたのだろう。それも村西たちが見せたかった、人のありのままの姿だと思える。

「全裸監督」特報

中林暁