小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第972回
祝20周年! この20年でビデオカメラはどう変化したのか?
2021年2月3日 08:10
気がつけば20年
AV Watchがスタートしたのが21世紀の初め、2001年という事なので、20年が経過した事になる。この連載がスタートしたのがAV Watchスタートの1~2カ月後だったので、この連載も20年やってきたわけだ。その時生まれた子はもう成人しちゃうぐらいの長い時間である。イレギュラーで休んだことも少ないので、本当にたくさんの製品を実際に試す機会を得た。これは自分の人生の中でもとてつもなく大きな財産となっており、本当にありがたく思っているところである。
この連載で取り上げる製品ジャンルには何か縛りがあるわけではないが、テレビやプロジェクターは西川善司さんの大画面☆マニアがあり、オーディオは藤本健さんのDigital Audio Laboratoryがあるので、この連載はその間にあるもの全般という事になっている。ただ筆者の出自がテレビ放送技術者なので、必然的に映像関連製品の比重が多くなったというのが実情だ。
今回は20周年を記念して、これまで本連載で取り上げた製品群のうち、取り上げた製品が比較的多かったビデオカメラとレコーダに絞って、20年間でどういう変化があったのか、前編後編に分けて振り返ってみたい。まずは前半、ビデオカメラ篇だ。皆さんもその当時のことを思い出しつつ、お楽しみいただければ幸いである。
21世紀初頭、SDからHDへ
ビデオカメラは、今となってはカメラのメインストリームではなくなってしまったが、ストイックな写真の世界と違い、子供撮りがメインの家電に近い位置づけだったこともあり、様々なトライアルが生まれた分野である。解像度に関してはテレビ放送の影響を受け、記録方式ではDVDブームの影響を受け、映像利用ではインターネットの影響を受けた。最終的に多くの技術はミラーレス一眼へと受け継がれる事となったが、昨今ではリモート会議の増加により、記録ではなくライブカメラとしても使われるようになった。動画が撮れるカメラの用途は、ここ20年で劇的に拡がったと言える。
まず本連載の1回目で扱ったのは、キヤノンの世界初3倍モード搭載のDVカメラであった。
展開次第では大化けするかも!! 世界初の3倍モードDVカメラ「FV20」を検証する(2001年3月7日)
ただこの長時間モードは、普及しなかった。おそらくカメラでそれほど長時間撮影するニーズがなかったのだろう。むしろテレビ録画で展開すれば話は違ったかもしれないが、実はこの後すぐにDVDブームがやってくるので、DVテープはそっち方向には発展しなかった。
同年2001年には、ソニーが更なる小型化を目指して「MICROMV」フォーマットを誕生させた。メモリースティックよりも小さいテープを使って、MPEG-2で記録するカメラだ。「世界最小・最軽量」にまだ競争力があった時代である。
文句なしの世界最小・最軽量!! ソニーの新方式ビデオカメラ「DCR-IP7」緊急レポート(2001年9月12日)
しかしこれは同じテープ記録のDVに対してアドバンテージが見いだせず、比較的短命に終わった。その後DVテープもDVD勢に負ける事になるのだが、最初のDVD CAMは2000年に日立から登場している。初号機は連載開始前だったので取り上げていないが、2002年に2世代目をレビューしている。
ビデオカメラの常識を変える? 日立DZ-MV270 USB 2.0でストレージにもなる新DVDCAM(2002年8月21日)
なんだか2001年の話だけでこんなに書いてしまったが、当時はバブル経済崩壊から10年、「未来の21世紀」スタートをきっかけに、技術で世の中を明るくしたいというメーカーの思いがあったのだろう。
2000年末にBSでHD放送が始まり、2003年12月に地上波も都市圏からHD放送がスタートした。2003年にいち早く720pながらもHD撮影を可能にしたのが、ビクター(現JVCケンウッド)の「GR-HD1」だった。DVテープにHDを撮る「HDV」は、テープ撮影の寿命を伸ばしたとも言える。
ヤッベーもん見ちゃったヨ、ビクター「GR-HD1」ついつい長回ししたくなる、HDカメラのクオリティ(2003年5月14日)
そして2004年には、HDVフォーマット採用で1080i撮影可能な「HDR-FX1」がソニーから登場、日本ではHDといえば1080という流れを作っていった。以降HDVは、テープの時代が終わっても記録コーデックとして長く生き残ることとなる。
1080i撮影を実現したハンディカム「ソニー HDR-FX1」ついにビデオカメラもHD時代到来か?(2004年10月27日)
同じく2004年には、HDDに記録するビクター「Everio」がデビューしている。追従メーカーは多くなかったが、大容量記録ビデオカメラとして長寿シリーズとなった。前年のHDVといいEverioといい、当時ビクターは動画記録のリーディングカンパニーだった。
ムービーカメラの新時代を拓く? ビクター「Everio」 HDDに録画するビデオカメラ「GZ-MC200」(2004年11月10日)
2005年、記録メディアは戦国時代へ
この時点でSD解像度ではDVDやHDDなど脱テープが進んできたが、HDに関してはまだテープ記録が主力だった。しかし2005年にAVCHDフォーマットが登場し、HDでもノンリニア記録が幕を開けた。
ええ! もう出ちゃうの? AVCHD対応HDハンディカム 9月発売のDVD型、ソニー「HDR-UX1」を試す(2006年8月9日)
お忘れの方も多いと思うが、AVCHDは最初、8cmDVDメディアにHDを記録するフォーマットとして登場したのだ。そこからHDDやメモリー記録へと展開が広まっていった。
SDカードにハイビジョン記録、Panasonic「HDC-SD1」明らかになったAVCHDのもう一つのカタチ(2006年12月13日)
ただ、AVCHDの登場で市場はメモリー記録にどっと流れたかというとそんなことはなく、テープ、DVD系、HDD、メモリー記録が乱立状態となっていった。さらに2007年には日立が8cmBlu-rayメディアでハイビジョン記録するブルーレイカムを立ち上げ、ビデオカメラ業界はどんどんまとまりを欠く状態となっていった。
ついに出たBDCAM! 日立「DZ-BD7H」日立初のHDカメラ、その実力は?(2007年9月5日)
そんなビデオカメラ業界に小さな変化が起こる。2008年のキヤノン「EOS 5D Mark II」登場である。フルサイズセンサーで1080HDを撮る世界観に、世界中がやられた。当時はごく一部のプロが使い始めた程度だったが、シネマテイストを取り入れるテレビ番組も出てきたことで、時代が大きく動いていった。
一眼ハイビジョン再び! 今度はCanon EOS 5D Mark II 動画のプロも注目する1080/30p撮影の魅力(2008年11月26日)
EOS 5D Mark IIが起こした小さな波紋は、その後10年かけて他社を巻き込みつつ大きな波となり、やがてビデオカメラを押し流して行くことになる。さらには動画にあまり力を入れなかったカメラメーカーも、淘汰の渦に巻き込まれた。
しかし2009年に記憶しておきたいビデオカメラがある。ソニー「HDR-XR520V」だ。本機で初めて裏面照射CMOS、つまり「Xmor R」が搭載されたのだ。以降、CMOSの世界ではソニーのリードが確実なものとなった。
'09年春頂上決戦!? HDR-XR520V vs HF S10 数年に一度の革命を一気に成し遂げたHDR-XR520V篇(2009年2月4日)
また09年には、パナソニックが今も続くGHシリーズの初号機「GH1」を発売している。ミラーレスながら動画に強いというコンセプトは、今なお輝きを失っていない。
AVCHDで動画が撮れる一眼、Panasonic「DMC-GH1」デジタル一眼初のフルタイムAF、マニュアル露出も(2009年5月7日)
2010年、ミライのカメラは?
未来の動画カメラは、ビデオカメラなのか一眼カメラなのか。悩みの中2010年に登場したのが、ソニー「NEX-VG10」だった。基本アーキテクチャはミラーレスだがスタイルはビデオカメラという、ハイブリッドモデルである。 APS-C機だが、マウントアダプタでフルサイズ用αレンズも使うことができた。
ウワサの「NEX-VG10」で撮ってみる レンズ交換可能なハンディカムの威力! (2010年9月8日)
逆に基本アーキテクチャはビデオカメラだが、スタイルはデジタルカメラというカメラも2011年にJVCから登場した。だが歴史を紐解けば、どちらも正解ではなかったようだ。
デジカメとムービーカメラの合体、JVC「GC-PX1」なんか変なカメラキター! (2011年3月2日)
2010年という年は、3Dブームのスタート年としても記憶しておきたい。ご承知のように長くは続かなかったが、技術的には確立し、現在のVRシーンを支えている。
専用レンズで3D撮影も可能、「HDC-TM750」AVCHDフォーマットで撮影できる3D映像 (2010年9月15日)
ビデオカメラも、生き残りをかけてさまざまなイノベーションを生み出していった。2012年のソニー「HDR-PJ760V」は、物理的にレンズユニット全体を動かして手振れ補正してしまう「空間光学手振れ補正」を搭載した。これ以降手ぶれ補正は機能インフレを起こし、このレベルまで補正しないと「弱い」と言われるようになっていった。
目玉ギョロギョロのカムコーダ、ソニー「HDR-PJ760V」もんのすごい手ブレ補正+プロジェクタも楽しい!(2012年3月14日)
また同年2012年には、JVCから世界初のハンドヘルド4Kカメラが登場している。しかし当時は4Kを見るのも大変で、HDMIケーブル4本を使っていた。また当時のPCでは編集も大変で、制作環境が整うにはそこから数年を要した。
HDの4倍! 4K対応ハンドヘルド、JVC「GY-HMQ10」こんなに簡単&低価格に4Kが撮れちゃうなんて!?(2012年4月11日)
2012年、ミラーレスの夜明け
カメラの歴史全体で見ると、2012年発売のソニ「NEX-VG900」の登場も記憶しておきたいところだ。これまでAPS-Cのマウントだと思われていたEマウントに、フルサイズセンサーを入れ込んだ最初のカメラである。ミラーレスではなく、ビデオカメラが最初だったのだ。当時のソニーはデジカメ動画の波を横目で睨みつつも、ビデオカメラの方が自由になんでも挑戦していた雰囲気があった。
“Eマウントなのにフルサイズ”の衝撃、ソニー「NEX-VG900」久々にソニーSUGEEEE!を体験、本家本元の掟破り(2012年9月12日)
そして2013年以降、ソニーはα7シリーズを始動させてフルサイズミラーレスを先導し、無印、S、Rの個性の異なる3タイプを展開、他社が追従する2018年までの5年間で盤石の地位を築き上げたのはご承知の通りだ。
Eマウントでフルサイズ、ソニーα7で動画を撮る フルサイズらしい端正な絵。多彩なレンズの組み合わせ(2013年12月4日)
2014年は、4Kカメラが本格始動した年だった。特にパナソニックは出るもの出るもの全て4Kで、ミラーレスの「GH4」、ウエアラブルの「HX-A500」、ネオ一眼「FZ1000」、コンデジの「LX100」、ビデオカメラの「HC-X1000」と、年内に4Kカメラを5モデルもリリース、その開発スピードに舌を巻いた。
いよいよ発売! 4K対応ミラーレス、パナソニック「DMC-GH4」プロも注目する4K動画の実力をチェック(2014年5月14日)
2015年になると、ドローンによる空撮にチャレンジする人も増えてきた。DJIの「Phantom3 Pro」、Parrotの「Bebop Drone」が登場したが、一方で首相官邸に故意にドローンを墜落させたり、長野県善光寺の法要中に中学生が誤ってドローンを墜落させるといった事件をきっかけに、ドローン規制に大きく傾いた年でもあった。まさにアクセルとブレーキを一緒に踏むような状態となり、製品はバンバン出るがレビューしようにも飛ばせる場所がない状況になっていった。
もはや空飛ぶカメラ? 手軽にドラマチック空撮Parrot「Bebop Drone」(2015年4月8日)
話題の「Phantom 3 Pro」をつくばのドローン練習場でテスト! 安定性も向上し、4K空撮対応(2015年6月10日)
2016年は、スマホカメラのデュアル化がスタンダードになった年である。4K化はすでに前年に果たしていたが、iPhone 7 Plusで広角と望遠の2つのカメラを搭載した。それ以前にもデュアルカメラを搭載したスマホはあったが、特殊モデルという扱いだった。それをiPhoneが採用したことで、一気に当たり前になった。
デュアルカメラに強力手ブレ補正、iPhone7/7 Plusの動画性能を試す(2016年9月28日)
2017年は、HDRがコンシューマに降りてきた。ソニー「FDR-AX700」である。映画ではすでにLogで撮影してカラーグレーディングするのが当然だったが、一般人はそんなことはできない。そこで決め打ちでHDRが撮れるHLGで撮影、対応テレビに繋げばすぐHDRで見られるという方向性を打ち出した。
民生機初! 4K/HDRで撮影可能なカムコーダ、ソニー「FDR-AX700」(2017年12月13日)
しかし振り返ってみれば、ビデオカメラの時代はここで終わったのではないだろうか。2018年からは各社ともフルサイズミラーレスに注力し始め、ニコン「Z 7/Z 6」、キヤノン「EOS R」、翌年にパナソニック「S1」と続き、動画カメラの主戦場はフルサイズミラーレスへと移った。
20年が過ぎて……
DVカメラのレビューからスタートした本連載だが、当時はビデオカメラをレビューするWEBメディアもなく、お手本となる記事や評価軸もなかったので、非常に苦労しながら連載を進めていった記憶がある。手探りで続けているうちに、カメラ貸し出し前にメーカーさんが説明会を開いてくれたり、設計や商品企画の方にインタビューする機会にも恵まれた。そうしてレンズ設計やセンサー、エンコーダ、記録メディアといった多岐に渡る技術にも詳しくなり、こうした知識は他の製品レビューでも活かされた。
またレビューのあとも、もう少し詳しく感想を聞きたいと、メーカーさんとディスカッションする機会にも数多く恵まれた。そこでの改善点や新機能のアイデアが次期製品に繋がったのを見て、原稿には書かないがうれしかったものである。
今回触れられなくて残念だった製品群がいくつかある。1つは、GoProを起点とするアクションカメラ文脈である。2010年にNABで始めてGoProが世界デビューした時から取材してはいるのだが、本連載では初期の製品をレビューしておらず、今回のDVカメラからの流れの中では組み込めなかった。
またTHETAに始まる360度カメラの流れも、スマートフォンの動画撮影の進化も同じく組み込めなかった。またいつかこうした流れをまとめる機会もあるだろう。
ビデオカメラは子供の成長とともにあるものなので、お子さんのいる方は懐かしく思いだされた製品もあったのではないだろうか。今となっては古くなってしまった技術も多いが、振り返えれば懐かしさだけではなく、今でも使える貴重なアイデアやヒントもあるだろう。