小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第854回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

“おうちクラウドDIGA”の正体とは!? パナソニック「DMR-UBX7050」

一人勝ちのDIGA。だが……

 世界的に見ても、先進国の中で無料放送であるテレビを録画するレコーダなる商品群が成立しているのは、日本ぐらいである。その理由としては、動画コンテンツの中において、テレビ番組にはまだまだ魅力があること、放送局側の意向として、コンテンツのネット提供に長らく抵抗してきたこと等が挙げられる。

DIGA新シリーズ、最上位モデル「DMR-UBX7050」

 しかし時代が変わったのはすでに読者諸氏もお感じになっている通り。子供達はYouTuberに夢中だし、Netflixなどの見放題サービスも定着してきた。Huluは日本テレビの子会社であるHJホールディングス経営だし、AbemaTVはサイバーエージェントとテレビ朝日が出資して設立された。テレビ“的なもの”は人気だが、テレビ“放送”でなければならないという理由は、どんどん少なくなってきている。

 そんな中、レコーダという製品群はどこに行くのか。テレビの下という居場所が空いてるというだけでは、新商品への買い換えは起こらない。レコーダ分野のトップシェアを誇るパナソニックが打ち出した答えが、「おうちクラウドDIGA」である。

 今回は5月より発売を開始したDIGA新シリーズのうち、最上位モデル「DMR-UBX7050」をお借りした。店頭予想価格は23万円前後、通販サイトでは20万円を切るかどうかで激しい競争が繰り広げられている。

 おうちクラウドDIGAのコンセプトは昨年秋から登場したが、この春モデルでどこまで来たのだろうか。早速試してみよう。

安定の全録機能

 まずこの春のラインナップを整理しておこう。全録モデルは今回のUBX7050を筆頭に、チューナ数とHDD容量違いで3モデル。全録ではないレギュラーモデルが同じくチューナ数とHDD違いで3モデル登場した。全ておうちクラウド機能を搭載している。すでに昨年秋モデルでおうちクラウド機能を搭載しているものが4モデルあり、合計10モデルが市場にあるという事になる。

 UBX7050は、合計11チューナを搭載、最大10chを7TBのHDDに全録できるという、強力なモデルである。加えてUltra HD Blu-ray再生機能、CD音源のハイレゾリマスター機能も搭載する。昨年5月にレビューした、UBX7030の後継機という事になる。

この春の最上位モデル、UBX7050

 前作はエッジ部が斜めに切り落とされた、反射面の多いボディだったが、この春モデルは上部にスモークの直線をあしらったパネルとなり、シンプルでストレートなルックスとなった。また奥行きが60mm短く、高さも5mm低くなり、設置性が向上している。外形寸法は430×239×66mm(幅×奥行き×高さ)だ。

フロントパネルのスモークラインがアクセント

 上面には電源およびドライブのイジェクトボタンのみ。1年前の前作はタッチスイッチだったが、今回は物理スイッチになっている。フロントパネルを開けると、2枚のフルサイズB-CASカードがある。あとはBlu-rayドライブと写真・動画取り込み用USB端子があるだけで、シンプルだ。

ボタンは物理スイッチに変更
B-CASカードはフルサイズが2枚
取り込み用USB端子
Ultra HD Blu-ray再生機能付き光学ドライブ

 背面に回ってみよう。RF端子は地デジ、BS/CS共用の2つ。HDMIは通常の映像・音声出力用と、音声出力専用の2つがある。HDD増設用USB端子は、チャンネル録画(全録)と通常録画用に分かれている。そのほかLAN端子、光デジタル音声出力を備える。

2つのファンを装備した背面
増設HDD端子でさらに容量拡張

 リモコンも見ておこう。基本的には前モデル「UBX7030」とベースは同じものである。「機能一覧」が「ホーム」に名称変更されるなどの違いはあるが、今回のポイントはスマホ連携なので、録画機能的にはだいたい同じと考えていいだろう。

リモコンはほぼ変わらず

若干アップデートの録画機能

 さて「おうちクラウドDIGA」のメインはクラウド機能なので、録画機能は画像をベースにさらっとご紹介するに留めておく。

ホーム画面
自宅にネット環境がなくても、スマホのテザリングでネットに繋げられる
チャンネル録画は合計10ch録画が可能
「おとりおき」は新たにアニメにも対応した
新着番組一覧

 さてクラウド機能について考え方を整理しておく。一般的にクラウドと言えば、インターネット上に存在するサーバで処理されるもの、という概念でいいだろう。ストレージサービスや、ストリーミングサービスなど、従来自前で持っていなければならなかったものを、インターネットから利用できる故に、スマホ1つで様々なことが実現できるわけだ。

 一方でテレビ番組はというと、録画した番組を自分で一般のストレージサービスにアップし、外出先から見るということは、技術的にも法的にもできない。これを実現するには、各家庭で番組が録画されているレコーダに対して、外出先から直接アクセスしていくしかない。

 レコーダがサーバになるという事だ。各家庭で立てたサーバをクラウドと呼ぶのか、定義としては微妙なところではあるが、ユーザーとしては、自分のスマホがどこにアクセスしているかは、あまり問題にならない世界に近づいているという事ではあるだろう。

 「おうちクラウドDIGA」を利用するキーとなるのは、スマホアプリの「どこでもディーガ」である。これは昨年秋モデル向けにリリースされた比較的新しいアプリだが、5月に春モデル対応の大幅なアップデートがなされている。

 アプリの設定はレコーダとの紐付けが必要になるので、最初はレコーダと同じネット環境の中で起動する。始めにリモート視聴に耐えられる回線速度であるかなどのチェック機能も付けられており、設定したが動かないという事がないように配慮されている。

回線速度チェック機能も搭載
機器詳細では、宅内視聴、宅外視聴のビットレートが設定できる

 メインのUIは番組表という事になるだろう。ここでは放送後の番組と放送前の番組がシームレスに番組表形式で並ぶ。放送後(過去)の番組をタップすると、そのまま番組内容を示す画面へ移行するし、放送前(未来)の番組をタップすると、番組予約画面に移行する。iPhone版では3D Touchにも対応しており、番組名を強めに押すと、番組表から離れずに詳細情報や簡単な操作画面へ移行できる。

「どこでもディーガ」の番組表。過去と未来の番組がシームレスに繋がる
番組名を強く押すと、詳細を表示する

 チャンネル録画された番組内容画面では、そのままの流れで持ち出し用に変換しダウンロードまでできるほか、チャンネル録画から一般録画への保存も可能だ。スマホで見る場合には、そのまま右下の「見る」をタップすれば良い。

番組名をタップすると、詳細画面に移動する
出演者ごとに検索もできる

 秀逸なのはシーン一覧だ。ここでは番組内のシーン内容が一覧で表示される。例えば長時間のニュース番組でも、あの話題だけどう報じられたか見たいという時に、そのニュースに一気にジャンプできる。

番組内容はシーン一覧で把握できる

 またこのシーン一覧は、貫き検索ができる。ニュースのキーワードを入力すると、チャンネル録画されたあらゆる番組の中からそのネタだけをリストアップしてくれる。しかも検索レスポンスがかなりいい。まさにニュースウォッチャーには欠かせない機能だ。

番組を跨いでのシーン検索も可能

 続いて音楽系の機能を見ていこう。レコーダーが音楽CDのリッピングに対応したのは、昨日今日の話ではない。ただ、立派なホームシアターがあるなら別だが、CDをレコーダに入れてテレビで聴くのはどうなんだという話があり、あまり注目されてこなかった。そうこうしているうちに音楽ストリーミングサービス全盛時代となり、手持ちのCDをリッピングする意味は薄れてきたというのが今の状況だ。

 ただ、すべての人がストリーミングサービスを利用するわけではない。そうしたトレンドに乗らない人は、CD音源をスマホに入れるだけでも一苦労である。PCはもはや、“家庭に当たり前にあるもの“、“日常的に稼働しているもの”ではなくなっている。

 そんな中、レコーダがスマホに対してのメディアインターフェイスになるという発想はアリ、というのがパナソニックの解だ。CDをリッピングすると、Gracenoteデータベースから音楽情報を引っ張ってきてタグ付けする。そしてその音楽を、スマホにダウンロード、もしくはストリーミングで聴けるようになる。これもある意味、疑似クラウドサービスと言えよう。

取り込んだ音楽を転送もできるし、そのままストリーミングで聞くこともできる

 加えて取り込んだ音楽CDのアーティストの出演番組を番組表からリストアップしてくれる機能も搭載した。ファンなら動く映像を見たいという流れはよくわかる。ただ残念なことに、筆者手持ちの音楽CDライブラリには現役でテレビに出演するようなアーティストがいないため、実際の動作は確認できなかった。

取り込んだCDのアーティストを自動で番組中から探す機能も

大化けするか、写真共有機能

 どこでもディーガで実現できる目玉機能が、写真保存・共有機能である。

 皆さんはスマートフォンで撮影した写真を、どこに保存しているだろうか。iPhoneユーザーならiCloudに、AndroidユーザーならGoogle Photoというのが標準的だろう。

 両方ともスマホの写真や動画を自動でバックアップしてくれるが、Google Photoが無料枠15GB(ファイルサイズ削減モードでは無料で無制限)なのに対して、iCloudは無料枠が5GBしかなく、有料プランに移行したくない人にとっては写真や動画をどこに保存するかは悩ましいところである。

 それが「どこでもディーガ」を使えば、スマホ内の写真をDIGAのHDDにバックアップできる。バックアップした写真は、テレビで大きく見ることができる。家族でスマホを持つようになると、自分で撮影していない写真や動画を見せてもらう機会も多いが、テレビに写してみんなで見られれば、楽しさも倍増するだろう。

スマホ内の写真を選んでDIGAに転送できる

 加えて今後の目玉となり得るのが、離れた場所にいる家族からDIGA宛に写真が送られてくる機能だ。DIGAにスマートフォンを登録するには、同じネットワーク内に居なければならないため、離れた家族のスマホは登録できないことになる。だが簡易的に番号で登録を行なう事で、写真の転送だけはできるようになる。

離れた家族からも写真が送られてくる
スマホから転送された写真
DIGAで発行される番号を相手に伝えると、相手からDIGAへ写真が送れるようになる

 例えばおばあちゃん宅にある「おうちクラウドDIGA」に、息子からスマホの写真を送るといった事ができる。孫の成長の様子などがどんどんDIGAに溜まってくると、楽しみが増えるだろう。

 もちろん、LINEやFacebookメッセンジャー等を使って写真を誰かに送ることはできるのだが、高齢者にSNSを使えというのは無理がある。だがレコーダなら普段から当たり前に使う機器であり、おばあちゃんはスマホユーザーである必要もない。こうした機能はありだろう。

 言うまでもなく、この手の機能は数年前の「フォトフレーム」ブームの時にも実装されている。ただ当時は今ほどスマートフォンが普及しておらず、ネットワーク環境も十分ではなかったことから、絵に描いた餅で終わった感がある。

 DIGAの「おうちクラウド」は、様々な「今さらながら」の機能を一括りにまとめて、スマホを中心に組み立て直したという点で、画期的に見せることに成功した。

総論

 テレビ放送という一つのメディアを中心として、受信機としてのテレビやレコーダが発達してきたが、今、放送波を見るという部分がぐらついてきている。したがってテレビやレコーダは、「定番商品」という仮面を付けたままで、中身をどうシフトしていくかが問われている。

 2015年にNetflixらストリーミングサービスが上陸して以降、テレビやレコーダは、テレビ一辺倒から大きく方向転換した。当時は「まだまだテレビは強いコンテンツ」という評価だったが、あれから3年、テレビ番組はコンテンツの「One of Them」に後退したのは明らかだ。

 そんな中、レコーダを「ネットに接続された巨大ストレージ」から「パーソナルクラウド」へシフトさせたのが、「おうちクラウドDIGA」の正体である。一般クラウドサービスでは扱えないテレビコンテンツを含め、ごく個人的なコンテンツである「スマホ写真」や「手持ちCD」といったものまで、1つのスマホアプリからアクセスできるようまとめ上げた。実は主役は、アプリ「どこでもDIGA」のほうである。

 今後、テレビ関連製品は、4K放送受信という軸の他に、AIを使った情報サービス、あらゆるメディアを一括で扱うメディアハブという3軸で展開していくことになるだろう。それらをどのようなバランスで融合していくのかが、各メーカーの腕の見せ所となる。

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DMR-UBX7050

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。