藤本健のDigital Audio Laboratory

第884回

藤本流実験の裏側見せます。オーディオインターフェイス評価測定の方法

今回は、オーディオインターフェイスの評価手法についてのお話です

AV Watch創刊20年に合わせ、連載Digital Audio Laboratoryの歴史を振り返る特別企画。最後はオーディオインターフェイスの評価手法についてのお話だ。

過去884回の中で、かなりの頻度で取り上げてきたのがオーディオインターフェイスだ。オーディオリスニングの視点からすれば、むしろUSB-DACを取り上げるべきだったかもしれないが、DTM視点でモノを見ることが多い筆者の興味・関心もあって、連載開始以来いろいろなオーディオインターフェイスをチェックしてきた。

興味・関心とは言いながらも、録音も行なえるオーディオインターフェイスはUSB-DACよりも機能が豊富だし、記事を執筆する際のバリエーションはもちろん、実験による評価もし易いというのも大きな理由である。

今回は、そんなオーディオインターフェイスの評価手法について、改めて振り返ってみたい。

ループ接続用に専用のオーディオケーブルを作成

連載で、初めてオーディオインターフェイスの評価を行なったのは2003年1月に掲載した「第83回:PC用オーディオデバイスの音質をチェックする ~序章:ノイズ、レベル、波形変化の検証法~」だった。

第83回:PC用オーディオデバイスの音質をチェックする ~序章:ノイズ、レベル、波形変化の検証法~

単純にオーディオインターフェイスを取り上げて紹介する、という意味では2001年9月に掲載された「第27回:新チップ搭載Sound Blaster Audigy ~実際のところ、買う価値はあるのか?~」が最初ではあったが、音質を細かくチェックして、比較していくという手法で記事にしたのは2003年が最初だった。

オーディオカード「Sound Blaster Audigy」(2001年9月発売)

第27回:新チップ搭載「Sound Blaster Audigy」 ~実際のところ、買う価値はあるのか?~

PC用オーディオデバイスの音質チェックは、第83回の序章を皮切りに、第89回まで続くことになるわけだが、改めてこの記事を見てみるとちょっと面白い。

どうやってこの実験方法を思いついたのか、今となってはあまり覚えていないが、オーディオインターフェイスの出力と入力をケーブルで直結させた上で、さまざまなテストを手動で行なっていた。

現在もオーディオインターフェイスをチェックする際には、入力と出力を直結するループ接続を行なって実験をしているが、このときに特注でケーブルを作り、今もそれを使っている。まあ、特注といっても、非常に高価な線材を使うとか、特別仕様なものというわけではなく、Vital Audioというメーカーのケーブルを50cmで作ってもらった。

「オーディオインターフェイスのループ接続用」と言っても端子はさまざま。

6.3mm標準ジャックのバランス(TRS)、アンバランス(TS)、RCA、3.5mmステレオミニなど、機材にあわせて変更しなくてはならない。そこで、この時はバランスでもアンバランスでも使えるように50cmのTRSケーブルを2本作るとともに、RCAから6.3mmのTSに接続するステレオのケーブル、さらにはRCA-RCAのステレオのケーブルを作ってもらった。

一方、Vital Audioでは3.5mmの製品は扱っていなかったので、市販の3.5mmステレオミニ-RCAケーブルを購入。また3.5mmステレオミニ-3.5mmステレオミニも市販で揃えた。もっとも、普段使うのはほとんどが、TRS-TRSのケーブルだ。

特注で制作してもらったTRSケーブル
市販の3.5mmステレオ-RCAケーブルなど

ケーブルをオーディオインターフェイスに接続し、ループ接続して測定するのは4項目。

まず一番気になるのはSNなので、無音状態でどのくらいのノイズが入るかをチェックする。実験当初は、そのノイズレベルがどのくらいあるか、波形編集ソフトのSound Forgeを使って見た目で判断していた。ただ、1つのソフトで入出力同時ができないので、出力側にはフリーウェアのSound Engineを使い、入出力のレベルが一致する形で実験していた。

波形編集ソフト「Sound Forge」を使用
フリーウェアの「Sound Engine」も併用した

また信号が歪んでないか、変質していないかを調べるために、1kHzのサイン波を出力し、それを捉えた上で、THDとSNを測定。これもオーディオ機器の測定方法としてはオーソドックスなものだと思う。ツールとしては、現在もいろいろ使っているefu氏開発の「WaveSpectra」を用いている。

1kHzのサイン波でTHEとSNを測定する

ダイナミックレンジのチェックには、サイン波のスウィープ信号を流してチェック。ただし、スイープ信号が短時間だと高域が大きく減衰してしまうため、20Hz~24kHzまで2分間かけてスイープする信号を生成し、これを使って実験を行なっている。

20Hz~24kHzまで2分間かけてスイープする信号を使用

もうひとつ、今見ても面白いと思うのは“矩形波”を流して、その結果を波形で見て評価していたことだ。

実際に見てみると、結構波形が歪んでいて、オーディオインターフェイスによって、その違いがハッキリと見える。ちなみにサイン波ではなく矩形波を選んだのは、倍音成分を多く含んだ複雑な信号だから。これがキレイに取り込めていれば「出力も入力もしっかりしたオーディオインターフェイスである」と言えると考え、この手法をとったわけだ。

“矩形波”を流し、その結果を波形で見て評価していた

自動測定・自動解析のRMAA Proを導入

2003年は、この手法を用いて5回連続の記事で数多くのオーディオインターフェイスを比較したわけだが、その後も1年以上に渡り、同じようにしてさまざまな機器をチェックした。

が、2004年7月に、E-MUの「0404」というオーディオインターフェイスをチェックする際、事前にメーカー取材を行なったときに、担当者から「オーディオインターフェイスを評価するのに便利な“RMAA Pro”というソフトがある」という話を耳にする。

聞けば、筆者がこれまで行なっていたのと同じような測定を自動で、しかも一括して行なってくれて、記録も自動で取ってくれて非常に便利だという。どのオーディオインターフェイスも同じ手法で実験するので、機器間の性能比較が行ないやすいと考え、さっそく行なってみたのが、「第153回:E-MUの低価格オーディオカード、0404 ~クリエイティブ取り扱いの新モデルをチェック~」の記事だった。

E-MUのオーディオカード「0404」(2004年6月発売)

第153回:E-MUの低価格オーディオカード「0404」 ~クリエイティブ取り扱いの新モデルをチェック~

記事をご覧いただくとわかる通り、従来の手法でテストを行ないつつも、初めてRMAA Proを使った結果を掲載している。実は後でローランド担当者から聞いて知ったことだが、このRMAA Proというツールを開発しているのは、ロシアにある小さなソフトハウス。彼らがNAMM SHOWに参加していた際、ローランドの担当者が声をかけると本連載のことが話題になり、盛り上がったのだとか……

RMAA Pro

筆者自身は、開発メンバーと直接面識はないが、17年もの長い間、フル活用させていただいている。ちなみに、RMAA Proの開発者ではないものの、学生時代この会社でアルバイトをしていて、その後、アメリカに渡りiZotopeに入ったというのが、RXの開発者。以前、筆者が行なっているニコニコ生放送・YouTube Liveのネット番組「DTMステーションPlus!」に出演してもらった際、話題になって驚いた。

さて、そのRMAA Pro。その後もバージョンアップが重ねられており、最新バージョンの6.4.5がネット上で販売されている

フリーウェアのRMAAと、25ユーロのRMAA Proをラインナップ。当初は機能の違いが大きかったのだが、現在は差分が少ないので、本連載の実験を再現する程度であれば、フリーウェアのRMAAで十分かもしれない。

以前はASIOがRMAA Proしか対応していなかったのだが、今はRMAAもASIO対応している。ちなみにProとの差分は、スペクトルの高精度分析、テストパラメーターの変更、GUIスキンが種類豊富などとなっている。

RMAA Proを使うことで、これまで手動で行なっていた測定が、より簡単に、しかも短時間でできるのは筆者にとって大きなメリットだった。

とくにスイープの測定は、1回で2分待機し、1度録音後、さらに2分かけて分析するなど、何度も単調な作業を繰り返すことになるのでかなり辛かった。たかだか2分ではあるけれど、オーディオ測定に影響がでないよう、何もせずにじっと2分待つのは結構辛い。もちろん、すべて手動なので、トータルでいうと何時間もかかってしまうことがしばしば。しかしRMAA Proであれば、10分程度で、しかもすべて自動で行ないレポートまで出してくれるのだから、作業効率が大幅に改善されたわけだ。

もちろん、RMAA Proが万能というわけではないし、画一的な見方でしかない。そのため、これでオーディオインターフェイスの性能すべてが分かるわけではないのだが、2004年以来、同じ方法で実験を繰り返しているので、各オーディオインターフェイス間の性能を比較できるという意味では、それなりの意義がある連載ではないかと思っている。

2013年からはレイテンシーテストを導入

RMAA Proによるテストに加え、2010年に掲載された「第434回:ローランドの新USBオーディオIFOCTA-CAPTUREを試す~新開発8系統マイクプリを搭載し、低レイテンシーも実現~」の記事から、新たにCEntrance「Latency Test Tool」というフリーウェアを用いたレイテンシーテストも行なうようになった。

Latency Test Tool

CubaseなどのDAWでは、ASIOのバッファサイズを設定すると、入力および出力のレイテンシーがいくつになるかを表示してくれるのだが、これはあくまでも理論値で、実際のレイテンシーとは異なる。ハードウェア側、ドライバ側の出来、不出来によってかなりの違いが出てくるのだ。

入力および出力のレイテンシーがいくつになるかを表示してくれる

そこで、それを実測しようというのが「Latency Test Tool」というツールだった。

CEntranceはマイクプリアンプやオーディオインターフェイス、ギアーエフェクトなどを開発するアメリカのメーカーで、そこがオーディオインターフェイスの性能テストのために無償でこのツールを配布していた。

残念ながら、現在では配布は終了してしまったようなのだが、同ツールは便利なので、今でもこの連載用に活用している。

Latency Test Toolが行なっているのはいたって単純。全出力チャンネルから、パツンという一瞬のノイズを発生させ、それが入力に戻ってくるまでの時間を測定しているのだ。

試してみると同じバッファサイズでも製品によってかなり違うし、モノによっては、毎回結果が変わるなど安定しないものがあるのも面白いところ。Windows専用のツールなので、あくまでもWindowsでの実験ではあるが、これも横並びで比較できるという意味では、これまでのデータをすべて公開しているから、参考になるはずだ。

高価な測定機材は使わず、誰でも再現できる簡単な実験で見せていくのが、Digital Audio Laboratoryの流儀。「もっと高性能な機材を導入してレポートしろ」というお叱りのメッセージなどをもらうこともしばしばではあるが、このRMAA ProとLatency Test Toolを使った評価はこれからも続けていこうと思っている。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto