西川善司の大画面☆マニア
第278回
今年のディスプレイ流行、どれが来る? CESに新技術大集合
2023年2月3日 08:27
年始の風物詩である、米国ラスベガス開催の総合エレクトロニクスショウ“CES”。2000年代に入ってからは、ほぼ毎年訪れていた筆者だが、今年は3年ぶりの来場となった。
前回訪れたのは2020年。帰国した1月中旬は、新型コロナウイルス流行の報道が全世界に轟き始めるタイミングだった。ちなみに筆者はこの年の帰国直後、CES会期中に感染したと思われるインフルエンザを発病している。当時の日本の医療施設はまだ、コロナウイルスの警戒も弱かったため、普通に最寄りの医院を訪れ、インフルエンザの試薬で検査してタミフルを処方してもらったことを覚えている。CES2020はコロナ禍に入る瀬戸際の開催だったわけだ。
それから約3年間は海外出張が途絶えたが、渡航規制の緩和が世界的に進み始めた2022年夏頃からは、海外の半導体メーカーが実地イベントを開催するようになり、徐々に筆者の海外出張も再開されるようになった。そして新年が明けた今年1月、晴れてCES2023への渡米となったのだ。
3年ぶりにラスベガスを訪れた西川善司は、完全に浦島太郎状態。景色がだいぶ変わっているし、そもそも現地の各施設の地理感や距離感をほぼ完全に忘れてしまっていた。
コンベンションセンターには、「West Hall」という新展示場が設置され、電動自動車や自動運転技術を初めとした“モビリティ系”の展示が集約された。記者向けの作業部屋として用意されている「プレスルーム」も、従来のSouth HallからWest Hallに移るなど、いろいろな意味で主役がモビリティ系に移ってきた印象を受けた。
さて、今回の大画面☆マニアでは、CES2023が閉幕して一段落したこのタイミングで、CES2023の大画面系技術の展示を振り返りつつ、2023年以降のディスプレイ動向を占ってみることにしたい。
「ミニLED×量子ドット」の超“BIG”なシャープAQUOS
シャープは、「量子ドット×ミニLED」を国内で最初に採用・発売したメーカーである。シャープは量子ドット×ミニLED採用AQUOSを、新ブランド「AQUOS XLED」と命名し、2021年10月に8Kモデル「DX1」、4Kモデル「DP1」シリーズを発表している。
CES2023では、XLED技術を採用したAQUOSとして最大サイズを謳う120型ディスプレイを披露していた。
現地にいたスタッフによれば、「ミニLEDの個数やエリア駆動のゾーン分割数は非公開」としながらも、「市販済みのAQUOS XLEDのDP1/EP1シリーズに対してピーク輝度は1.5倍ほどある」とのこと。
実際に映像を見ると、輝度は凄まじく、画面上の隅から隅までのコントラスト感が鮮烈。ピーク輝度は、最低でも2,000nit……いや、3,000nit以上あってもおかしくない実感だ。量子ドットの効果もあり原色の発色も鋭い。プロジェクター級の画面サイズを、この輝度と発色で体感できるのは凄いことだ。
重量はディスプレイ部のみで約100kg。チューナーは非搭載。量産に向けたプロトタイプとのことだが、販路は未定。仕様を聞く限り、基本的には業務用ディスプレイという印象。価格は未定らしいが、1,000万円前後が1つの目安になりそうだ。
ちなみに、シャープは、2020年に、120型の業務用8Kディスプレイ「8M-B120C」を約1,400万円で発売したことがある。8M-B120Cと比較すれば、今回の展示モデルは、解像度は8Kから4Kにダウンしつつも、バックライトシステムは通常LEDからミニLED×量子ドットへと、高度なものになっているので、前述した予想価格には一定の納得性はあるだろう。
まるでゲームの隠れエリア? Hisenseの裏側にレグザがいた!
次のアポイントのために、コンベンションセンター会場の最外殻の空いている通路を早歩きで移動している最中にたまたま遭遇したのが、TVS REGZAブースだった。その場所はHisenseブースの最外殻の外も外の壁側である。
ご存じの方も多いだろうが、レグザは今は東芝ではなく、TVS REGZAで開発されており、その親会社は中国Hisenseなのだ。
ブースに立ち寄った日のラスベガスはあいにくの雨で、会場屋根のパネルの継ぎ目から発生したと思われる盛大な雨漏りがレグザブースに滴っていた。「他社からなにか仕打ちを受けているのか」と思い、関係者に聞いたところ「たまたまです(苦笑)」とのこと。
ブースに展示されていたのは、77型の次世代有機ELテレビ、75型のミニLED×量子ドット搭載液晶テレビ、次期レグザに搭載されるであろう2つの高画質化技術、そして2024年以降のレグザに採用が見込まれるユーザー位置測定技術だった。
2つのテレビはあくまでコンセプトモデルということだったが、その完成度と担当者の話し振りからして、おそらく今年発売するモデルなのだと思われる。
展示されていた高画質化技術は、現行レグザに搭載されているAIエンジンの進化バージョンに位置付けられるもの。2つのデモのうち、1つはアニメ調の映像を自動認識し、そこに含まれるMPEGノイズを低減したり、輪郭線にアンチエイリアス効果を適用する技術。もう1つは、映像内の構図と人物を認識し、人物に対して鮮鋭度強めるなどの超解像処理を適用する技術だ。
将来モデルへの採用を見込む“ユーザー位置測定技術”は、ミリ波電波照射式のレーダー技術によって実現するもの。測定したユーザー位置に応じ、音像処理を最適化したり、視距離に応じて超解像処理の強度を調整するのが目的だ。人感センサーなどにも応用できるという。
AR/VR/MRヘッドセットはどこまで進化した?
見た目は強烈! 映像は鮮烈! な「MeganeX」。
今年は、ヘッドマウントディスプレイ系ガジェット、あるいはそれに準じたゴーグル系ガジェットの発表や展示が想像よりも多かった。
日本勢では、パナソニックブースで傘下のShiftallが今春発売予定の「MeganeX」を展示していた。
このMeganeX。実は、パナソニックが2020年に発表したプロトタイプがベースになっている。2020年時に同社が発表した際は「眼鏡型VR(仮想現実)グラス」という製品表記だった(以下VRグラス)。
MeganeXのデバイススペックは、プロトタイプと同じで米国Kopin製の1.3型/2,560×2,560ピクセルのマイクロ有機ELディスプレイパネルを2枚採用することで、両眼解像度5,120×2,560ピクセルを実現している。
また、Kopinとパナソニックが開発したパンケーキ型接眼レンズを採用することで、レンズの飛び出しを抑えつつ、広視野角と実用的な焦点距離を実現する。自発光映像パネルの特性を活かし、高品位なHDR10映像にも対応するのが特徴だ。
当初のVRグラスは、単なる“ディスプレイ装置”にしか過ぎなかったが、製品化にあたっては、QualcommのSoC「Snapdragon XR1」を搭載。単体で動作できるスタンドアローンタイプのVR端末として動作できるよう変更された。
ここまでが、パナソニックが開発した製品版相当のVRグラスの仕様であり、パナソニックはパナソニックで、独自のビジネス展開を計画している。
対して「MeganeX」は、前述のプロトタイプをShiftallが現在主流のVRプラットフォーム向けに仕立て上げた製品というイメージだ。
少し話がややこしいので、ここからはこの製品の狙い所を噛み砕いて解説しよう。
まず、パナソニック側は、このVRグラス本体のみを活用したビジネス展開を狙っていく計画のようだ。
その第一弾として取り組もうとしているのが、Biel Glasses社と共同で進めている視覚拡張ソリューション。Biel Glassesは、スペインの視覚障害者支援向けのスマートデバイスを開発しているベンチャー企業。具体的なシステムフレームワークとしては「カメラで捉えた映像を、ユーザーの視覚障害(緑内障や網膜色素変性症など)症状に合わせたアルゴリズムで加工し、ユーザーの視覚特性に最適化した映像をリアルタイムに見せる」というものになる。
一方で、Shiftallが提供する「MeganeX」は、エンターテインメント用や業務用のVR-HMD的な活用を見据えて、VRグラスをカスタムしたモデル。
実際のところ、このMeganeXも、仕様がややこしい。
まず、VRグラス本体の前面左右にはカメラデバイスが実装されており、外部センサーの設置不要のインサイドアウト式6軸自由度(6DoF)のヘッドトラッキング技術を実現している。
当然、加速度センサーとジャイロスコープも併用。ただ、このインサイドアウト式のトラッキング状態では、現状(というか当面?)、一般的なゲームコントローラ(ゲームパッド)しか利用ができない。またアイトラッキング、ハンドトラッキングにも対応していない。
こうした仕様だと、エンターテインメント用途や業務用の主流VRプラットフォームの1つである「SteamVR」にフル対応しづらい。そこでShiftallは、SteamVRシステムが採用する外部センサー「SteamVR ベースステーション」にも対応させる(1.0/2.0両対応)ことにしたのだ。
この対応にあたっては、MeganeXに標準付属する“アウトサイドイン対応アダプター”を装着する必要がある。この対応アダプタは事実上、MeganeXが「SteamVR ベースステーション」に対応させるための赤外光LEDを実装するためのものだ。
重量は約385g。パナソニックのVRグラスは当初の目標設計を自重150gに掲げていたことを考えるとけっこう重くなっているわけだが、「インサイドアウト/アウトサイドイン方式両対応」を実現してこの重さならばむしろ立派と言うべきか。
MeganeXは、無印の民生向け(品番:SVP-VGC1B)と、Business Editionと名付けられている業務用(SVP-VGBIZ1B)の2種類があり、基本性能は同じだが細かい仕様の違いがある。ここもちょっとややこしい。
民生向けはソフトな付け心地のソフトパッドに加え、56~72mmの瞳孔間距離(IPD)調整機能付き。しかし、視力調整(視度)調整機能はない。こちらは価格が249,900円と発表されている。
業務用はソフトパッドが省略され、鼻で支える装着スタイル。62~72mmの瞳孔間距離調整に加え、0D~-7Dまでの視度調整機能も備える。価格は未定。
CG中心のデモ映像を、民生用と業務用の両方で見たが、いわゆる“ドット感”が感じられないのが素晴らしかった。視聴したCGデモでは、法線マップを用いた微細凹凸表現があったのだが、その凹凸の微細な陰影をドット感なしで見られたのはなかなか感動的であった。単色塗りつぶし表現においても、粒状感がかなり抑えられているのもお見事。表示品質はかなり良好だと感じた。一方、いわゆる“潜望鏡感”は普通のVR-HMDと同等という感じだ。
想定よりも高い完成度に仕上がってしまった!? シャープ初のヘッドセット
シャープも、ShiftallのVRグラスに近い見た目のVR-HMDを発表していた。ただ、シャープとしては、今回発表したVR-HMDを、直近で製品化する予定はないようである。
ではなぜ、開発したのか? というと、シャープが独自開発しているXR(AR/MR/VR)ヘッドセット向けの部材達をアピールする目的のためだという。
完成したVR-HMDは、いわば試作品/実験機なわけだが、「想定よりも高い完成度で仕上がってしまった」とのこと。そんなわけで「せっかくだから、この試作品もCESでアピールしよう」となり、今回の展示が実現したそうだ。
使われているのは、リフレッシュレート120Hz対応の4K液晶パネル。接眼レンズはパンケーキ型で、競合レンズに対して1.6倍も明るいシャープ独自新開発品を採用した。視度は左右の目、それぞれで独立して調整が可能。IPD(瞳孔間距離)調整機能はなく、視野角は90度となる。本体重量の軽量化を狙い、バッテリーはあえて非搭載に。その甲斐あって、総重量約180gを実現している。
また、VR-HMD本体にコンピュータ端末としての機能は内蔵していない。そのため、給電含め、なんらかのホストコンピュータとUSB-C接続して使う仕様だ。
ユーザー頭部位置/向きの検出と追従は、「インサイドアウト」方式を採用。ゴーグルの前面左右に設置された小型カメラによって撮像された映像の動きから、6軸自由度(6DoF)のトラッキングを行なう。もちろん、ゴーグル内部には、加速度センサー、ジャイロスコープなども搭載しており、それらセンサー類の情報もヘッドトラッキングに使われる。
ゴーグル前面の中央部には高品位フルカラー(RGB)カメラが実装されていて、これによってリアルタイム撮影された映像を、VR-HMDを装着したユーザーに見せることでAR/MR的な体験もできるようになっている。
ユーザーインターフェースとしては現状、アイトラッキングには対応しないが、ハンドトラッキングには対応している。正確には指の動きまでを検出でき、目前に広がったCGオブジェクトを指先で突くようなインタラクションもサポートする。
ただ、SteamVRコントローラのような市販の両手形VRコントローラには対応していない。また、VRアプリケーションも、このVR-HMD向けに独自開発されたものしか対応していない。このあたりの仕様は、あくまで“試作機/実験機”然とした仕様に留まっている印象だ。
“XR”になったHTCの新ヘッドセット「VIVE XR ELITE」
HTCはCES会期中に、新ヘッドセット「VIVE XR ELITE」を発表した。製品名に“VR”ではなく“XR”を当て込んだのは、VRだけでなくAR/MRにも対応したことをアピールするためだ。
VIVE XR ELITEは、単体で使えるオールインワン型のスタンドアローンHMDデバイスとして利用できる製品。中核となるプロセッサには、Qualcomm製のSnapdragon XR2が使われている。
リフレッシュレート90Hz、片目1,920×1,920ピクセルのRGBストライプ配列型液晶パネルを2枚採用。両眼解像度で3,840×1,920ピクセルを備える。
光学系は、HTCが昨年発表した「VIVE Pro 2」や「VIVE Focus 3」に採用されたパンケーキ型レンズを採用。装着時の接眼部の突出を最低限にしながら、従来のHMD製品と同等の対角110度の視野角を実現している。
HMD位置の追従(トラッキング)機能としては、外部センサーの設置が不要なインサイドアウト方式。VIVE XR ELITE本体に設置された4基のモノクロの広画角カメラによって10m×10mの範囲内での6DoFのトラッキングを実現する。
コントローラは、従来のHTC製HMD向けのものが使用可能。商品セットには、左右のコントローラが1個ずつ付属する。また、コントローラを持たない状態でのハンドトラッキングにも対応。アイトラッキングには対応しない。
ユーザーのHMD装着をセンシングする近接センサー、HMD運動を捉える加速度センサー、ジャイロスコープも搭載している。
深度センサーと高解像度の1,600万画素のフルカラー(RGB)カメラも実装。これらを有効活用することで、AR表現やMR表現などが可能になる。このカラーカメラ映像は、現実世界のシースルービュー生成にも利用される。
本体重量は26.6Whのバッテリー込みで625g。
バッテリーはホットスワップに対応。つまり、アプリケーションを終了させることなく、現状の状態を維持したまま、充電済みのバッテリーと交換できるということだ。カウンターウェイトを兼ねているバッテリー部は、本体側面ジョイント部から分離可能。分離した状態のHMD部には、耳掛けパーツを合体させることができ、この状態になると、普通の眼鏡のようなスタイルでVIVE XR ELITEが装着できるようになる。
この状態では、USB-CケーブルでホストPCと接続したり、モバイルバッテリーなどとも接続可能。PC VR用のアプリも利用できる。また、Wi-Fi 6e(国によってはWi-Fi 6)ベースの無線接続にも対応する。
予定価格は179,000円。発売日は未定だが、日本先行予約サイトから予約が可能だ。
民生向け&2,000ドル未満では最強仕様? な6K/160Hzヘッドセット
もう一つ、日本でも発売が予定されている「Pimax Crystal」も、ブースではかなりの人気を集めていた。
Pimax Crystalは、民生向けにリリースされる2,000ドル未満のVR-HMD製品としては、ほぼ最高スペックを誇る。
映像パネルは、ミニLED×量子ドット技術を採用した片目解像度2,880×2,880ピクセル解像度で、両眼解像度5,760×2,880ピクセルを達成。つまり6K解像度相当ということになる。リフレッシュレートは最大160Hz。
映像パネルのサイズは公開されていないが、それなりに大きいものとみられ、視野角も広い。ちなみに視野角は接眼レンズによって可変式となっており、対角120度ないしは140度を誇る。
DisplayPort Alternateモード対応のUSB-CでPC接続した時には、PC VRをサポート。スタンドアローンのVR-HMDとして動作させることもできる。搭載SoCは、Qualcomm製Snapdragon XR2だ。
スペック的にはかなり優秀なPimax Crystalだが、約845gの本体重量は、最近のスタンドアローン型VR-HMDの中では、けっこう重い。いや、重たいというより前荷重を強く感じる(いわゆるフロントヘビー)。
ただ、解像感は素晴らしく、ほとんど直視型ディスプレイを見ているのと変わらない視聴体験が得られるのは感動的だった。
タイトル名不明のフライトシミュレーターだったが、その軽飛行機内のコクピットのアナログ計器類の数値はもちろんのこと、計器の「目盛り刻みの線分」の一つ一つまで視認できるほどの解像感。これだけの解像感があれば、CAD作業も行なえるのではないか、と思えたほどだ。
対角140度の広視野角も良好で、広い範囲が見えたことはもちろん、片目で見たときに鼻先の反対側(つまり逆の目方向の視野)までよく見えるため、両目で見たときの“潜望鏡感”が少なかった。これもPimax Crystalの大きな特徴と言えるかも知れない。
CES名物、Samusung対LGの韓国勢対決の行方は?
32:9ゲーミングディスプレイ祭りなサムスン。日本市場に再参入して!
CES名物(?)となっている、Samusung(サムスン)対LGの韓国勢対決だが、テレビ製品向けの最新技術という土俵では、今年はLGが気を吐いていたように見えた。
今年のサムスンブースは「サムスンのSDGsへの取り組み」をテーマにしており、例年のような「技術の見本市」的な展示を意図的に避けていたので、そのように見えたのかもしれない。
「地球環境にやさしいサムスン」のアピールが目立ってはいたが、ゲーミング関連に関してはそれなりに力が入っていた。
特に今年は、アスペクト比32:9のウルトラワイドのゲーミングディスプレイが豊作。具体的には「G95NC」と「G95SC」の2モデルが発表された。
少しだけ、ウルトラワイドアスペクトな32:9ディスプレイ機器の歴史を振り返ろう。
サムスンといえば、2017年に業界初の32:9ゲーミングディスプレイ「C49HG90」を発売。これが、欧米のPCゲーミングファンに意外と受け、以降継続的に、このタイプの新製品を発表してきた。
2019年には、湾曲型の32:9ゲーミングディスプレイ製品に「Odyssey G9」というブランドを与え、その初代モデルを「CRG9」として発売。2020年は製品名に「Neo」を付与して製品名を「Odyssey G9 Neo」に固定させ、以降、年次モデルの形をリリースするようになった。ちなみに、2020年モデルの「Odyssey G9 Neo」は「G95T」、2021年モデルは「G95NA」、2022年モデルは「G95NB」という具合に型番は変えている。
今回発表された「G95NC」の特徴は、ミニLED×量子ドット技術を適用し、解像度を7,680×2,160ピクセルに引き上げ、シリーズ初の57型サイズとしたところだ。湾曲率は1000R(半径1mの円弧の曲率)という点は歴代モデルと同様。最大リフレッシュレートは240Hz。
横解像度が8Kとなった32:9アスペクト比で240Hz信号を伝送するには、必要帯域が約100Gbpsにまで達するため、HDMI2.1規格やDisplayPort1.4(DP1.4)規格では伝送できない。そこで、本機は業界初(サムスン調べ)のDisplayPort2.1(DP2.1)に対応した。
DP2.1は「UHBR 13.5」モードで54Gbps、より高速な「UBHR 20」モードでも80Gbpsなので、どっちにしろ100Gbpsの要求帯域を満たせないことになるが、これについてはすでにHDMI2.1規格やDP1.4規格で採用済みの不可逆圧縮技術「DSC」(Display Stream Compression)の適用で54Gbps未満に抑えて対応する。
DP2.1/54Gbpsモードに対応しているGPU(2023年1月時点)は、AMDのRADEON RX 7000シリーズしかないため、AMDブースでは、この点をアピールする展示として、G95NCを目立つように展示していた。
49型の従来モデルの没入感も凄かったが、57型となったG95NCは横長感がさらに増強され、没入感というか「映像パネルに囲まれている感」が増したように感じた。また、49型モデルでは、若干遠目に視距離をとった場合に、縦方向の“幅”が物足りない感じが否めなかったが、57型となったG95NCは、視界の縦方向にも十分な大画面感が得られるようになっている。
ミニLED採用機らしく輝度も非常に明るく、HDR表示スペックはVESA DisplayHDR 1000規格に準拠するとのこと。
ちなみに、従来の32:9アスペクト比の49型モデルは、16:9アスペクト比の27型ディスプレイを横に2台並べた大きさに相当したわけだが、G95NCの場合、16:9アスペクト比の32型4Kディスプレイを横に2台並べた大きさに相当することになる。
32型4Kディスプレイといえば、Windows環境でドットバイドット表示しても丁度よい大きさなので、これがベゼルレスで2画面分あることに相当する本機は、ゲーミング用途のみならず、普段のPC用途においても相当に使いやすそうなディスプレイになりそう。
発売時期、価格、共に未定だが、例年の慣例に従えば発売時期は夏頃だろうか。価格については、従来モデルの登場時の価格(2,300ドル)を上回ることは間違いないだろう。
惜しむらくは、サムスンが日本のゲーミングディスプレイ製品市場から撤退してしまっていること。テレビ製品はともかく、ゲーミングディスプレイ製品については、サムスンには日本市場に再参入して欲しい。
もう1機種のG95SCは、「Odyssey G9」シリーズの有機EL版ということで「Odyssey OLED G9」という名称が付けられている。
こちらは、画面サイズは49型、解像度が5,120×1,440ピクセル、最大リフレッシュレートが240Hzということで、先代の「Odyssey G9 Neo」の液晶モデルのスペックをそのまま継承しながら、パネルを有機EL化したモデルだ。
有機ELパネルは、サムスン独自の「QD-OLED」パネルを採用。これは本機を語る上での最大のホットトピックだろう。
QD-OLEDパネルは、昨年のCES 2022で電撃的に発表された量子ドット技術を適用した有機ELパネルで、サムスングループのサムスンディスプレイ社が世界で初めて量産化に成功したものだ。
量産化されたばかりのQD-OLEDパネルを採用した製品はまだ少なく、サムスン自社製はいわずもがなだが、2023年1月時点で、日本メーカーではソニーブラビア「A95K」シリーズにしか採用されていない。
有機ELパネルのG95SCは、各画素が自発光画素であるためコントラスト比は100万:1、応答速度は1ms未満の100μ秒(0.1ms)と圧倒的。最大リフレッシュレートは240Hzに対応。また、従来の液晶モデルのOdyssey G9シリーズと比較してバックライト部材が全て省略できることから、薄く軽量になったこともアピールされていた。
実際、裏に回ってボディを観察したところ、劇的に薄くなっていることを確認。相当に軽量になったと思われる。従来の液晶モデルがスタンド込みで重量約15kgだったが、これよりはだいぶ軽量になると思われる。
32:9アスペクト比の従来液晶モデルと比べて劣るところはほとんどない本機だが、実は湾曲率は1000Rから、ひっそりと1800Rへ引き下げられている(数値が大きいほど平面に近い)点には触れておきたい。
バックライトも不要で、樹脂フィルム基板で成形される有機ELパネルであれば、1000Rの実現は難しくないはずだが……。1000Rの湾曲率に魅力を感じていた人は液晶モデルの方を選択すべきかも知れない。
発売日は2023年内とのこと。価格は未定ながら「従来モデル以上」との答えだったので、2,300ドル以上になるとみられる。
LGは今年も技術見本市! 4K120pワイヤレスに透明有機ELテレビ
ライバルのLGのブースはいつも通り。ブース入口には数百枚からなる有機ELディスプレイを配置して盛大なデモ映像を披露していた。
テレビ製品では、完全ワイヤレステレビであるLG「OLED M」シリーズが注目を集めていた。とはいっても、もちろん電源は有線で行なわれており、完全ワイヤレスというのは、チューナー装置やHDMI端子などの外部入力インターフェースを別体ボックス化して、ディスプレイ部との無線接続に対応させた、というものである。こちらは、発売時期、価格は不明ながら、実際に発売を予定しているとのこと。
もう1つ、ブース内で黒山の人だかりが出来ていたのが、透明な有機ELテレビ「OLED T」シリーズだ。
透明の有機ELディスプレイについては、LGは、以前から業務用およびデジタルサイネージ用に販売していたが、この技術を民生向けに展開したものが「OLED T」シリーズらしい。
業務用展開されていた透明型有機ELディスプレイは、文字通り、透明状態での映像表示しか行なえなかったが、OLED Tシリーズでは、普通のテレビとしても使える「不透明モード」が搭載されている。
不透明モードだと、もはや普通の有機ELテレビにしか見えないのだが、透明モードにすると向こうがスケスケである。
この切り替えはどうやっているのかと言えば……種明かしは、下記の動画をどうぞ。
「テレビを設置した場所の“向こう側”を見せたい」という欲求が、一般ユーザーにどの程度あるのかは分からないが、アイディア次第で面白く使えそう。こちらは、直近での製品化の予定はないようだが、少なくとも業務用ではそれなりに引き合いがありそうだ。
32:9アスペクト比に注力するサムスンに対して、近年のLGは、ウルトラワイドなゲーミングディスプレイ製品に関しては21:9のアスペクト比を主軸とするようになった。実際、2019年以来、LGは32:9のモデルを出していない。
会場でLGが推していたのは、21:9アスペクト比の新製品「45GR95QE」だった。
解像度は3,440×1,440ピクセルなので、特別に高解像という印象はないが、45GR95QEは映像パネルに有機ELパネルを採用しているという点がポイント。
画素応答速度は30μm(0.03ms)で一般的なゲーミングディスプレイ製品の100倍も速い。0.03msといえば、理論上は3万fpsの表示が可能となるが、インターフェース上の都合により、本機の最大リフレッシュレートは240Hzとなっている。
画面サイズはLGの湾曲型21:9ゲーミングディスプレイ製品としては初の45型。同社はこれまで湾曲型21:9ゲーミングディスプレイにおいて40型が最大サイズだったので、さらに大型化されたことになる。
湾曲率もLGとしては最も大きい800Rを実現。これまでは1500R止まりだった。ピーク輝度は1,000nit。有機ELにしてはかなり明るい。
北米ではCES会期中に発売されており、直販価格は1,699ドルとなっていた。
ウルトラワイドではないが、有機ELパネルを採用したゲーミングディスプレイ「27GR95QE」も同時に発表している。
前出の45GR95QEを27型/16:9(2,560×1,440ピクセル)にしたようなモデルで、画面サイズや画面形状に関わる以外はほぼ共通。具体的には、リフレッシュレート、応答速度、輝度性能、入出力端子群などが共通仕様となっている。
こちらも北米ではCES会期中に発売済み。直販価格は999ドルだった。
会場では、日本でも1月下旬より発売した「LG OLED Flex」(品番:42LX3QPJA)も展示されており、賑わいを見せていた。
人気の秘密は、電動制御による湾曲率可変機能だ。
こちらは、ウルトラワイドではなく、ゲーミングディスプレイ製品でもない、アスペクト比16:9の42型4K有機ELテレビだが、完全平面から湾曲率900Rにまでリモコン操作で変更出来るのが最大の特徴。また、多くのテレビが採用する光沢パネルではなく、非光沢パネルを採用しているところも隠れた魅力かも知れない。
テレビ製品と言うことで、チューナーも搭載(日本モデルはBS/CSチューナー2基、地デジチューナー3基で、USBハードディスクへの番組録画にも対応)。総出力40WのDolby Atmosスピーカーも搭載する。
ゲーミングディスプレイとしてのポテンシャルも立派。120HzでのDolby Vision Gaming 4Kをサポート。NVIDIA G-SYNC Compatible、AMD FreeSync Premium、VRRなど一通りのゲーミング機能をサポートする。
一方、テレビであるがゆえ、DisplayPort端子は非搭載で、最大リフレッシュレートは120Hz止まり。画素応答速度が100μs(0.1ms)あるのに少々もったいない気がする。
日本でも既に大手量販店で発売が始まっており、一部店舗では実機の展示も行なわれているようだ。興味がある方は、リモコン操作による湾曲調整を体験してみるといいだろう。
日本市場にも本格参入のTCL。次の一手は印刷式有機ELパネル?
テレビで日本市場に参入している中国TCLだが、CES2023では数多くのウルトラワイドなゲーミングディスプレイを展示していた。
最初に紹介するのは、前述のLGのように、リモコンで曲率が変えられるゲーミングディスプレイである。
映像パネルは49型の32:9アスペクト比のVA型液晶パネルで、解像度は5,120×1,440ピクセル。最大リフレッシュレートは120Hz。仕様的には現行の32:9ディスプレイのほぼ上位スペック相当で不満なし。競合モデルは、完全にサムスンの「Odyssey G9」を想定しているのだろう。
最も曲がっている状態は1500Rで、この状態から平面に無段階に曲げることが可能……らしい。というのも、筆者がブースを訪れた時は、試作機との理由から平面から曲げ状態への変身デモが見られなかった。発売時期・価格はともに未定だ。
お次は、ミニLED×量子ドット技術を採用した32:9アスペクト比のゲーミングディスプレイだ。
こちらも映像パネルは49型のVA型液晶パネルで、解像度は5,120×1,440ピクセル。画素応答速度は1.9msで、最大リフレッシュレートは240Hz。ミニLEDによるエリア駆動分割数は5,120を誇り、ダイナミックコントラスト比は100万:1、VESA Display HDR 1400準拠のHDR表示品質を備える。ピーク輝度は1,800nit。
サムスン「Odyssey G9」のライバル機という印象だが、「湾曲率で競合を上回る」というのがTCLの主張。
なんと、その湾曲率は「Odyssey G9」シリーズの1000Rを上回る800R! どうやら32:9アスペクト比のゲーミングディスプレイは“湾曲率競争”に突入しつつあるようだ。発売時期・価格はともに未定。
この他にも、ミニLED×量子ドット技術を採用した32型・21:9アスペクト比で3,440×1,440ピクセルのミドルクラスゲーミング液晶ディスプレイや、49型・32:9アスペクト比で3,840×1,080ピクセルのエントリークラスゲーミング液晶ディスプレイを展示していた。
TCLといえば、その傘下にTCL CSOT(China Star Optoelectronics Technology)というパネルメーカーがあり、特に同社の高速応答を売りにしたVA型液晶「Fast-HVA液晶」はコストパフォーマンスがよいことから、ゲーミングディスプレイ向けとして強く訴求されている(ちなみに、上で紹介したTCLのゲーミングディスプレイは全てFast-HVA液晶パネルを採用している)。
そして、そんなTCL CSOTは2020年、日本の有機ELパネルメーカーJOLEDと資本業務提携を締結。JOLEDが不得意だったテレビ向けの大型サイズの有機ELパネルの製造に乗り出す…という方針を発表していたが、今回のCESにおいては、その成果物とおぼしき展示が行なわれていた。
JOLEDは、有機ELパネルの赤緑青(RGB)サブピクセルを形成するのに不可欠なRGB有機材の塗布にインクジェットプリンタを活用する印刷方式技術を確立しているが、これまで量産して市場投入にまで漕ぎ付けたのは最大32型までだった。
今回会場でお披露目された、65型8K解像度の印刷式有機ELパネルは隠れた目玉展示の1つだったといえよう。
次世代ディスプレイの本命「マイクロLED」。一般向けはまだ遠い
ミニLEDは液晶パネルに組み合わせるバックライト技術だが、次世代ディスプレイ技術として期待されている「マイクロLED」は1つ1つの画素を通常のRGB-LEDで構成した次世代ディスプレイである。
マイクロLEDへの取り組みとしては、日本メーカーではソニーが力を入れている印象を持つ。ソニーは、2012年に一枚パネルとしてフルHD解像度のマイクロLEDディスプレイを発表し、2016年には「CLEDIS」という名称で業務用向けに販売を開始した。
韓国勢ではサムスンがいち早く、マイクロLED技術開発への取り組みをアピールし、2018年にマイクロLEDディスプレイの商品「The Wall」を発表した。しかし実際には、2019年に少量リリースしたのみで、事実上こちらも業務用ディスプレイ事業向けに展開しているのみだ。
残念ながら、CES2023の会場では、多くの映像機器ファンが期待しているような大きな技術ブレークスルーを見ることはできなかった。
目を凝らせば、モジュールパネルの継ぎ目は相変わらず見えるし、コンセプトモデルや業務用製品の展示が中心だった。