小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第952回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

PC不要で合成も! iPad連動ストリーミングBOXで手軽にウェビナー/ゲーム配信

8月下旬に発売された「GV-LSMIXER/I」。iPadを乗せたところ

今、ライブが熱い

今週頭から台風10号の襲来に伴い、ネット上ではリアルタイムでの情報共有が活発に行なわれた。気象庁などからの発表はテレビで、現場の生の情報はネットでと、リアルタイムで変化する状況を様々な角度から見る事ができ、共感できるようになったというのは、大きな変化だと思う。

スマホ一つ、パソコン一つで生配信が可能になってはいるが、ちゃんと整理した情報を伝える手段としてはいささか心もとないところである。生コンテンツとはいっても、現場中継が目的なのと、インタラクティブなアクションや発表タイミングが重要なものとでは、自ずと方法論が違ってくる。

そんな中、今熱いのはウェビナーだろう。ウェビナーとはWEB + セミナーの造語で、かつてはオンラインセミナーなどと呼ばれていた手法だ。やってることは変わらないが、普及すると新しいネーミングが台頭するというのは世の常である。

Zoomを使ってPinPなどもできるところではあるが、複数台のカメラやPCの映像を組み合わせて一つの画面に合成するとなると、ハードウェアのスイッチャーが必要になる。またハードウェアを使えばPCの負荷も抑えられるため、想定外のトラブルも避けられる。有料のウェビナーではぜひとも導入したいところだ。

ただスイッチャーによる合成は、知識とノウハウが必要であり、普通の人にはなかなか手に負えないものだ。そんな中、アイ・オー・データ機器からiPadと組み合わせて簡単に画面合成を可能にしたスイッチャーが発売された。今回ご紹介する「GV-LSMIXER/I」は、以前から展開しているLIVE ARISERシリーズ第2弾で、価格はオープンプライス。メーカーの直販サイトでは127,600円(税込)だ。

iPad上で合成テンプレートに手を入れるだけで複雑な合成シーンを簡単に作れるという。どういうものなのか、実際にテストしてみよう。

厚みはあるがコンパクト

まず本体だが、幅289mm、奥行き190mm、高さ91mmと、フットプリントはB5よりすこし横長で奥行きが短い。上部にある溝は、iPadを立てかける部分だ。背面に脚部があり、本体は斜めに浮き上がった状態となる。裏面はほぼ放熱用のスリットで、ファンレスで動作する。

厚みはあるがフットプリントはそれほど大きくない

どこかで見たことがあるような……と思って調べたところ、KVMスイッチメーカーとして知られるATENの「StreamLIVE HD」こと「UC9020」と見た目もスペックもそっくりだ。もしかしたらこれのOEMなのかもしれない。だとしても、本機の方が多少安いのと、アイ・オー・データ機器の保証とサポートが全国どこでも受けられるというのがメリットである。

フロントパネルには数字の書かれた8つのボタンがあるが、これは入力ソースを選ぶのではなく、iPad上の専用アプリ内で作成したプリセットを叩くためのボタンだ。本体のみでも動かない事はないが、各プリセットがどうなってるのかはiPad上でしかわからないので、事実上運用には必ずiPadが必要になる。

8つのシーンボタンがポイント

右側のフェーダーはオーディオ用ではなく、各プリセット間を繋ぐためのトランジションレバーである。中央上部にはSTREAMINGと書かれたボタンがあり、あらかじめアプリにRTMPまたはRTMPSを設定しておくことで、PCレスで本機から直接ストリーミングすることができる。左側の白い枠で囲われた部分はオーディオ設定部分だ。このあたりはあとで説明しよう。

背面をじっくり見るとスペックがだいたいわかってくる。映像入力はHDMIのみで、入力1だけ4K/60p対応、スルー端子が隣にある。入力2がAとB2つあるが、この2つは同時に使用できず、プリセット内でどちらかを選んだのち、本線に出す事ができる。

背面端子。Wi-Fiは内蔵しない

オンラインに映像を出すには、LAN端子を使用する。無線LANは内蔵していない。もっともネットワークアクセサリとして、有線をWi-Fiに変換するデバイスもあるので、スピードが十分出ていればそれを利用する事もできる。隣のUSB端子はファームウェア更新用だが、電源は取れるのでこうしたアクセサリの電源ポートとしても使える。

隣のRCA端子はオーディオ機器用入力、マイク入力はフォーンジャックだ。今マイクはミニジャックのほうが多くなっているが、それらはフォーンジャックへの変換を使えば利用できる。なおマイクゲインは、+30dB,+24dB,+18dB,+12dB,+6dB,0dBの6段階で設定できる。

右側面にはUSBポートがあり、ここにiPadを接続する。端子がLightningのモデルは付属のUSB-A - USB-Aのケーブルを使用するが、別途iPad用のLightning - USBカメラアダプタが必要だ。USB-Cのモデルは付属ケーブルだけで対応できる。なお本機とiPadを接続した場合、iPadは充電されないので、iPad側はしっかり充電してから接続する必要がある。

右側にiPad接続用のUSBポート。隣はモニタ用イヤホンジャック
反対側は端子類なし
付属のUSB-Cケーブル2種

専用アプリ「LIVEACROSS」も見ておこう。起動すると、6ページのチュートリアルが展開し、大まかな操作方法がわかるようになっている。アプリはビデオ、オーディオ、設定の3つのタブに分かれており、iPadで行なった変更を本体に流し込んで動作させるというスタイルだ。デフォルトのシーンプリセットが機能説明も兼ねており、これらのシーンがどういう設定で作られているか研究して、自分のやりたいことを繋げていくというのが近道だろう。

起動するとチュートリアルが表示される
コントロール用画面

多彩な機能を一元化した構造

ではまず、映像プリセットである「シーン」の構造がどのようになっているのか調べてみよう。

画面一番下の「メディア」欄には、HDMIからの入力ソースが並ぶ。HDMI2の入力にはA/Bの切り換えがある。「デュアルディスプレイ」はHDMI1と2が同時に配置される。これは左右のスプリットか、PinPかを選択できる。4つめは「背景」で、単純なマットカラーや画像を入れ込むことができる。ここが合成画面の一番下だ。

下地となるメディア欄と、上に被さるオーバーレイ欄の2層構造になっている

その上にあるのが、「オーバーレイ」欄だ。ここにはテキストや写真、アルファチャンネル付きPNG画像をレイヤーとして配置できる。ここは最大で6つまでのレイヤーが設定可能だ。ここまでの機能を一般的なスイッチャーで実現するとなると、DVE 1チャンネルとキーヤーが6つ必要になるわけで、かなり能力が高い。

「テキスト」機能で文字の色や背景色を設定

トランジションは、本体パネルのフェーダーやAUTOボタンを押すとスタートする。カット切り換えも可能だ。またアプリ上で「クイックモード」をONにすると、シーンボタンを叩いた瞬間トランジションがスタートする。ワンマンで配信する場合はこちらのほうが使いやすいだろう。

音声については、HDMI1と2、マイク、ライン入力をミックスすることができる。HDMI1と2についてはAFVモードがあり、映像ソースが出力するのと連動して音声もONになる。別ソースを出せば自動的にOFFになるといった機能も使える。これらの音声はPGM出力にまとめることもできるが、コントロールパネルを使えば、マイクのみ、あるいはHDMI1のみをミキサーを通さず直接出力することもできる。

音声管理用のページ

写真などの静止画も扱う事ができる。これはiPad上の「写真」から選ぶというスタイルなので、iCloud経由でiPadに静止画を流し込むというのが手っ取り早いだろう。ただOSの都合上、サムネイルだけしかiPad内に保存されていない場合もある。このようなケースでは、静止画を出力するとかなりの低解像度で出力されてしまうことになる。使いたい静止画は、いったん「写真」上で編集モードにするなどして、元ファイルを本体へダウンロードしておく必要がある。

設定したシーンは、プロジェクト単位で保存できる

仕込んでしまえばあとは簡単

では実際にオペレーションしてみよう。今回はパソコンをHDMI1に接続して、PowerPointの画面を出している。またデジタルカメラをHDMI2のAに、アクションカムをHDMI2のBに繋いでいる。

まず文字のスーパーインポーズだが、シーンに文字付きのレイヤーを設定する事はできる。ただ、このレイヤーの中で個別に文字をフェードイン・アウトできるわけではない。これをやるには、レイヤーが載っていないシーンを作っておき、そのシーンとトランジションする必要がある。

実際のオペレーション

面倒な部分はあるのだが、乗せっぱなしのテロップがある時はこの仕様のほうが便利だ。加えてまったく別のテロップなどを用意したシーンとも、そのままダイレクトにトランジションすることができる。これを通常のM/E型スイッチャーで実現しようとすると、1M/Eで2DVEと12キーヤーを搭載するか、2M/Eで各段に1DVEと6キーヤーが必要になる。これは従来のM/E型ハードウェア・アーキテクチャではなかなかハードルが高い合成だ。

オペレーション中の画面

それが本機を使えば簡単にできる。一つ一つのシーンは、Adobe Photoshopなどのレイヤー構造と考え方は同じである。そのシーン同士がトランジションで切り替わるというだけだ。ハードウェア処理でここまでできるのは凄いことなのだが、使い方が簡単すぎるので凄さがほとんど伝わらないのが困ったところである。

HDMI2については、AとB2つの入力が使える。これはあくまでも1つの入力に対して2つ繋いでおけるというものだ。例えばシーン1に入力A、シーン2に入力Bを設定する事はできるが、シーン1と2の間でトランジションすることはできず、カットチェンジとなる。ただカットでも切り換えはできるので、上手く使い方を工夫すれば、HDMI3ソースを扱っているように見えるだろう。

AとBは交互になら使えるが、プレビュー画面には映像は反映されない

音声レベルはiPadアプリ上のレベルメーターで確認する事はできるが、表示に遅延があるので、ここはザックリ全体のレベルが確認できる程度と考えた方がいいだろう。リアルタイムの音声レベルは、コントロールパネル上のLEDで確認できる。

総論

BlackMagic DesignがATEM Miniで3万円台のスイッチャーを出しており、個人でスイッチャーを買う人もいるという状況のなか、12万円強のスイッチャーは高いという印象は残る。だができることの複雑さと、操作の簡単さを考えたら、12万円強はかなり安いように思う。

特に、専門のオペレータも技術者もいない状況で業務として配信をするようなケースでは、いくら安くても使いこなせないスイッチャーより、こうしたプリセットを仕込んでおいて叩くだけのような機器のほうが運用上は楽だろう。本体と繋がなくても、iPadのアプリ上でシーンの仕込みはできるので、複数人が入れ替わり立ち替わり1台のハードウェアを使うという事もできる。

複数のマイクを処理するためには別途ミキサーが必要になるのが難点だが、それはどのスイッチャーも同じである。企業のオンライン製品発表会であったり、ウェビナー、あるいはリモート授業といった用途では、やりたいことのパターンは限られる。逆にいれば、内容だけ変わるが映像パターンは同じにしたいというケースのほうが多いはずだ。

プリセット型は、アクシデントへの対応、例えば途中でカメラが故障して別のカメラをメインにするといった応用には弱い。しかしパターン化された内容の配信であれば、こうしたプリセット型スイッチャーは強い。

パソコンを使って配信するのがなかなかしんどいという場合の自己完結型スイッチャーとしては、なかなかいいポジションなのではないだろうか。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。