鳥居一豊の「良作×良品」

第89回

キューブ型スピーカーとデノンAVアンプで '20年版「ガルパン高密度ホームシアター」入門

ガルパン最終章を見るなら、本格的な5.1chサラウンドで!

今回は「ガールズ&パンツァー最終章 第2話」だ。「またか……」という声があるのは承知している。ファンならばご存じの通り、ガルパンはTVシリーズ(2.0ch)、BD版(2.1ch)、劇場版(5.1ch)と、音響の進化を続けてきた作品で、現在では、TVシリーズとOVA、総集編、劇場版のすべてが5.1ch版でリリースされている。

さらに現在進行している最終章では、第1話が5.1/7.1ch制作の後にDolby Atmos版を制作。第2話ではDolby Atmos版を制作し、それをもとに5.1/7.1/9.1ch版を制作している。音響フォーマットや制作スタイルが毎回変化しており、しかもよりリッチな音響フォーマットを採用したことで得た経験やノウハウが次回作に反映され、第1話よりもさらに第2話の音響が進化している。第1話と第2話の公開の間隔が2年近くあったことも理由だが、待たされたぶんだけより内容が充実したものが出来上がるのは、ファンにとってはうれしいこと。常に進化しているからこそ、毎回取り上げる意味があるのだ。

それって、映画館でのDolby Atmos音声の話でしょ? と思う人もいるだろう。筆者もBD版の第2話を見るまではそう思っていた。が、5.1chの音声もなかなか凄いのだ。聴き比べればAtmos音声の方が優れているのは確かだし、第1話では劇場でのAtmos音声に比べるとやや空間感や音の定位に差を感じたが、第2話ではAtmos音声との差があまり気にならなかったのだ。制作の順番が逆になっていることもあるだろうし、5.1chリミックスの手法も進化しているものと思われる。詳しくは後半で解説するが、ここまで緻密に構成されたサラウンド音場は、もはや前方だけのステレオ再生やバーチャルサラウンド再生では、その魅力を味わうことはできないと断言したい。

というわけで、ガルパン劇場版のときに記事化した、手の届く予算で、あまり近所の迷惑にならない音量でも楽しめる「高密度ホームシアター」を再び行なうことにした。以前のシステムプランは、現在でも十分に優れた組み合わせだと自負しているが、劇場版と最終章では音響のデザインも進化しているし、特に爆音の鳴り方はかなり変化している。2020年版は、そのあたりの違いに注目して、新たに生まれ変わったシステムプランを組み上げた。

劇場版と最終章の音響の違いとは、一番の違いは爆音に含まれる残響の量だ。劇場版はその名の通りで、劇場のような大規模な音響システムでこそ存分に楽しめるものになっているが、最終章は劇場公開されているとはいえ、1話あたりは50分程度の長さでOVAに近い。そのため、音響も劇場だけでなく家庭用のホームシアターでも楽しめる方向になっている。これは音響監督の岩浪美和さんに以前インタビューしたときにも同様の話を聞いているし、実際、自宅で劇場版と最終章を見ていると、そうした音響の違いがよくわかる。

劇場版では爆発音や砲撃音に残響がたっぷりと含まれていて、きちんと再生ができればかなりのスケール感と迫力がある(だが、多くの場合近所迷惑になる)。対して最終章は、爆発も砲撃も立ち上がりの素早さ、出音の勢いを重視したものになっていて、残響は短め。アタック(最初に耳に届く音)がそれなりに大きいと、人間の耳はそれだけで十分に大音量と感じるようで、残響が少なくてもあまり物足りなさは感じないそうだ。つまり、その場所に適した音量で十分に爆音の感じが得られるので、絶対的な大音量を必要としない。そして、残響を抑えているので、個々の音の再現性が高まっている。細かい音が残響で埋もれにくいためだ。

そのメリットを活かすため、ひとつひとつの音の定位を明瞭にし、音の配置や移動にも工夫している。このあたりは、Atmosのオブジェクトオーディオで、音の定位や移動を精密にコントロールできるようになったため、その成果が5.1ch音声にも現れているとも言える。要するに、最終章は家庭のサラウンド環境で、その面白さが存分に味わえる音響になっているというわけだ。

筆者自身、この音響をステレオ再生で楽しむのは、かなりもったいないと感じている。というか、せっかくセリフも含めたいろいろな音を、サラウンドスピーカーまで駆使して臨場感豊かに再現しているのに、それらがユーザーに伝わらないのは、作り手に申し訳ないような気持ちになる。

ガールズ&パンツァー 最終章 第2話 Blu-ray
(C)GIRLS und PANZER Finale Projekt

まずは肝心なスピーカー選びからスタート

ではさっそくスピーカーとサブウーファー、AVアンプの選定からはじめよう。今回も、手の届く予算内に収めること、一般的な家庭で迷惑にならない音量にすること、といった基本的な方向性は変わらない。センタースピーカーを使わない4.1ch構成というのも同じだ。スタート時の予算をなるべく安く抑えること、10畳以下のスペースならばセンタースピーカーは必須ではないという持論から決めているが、もちろん、センタースピーカーがあると特にセリフの再現性が高まるし、狭いスペースでも効果はきちんとあるので、後々のグレードアップとして検討するといいだろう。

まずはスピーカーだが、最近は比較的安価なモデルでもなかなか素性の良いモデルが数多くあり、選択肢は広い。というのも、コンピュータシミュレーションによる音響解析がかなり進歩したため。設計段階でシミュレーションによる音響解析ができるので、膨大な試作をする必要が減りコストが削減できるのだ。あまりシミュレーションに頼り過ぎると、スピーカーとしての音の個性が薄れてしまう問題もあるが(昭和期の日本のスピーカーのように、特性は良いがつまらない音がするものが増える)、あまりコストをかけられない低価格なスピーカーでも設計通りの音響特性を実現できるというのは、大きなメリットだ。

というわけで、現代のスピーカーは安価なものでも平均点は高く、価格対性能比ではなかなか優れたモデルが多い。だから、スピーカー選びで慎重になる必要は無いし、ここで紹介するスピーカーを選ぶのではなく自分が気に入ったスピーカーを選んだとしてもまったく問題はない(自分の好みの音かどうか、事前に試聴して確かめた方がいいのは昔と変わらない)。

今回選んだスピーカーとサブウーファー、AVアンプ。左から、モニターオーディオのMonitor 50が4本、サブウーファーは同じくモニターオーディオのモニターMRW-10、AVアンプはデノンのAVR-X1600Hだ

今回選んだのは、モニターオーディオの新しいエントリーモデルであるMonitorシリーズ。その中でもっともコンパクトな「Monitor 50」(ペア3万3,000円)だ。選択した一番の理由はデザインの良さ。本格的なオーディオ用スピーカーとしては珍しい正六面体のキューブ型。ホワイトとブラック、ウォールナット(木目)の3色のカラバリがあるが、ウーファーは鮮やかなオレンジで、黒いカバーの着いたツイーターも周囲にオレンジの縁取りがついている。モニターオーディオということで音質的にも信頼できるし、この見た目の良さがすっかり気に入った。

「Monitor 50」のウォールナット

筆者は自分で購入する製品でも、見た目で選ぶことが少なくない。これを見倣う必要はまったくないが、自分の目でこれだと決めた製品ならば、案外失敗は少ない。カッコよく言うと「たたずまい」が美しいスピーカーはたいがい音もいい(根拠なし)。やはりホームシアターだけに、生活スペースとの調和も重要な要素だ。

Monitor 50についても詳しく紹介しておこう。モニターオーディオは、超高級なハイエンドモデルを頂点に幅広いラインアップを展開している英国のスピーカーメーカーだ。モニターシリーズはエントリークラスのシリーズながらも、上級機種の設計技術を継承することで、優れた実力を備えている。もっとも小さなMonitor 50は、ツイーターは、アルミ・マグネシウム合金の表面をセラミック処理した「Black C-CAM(Ceramic-corted Aluminium Magnesium) Dome Tweeter」を採用。ウーファーは、口径140mmのMMP II(Metal Matrix Polymer)ドライバーだ。特徴的なオレンジのカラーは、新たに開発された表面処理によるもので、ハイスピードで自然なサウンドに仕上げているとのこと。

前面と側面。エンクロージャーの寸法は1辺が206mmの正六面体。コンパクトな形状もあって、なかなか可愛らしい外観だ
側面と背面。背面にはバナナプラグ対応スピーカー端子と、バスレフポートがある。このほか、上部に壁などに取り付けるための金具を接続できるネジ穴もある

続いてはサブウーファー。こちらもMonitorシリーズのサブウーファーである「MRW-10」(6万8,000円)とした。同じシリーズで揃えたのは、音質的なつながりの良さを狙ったものだ。サブウーファーも音響解析やシミュレーションで設計通りの音に仕上げやすくなっているが、なによりも最近注目されることが多い、ハイスピードな低音を実現できることもポイント。ウーファーは、25cm口径のMMP II long throwドライバーで、これを100WのクラスDパワーアンプで駆動する。また、DSPによるデジタル制御も行っており、音質を3つ(インパクト/ミュージック/ムービー)から選ぶことが可能。もちろん、カットオフ周波数の調整(50Hz~120Hz 24dB/oct)、ボリューム調整、位相切り替え(正相/逆相)が可能。音声信号が入力されないと自動で電源が落ちるオートモードも備えている。

なお、Monitorシリーズは、このほかにトールボーイ型のモデルやセンタースピーカーもラインアップされているので、4.1chではなく、センターを加えた5.1ch構成にするなど、よりグレードアップすることも可能。カラーはいずれもホワイト/ブラック/ウォールナットが選べるので、部屋に合わせて色を統一できる。部屋を暗くするホームシアターではブラックがおすすめだが、明るいリビングならばホワイトはインテリアともマッチするし、ウォールナットの落ち着いた木目もなかなかいい。

MRW-10の正面。25cmのウーファーを配置している。こちらもエンクロージャーは一辺が320mmの正六面体
側面。左右の側面、天面ともフラットなデザインだ
底面。四隅にゴム製の脚部が備わっており、床に直接配置できる
背面。電源コネクターのほか、入力端子(LFE、L/R)などがある。バスレフポートは縦に長い楕円形の形状だ
背面の接続端子や各種スイッチの拡大写真。カットオフ周波数や音量調整のほか、低音の音質調整、位相切り替え、オートモードの切り替えスイッチなどもある

AVアンプは、音質の良さでデノン「AVR-X1600H」を選択

AVアンプは、デノン「AVR-X1600H」(実売約4万8,920円前後)とした。選択の理由は音質の良さ。各社ともこのクラスのAVアンプはコストパフォーマンスが高く、音質も思った以上に優秀だが、なかでもデノンはアンプとしての本質的な音の良さにこだわり、上位モデルの技術や高音質パーツをぜいたくに使用していることが大きな理由だろう。特に、13chのパワーアンプを内蔵したモンスター級の最上位モデル「AVC-X8500H」の登場以降、音質的にもさらに一歩前進した印象で、「AVR-X1600H」も、そんなX8500Hの設計思想や音作りを継承したモデルである。

パワーアンプは7chで、Dolby AtmosやDTS:Xにも対応。ディスクリート設計のパワーアンプは、出力時のパワートランジスタのアイドリング電流量を増やすことで、高調波歪みを低減。特に小音量再生時の高域の再現性を向上したという。これはうれしいポイント。このほか、大容量の電源コンデンサーはカスタム仕様のパーツを使用。電源部はアナログ部とデジタル部でそれぞれ別系統とし、デジタル回路部の電源部はスイッチング電源を使用するものの、スイッチング周波数を約3倍に高めることでスイッチング電源が発するノイズを可聴帯域外へシフトし、音質への影響を排除している。このように、安価なモデルながらも音質にこだわった作りとしている。

ネットワーク部は独自のHEOSを搭載し、各種のストリーミング音楽サービスやインターネットラジオ、家庭内ネットワークにあるNASに保存した音楽ファイルの再生などが可能。Wi-Fiも内蔵し、AirPlay 2やBluetoothにも対応する。そして、いち早くAmazon Music HDにも対応。Amazon Alexaとの連携で音声による操作も可能と、機能性という点では最新鋭となっている。

AVR-X1600Hの前面写真。デザインは上級モデルと同様のものだが、中央のシーリングパネルはなく、ヘッドホン出力端子や音場測定用のマイク入力、HDMI入力、USB端子が露出している
背面。安価なモデルながらも、フォノ入力端子を備える。HDMI端子は入力5系統・出力1系統。スピーカー端子は下部に一列に配列され、色分けもされている

セッティングでは正しく距離を揃えること、“きちんと設置すること”が重要

セッティングでは、まずはオーソドックスな配置とした。また今回はスピーカー設置のためのスタンドもお借りした。フランスのNorStoneというブランドで、スマートで美しいデザインのAVラックやスピーカースタンドをラインアップしている。今回使っているのは、STYLUM3というスタンド(ペア3万8,000円)。小型スピーカーは本棚などを利用して設置してもいいのだが、音質やただずまいの美しさを求めるならば、きちんとスピーカースタンドに置いて使いたい。スピーカーが4本もあるので予算は増えてしまうが、小型スピーカーを使うならぜひとも検討してほしい。

スピーカーの設置では、スピーカースタンドまたは、強度の高いラックなどに設置する。高さの目安はツイーターが耳の位置あたりになるようにするのが基本。スピーカースタンドを使う場合は、ガタつきのないようにしっかりと設置することが重要。設置場所に置いた状態で、上面のスピーカーを置く部分の四隅を軽く押してガタつきがないように確認する。少しでも浮いている部分があれば、スペーサー(厚紙やコイン、インシュレーター等)を床との間に挟んで四隅がきちんと床に接地していることを確認しよう。

今回使ったスピーカースタンドのSTYLUM3は、比較的安価ながらも、床面側の底板とスピーカーを置く天板側の両方にスパイクが付属しているので、スパイクでの設置を行なった。スパイクを使う場合もネジ込む量でスパイクの長さを調整できるので、4つのスパイクがきちんと床に接地するように調整する。このスパイクは尖っているので作業中にケガをしないように注意。付属品としてスパイク受けもあるので、床やスピーカーを傷つけるのを避ける場合に使用する。

スピーカーとの設置もまずはスパイクで行なった。こちらもきちんとスパイクの長さを調整し、スタンドとスピーカーの四隅がきちんと接し、ガタつきがないように確認しよう。

この状態で、スタンドに乗ったスピーカーを視聴位置やいろいろな場所から見てみよう。メーカーのカタログ写真のように、姿勢正しく置かれているだろうか? なんとなく不自然な感じがするとか、思ったよりもカッコよくないと思う場合は設置の仕方がおかしい。ガタつきがあれば不安定な立ち姿に見えるし、傾いていれば歪んで見える。人間の目はよくできていて、そういう微妙な違いに誰でも気付く。

改善するには、水準器を使う。水準器とは地面に対して水平かどうかチェックするもの。スマホ用アプリとしても入手できるし、カメラ店に行くと大型の視認性に優れたものもあるので、入手しておくとよい。設置したスピーカーの上に水準器を置いてきちんと水平がとれているかどうを確認してみよう。あまり神経質になる必要はないが、傾いた状態でスピーカーが設置されているとすれば、音の定位に影響があるし、スピーカーは振動板が高速で動くものなので、最悪振動でずれてしまい落下する危険もある。こうした水平の調整も、スパイクの高さの調整やスペーサーの使用で行なう。

おそらく、多くの人が面倒だと感じるだろう。しかし、オーディオの記事や解説書などで、“スピーカーをきちんと設置する”と書かれた場合、最低でもこれだけの調整を行なうことを意味していると考えていい。スピーカーは機械なので、いいかげんに設置すればいいかげんに動作する。スピーカーは楽器と同じという言い方をすることがあるが、決してロマンチックなフレーズではなく、正しい設置・調整(調律)を必要とするもの、という意味でもある。後でAVアンプによる電気的な補正も行なうが、根本的な原因である“いいかげんな動作”を解決できるものではなく、電気的な補正もいいかげんな結果になる。まずはあくまでも人力で丁寧に設置・調整を行なおう。

スピーカーの距離は1.89mとし、4台とも同じ距離に揃えている。部屋に常設のスピーカーがあるため、前方の2本は30度よりもやや狭い角度になっている。後方の2本は130度前後としている。もちろん左右対称だ。リビングなどでスピーカーを置く場合はなかなか理想的な設置場所を確保することは難しいが、厳密に角度を合わせることは無理でも、見た目に不自然さのない配置になることは意識したい。前方の2つのスピーカーも中央の薄型テレビの両側にスピーカーが姿勢正しく立った様子が自然に感じられることが肝心だ。

後方のサラウンドスピーカーを設置した状態。常設しているスピーカーと比べるとそのコンパクトさがわかるだろう

サブウーファーについては、ゴム製の脚部が備わっているので、まずは床面にそのまま設置した。設置位置は小型のサブウーファーということもあり、壁の反射を利用して低音感を稼ぐため壁際に設置した。接続する端子はLFEとし、クロスオーバー周波数の設定はAVアンプに任せている。音量はひとまずは半分よりもやや大きめ(時計の針で2時の位置)とした。このあたりは、後で本編の音を聴きながら調整していく。

ここまで出来たら、AVアンプの自動音場補正を行なう。デノンのAVアンプに限らないが、現行モデルはほとんどがセットアップをガイドする機能を持つモデルが多く、初心者でもきちんと設定できる。特にデノンのセットアップアシスタントは、スピーカーだけでなく、ネットワーク設定やテレビとの接続設定、モバイルアプリの設定など一通りの設定がガイドに従って行なえるので、非常に使いやすい。また、スピーカー端子も系統ごとに色分けされており、ケーブルに貼る識別用のラベルも付属する。これがなかなか重宝する。

AVR-X1600Hのセットアップアシスタントの画面。項目ごとにセットアップをすることもできるし、すべての設定をまとめて行なうこともできる。イラストが多用され作業をわかりやすく解説している
自動音場補正機能「Audysseyセットアップ」の画面。画面の指示通りに作業を行ない、完了したら「次へ」を選択する
測定が完了した後の、測定結果の確認画面。写真はスピーカー構成の画面。このほか、スピーカーの距離や音量などの測定値を確認できる

自動音場補正が終了したら、測定結果の画面でまずはスピーカーの距離を確認しよう。各スピーカーの距離が違っていたら、スピーカーの配置を調整する。位置を動かして、“きちんと設置する”。再度測定し、距離を確認する。厳密に実測距離と測定距離が一致するまで調整を繰り返すかどうかは、本人の熱意や愛情次第。少なくとも、フロントとサラウンドの左右のスピーカーの測定距離が一致するまでは調整しよう。おおげさな話と受け取ってもらって結構だが、メーカーやホームシアター施工を行う業者がスピーカーセッティングをする場合、レーザー測定を行って1mm単位以下の精度で距離を合わせるのが一般的だ。

各チャンネルの音量などは基本的には測定値のままでいい。たいてい部屋の形状による反射音の影響で左右の音量が1dBや0.5dBというごくわずかなずれが生じることはある。3dB以上大きな差になる場合は壁からの距離や部屋の環境(左側の壁は窓で、右側はふすまなど)の影響が考えられるので、窓にカーテンを敷く、ふすまに音響ボードを配するといったルームアコースティックの調整を検討しよう。あるいはガルパン本編の音を聴いて左右の空間の広がりに不自然に感じたら調整しよう。こうしたスピーカーの音量や距離、クロスオーバー周波数などは後から手動で調整できる。

セットアップメニュー。音質関連の調整は「オーディオ」、スピーカーの構成や音量・距離などは「スピーカー」の項目で調整できる
オーディオ項目の設定メニュー。視聴中にもオーバーレイ表示が可能なので、実際に絵と音を見ながら調整が可能だ
Audysseyの項目の設定メニュー。周波数特性を補正する「MultEQ XT」、音量による周波数特性の変化を補正する「Dynamic EQ」、ダイナミックレンジの広さを調整する「Dynamic Volume」を調整する。小音量再生では、かなり役立つ機能だ
スピーカー項目の設定メニュー。手動で調整をする場合は、下の「マニュアルセットアップ」を選ぶ
スピーカー構成の画面。測定結果のままでなく、「小」と判定されたスピーカーを「大」として使うことも可能。音は当然変わるので、試してみよう
スピーカー距離の画面。接続されていないスピーカーの数値も表示されているが、初期値が表示されているだけで調整はできない。サブウーファーの距離が長いのは、壁際に置いたため
スピーカー音量の画面。フロントスピーカーは測定値は左右とも-3.0dBだったが、後に-1.0dBに調整している
クロスオーバー周波数の画面。「スピーカーの選択方法」では、各スピーカーごとの調整のほかすべてまとめて調整することもできる。測定値は100Hzだったが、80Hzに調整した
低音の調整画面。サブウーファーをLFEチャンネルのみ鳴らすか、フロントの音とLFEを一緒に出すかを選べる。LFE用のローパスフィルター(クロスオーバー周波数)も選べる

さっそく上映開始。なかなか良好だが、なにかもうひとつ物足りない

設置や調整が一通り完了したので、まずは上映開始。Monitor 50の音は小型ながら低音感もなかなかしっかりとしていて、しかも量感を重視した弛んだ低音にならず、よく弾む。低音はやや盛り上がったバランスになっており、少し中低音でピークを感じたが、小型スピーカーではこうしないと、パワー感やエネルギー感の足りない痩せた音になってしまうので仕方のないところ。付属品として背面のバスレフポートに使うウレタン製のプラグがあり、低音感の調整ができるので好みに応じて使うといい。

(C)GIRLS und PANZER Finale Projekt
(C)GIRLS und PANZER Finale Projekt

特筆したいのは、定位の明瞭さ。4つのスピーカーを統一しているので、前後左右のサラウンド感も極めて優秀。ガルパン最終章第2話を見ると、オープニング直後のシーンで、BC自由学園の戦車隊が後方から現れて画面の前方へと進んでいくが、音は映像より早く真後ろから戦車の走行音が鳴り始め、視聴位置まで音が迫ったところで映像に戦車が姿を現す。そして音はフロント側へと移動するが、画面の中央にいる戦車の走行音だけでなく、左右にいる他の戦車の走行音が周囲から聴こえてくる。

“この映画はサラウンド音響ですよ”とアピールするかのような導入だ。この移動感と自分が戦車隊の中に居て一緒に進軍している感じが実になまなましく再現された。細かな音の再現もきめ細やかで音数が非常に多い。ガルパン最終章は、画面に見えている人や戦車などの音は前方スピーカーで鳴らし、画面外の音はサラウンドスピーカーを使って再現するのが基本的なサウンドデザインだ。そのため、進軍する戦車隊の真ん中にいるような感じが味わえるのだが、きちんと設置・調整されたサラウンドシステムならば、自分の左右に戦車がいて、後方に何台の戦車が続いているのかがわかるような再現になる。これをきちんと再現できたのは見事だ。まさしく「ガルパン最終章」のためのサラウンド再生であり、こうした音響デザインはガルパンに限らず、ハリウッド映画などでもよく使われる最先端の音響デザインである。つまり、まさに2020年版の高密度ホームシアターとしての必要な要素を備えていることが確認できた。

このサラウンド感や空間再現をしっかりとできることが、「ガルパン最終章 第2話」にとってはかなり重要だ。例えば、BC自由学園の面々が進軍しながら会話する場面では、隊長のマリーの両脇に押田と安藤がいるが、左チャンネルから押田の声、中央からはマリーの声、右から安藤の声が聞こえるように配置されている。しかし、押田や安藤ひとりを映したカットでは、その声は中央から聞こえる。このようにカットごとに声の配置を切り替えて、映像にぴたりと合った音になっているのがわかる。声はいつでもセンタースピーカーから聴こえるというのは、もはや古いサウンドデザインだ。

そして、BS自由学園との対戦後、西住みほは島田愛里寿とボコミュージアムで再会。「スターボコーズ」に乗る場面が描かれるが、ライド型のアトラクションの様子を一人称で描いている。このときの音の配置が凄い。ボコ型の乗り物に乗っているので、その足音が四方から聞こえる。画面に現れた3匹の動物の声は前、ボコの声は視聴位置付近から聴こえる。これが三人称視点のリプレイ画面になると、3匹の動物とボコの声は前、声援をおくる西住みほと島田愛里寿の声は後ろ(中央寄り)となる。このように声の配置がかなり巧みになっており、一人称視点ではVRゴーグルで見ているような主観的な音の配置になっている。まさしく西住みほと島田愛里寿が聞いているのと同じ音が表現されており、作品への没入度を高めている。この感じはステレオ再生はもちろん、バーチャルサラウンドでも再現しにくいものだ。後ろにスピーカーがあることの意味を実感させてくれる場面だ。

また、後半の知波単学園との密林戦では、ジャングルらしい獣や鳥の鳴き声が広々と周囲に広がる。声の配置が巧みなのはもちろん、車内と車外で音の響きも違う。こうした細かな工夫で臨場感を高めており、情報量の豊かなスピーカーだと、その場面の雰囲気がよく伝わってくる。

このようなサラウンド空間の再現は見事なもの。Monitor 50のクリアーで粒立ちの良い鳴り方はもちろんだし、AVアンプのAVR-X1600Hの濁りのない明瞭な音も優秀。情報量豊かな音やS/Nの良さがもたらす空間の広々とした再現は、AVアンプの優秀さがよくわかる。そして、サブウーファーのモニターMRW-10が素晴らしい。予算的にはやや高めなのだが、その甲斐あって低音の質はかなりのレベル。壁際に置いて低音感を増していることもあって低音の力強さは十分だし、なによりもスピードの速い低音が出て、もたついた感じや残響で中音域が不明瞭になることもない。低音の情報量と量感の絶妙なバランスの良さは見事なものだ。

このように、基本的にはなかなか良好な音になっているのだが、今ひとつピンとこない。音量としては、いつも聴いている音量がAVR-X1600Hのボリューム位置で-10dBとすれば、試聴では-30dBで聴いているので、小音量のための物足りなさとも思ったが、音量を上げてみても不満が解消されるわけではない。まず感じるのはセリフに力がないこと。定位は明瞭なのに音像の厚みが足りないというか、エネルギー不足に感じる。これはセンタースピーカーのない4.1チャンネル再生のせいもあるだろう。音楽や効果音にしても、低音自体はきちんと出ていて情報量もあるのに、やや細身で響きが不足したようなドライな感じになる。

ガルパンの戦車戦では、戦車の砲撃音などがバンバン鳴って、会話のやり取りや音楽も重なった音数がいっぱいの場面が印象的だが、それらはクライマックスだけで、意外とセリフも音楽もなしで、戦車の走行音と砲撃音だけで構成する場面が少なくない。第2話はそういう演出が増えているようにも思う。そういう爆音だが静かなシーンが、静かではなく寂しく感じてしまうのだ。

どうにも原因がわからず、頭を抱えた。前述したようにスピーカーもサブウーファーもAVアンプもその実力は優秀だ。小型スピーカーだし、決して高価な製品ではないので、ふだんの常設しているスピーカー群に迫る音を求めても届かないのは当たり前だ。しかし、「予算的にも音量的にもこの程度で十分だよね」と妥協するわけにはいかない。作品にも失礼だし、お借りしている製品に対しても無礼の極みだ。

AVアンプの音質調整機能を駆使して、求める音を追求していく

原因不明ではあるが、とにかくいろいろと音質チューニングのトライをしてみることにした。まずはAVアンプの音質調整だ。まずは、チャンネル間の音量のバランスを見直した。セリフに力が無い原因として、音量不足が考えられるが、サラウンドスピーカーから聞こえる後方や左右からの声が前方から聞こえる声よりも明らかに音量が大きいことに気付いた。

これがよくわかる場面がある。カモさんチームのルノーB1 bisの砲塔部分がBC自由学園の使うソミュアS35とそっくりなことを利用して仲間割れを狙う作戦で、その結果BC自由学園のエスカレーター組と外部生組が敵対してしまったところを、隊長のマリーが止めに入る場面だ。冷静に撃破したソミュアS35の数と残存する数を数えると、謎の車両に翻弄されていたことが明らかになる。それを指摘したマリーは、安藤の乗るARL44の砲塔を渡って、自分の乗るルノーFTに戻る。そのときのセリフが「あの謎の敵を追うわよ!」。このセリフ、左のほぼ真横からはじまって、マリーの移動とともにフロント左からセンターへと移動する。サラウンド左→フロント左→センターへと、ひとつづきのセリフがシームレスに移動するのである。

サラウンドシステムの実力を試すような、ガルパン最終章は音響チェックディスクかと思うようなセリフである。当然、チャンネルのつながりが悪いとスピーカーとスピーカーの間を声が瞬間移動する。スムーズな音の移動ができないわけだ。さすがはすべて同じMonitor 50なので、こうしたスムーズな音の移動は問題がなかった。しかし、やはりフロントスピーカーの音量が小さく、声が前方に回ると音量が下がってしまうのがはっきりわかった。というわけで、フロントの音量を左右とも2.0dBほど大きくした。これでセリフの音量が変化せず、スムーズに移動するようになった。結果として、フロント側の音量が大きくなったこともあり、セリフも少しだけ力が出てきた。

(C)GIRLS und PANZER Finale Projekt
(C)GIRLS und PANZER Finale Projekt

続いては、ダイナミックレンジの調整と、音量による耳の周波数特性の変化に合わせた最適化だ。どちらも小音量再生では有効な調整で、各社で名称は異なるが多くのAVアンプでもこれらを調整する機能が盛り込まれている。デノンの場合は、「Audyssey Dynamic EQ」と「Audyssey Dynamic Volume」だ。これらの調整を本編を見ながら調整してみた。

これらの調整は、AVアンプのオンスクリーン画面を映像に重ねて表示することもできるのだが、より手軽な方法として、スマホアプリの「DENON 2016 AVR Remote」を使う方法がある。いわゆるスマホを使ったリモコンアプリだ。設定などの操作をスマホ画面で行うことができるほか、音楽配信サービスなどのネット機能の選曲なども行えるので、便利に使える。

「DENON 2016 AVR Remote」の操作画面。入力切り替えや音量などの各種操作のほか、設定なども手元で行える
「DENON 2016 AVR Remote」で、設定メニューを表示した状態。オンスクリーン表示と同じ項目が並んでいる

このアプリから、AVR-X1600Hの設定メニューを表示し、「オーディオ」の項目を選ぶと、音質に関わる調整項目が現れる。ここで行なうのは、「Audyssey」の項目だ。「MultiEQ XT」は自動音場補正で測定した特性に合わせた周波数特性の補正を行うもの。推奨値である「Reference」のほか、フロントチャンネルの補正を行わず、他のチャンネルもフロントスピーカーの特性に合わせる「L/R Bypass」、各チャンネルごとにフラットな特性にする「Flat」、周波数特性を補正しない「オフ」が選べる。一通り聴いてみてが、ここは推奨値の「Reference」が一番好ましかった。

続いては、「Dynamic EQ」。これは、Audysseyで測定したデータを基にして、音量の変化に合わせて周波数特性を人間の耳の聴感特性に合わせて最適化する機能。小音量再生ではこれをオンにするのがおすすめ。低音感がより力強くなるし、空間再現もより明瞭になる。ややメリハリが強まった印象もあるので、比較的大きな音量で再生するときはオフの方が自然な音に感じる。好みで使い分けよう。

そして、「Dynamic Volume」は、ダイナミックレンジを調整する機能。特に小音量時に小さな音を聴きやすくし、逆に大きな音が大きすぎてうるさくならないようにする機能だ。これは、オフのほか、Light、Medium、Heavyの3つがあり、Heavyがもっともダイナミックレンジが狭くなり、平均的な音量感が高くなる。これも一通り試したが、Lightでは小さな音が盛り上がったように感じるが、MediumやHeavyとなると大きな音量のピークを制限してしまう感じになるので、戦車の砲撃音のアタックが弱まってしまう。これはさすがにダイナミックレンジが狭くなりすぎだ。実際の再生音量に大きく影響される機能なので、自分の好みで選んでいいが、ここでは「Light」を選択。これで、セリフの音量感も相対的に大きくなり、セリフの力感だけでなく、音像の厚みも出てきた。

「DENON 2016 AVR Remote」の「オーディオ」の項目。ここに「Audyssey」の項目がある
「Audissey」の項目。「MultiEQ XT」、「Dynamic EQ」、「Dynamic Volume」の3つの調整機能がある
「MulitiEQ XT」の設定画面。オフのほか、3つの補正カーブを選択できる
「Dynamic Volume」の設定画面。オフ/Light/Medium/Heavyの3つがある。MediumやHeavyはかなり効果が強いので、極めて音量を小さくしたときに使うのがおすすめ

これらの調整で、それなりにセリフの力強さは出てきた。微小な音がより明瞭になったので、それぞれの音の定位はいいが、個々の音がポツンと鳴っているいるようなドライな感じも収まってきている。当然ながらこれらによって、声の再現性が豊かになっただけでなく、音楽も生き生きと鳴るし、なにより空間の豊かな響きが出てきた。音楽も前方を中心に広々と広がる。

BC自由学園との戦いではボカージュと形容される田園地帯が戦いの舞台となるが、戦車は耕地を仕切るように植えられた畦畔林を瑠弾で破壊して進撃する。この時の爆発音は、瓦礫や樹木が周囲に飛び散り、爆風にさらされた樹木のガサガサという音などが周囲に入り交じる。IV号戦車が前方の畦畔林を切り拓くときが一番わかりやすく、目の前で爆弾が破裂したような爆風にさらされる感じになる。このあたりの細々とした音が四方に飛び散る感じもますます生々しいものになる。

ずいぶんと良くなってきた。しかしまだ何か足りない。ちょっとわかってきたのは、Monitor 50が解像感の高い音の傾向で、低域もサイズのわりにはよく伸びるがタイトな感触だということ。定位の良さが災いして、個々の音が溶け合って調和する感じがやや足りない傾向がある。これ自体は決して悪いことではないし、最近の小型スピーカー共通の傾向でもある。ここに大型スピーカーのような雄大な鳴り方を求めると、解像感の高さや音の定位の良さが消えてしまう。特に今回の大きなテーマは、最近のサラウンド音声の映画のトレンドでもある、音の定位を緻密にコントロールした音作りを正確かつ鮮明に描くことなので、スピーカー選択自体は間違っていない。ペアで3万円のスピーカーに要求するレベルが高すぎると言えばそれまでだが、筆者が満足できない音のまま紹介することはできない。

なにより、緻密で情報量豊かな音はステレオ再生でも空間や奥行きの表現ができるが、極端になると細身で痩せた音になりかねない。そのような音は多くの人にとって魅力的ではない。「弦の音色の艶や響きの余韻、これらが明瞭に聴こえることこそ現代のハイエンドオーディオが求める音なのだよ。この良さがわからないのは、あなたのオーディオの経験が足りないんだね」などと嘯いて、誤魔化してしまえばオーディオに魅力を感じる人がますます減ってしまう。これは絶対に避けたい。

もうひとつの手法として、マニュアルで周波数特性の補正を行う方法があるので試してみた。前述した「Audyssey」の「MutiEQ XT」をオフにすると、周波数補正をマニュアルで行えるようになる。これは、9つに分割された周波数のレベルを好みで調整して、自分の好みの音にすることができる。いわゆるグラフィックイコライザーだ。補正ゼロの状態から調整することもできるが、「Audyssey」の測定したデータの「Flat」の補正カーブをコピーすることもできるので、それを元にして調整する方がやりやすい。

「オーディオ項目」にある「マニュアルEQ」の画面。9バンドのグラフィックイコライザー機能だ
「マニュアルEQ」で、「Audyssey Flat」の補正カーブをコピーすることも可能
「マニュアルEQ」の調整では、フロント、サラウンドの左右をまとめて調整するほか、4本を個別に調整することも可能だ

結果から言うと、「Audyssey」の「MultiEQ XT」の補正の方がトータルのバランスに優れた音になっていたので、「マニュアルEQ」の調整は使わないことにした。声の厚みを出すとか、もう少し力強い音にすることができるのだが、空間表現や情報量の豊かさが少々失われてしまうのだ。だが、これでわかったのは、部屋の音響特性も含めた周波数特性の補正で解決できるものではなく、根本的なところから見直す必要があるということだ。

基本に立ち戻って、スピーカーの設置をやり直す

よろしい、ではセッティングの見直しだ。序盤のスピーカーの設置・調整で多くの人が面倒だと感じているとは思うので、それをまたやり直すというと、うんざりする人がほとんどだろう。だが、オーディオやAVに魂を売り渡した人の日常は、だいたいこんなものだ。隙あらばスピーカーセッティングの見直しをしていると言っていい。時間はかかるが、お金をかけずに手持ちのスピーカーの音が変わるのだ。こんな面白いことをしない方が不思議だ。

まあ、買ってきた初日に基本的なセッティングをし、その日のうちにセッティングを見直すというのはド変態に近いマニアのすることなので、真似する必要はない。筆者はド変態でもあるが、30年近くこういう仕事をしているので慣れているだけだ。ふつうは数日そのまま聴いて、気になった部分や不自然さが出て来たらセッティングを見直せばいい。とはいえ、取材機を借りている都合上あまり時間をかけてはいられないので、物足りなさを感じたらすぐにセッティングを見直す。記事で同じ事を繰り返す意味はないので省くが、いわゆる“きちんとした設置・調整”はスピーカーを動かすたびにやり直している。

まず試したのは、左右のスピーカーの入れ替え。勘の良い人は気付いていると思うが、Monitor 50は左右でツイーターの配置が異なっている。最近のスピーカーは左右がまったく同じものが多いが、これは左右が別だと生産に手間がかかるため(組み立てはもちろん、商品の管理の手間もかかる)。キューブ型のデザインのためだとは思うが、わざわざコストをかけて左右のユニット配置をそれぞれ変えているのはコストを考えると勇気のある判断だ。

Monitor 50を左右のペアごとに配置を逆にして置いたところ。ツイーターが内側に来る置き方と、外側に来る置き方の2つが選べる

製品のカタログの写真などを見ると、メーカー的には左右のペアを並べたときにツイーターが外側に来る置き方を推奨しているようだ。ただし、スピーカーに明確な左右の区別はなく、マニュアルを見てもそのような説明はない。左右を逆にしてもスピーカーが壊れるようなことはないので、ユーザーが自由に選んでいいだろう。

ここまでの設置では、カタログの写真どおりにツイーターが外側に来る置き方にしていた。これのメリットはツイーターが外側になるので、より左右の音の広がり感が増すこと。小型スピーカーということもあり、より近接した距離に置いて使う人も少なくないだろう。その場合は、指向性の強いツイーターを外側にした方がスピーカーの間隔も広がるので、ステレオ感が広くなる。カタログ写真の配置はそういう意図だと思われる。

逆に内側にすると、スピーカーの距離が狭くなるので、左右の広がり感は減る。そのぶん、音が凝縮されて密度感が出る。特に4.0ch再生でセンターレスの構成の場合、左右の2本の音を合成して再生するセンターチャンネルの音の密度が上がる。

最初の設置のときにやれば良かったのに、と感じる人も多いくらい基本的な話だ。実は最初から気になっていたのだが、メーカー推奨の置き方と思われるカタログ写真に合わせる人が多いはずだし、説明なしで「この記事、スピーカーの置き方が逆だよね?」と思われるのも困るので、最初はメーカー推奨と思われる設置にしてみた。実際、どのくらい変わるかを確かめてみたかったこともある。

この左右の入れ替えは、スピーカーの間隔や視聴距離とも関わるので、ユーザーは実際に部屋に置いてから試してみると楽しい。個人的な感覚では1.5mを下回る近接距離ならば、ツイーターは外側がおすすめ。それより広いならば、好みに応じてツイーターを内側とする置き方も試してみるといいだろう。

変えてみると、これが思った以上に変わる。ツイーターの指向性は狭いと言っても、エンクロージャーが横幅20cmちょっとだから、左右のツイーターの距離としてはプラスマイナス10cmの差だ。それでも、懸案だったセンターチャンネルの音、つまり声の再現性はかなり違った。Monitor 50のツイーターとウーファーのクロスオーバー周波数は2.8kHzだから、声の成分の大部分はウーファーから出ており、その意味ではウーファーの距離は多少広くなっているので、セリフの密度感が高まるという理屈とは合わないようにも思う。だが、ガルパンでは女性キャラクターがほとんどで、女性の声は2.8kHzを超える成分もかなり含まれるし、高音にキャラクターが表れるせいもあり、ツイーターの間隔を狭くした方が、声の密度が高まった感じになったのだろう。わずかな差だが、ツイーターと視聴位置の距離が短くなったことも影響していると思う。

なお、後方のサラウンドスピーカーも同じように左右を入れ替えている。この理由は、前述した「スターボコーズ」の場面だけでなく、真後ろから声(音)が出ることが多いため。真後ろの音の密度感を高めるためだ。

こんなことで音が変わるの? と思う人もいるだろう。だが思った以上に変わるからオーディオは楽しいのだ。ただし、変わるのであって、必ず良くなるわけではないということは覚えておいてほしい。悪くなる場合も当然あるのだ。良いか悪いかを決めるのはユーザーの判断次第だ。良し悪しは好みで決める。それが積み重なって、自分だけの音になる。だから、同じスピーカーを使っていても、違うユーザーの違う部屋で同じ音が出ることは絶対にない。これがオーディオの面白さだ。

良し悪しどころか好みで決めるとなると、まったく主観的であり、そんなものは同じ人でもブレる。日によって変わる。それでいいのだ。だから、毎日飽きもせずにセッティングや調整を見直す。繰り返すほどにだんだんとブレが収束していって、いつ聴いても違和感を感じない音に仕上がる。それが自分の好みの音だ。ただし、主観的判断とはいえ何らかの手がかりがないと、いつまで経ってもブレは収束しない。だから、自分がどんな音が好みなのかをいつも考えておくといい。低音なのか、声の再現なのか、音場感なのか。数値化は難しいが、ここでの目標のように「声の厚み、存在感や実体感を高めたい(できれば広々とした音場感や細かな音の再現性はそのままで)」という感じで言語化しておくと、次の調整の手がかりになる。

話を戻すが、スピーカーの位置を入れ替えたことで、センターチャンネルの声の再現は密度が高まってきた。ダイナミックレンジ等の調整もあり、もはや寂しいとかドライな感じもなくなり、これでOKと言えるくらいにはなってきた。だが、まだあと一歩足りない気がする。そこで、再び手当たり次第にまだスピーカーセッティングでまだやっていないことを試すことにした。

試したのは、付属のウレタン製のプラグで背面のバスレフポートを塞いだこと。これ自身は目指していた声の再現性の向上には直接結びつかなかったが、当初から少し気になっていた低音のふくらみを抑えることができた。低音は少々タイトになったが、そのぶん低音の解像感は少し上がったし、そもそも重低音はサブウーファーに任せているので、ここでは中低音域の音の明瞭度が上がることを優先した。

そして、最後に試したのが、スピーカーの下に敷くインシュレーターの交換だ。筆者はスパイク信者なので、スパイクが使えるとあまり深く考えずにスパイク設置を選ぶ傾向がある。ただし、スパイク設置は接触面積が極小となるので、ずれやすい。ちょっとぶつかっただけでスピーカーがスタンドから落下してしまうということもあるし、地震が起きたときも少々心配だ。特にMonitor 50のような小型スピーカーは軽量なので、不安定な設置になりやすい。基本的にはそれなりに重量のあるスピーカー(あるいはオーディオ機器)を点接触でガッチリと固定する発想の設置方法だ。実際のところ、Monitor 50は低音もそれなりにしっかりと出ることもあり、砲撃音など大きな音の出る場面ではビリビリとエンクロージャーが振動していた。振動吸収ならば、リジットなスパイクによる設置(しかもスピーカーが軽量なので効果半減)よりも、ゴム系特殊素材の方が優れているのは自明。

スピーカースタンドのNorStone STYLUM3の天板部。付属のスパイクが装着できるほか、ゴム系素材のインシュレーターも付属しており、2種類の設置を選べる。青いインシュレーターはJ1プロジェクト製

というわけで、手持ちのゴム系インシュレーターのJ1プロジェクトのIDSコンポジット「A50R-J/4P」(2,800円/4個セット)を使った。メーカーの解説によるとアメリカの軍需産業用として開発された複合素材で、特にオーディオの振動制御に優れた素材を選別して使っているという。なにより、小型スピーカーをはじめ、BDプレーヤーやBDレコーダーなどの足下に使うインシュレーターとして、「困ったときはコレ」というくらい頼りにしている愛用品だ。

今回は信頼性で手持ちのインシュレーターを選んでいるが、NorStoneのSTYLUM3は、スパイクだけでなく、柔らかめのゴム系インシュレーターも付属しているので、こちらを使っても良いだろう。J1プロジェクトのIDSコンポジットはゴム系ならばおすすめのものだが、このほか、木材(材質で音が違う。定番は黒壇のような硬いもの)、金属(アルミ、真鍮などいろいろな素材あり。筆者のお気に入りは高価だが鋳鉄)、安価で効果も高い銅のコイン(10円玉)、厚めのフェルト(布)、厚紙、これらの素材をふだんから用意しておくと、きちんとした設置・調整がしやすいだけでなく、音質チューニングもできる。

この状態で「ガルパン最終章 第2話」を再生してみると、ようやく満足できる音になったと感じた。その変化はごくわずかなものだが、非常に大きな差だ。音の粒立ちの良さ、音の分離が良くなって、単に明瞭なだけでなく、個々の音がしっかりと浮かび上がる。インシュレーターで不要な振動を抑えることで、箱泣きによる雑味が減ったのだと思う。ようやくオープニング曲が楽しめる音になった。張りのある生き生きとした声が実体感を持って耳まで伝わる。エネルギッシュな曲調で伴奏もパワフルなため、どうしても声が伴奏に埋もれてしまいがちだったが、歌い手が一歩前に出たかのように、声が立つ。もともとの定位の良さ、情報量の豊かさも一層際立ったように感じた。最初に音を出したときの原因不明の物足りなさが解消されたことで、まさにヴェールを一枚剥がしたような鮮烈な音が現れた。

最後の仕上げ サブウーファーの調整

あとは駄目押しである。サブウーファーの音には最初から満足していて、ほとんど手を付けなかった。行なったのは、Audysseyの測定値が-12dBだったのに対し、少し音量を持ち上げて-8dBとしたくらいだ。だが、Monitor 50の受け持つメインの帯域が良くなると、低音ももう少しがんばって欲しい気になる。サイズ的に仕方がないが、どうしても最低域の伸びはやや物足りないし、音量ではない音のエネルギー感をなんとかしたい。

ということで、サブウーファーの背面を確認。紹介したとおり、低音の音質調整として、スイッチによる切り替えで、インパクト/ムービー/ミュージックの切替ができる。ここまではムービーを使っていたが、取扱説明書を読むと、ムービーは35Hzまで低音が伸びるようだ。これに対し、ミュージックはさらに下の30Hzまでほぼフラットに伸びるが、音圧は2dB下がる。もっとも低音感のあるインパクトは低音の伸びは40Hzまでだが、音圧は3dB上がる。こういう詳しい説明はとてもありがたい。サブウーファーの低音の量感は十分なレベルだったので、もっともタイトな低音で最低域までの伸びもよいミュージックに切り替えた。2dB音圧が下がるのならば、AVアンプの音量調整でサブウーファーの音量を2dB上げればよい。

仕上げとして、付属のゴム製の脚ではなく、手持ちの鋳鉄製スパイクインシュレーターでしっかりと足下を固めた。こちらは重量もあるので、がっしりとスパイクで設置した方が低音の伸びもさらに増す。これで、オープニングのドラムのリズムもより力強く弾むようになり、砲撃音のアタックの力強さも出てきた。もう大満足だ。

余談だが、スピーカー設置の見直しでも、その都度自動音場補正の測定をやり直している。「(1)スピーカーの左右を入れ替え」、「(2)バスレフポートを付属のプラグでふさぐ」、「(3)インシュレーターを変更」。最初の設置時の測定を合わせると、合計で4回だ。回数を自慢したいのではなく、測定するごとに、Audysseyの補正値(Flat)がどんどん平坦になっていったのだ。

音の違いを数値化する方法のひとつとして、マイクで音響測定するものがあるが、AVアンプの自動音場補正の測定値を見れば、補正量から部屋を含めたスピーカーの音響測定が推測できる。Audisseyは有料アプリがあり、そうしたデータ解析やさらにカスタマイズする機能を付加できる。だが、先ほど軽く触れた「マニュアルEQ」機能を呼び出して、Flatの補正データをコピーすると、おおまかな補正量を確認できる。音響調整に使うというより、セッティングの目安として使うならば十分だ。最初のうちはかなりデコボコが大きかったが、調整を見直していくたびに、デコボコが平坦になっていった。あくまでも最終的な判断は自分の耳なのだが、客観的なデータでも特性が良くなっているのが確認できると、選択が間違っていないと安心できる。なにより、耳が疲れて良し悪しが聴き取りにくくなったときに迷路にはまる危険を回避できる。

この補正量を見ると、周波数ごとの特性(の反転値)がわかる。低音の補正量がプラス方向に大きいということは低音が足りないわけだし、逆ならば(部屋の反射の影響などで)低音が過剰になっているというわけだ。こうした数値にこだわりすぎるのもよくないが、音が気に入らないときの原因の特定には役立つ。結果的に補正量が減るということは、電気的な信号への加工も減るわけで、不要な影響も減るので良いことだらけだ。

また、4.1chでのサラウンド感や空間の広さ、特に後方に定位する音の位置が正しく再現できているかを確かめる方法もある。ひとつは、お気に入りの映画館での音の聞こえ方を頼りにするもの。ただし、音量的にもシステムの規模も家庭用とはまるで違うので、あくまでもお手本。忠実に劇場と同じ音を再現しようとすると筆者のように失敗する。

有効なのが、DTS Headphone:Xだ。これはヘッドフォン用のバーチャルサラウンド音声だが、岩浪美和音響監督らがきちんと意図した通りのサラウンド再現になっていることを確認したものなので、自宅で試せる正解のひとつと言えるもの。筆者もセッティングで迷ったらDTS Headphone:Xというくらい聴いている。

「ガールズ&パンツァー最終章 第2話」のトップメニュー。「音声選択」には、5.1ch音声、2ch音声のほか、いつものキャストコメンタリー、ミリタリーコメンタリーがあり、そして、DTS Headphone:Xもある

ヘッドフォン用のバーチャルサラウンドとはいえ、しっかり低音の鳴るヘッドフォンだと、並のサラウンドシステムを超える音が得られる。なにより、もともと左右に1個ずつしかドライバーがないので、各チャンネルの音は完全に同一。音のつながりの良さは、スピーカーによる5.1ch再生よりも有利だ。

反面、センターチャンネルの音は頭内定位になるので、画面に映ったキャラクターの口もとがから声が聞こえる感じにはなりにくいこと。同様に真後ろの音も頭内定位になる。画面に現れていない音なら後ろの音だとわかるので、方向感がわかりにくいわけではないが、真後ろから前方へ移動する音の移動感(冒頭のBC自由学園の戦車隊の進撃場面)。スターボコーズでのボコの声が西住みほらの声と同じ聞こえ方になって混濁しがちになるなど、前後の距離感が得られにくいことがデメリットだ。

こうした違いを理解しておけば、各チャンネルでの左右の音のバランス、移動する音、空間の広さなどはセッティングを見直すときの参考になる。最終章に限らず、ガルパンのBDにはDTS Headphone:Xが特典となっているので、サラウンドシステムのセッティングがとてもしやすいのだ。こういう点も、毎回飽きもせずに長文のレビューを書く理由だ。

お待たせしました。ようやく本番の上映です

すでにふだんよりもかなり長いので余談はなしでいこう。オープニングは、イントロで砲撃にも似たバンッと炸裂するような音が入っているが、この音の広がりが鮮やかだ。目の前で左右に広がって、後方にも響いているのがわかる。言い方は悪いが、セッティングを追い込んでいない並の5.1chシステムではここまでわからない。ボーカルのエネルギー感や息づかいまで含めた生き生きとした歌唱が画面の真ん前に浮かぶ立体感は見事なもの。楽器の音を含めた細かな音の再現性はヘッドフォンでの視聴のように明瞭だ。

そして、BC自由学園との対戦の第2ラウンド。BC自由学園の3人の会話はもちろん、大洗女子学園の面々の会話でもチャンネルの振り分けが巧みだ。ボカージュを破壊して進行する戦車の砲撃音の迫力も、絶対的な音量がやや小さめであることを考えれば、低音感としては十分。砲撃音などの効果音だけで展開する場面も、個々の音の実体感が増しているので、もはや寂しい感じはない。

ここでの一番の聴きどころは、対戦の終盤でBC自由学園が歌い出すところ。気付いているだろうか? 最初は合唱で、特にマリー、押田、安藤の3人の声が前方側から聴こえている。その後、まずは押田のARL44が戦闘不能になり、つづいては安藤のソミュアS35がマリーを守って被弾する。残るはマリーの乗るフラッグ車、ルノーFTのみ。このとき、歌声がマリーだけになっているのだ。それまでの押田や安藤の奮闘を思うと、涙が出るような熱い演出だ。

気付いているだろうか? 決着が付く寸前にマリーの姿が画面一杯になるが、このとき、マリーの歌声が全チャンネルから鳴っていて、ちょうど視聴位置で定位していることに。マリーの歌声が耳元で響くのだ。これに気付くのは、音の良い映画館のベストな席で聴いた人か、きちんとセッティングされた5.1ch以上のシステムで聴いている人だけだ。気付いていた人はみんなに自慢しよう。

そして、対戦後。ボコミュージアムは、一人称視点が多いこともあり、サラウンドの演出もたくみなので聴きどころはたっぷり。このほか、河嶋桃の自宅の披露やアヒルさんチームの面々と知波単学園の福田の食事など、ストーリー上見どころの多い場面が続く。そして、第1回戦のすべて終了し第2回戦進出チームが決まると、ダイジェストで対戦の模様が紹介されるが、ここでは、極めて短いカットの連続ながら、それぞれの対戦の舞台に合わせた音響になっていて、音響さんチームの仕事量のハンパなさに頭が下がる。

サンダース大学付属高校の広々とした平原での音の響き、特にシャーマン・ファイアフライによる長射程の砲撃音の音の響きや移動感。プラウダ高校の雪上の戦車の移動音はTVシリーズ時(の5.1ch版)よりも細かな音が増えて、雪を踏む感触や履帯がすべる感じまでより精度が増している。そのほか、コアラの森学園の隊長の声など、ものすごい情報量だ。夏の大会のアンツィオ高校戦のようにOVA化されないかと期待してしまうが、最終章の第3話以降の公開がさらに長引くのも困るので、後回しにしよう。

我々視聴者は、音響さんチームのように配置したすべての音がきちんと聞こえるかどうかをモニターして確認する必要はない。だが、こうして見ていても、配置された音の数の多さに唖然とするし、やはり収録された音はすべて聴きとりたいと思う。Dolby Atmosと違って、5.1ch音声ではどうしても細かな音は埋もれやすいのだが、それでもきちんとセッティングしたシステムならば、驚くほど情報量が出る。今、これから5.1chホームシアターを構築しようとするならば、(映画館のような大音量は無理だし、爆音を追求すると大変なので)こうした情報量の豊かさ、精密な音の定位や移動、シームレスな空間の再現を目標とするのが良いと思う。

そして、知波単学園との対戦だ。本作は一人称視点の映像がさらに増えているし、しかもこれまでは背景画で済ませていたような周囲のオブジェクトまで3Dで描画されている。BC自由学園でのボカージュ戦でも生け垣のような樹木の壁が随所で3D作画され、非常に立体感のある映像になっている。映像がこれだけ立体的になっているのだから、音響が立体的になっているのも当然。映像と音がせめぎあって、トータルで質を高めているのを見るとうれしくなる。

そんな3D作画が多用された密林は、広さというよりも奥の深さが印象的な音響だ。ジャングルに響く鳥や動物の声は、部屋の外から聞こえるかのような距離感があるし、暗く見えにくい密林の奥深さもよくわかる。それでいて、隊列を組む戦車の数がわかる気がするほど、映像に合わせて各車両の走行音が四方に配置されているのも見事だ。

スピーカーやサブウーファーの音ばかり紹介しているが、デノンのAVアンプ、AVR-X1600Hもいい仕事をしている。情報量の豊かさはAVアンプ側での純度の高い信号処理による部分が大きいし、大音量再生ではないのでパワーはそれほど必要としないとはいえ、砲撃音の出音の勢いの良さ、低音まで遅れずについてくるアタックの力強さは、パワーアンプの底力が表れている部分だ。最終的に獲得できた音の粒立ちの良さ、歪みやノイズの少ない鮮明な音の再現もAVアンプの高音質が支えていると思う。より質を求めて上級機を選ぶのはもちろん有効な選択だが、まずは5.1chで始めるとしても、ゆくゆくはDolby Atmosの5.1.2まで発展できるのだから、AVR-X1600Hは将来性を含めて十分だ。

知波単学園との対戦は長期戦となり、夕方には雨が降りはじめる。泥濘地には向かない履帯を持つB1 bisが立ち往生してしまうが、このとき、西住みほがポツリと「何かに使えそう」と呟いている。かつてはすぐにアワアワしていたが、今や立派な戦車隊の隊長(今回は副隊長)に成長しているのがわかる。降りしきる雨は、前後左右に降り注ぐ。大粒の雨が落ちる感じの雨音が四方に配置されることもあり、視聴位置やその後ろ、画面の手前のあちこちで雨が落ちている感じになる。前方だけ薄っぺらく雨音を配置するような音響は今どきはないが、2chスピーカーでの再生とはそういうことだ。窓の外から雨の降る様子を見ているような、カメラの前だけ放水している安っぽいドラマの撮影を見ているような、その場にいない感じになってしまうのがわかってもらえるだろうか。

そして雨は止み、夜間の行軍となる。初の夜戦で暗闇が怖いという福田を勇気づけるため、知波単学園は歌謡突撃を開始する。陽気な歌声で福田は勇気づけられ、一緒に歌い始める。ここでも、最初は全員の合唱だが、サビの部分で福田がクローズアップされたカットでは、福田の歌う表情とともに、福田の歌声だけレベルが上がる。この巧みな音量のコントロールには頭が下がる。

最後の戦いは熾烈だ。初見時はここで決着だと確信していたほど。個性豊かな突撃で翻弄する知波単学園だったが、受けて立つ大洗女子学園も、誘いに乗ったと見せて知波単を誘導し、泥濘地に追い詰める。しかし、もはや知波単はただの突撃バカではない。戦いはまだ続く。

おまけ「交響曲ガールズ&パンツァー」も聴いてみた

オーディオシステムから、本来の実力を引き出せたと感じた瞬間の喜びや興奮はなんど味わっても良い。もちろん、時間もお金もたっぷり費やした自宅のシステムの方がトータルで優れるのは当たり前だが、今回の大きなテーマである音の定位の良さ、正確で臨場感豊かなサラウンド空間の再現という点では十分に肩を並べる出来だと思う。比較的安価なシステムでもここまでの音が引き出せるなら上出来だ。ここで大型スピーカーならではの雄大さや迫力までも求めるならば、泥沼入り確定だ。潔く稼いだお金のほとんどをオーディオ環境に費やそう。

「ガールズ&パンツァー最終章 第2話」だけで取材を終了して、片付けてしまうのももったいないので、音楽も聴いてみた。発売されたばかりの「交響曲ガールズ&パンツァー」だ。ハイレゾ版(96kHz/24bit)も配信されているが、Amazon Music Unlimitedをはじめとする主な音楽配信サービスでも配信されているので、ぜひ聴いてほしい。ここでは、自宅のNASに保存したハイレゾ版の音源をHEOSのネットワーク機能で再生している。

ネットワーク音楽再生時の画面表示。画面を使って選曲などの操作もできるが、120インチはさすがに大きすぎる
「DENON 2016 AVR Remote」のネットワーク音楽再生画面。ジャケット写真も表示され、選曲や再生操作をスマホで行える

「交響曲ガールズ&パンツァー」は、これまでのガルパンの劇伴をまとめて全六楽章の交響曲に仕上げた曲だ。第一楽章「戦車道行進曲」は雄壮で素晴らしいし、緊迫感たっぷりの戦車戦での曲が集まった第四楽章は手に汗握る。第六楽章は堂々たる大団円だ。さらに、対戦した各校のテーマ曲を集めた「ガールズ&パンツァーのための狂詩曲」も感無量。TVシリーズでの物語を辿るような構成は交響詩とも思える。再生はフロントの2本とサブウーファーだけの2.1ch再生。不要な電気回路などをすべてバイパスするピュア・オーディオモードで聴いている。

トランペットをはじめとする金管楽器の音色が溌剌として気持ち良く、弦楽器も楽器の数が増えていて響きもより重層的になる。低音域の伸びもまったく不満はない。自然な音色が実にみずみずしい。ステレオならではの音場感も奥行きを含めて広々と再現されるし、奥行き感もしっかりと出る。音楽再生でも満足度の高い仕上がりだ。良い音の追求に際限などなく、質的には足りない部分もあるが、我ながらトータルとしてのまとまりの優れた音になっていると感じる。モニターオーディオのスピーカーとサブウーファー、デノンのAVアンプの実力の高さを改めて実感した。これが初めての本格的なオーディオ、サラウンドシステムになるのならば、とても幸せだと思う(オーディオ、AV沼にハマる危険も大きいが)。

ガールズ&パンツァー最終章は「変わること」がテーマ

ガルパン最終章 第2話を見て、テーマは「変わること」だとわかった。BC自由学園も変わろうとしたが一歩及ばなかった。しかし、知波単学園との対戦を見て、変わることへの決意を新たにしている。先んじて大きく変わって大洗女子学園を苦戦させているのが知波単学園だ。1作ごとに映像も音もますます進化し、常に最先端をいっている。果たして物語はどうなっていくだろうか? 無限軌道杯での各校の戦いがここまで面白いと、このまま大会優勝で終わってもいい気がする。決勝は聖グロリアーナ女学院だろう。大洗女子学園はこれまで負けっぱなしなのだから。

だが、ファンが予想する通りの安易な展開で終わっていいわけがないとも思う。この先、仰天するような超展開があってほしいという気持ちもある。この先の展開がどうなるかは楽しみに待つほかはないが、待っている間にも自分も着々と変化を怖れず進化を続けたい。なにより、ガルパンのためのホームシアターをさらに進化させながら、物語を見守りたい。大丈夫、きっと時間は十分にある。

今回のシステムは、スピーカー(4本)とサブウーファーだけで約18万円。サブウーファーがやや高価だが、音を聴いたら後悔はしないはず。前回のシステムよりもやや高額ではあるが、セッティング等を行なった結果からもぜひともスタンドも加えてほしい。これで約26万円。インシュレーターなどのアクセサリー、そしてBDプレーヤーを加えると30万円近い。初めてのシステムとしてはおすすめしにくい価格になってしまったのは申し訳ない。だが、満足度については高いはず。きちんとした設置から始めて使いこなしてほしい。軽く10年は愛用できるシステムだ。

いきなり30万円近いお金を投じてスタートしてもかまわないが、まずは手の届くところから初めればいい。しっかりとした設置などの使いこなしができるならば、もっと安価なスピーカーやサブウーファーを選んでもいい(購入前に視聴して音の確認はしよう)。まずは2チャンネルからでもいい、そこから徐々にグレードアップしていけばいい。大丈夫、十分に間に合う。だが、始めるなら早い方がいい。今がその時だ。さあ、ホームシアターをはじめよう。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。