西田宗千佳のRandomTracking
第425回
変形でVR180と360度対応の「Insta360 EVO」で撮る。手ブレも怖くない?
2019年3月14日 00:15
360度カメラシリーズ「Insta360」で知られる中国Shenzhen Arashi Visionの新製品「Insta360 EVO」が、4月12日に国内販売される。発売前に、短期間ではあるが試用できたので、スマホ連携を中心に紹介したい。国内販売代理店はSB C&Sで、SoftBank SELECTIONオンラインショップでの価格は56,570円(税込)。
Insta360シリーズは360度カメラとしてはすでに世界的なブランドになっているが、その本質は、積極的な製品展開速度とアプリ開発にある。「Insta360 EVO」もそんな製品だ。
今回の特徴は「VR180と360度の同居」である。
本体折りたたみ式で「360度」と「VR180」の双方に対応
Insta360 EVOは、一言で説明するなら「変形するカメラ」だ。写真を見るのがなによりわかりやすいだろう。
Insta360 EVOは、2つの魚眼レンズを備えたカメラだ。二眼であることを活かし、2つの視点で前方180度の映像を撮影する、いわゆる「VR180」規格対応カメラとして使える。VR180は、Googleが定めた立体視ビデオの規格で、魚眼カメラで撮影された2視点の映像を並べることで、「前方180度の立体視」を実現するもの。YouTubeでも対応が行なわれているし、レノボなどから「VR180カメラ」も発売されている。
これまでに登場したVR180対応カメラは、基本的に「VR180専用」だった。だが、Insta360 EVOは違う。変形させることで360度カメラにもなるのだ。中央にあるヒンジで本体を折りたたむことで、左右に並んでいた魚眼レンズを「前後」に変えて、360度撮影に対応するのである。
考えてみれば、両者の構造は非常に近い。どちらも「魚眼レンズ+撮像素子」の組み合わせであり、それを前後に配置するのか左右に配置するのか、という違いに過ぎないからだ。あとは、ソフトの側でどう映像に構成するか、ということで対応できる。
Insta360にはもともと、モニタリング用のディスプレイがない。撮影した静止画や映像を使うには、連動するスマホアプリから取り出すか、PC用のソフトから取り出すか、どちらかを経る必要がある。だから、こういう「変形構造」にしても問題はないのだ。
外形寸法は、180度撮影モードで約98.4×26.27×49mm(幅×奥行き×高さ)、360度モードでは約50.3×52.54×49mm(同)。重量は約113g。
「5.7K撮影」で画質は良好、手ブレ補正の優秀さが光る
では、実際に撮影したサンプルをご覧いただきたい。ただし、1点だけ留意点がある。
詳しくは後述するが、スマホソフトの制約から、動画の場合、取り出せる映像の解像度は「最大4K」になる。テスト画像も4Kである。だが、映像の解像感自体は撮影画素が4Kの製品より良くなっており、製品としての素性の良さを感じる。PC版アプリでならフル解像度での取り出しも可能だが、今回はテスト環境としてスマホ版のみが用意されている関係上、5.7K動画のサンプルをご提供できない点をご了承いただきたい。
まずは全天球の静止画から。率直にいってかなり画質はいい。もともとの撮像素子の画素数が高く、精彩な映像が撮影できるためだろう。スペック上、Insta360 EVOでは1,800万画素(6,080×3,040ドット)での撮影が可能。動画は最大5.7K(5,760×2,880)、30fps。これらは、すでに発売されている「Insta360 One X」と同じスペックである。筆者はInsta360 One Xの実機を確認していないので、画質などを比較することはできない。だが、EVO単体で評価しても、筆者にはかなり好印象である。
もうひとつ、圧倒的にすごいのは、映像が「ブレない」ことだ。これは本当に驚きだ。Insta360 EVOにはモーションセンサーが内蔵されており、これとスマホアプリが連動する形で働く、手ブレ補正機能にあたる「FlowState」という機能がある。この機能が優秀で、360度カメラとしての映像、VR180共に、映像のブレを防いでくれる。次の映像は、あえてFlowStateをオフにして書き出したものだ。前出のサンプルとの違いをご確認いただきたい。歩きながら撮影する「旅カメラ」的な視点で考えると、この機能はまさにキラーだ。
とはいうものの、360度カメラとしてのInsta360 EVOには弱みと留意点もある。それは「映像の継ぎ目」の問題だ。Insta360 EVOでは、魚眼レンズ+センサーを2組使い、撮影した映像をソフト的に合成して360度映像を作る。一方で「本体を折りたたんで360度カメラにする」という構造上、どうしても、2つの魚眼レンズの間には死角が発生する。多くの360度カメラが本体を薄くすることに腐心するのはこのためだ。Insta360 EVOの場合にも、特に近い場所を撮影しようとした場合、かなりはっきりと、本体側面の両方に「死角」が生まれた。
ただ、撮影対象を遠景に限れば、この問題はかなり目立たなくなる。前出のサンプルでも、あまり不自然な印象はないはずだ。カメラの構造を考えるとこれも納得なのだが、ソフト的にも、ある程度以上の距離ではうまく映像をつなげることで、「EVOの構造ゆえ生まれる不利」をカバーしているのだろう、と思われる。もともと同社の360度カメラでは、水中用カバーなどをつけて「分厚くなった時の補正」を加味したモードがある。そうしたところでの知見が、変形型のEVOでも生きているのだろう。
次にVR180。こちらも画質は良好だ。VR180対応カメラとして、筆者はレノボの「Mirage Camera」を使ったことがある。こちらは解像度は4Kで、Insta360 EVOに比べ若干低い。だが、画質でいえば、発色も精彩感も、Insta360 EVOの方がずっと上、という印象。これなら、特に問題なく立体映像を撮影できる。
ただ、魚眼カメラを使ったVR180の特徴として、「撮影中のイメージよりもかなり引きの絵に見えてしまう」という点があり、それはInsta360 EVOも同じである。だから、スマホに映ったモニター映像を見つつ、「これは寄りすぎでは」と思うくらい被写体に寄って撮影した方がいい。
手持ちより「自撮り棒」推奨、スマホアプリで価値を最大化
静止画にしろ動画にしろ、撮影したデータは、Insta360 EVO本体に挿入したmicroSDカードに記録されるのだが、実際に閲覧したりシェアしたりする場合には、専用のスマホアプリを使うのが基本になる。
撮影時のシャッターとしても、スマホアプリの利用が基本だ。本体の上部にある撮影ボタンを使ってもいいが、スマホアプリから操作した方が実用的と思えた。
なぜなら、本体が比較的小さく、手持ちだと、本体を持つ「手」が写り込んでしまいやすいからだ。この問題に対処するためにも、底面にある三脚穴を使い、付属の小型三脚か自撮り棒などをつけて撮影する方がいいだろう。そうなると、スマホアプリからの操作は「必須」になる。今回の撮影は、本体と一緒に借りたセルフィスティック(自撮り棒)と組み合わせて撮影した。
前述のように、Insta360 EVOはとても優れた「手ブレ防止機能」をもっているが、これもスマホアプリとの連動で実現されている。この他、360度撮影で「視界の移り変わり」を実現する「Pivot Point」や、人やモノを追尾する「SmartTrack」などの機能も搭載されており、「ソフトによる差別化」が非常に上手い。手ブレ防止にしろ視線の活用にしろ、Insta360として発売されたシリーズ製品用のソフトではすでに使われていた技術で、それらをうまく使い、今回の製品でも差別化要素としている。こうした部分は日本のカメラメーカーが苦手にしている部分で、他社ももっと見習ってほしい。
価格が高め、microUSB端子であることが懸念か
Insta360 EVOは、同社製の360度カメラシリーズとして、順当な進化を遂げている。360度カメラとしてだけ使うのであれば、他のシリーズや他社製品でもいいし、「近距離撮影時の死角」という問題がない分、Insta360 One Xなど、他の製品の方がいいとも思う。
だが、VR180での撮影にも興味があるなら、この製品の方がいい。現状、個人向けの単体カメラでVR180対応製品としては、ベストな選択ではないか。360度カメラであり、同時に高品質なVR180カメラということに価値がある。
気になったのは、手持ち撮影がしにくい構造と、5万6千円台という価格。あと、充電とデータ転送に使うUSBインターフェイスが、microUSB(Type-B)である、という点が残念である。インターフェイスについてはこれでも大きな問題があるわけではないが、USB Type-Cが増えてきた今だからこそ、そちらに対応していてくれれば、持ち歩くケーブルの種類を減らせるのにという印象も持つ。
どちらにしろ、このコンパクトさでVR180と360度に対応する「今は唯一無二」なことをどう評価するかが、このカメラが買いか否かを分けるポイントといえる。