小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第788回
これぞ真のフライングカメラ、折りたためる「DJI Mavic Pro」を飛ばす
2017年1月18日 08:15
ドローンの未来は……
今年のCESでも、もちろんドローンは充実していた。CES専用アプリで調べる限り、「Drone」カテゴリで登録している出展者は161社にものぼる。ただ今年は、去年の「いっぱい出てきたな」とはまた違った印象を受けた。
昨年はサウスホールの奧にそれなりのエリアを取って、小さなメーカーも沢山詰め込まれていたのだが、今年は「勝ったのは誰か」がはっきり分かれたように思える。いわゆる「勝ち組」だけがサウスホールへ残され、その他大勢はベンチャーが集うSands ExpoやWestgateホテルへと分散した格好だ。
もちろん勝ち組の筆頭はDJIで、今年もドローンコーナーの一番前に陣取っている。CESでは「Osmo Mobile Silver」ほか撮影アクセサリが新登場したが、ドローンの新モデルは「PHANTOM 4中国・春節エディション」程度であった。
さて、DJIから昨年発売されたドローンは、Phantom 4、Phantom 4 Pro、Mavic Pro、Inspire 2と4台ある。このうちPhantomとInspireはシリーズなので、全く新機軸のドローンとして発売されたのはMavic Proのみということになる。公式サイトの販売カテゴリからすると、どうも“Mavic”というのがシリーズ名で、今回発売されたのが“Pro”というバージョンであるように見える。
直販サイトでの価格は送信機込みで119,800円(税込)。昨年9月29日には、秋葉原でMavic Proの発表会が行なわれた。モデルさんが出てきてトートバッグからMavicを取り出し、おでかけ先でどこでも自撮りできますねーといったコーディネートが発表され、「いやいやそれ無理じゃろw」と心の中でツッコんだものだが、実際のところどうなのか、なかなか試す機会が得られなかった。
それというのも航空法の改正により、人口密集地域の屋外でのドローン飛行は200g以下の機体に限られ、それ以上の機体では認可を得なければならなくなったので、おいそれとレビュアーがその辺の公園で飛ばすというわけにはいかなくなってしまったのだ。
そこで正月の帰省を利用して、筆者の実家が所有する山林で実際にMavic Proを飛ばしてみることにした。新シリーズの飛行性能、撮影性能はどういうものだろうか。本当にお姉さんがハンドバッグから気軽に取り出して自撮りできるレベルなのかも含め、じっくり見ていこう。
「折りたためる」というスゴさ
ドローンというのは、様々な機能差はあるものの、多いのは4つのローターを持つクワッドコプターである。従って中心にボディがあり、四方にアームが伸びてその先にローターがあるという形状は、変わらない。
だがMavic Proではこのアームをボディ側面に沿って折りたためるように設計されている。ローターもたためるため、取り付けたままで全体を箱状にまとめることができるわけだ。折り畳み時のサイズは、全長198mm、高さ83mm、幅83mm。展開すると対角で45cm以上の中型ドローンになるので、折り畳み時のコンパクトさからは想像できないサイズに成長するわけである。
本体重量は734gで、バッテリーは240g。前2本のアームは水平方向に、後ろ2本は垂直方向に展開する。バッテリはボディ後方をほぼ占領する形で取り付ける。外装部品と一緒になっているので、バッテリを外した状態では不格好だが、取り付けると一体フォルムとなる。
正面にはジンバル付きのカメラがあり、標準でアクリル製のカバーが取り付けられている。このカバーは着脱可能だ。
カメラの性能としては、レンズは35mm換算で28mm/F2.2の単焦点で、視野角としては78.8度。センサーは1/2.3インチのCMOSで、有効画素数は1,235万画素となっている。静止画の最大解像度は4,000×3,000ドット。
動画モードは4K以下、多彩な解像度とフレームレートで撮影が可能だ。今回のサンプル動画はUHD4K/30pで撮影しているが、ビットレートは約60Mbps/VBRであった。
動画モード | 解像度 | フレームレート |
DCI4K | 4,096×2,160 | 24p |
UHD4K | 3,840×2,160 | 24/30p |
2.7K | 2,720×1,530 | 24/30p |
FHD | 1,920×1,080 | 24/30/48/60/96p |
HD | 1,280×720 | 24/30/48/60/120p |
動画記録用のmicroSDカードは、本体側面に挿入する。最大容量は64GBで、Speed Class10/UHS-1対応となっている。バッテリ1本につき、最大フライト時間は約27分。ホバリング時間は24分となっている。飛行よりもホバリングの方がバッテリを食うようだ。
前面には対物センサー、底面には超音波による測距センサーがある。これらは故障に備えて二重化されている。前方のアーム部には、こちらが前である事を示す赤色のLEDが仕込まれている。ボディ後方には機体のステータスを示すLEDがあり、色と点滅の仕方で機体モードがわかるようになっている。
続いてコントローラを見てみよう。小型のゲームコントローラのような格好をしており、左右にジョイスティック、上部にはアンテナが2つある。下部を開くとグリップのような格好になるが、ここにスマホを挟み込んで使用する。コントローラからはケーブルが出ており、スマホと接続することで、送られてくるFPV画像をスマートフォンに表示できる。
つまりスマホとドローンが直接Wi-Fi接続するわけではなく、コントローラを経由してドローンと繋がる事になる。おそらくそのほうが通信距離が稼げるからだろう。スペックシートによれば、最大伝送距離は障害物、干渉なしを条件に4kmとなっている。
対応コネクタは、Lightning、Micro USB Type BとType Cの3タイプだ。今回の飛行では、iPhone 7 Plusを接続している。
充電器には、バッテリ充電用のマルチ端子のほか、コントローラを充電するためのUSB端子もある。バッテリ充電時間はおよそ1時間20分、コントローラーは2時間で充電が完了する。コントローラ自体ははそれほどバッテリーを消費しない。今回はバッテリー3本分を飛行したが、コントローラ側は1回の充電で十分な残量があった。
さすがの安定感
では実際に飛ばしてみよう。コントロールアプリは「DJI GO」である。これはInspire、Phantom、Osmo Mobileまで、なんでも対応するコントロールアプリだ。
フライトモードとしては、まず初心者モードを選ぶかどうかである。初心者モードでは、ホームポイント(離陸地点)から半径30メートルまでに限定される。単にセルフィーを撮影する程度であれば、初心者モードで十分だろう。
通常モードでは、障害物検知システムありのポジショニングモード、障害物検知システムがOFFになるスポーツモードがある。スポーツモードでは最大速度である時速72kmでの高速フライトが可能だ。ただしこれは見通しのいい上空で使用するべきだろう。そのほか、センサーによる障害物回避機能は個別にON・OFFができる。基本的にはすべてONでいいだろう。
スティックモードは、モード1から3、そしてカスタムと4つから選択できる。この変更は、ホバリング中にも自由に変更可能だ。
撮影地は、なだらかな崖の中腹にある平地で、かつて筆者の本家が建っていた場所である。現在は竹藪に囲まれた空間になっている。
離陸は他のPhantomと同じ、コントロールレバーをハの字にするか、逆ハの字にすると、ローターの回転が始まる。そのままジョイスティックで上昇させると、1m程度の高さでホバリングする。片側が崖になっているせいか、あるいは竹藪に囲まれているせいか、GPSの入りはあまり良くないが、ホバリングは安定している。コントローラから手を離してもその場に静止しており、機体に近づくと衝突を避けるために機体が自動的に後ろに下がる。
しばらくマニュアルで操縦してみたが、障害物に近づくと警告音を発して、それ以上前に進まなくなる。竹の枝はかなり細い障害物で、背景も同じような藪なので立体感が掴みづらいのではないかと懸念したが、問題なく判別できるようだ。
本機にはカメラ上で捉えたポイントに向かって、一定スピードで進む「TapFlyモード」を備えている。今回は直線距離が長く取れなかったため、あまり効果的ではなかったが、竹藪のような不定形の障害物に対しても突っ込んでいくようなことはなく、対物センサーの感度は信頼できる。
加えてマニュアル操縦によるドリーとドリーバックを試してみた。このような山中では、平地とは言っても整地されているわけではないので、実際にレールを敷いてドリーするのは難しい。だがMavicでは綺麗なドリーができる。ホバリングの位置、高さともに安定しているので、目標を定めたら前進レバーだけで安定したドリーが行なえるのだ。障害物があって進めないところまで来たら自動で停止する。音が同録できないのが難点ではあるが、画質的にも満足できる品質だ。さらに劇的に機体を安定させる「トライポットモード」もあるが、今回はGPS信号が弱かったので使えなかった。
カメラの上下角は、コントローラの右手人差し指部分にあるダイヤルで操作する。ただこの動きが鋭敏すぎて、少し動かしただけでカメラが大きく動いてしまう。本機には多くの自動追尾モードが備わっているので、マニュアルでカメラを動かすケースは少ないかもしれないが、せっかくのダイヤルコントローラがうまく活かされていないのは残念だ。
多彩なフォロー機能を内蔵
ではもう一つの目玉機能である「ActiveTrack」を試してみよう。これはカメラで撮影中の映像の中からトラッキングしたい対象を選ぶと、それを機体が追従するという機能の総称である。Phantom 4からすでに実装されているが、Mavic Proではさらにどのように追従させるのか、3つにモード分けされた格好だ。
動作モード | 動作 |
トレース モード | 機体がターゲットと一定の距離を保ちながらあとを付いてくる。 人が進めば、必然的に後ろ姿を追うことになるが、 人が機体に向かっていけば機体の方が後ろに下がっていく |
プロフィール モード | ターゲットに一定の角度と距離を保ったままで追尾する。 わかりやすいのは、人の横方向から平行移動で撮影できる点。 これはPhantom 4にはなかったモード |
スポットライト モード | 同じくMavic Proで初搭載されたモード。 機体はその場でホバリングしたままで動かない。 その代わり、カメラジンバルだけで被写体を追尾する。 カメラの画角から被写体が外れてしまっても、 機体が回転してフォローするわけではない |
さらにMavic Proではインテリジェントフライトモード(半自動操縦)として、以下の5つを備えている。
動作モード | 動作 |
コースロック | 今の機体の向きをロックし その方向をキープしたまま前進、後退する |
ホームロック | 必ずホームポイントに向かって進行 |
ポイント・オブ・ インタレスト | ターゲットの回りを自動的に旋回する。 |
フォローミー | ターゲットのあとを一定の距離を保ちながら付いていく |
ウェイポイント | 設定した経路どおりに自動的に飛行する |
なお目玉機能とも言えるフォローミーモードは、GPSが弱かったため動作しなかった。インテリジェントフライトモードは、よく開けた場所でしか利用できないと考えた方がいいだろう。
最後にせっかくなので、上空120m程度まで上昇して空撮を行なってみた。山の中にいるとよくわからなかったが、上空に出てみると結構風が強い。風速警告が表示されていたが、機体は安定しており、風で流されるようなことはなかった。機体保護のため、カメラのアクリルカバーは付けたままだ。そのため逆光ではフレアが出てしまうが、順光ならなかなかクリアな映像が撮影できる。
狭い木の間を抜けて空へ出るのは、ホバリングが安定しているのでそれほど難しくはないが、機体を戻すのは大変だ。途中丸印で表示したのが、筆者の位置である。風速警告が出る中、この枝の隙間から後ろ向きに機体を滑り込ませるのはなかなか難易度が高かった。スリリングな映像をお楽しみ頂きたい。
総論
希望小売価格ベースではPhantom 4(直販税込18万9,000円)よりもずいぶん安いMavic Pro(同129,800円)だが、機体性能はPhantom 4にも勝るとも劣らない事がわかった。すでにセンサー数を大幅に増やしたPhantom 4 Proも発売されているので、Mavic Proの登場で事実上Phantom 4の優位性は薄れた格好だ。
Mavic Pro最大のメリットは、折り畳んでコンパクトに運べる事だろう。すでにPhantomで業務用の撮影を行なっている人でも、いざという時の予備として、1台キャリングバッグのサイドポケットに突っ込んでおけるサイズだ。予備バッテリーは2~3本欲しいところだが、ミニマムのセットで税込み約13万円なので、業務ユーザーのバックアップとしては安いものだろう。
実際1月17日付でMavic Proは、国土交通省へのドローン飛行許可申請において、「目視外飛行のための基準」および「資料の一部を省略することができる無人航空機」に指定された。量産機体の均一性についてInprire 1やPhantom 4と同レベルであるということが認められた格好だ。
インテリジェントフライトモードを使えば、操縦経験のない方でも自撮りができるかもしれないが、GPSにかなり依存するので、そのあたりの知識は必要だろう。またいくら対物センサーがあるとは言っても、墜落や衝突などの危険に備えて、安全面に対する配慮は当然必要になる。アームを展開すればかなり大きなドローンになるので、ある程度勉強して貰わないと、気軽に街中で飛ばせるようなものではない。
ただ、安全に飛ばせる場所さえ確保できれば、撮影機能がかなり充実しているので、レポーター撮影や自撮り、風景撮影など、色々使えて楽しい機体であることは間違いない。車やBMXなど、早い動きをフォローさせる撮影も機会があったらぜひやってみたいところだ。
ドローン業界では、クラウドファンディングも含めて40億円もの資金を集めた自撮りドローン「Lily」が破綻したり、Parrot社がドローン部門で290人のレイオフを実行したりと、DJIの一人勝ちが目に付くようになっている。確かにこれだけの機能を13万円で実現されたら、他社は太刀打ちできないだろう。一方で200g以下のホビー機は、数千円で中国メーカーがどんどん出してくる。
ドローン業界は“DJIのエリアから徹底的に逃げる”か“DJIと組むか”の2択になっていくのかもしれない。
DJI Mavic Pro | DJI Mavic Pro フライモアコンボ |
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