レビュー
約4.5万円で全部入りのハイコスパプレーヤー「HiBy R5」。Amazon Music HDも高音質
2019年10月24日 08:00
日本のポータブルオーディオファンに、中国製のプレーヤーが人気だ。昨年来、FiiOやShanlingといった中国メーカーが意欲的な製品を立て続けにリリースし、いまや中国は音質・機能と価格のバランスが良好な“ハイコスパ機の震源地”といった雰囲気すらある。そんな中、HiByから登場したプレーヤー「R5」は、低価格ながら機能の詰まった注目製品の一つだ。
HiByという中国メーカー
人気の中国メーカーに共通する特徴の一つは「対応の速さ」だろう。2018年秋あたりから4.4mmバランス端子搭載機が急速に増え、今年に入ると2.5mm/3.5mm/4.4mm端子を揃えたプレーヤーも登場した。Bluetoothオーディオコーデックも、当然のようにaptX HDやLDACをサポートしている。DSDネイティブ再生は言うに及ばず、デュルDAC構成を採用した製品も多い。そのような先進スペックが手頃な価格で手に入るのだから、目敏いポータブルオーディオファンが見逃すわけもない。
中でもHiBy(ハイヴィ)の動向は注目。2014年創業と社歴は浅いものの、ソフトウェア開発では豊富な実績があり、Linuxをベースとした独自開発のOS「HiBy OS」はHIDIZSやCayinなど他社製品にもライセンスされている。Android OSベースのプレーヤー向けにも、ネットワーク再生機能の「HiBy Music」やリモートコントロール用「HiBy Link」といったアプリを供給、確とした存在感を示す。FiiOやShanlingにもソフトウェアの納入実績を持つことを踏まえれば、中国製プレーヤーの躍進を陰で支えてきた存在ともいえるだろう。
そのHiByが自社ブランドのプレーヤーをスタートしたのは2018年のこと。DACにESS ES9028Q2Mを2基搭載した「R6」を中心に、同じく2基のES9028Q2Mを電流出力モードで動作させる上位モデル「R6 Pro」、ES9028Q2Mシングル構成のエントリーモデル「R3」は日本でも高評価を獲得し、その勢いを得て作られたのが今回の「R5」。製品名こそR6の1つ下だが、R6の安価版というわけではない、最新動向を踏まえハードウェアの充実に力点が置かれた新世代モデルだ。オープンプライスで、実売価格は45,000円前後。
R5の出力端子は3.5mmシングルエンドに加え4.4mmバランス(日本ディックスのPentaconn)を用意、出力も最大1,040mW×2ch(16Ω)で、32Ω時は564mW×2chと高インピーダンスのヘッドフォンも余裕で鳴らす。しかも両方ともライン端子として利用可能という念の入りよう。
DACチップはCirrus Logic製「CS43198」をL/R各1基デュアルで搭載、ハイレゾ音源はPCM 384kHz/32bit、DSD 11.2MHzネイティブ再生までカバーする。プレーヤー全体の機能を統括するSoCにはSnapdragon 425を採用、オーディオ用途でAndroid OS 8.1を駆動するには十分なパワーだ。S/Nも4.4mmバランス出力時で124dBと良好、第1世代のR6(120dB)から進化している。
ストレージは内蔵16GBに加え、最大512GBのmicroSDカードスロットを1基搭載。Wi-Fiは2.4GHzと5GHzの2バンドに対応、標準装備のアプリ「HiBy Music」にはネットワーク再生機能(DMP/DLNAプレーヤー)も用意されているため、NASの音源を楽しむこともできる。本機はGMS認証(Google Mobile Service Certification)を得ているので、Google Playから好みのストリーミングアプリを入手してもいい。
Bluetoothオーディオのサポートもしっかり。対応コーデックはSBC、AAC、aptX、aptX HD、HWAにLDACとほぼフルラインナップ、ほとんどのBluetoothイヤフォン/ヘッドフォンをベストな条件で利用できる。他機器から送出された信号を受信するBluetoothトランスミッターとして、しかもLDACを利用できるので、スマートフォンの音源を移動させることなく高音質で楽しめるのもポイントだ。
再生アプリ「HiBy Music」が使いやすい
第1世代製品同様、R5もAndroid OSベースのシステムで自社開発のアプリ「HiBy Music」により音楽再生を行なうという活用スタイル。前述したとおり、Google Playに対応しているので他の再生アプリを利用してもいいが、音質チューニングの「MSEB」など独自機能を利用したければ、「HiBy Music」を使うことになる。
この「HiBy Music」、なかなか使いやすいうえに情報量も豊富。ハイレゾ品質の曲には「HR」の表示が付くし、サンプリングレートやビット深度といった情報も目に付く位置に表示される。再生/停止や曲送り/戻しは側面の物理ボタンを利用してもいいが、レスポンスが良好なため画面のタップでもストレスなく操作できる。妙な翻訳は若干あるものの、細部まで日本語訳が施されており迷うことはない。
ステータスバーも活用されている。左端には音量、その右横には利用されている端子の種類(4.4mmの場合は「BAL」)が表示され、右端近くのバッテリー残量左横では出力中のサンプリングレートを確認できる。このサンプリングレートは、アプリではなくAndroid OSのサウンドAPIが認識している数値であり、それが表示されているということはシステムレイヤーに手が加えられていることを意味する。ここはHiByの“ソフト屋”としての矜恃だろう。
音質調整機能も充実。イコライザー機能は10バンドに対応、Android SDK標準の仕様では5バンドということからすると、しっかり手間をかけて開発されている。スライダー付近に現在のデシベル値がポップアップ表示されるなど、細かい配慮も心憎い。白眉は「MSEB」というDSPを直接コントロールする音質調整機能で、ベースの質感(Bass texture)は速度感重視(Fast)から打撃感重視(Thumpy)、ボーカルの質感は後方で乾いた感じ(Recessed/Crisp)から前方でラジオのような感じ(Forward/Radio Edit)など、感覚的な表現がユニークだ。
シルキーで角がなくそれでいて緻密な音
音質評価だが、1週間前にエージングを終えたばかりの「Shanling ME500」を試聴用イヤフォンにチョイス。φ10mmナノコンポジットダイヤフラム採用ダイナミックドライバー×1と、Knowles製BAドライバ×1という構成のハイブリッドイヤフォンだが、全域におよぶ鋭いレスポンスと中高域の再現能力の高さ、MMCX端子採用でリケーブル可能なことを評価したものだ。
まずは付属の3.5mm端子8芯ハイブリッドケーブルで試聴。長年聴き慣れているはずのBabylon Sisters/Steely Danは、Bernard Purdieのリムショットがいつになく新鮮。輪郭に滲みがなく、シャッフルもピシッと決まる。Randy Breckerのトランペットは光沢感がありつつ伸びやか、R5の基本能力と高域方向の再現力を実感した。全体的にシルキーで角がなくそれでいて緻密な印象のサウンドは、ヘッドフォンアンプ部を磨いたためだろうか、他製品で聴いた同じDACチップ(CS43198)とは異なる味わいがある。
DSDやFLACの音源をひと通り聴いたあと、1芯19本の銀コートOCCを手編みした「SoundsGood WhiteSnake Series WS-M4B」にケーブルを交換、4.4mmバランス接続で試聴した。再びBabylon Sisters/Steely Danから聴き始めると、印象は一変。左右の分離感と見通しが改善され、ボーカルの定位がよりはっきりとわかる。ワイヤーブラシのさらさらとした摩擦音、シンバルアタックの余韻もリアルだ。
ネットワーク再生も試してみた。「HiBy Music」にはDLNAのDMP(プレーヤー)としての機能が用意されているため、同一ネットワーク上にDMS(サーバー)として動作するNASがあればOK。サーバーを選択する画面から「アーティスト/アルバム」や「ジャンル/アルバム」といった分類を頼りにブラウジングしていけばいい。Wi-Fi越しの再生となるため電波の安定した場所でなければ厳しいが、5GHz帯にも対応しているため周囲の電子機器に気を使う必要はなさそうだ。
アップデートでAmazon Music HDも高音質のまま再生
L/R各1基のデュアルDAC構成、3.5mmシングルエンドと4.4mmバランスという2基のイヤフォンジャック、ネットワーク再生に対応し10バンドEQとDSPを直接コントロールする音質調整機能など、機能の凝縮感に感心させられるHiBy R5。さらに驚くのは実売4万円台という価格だ。サイドが丸みを帯びたアルマイト仕上げのボディは質感上々、汚れがつきにくいところもいい。
強いて気になった点をいえば、SIM取り出しピンが必要なタイプのmicroSDカードスロットはいただけない。それほど頻繁に交換するものではないが、曲の入れ替えを躊躇するようになるのは間違いないだろう。「HiBy Music」には、Wi-Fi経由で楽曲をインポートする機能(R5側がファイルサーバとなり、PCのWebブラウザで接続して楽曲をアップロードする)が用意されているものの、4.4mmバランス端子付きのプレーヤーを求める人であれば、複数のmicroSDを所有しているはず。音楽再生メインのデバイスなだけに、ユーザーに負担を強いる構造はあまりよくないだろう。
なお、現状はHiBy Music以外のアプリがイヤフォンジャック経由で出力する場合、44.1kHz/16bitなどにダウンサンプリングされてしまう問題もある。Android 8(Oreo)で導入された新オーディオAPI「AAudio」に対応する再生アプリであれば、スマートフォン/ポータブルプレーヤーのメーカーがOSに特別な変更を加えなくても、任意のアプリを利用しスマホ/プレーヤーに搭載のヘッドフォン端子でハイレゾ出力できるが、残念ながら「Amazon Music(HD)」や「ONKYO HF Player」など多くのアプリはAAudio非対応。このままでは、せっかくの高音質設計を活かし切れない。
しかし、ここで終わらないのが“ソフト屋”でもあるHiByの底力。日本でHiBy製品の代理店を務める飯田ピアノの担当者にこの話をしたところ、問題は解決できる見込みだという。AAudioに対応しないサードパーティー製アプリでもイヤフォンジャック経由で48kHz/16bit以上を出力できるよう、システムレイヤーに手を入れたアップデートを準備中とのことだ。
編集部注:記事執筆時点では「アップデートを準備中」でしたが、10月13日より実施された「FW1.15G」でHDのストリーミングにも対応。国内正規品全てのR5で対応済みとなりました(10月24日追記)
実際に、一般公開前のベータ版が動作するR5でAmazon Music HDを試したところ、Ultra HD音質の曲ではステータスバーに「192kHz」の文字が。アプリ画面にも「24-bit/192kHz」と表示されている。前述したAAudio非対応アプリのダウンサンプリング問題が解決されたのだ。この機能を実現するソフトウェアアップデートは近日公開予定とのことで、期待が高まる。このソフト面での動きの早さこそ、HiByというメーカーの真骨頂といえる。