西田宗千佳のRandomTracking
第488回
小型・低価格、カジュアルになった「HomePod mini」。2台“オーディオ的”に
2020年11月12日 23:00
アップルの新スマートスピーカー「HomePod mini」のレビューをお届けする。
アップルのHomePodは、他社に比べ音質などの点で優れた部分はあったものの、価格が高くボディが大きい、という欠点もあった。そうではなく、より安価でカジュアルな方向性の製品としたのが、今回発売された「HomePod mini」だ。
どんな製品に仕上がったのか、早速チェックしてみよう。なお、発売日は11月16日、価格は10,800円だ。
小型で丸いボディになったHomePod
HomePod miniは、その名の通り比較的コンパクトなスマートスピーカーだ。球に近い形であり、サイズ的にはまるでソフトボールの球のようだ。上面と底面がカットされており、もちろん置いても転がらない。
立方体のパッケージに入ってるものは非常にシンプル。本体とUSB-C接続のACアダプター、それにちょっとしたマニュアルだけだ。電源ケーブルは本体に直付けされていて、取り外すことはできない。USB-Cなので、本体付属のACアダプター以外でも動かせるだろうが、動作保証は当然されないだろう。
本体はメッシュ状のファブリックで覆われており、テイスト的には初代HomePodと同じ。ただ球形なので、どことなくマスクメロンに見えてくる。
今回試用したのはホワイトのモデルを2つ。2つの理由は後程述べる。
設定にはiPhoneが必須だが簡単
オーディオ端子などの接続口は全くなく、Wi-Fiでネットワーク接続と機器コントロールが行われる。上面はタッチセンサーになっていて、触れることでも操作できるのだが、やはりコントロールの基本は「声」ではある。
設定方法はシンプルだ。ただし、iPhoneがあることが前提となる。
電源を入れて(ケーブルをつなぐだけで、電源スイッチはない)しばらく待つと、iPhone上に設定通知が現れる。AirPodsなどと同じような流れだが、これに従って設定していく。違うのは、設定の過程でHomePod miniをiPhoneのカメラにかざすことくらいだ。これによってセットアップしようとしている個別のHomePodを認識する。
HomePod miniは、アップルのスマートホームプラットフォームである「HomeKit」に準拠していて、設定すると自分が持っているiOS機器やMacなどのアップル製品の「ホーム」アプリから、同じように利用可能になる。すでにHomeKit向けの機器(例えば照明など)を設定済みであれば、その中にHomePod miniが組み込まれる形だ。
HomePod miniは360度に音を広げる無指向性スピーカーだが、2つ用意して「ホーム」アプリ内で連携させることでステレオスピーカーとして動作させられる。この設定も、初期設定の段階でやっておくのがいいだろう。
気軽に部屋で楽しむのに向いた音質、Siriの楽曲呼び出し精度は高い
さて、何よりまず音楽を聴いてみよう。
基本的に、HomePodはApple Musicと連携して動作する。AirPlay2によって、iPhoneなどで動作している他のオーディオサービスの音を流すこともできるが、音声で再生するのはApple Musicになる。
音質はなかなかいい。超高音質、という世界ではなく、カジュアルに部屋の中で聴くには、向いている感じだ。部屋全体に音が広がり、リスニングポイントをあまり意識せずに聴くのに向いている。2台連携しステレオ化すると、音の定位が出るのでより「オーディオ的」に聴く感じになってくる。
小型のスマートスピーカーはどの製品もそうなのだが、「今の時代にあわせたラジオ」のようなカジュアルさがある。そんなカジュアルさの中でもクセのない音が楽しめる。小さい音でも違和感を感じないのは美点だ。
だが、何よりいいと思ったのは「音声認識での音楽再生の精度」だ。
音声認識そのものの精度ではAmazonやGoogleの方が優位……という部分もあるのだが、音楽再生をする際、曲名やアーティスト名の認識間違いは結構ある。
だが、Siriを使ったHomePodでは、それが少ない。Apple Musicと密結合しており、楽曲データベースから名称を学習しているためだろう。
マイクの能力も高く、大きな声で命令する必要もない。反応も早い。この辺のストレスのなさは、現在のSiriの進化を示すものだろう。
パーソナル情報とインターコム、iPhoneとの密結合が価値
HomePodの特徴的な機能が2つある。
一つは、iPhoneと連携して「パーソナルな情報」を聞くことができる、という点だ。例えば「明日の予定を教えて」と聞いたりできるのだ。
他のサービスの場合、カレンダーサービスなどを別途連携する必要があるが、HomePodでは「自分のiPhone」と直接連携して、iPhoneから直接情報を得る。これはプライバシーに配慮してのものだ。
一方、英語などでは自分の声と家族の声を聞き分けて、自分の声以外ではパーソナルな情報を呼び出せないようになっているのだが、日本語ではそうではない。まだ個人の識別ができないためだ。だがこれは、近い将来実現するという。
もう一つのポイントは、音声メッセージ機能「インターコム」だ。
これはiOS/iPadOS 14.2で搭載された機能であり、HomePod mini・iPhoneともに最新のOSへとアップデートしておく必要がある。
インターコムは文字通り、声でメッセージを送る機能なのだが、「ホーム」アプリで同じファミリーアカウント内で連携した家族同士と、それに属する機器で有効になる。
例えばHomePod miniに「インターコムを送って」というと、自分のメッセージが吹き込める。その録音はネットワークを通じ、登録された機器へと送られる。同じホームネットワーク内になくてもいい。外出中などでも届く。もちろん、iPhoneからHomePodへと送ることもできる。家族専用の簡易メッセージング、と考えてもいいだろう。
なお本来は、iPhone 11・12などの「U1チップ」搭載iPhoneと連携し、iPhoneから音楽を簡単に再生する機能がある。だがこちらはソフトウエアアップデートでの実装となっており、まだ使うことができなかった。
やはり「iPhone+Apple Music利用者向け」だが、Siriの進化には注目
HomePod miniは10,800円と比較的安い。ライバルのスマートスピーカー、例えばAmazonの「Echo Dot」は5,980円でもっと安いが、ことiPhone・iPadなどと連携するなら、HomePodの方が向いているのは間違いない。
iPhoneユーザーでApple Musicを使っている人にとってはベストバイな存在だ。だが逆に言えば、他の組み合わせで使う人には別のモノの方がいいところもいまだある。それはある種の宿命でもある。
ただ、Siriは確かにずいぶん進化してきており、以前に比べ、スマートスピーカー上でも使いやすくなった。その価値に期待して買っても高くない値段になってきたのは、重要な点と言えそうだ。