小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第993回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

AirPods Proのライバル!? JBL/Ankerスティック型注目機を聴く

今回比較した3種。左からAirPods Pro、JBL LIVE PRO+ TWS、Anker Soundcore Liberty Air 2 Pro

意外なトレンド?!

完全ワイヤレスも、今となってはイヤフォンの「当たり前」になった感がある。初期の頃は音が途切れる、バッテリーが持たない、ノイズキャンセリングが無いなど色々問題があったが、ここ1~2年ぐらいで次々と課題をクリアしてきており、価格もだいぶ下がってきた。

そして買いやすくなったあたりから、複数台持ちが当たり前になってきたように思う。機能やデザインをTPOに合わせて使い分けるようになっており、“究極のカタチへ突っ走る”というよりも、“複数のスタイルが共存できる”市場を形成しているようだ。

ここ最近の注目株はソニーの「WF-1000XM4」で、1位独走だった「AirPods Pro」を追い越した格好となっている。ただあまりの人気故に生産が追いついておらず、在庫切れのショップも多い。

一方でAirPods Proと第2世代AirPodsは発売から2年が経過しており、そろそろ次期モデルの声も聞かれるところだ。本体エンクロージャーからスティックが伸びる姿は、初代の頃から「耳からうどん」などと揶揄されており、次期モデルではこのスティック部分が短くなるか、無くなるのではないかと予想されている。

ところが、である。ここに来て、フィット感の良さからAirPods Pro似のスティックタイプの人気が復活してきているようなのだ。そこで今回は、AirPods Proに似たデザインのニューモデル2つをテストしてみたい。一つは6月25日発売のJBL「LIVE PRO+ TWS」で直販価格17,800円、もう一つは1月に発売したAnker「Soundcore Liberty Air 2 Pro」(12,980円)だ。

特にLIVE PRO+ TWSは、JBLオンラインストア、JBL Store(横浜)、およびJBL公式楽天市場店での限定発売となっており、試聴する機会も少ないと思われる。今回はAirPods Proとも比較しつつ、注目の2製品をじっくり試してみたい。

スティックタイプ再評価のわけ

今となっては完全ワイヤレスの代名詞的存在となった初代AirPodsが発売されたのは、2016年暮れの事だった。iPhone 7と同時期の発売である。それまで完全ワイヤレスは、ボディ内に全部を埋め込むスタイルで、耳から大きく飛び出してしまうのが難点だった

耳から飛び出すと見た目もよくないし、なによりも重心が外側に来るので、ウォーキングやランニングといった体の振動で外れやすい。そのため、カナル型イヤピースで耳奥まで挿入する必要があった。

そんな中、AirPodsはかなり異質な方法論をとった。従来のワイヤードイヤフォンのようなエンクロージャで、イヤピースを使わず本体をそのまま耳穴に乗せる、いわゆるインイヤー型で登場した。AirPods Proはノイズキャンセリングの都合上イヤピースを併用するが、耳奥まで挿入するほどの長さでもない。そしてエンクロージャーから伸びたバー部分にアンテナとバッテリーを詰め込み、耳から飛び出していた部分を下にぶら下げるというアプローチであった。

スティック部分にパーツを分散する設計のAirPods Pro

こうすることでフィット感がよく、かつ外れにくい。「耳うどん」と言われたスティック部は、元々ワイヤードのイヤフォンもそういう形状であったために、デザインとしては非常に妥当であり、逆にこんな細長いところによくバッテリーを入れたなと感心したものである。

こうして完全ワイヤレスは、スティックタイプと、ボディ全入れタイプに分かれていった。前者の代表格がAirPodsで、後者の代表格がソニーWF-1000シリーズというわけである。

ここに来てスティックタイプの人気が復活してきているのは、装着感の良さと軽さ、外れにくさ、加えて着脱の楽さだろうと思う。それというのも、昨今はリモートワークが当たり前となり、集中するためにノイズキャンセリング付きの完全ワイヤレスを使っているという人が増えている。

そして長時間の装着となれば、耳穴に負担をかけず、軽量で、家事などでバタバタしても外れないスティックタイプが好まれる、という流れだ。通勤時の利用がメインだった2019年までとは、イヤフォンの主戦場が変わった、と言える。

お手本に忠実な設計

ではJBLのLIVE PRO+ TWSから見ていこう。本機はフィット感を重視し、JBLとしては国内市場初のショートスティック型となる。ブラック 、ホワイト、ベージュの3色展開。今回はブラックをお借りしている。

LIVE PRO+ TWS ブラックモデル

スティック部にバッテリーやアンテナを配置し、本体の厚みを15mmに抑えた。これにより、窪みが浅い耳から大きな耳まで幅広い形状にフィットするという。ドライバは11mmのフルレンジダイナミック型。

エンクロージャー部を小型に抑えた設計

また最適なフィット感が得られるよう、5種類のイヤピースを同梱している。LとMは深さ違いで2種類ずつ、Sは1種類である。

5種類のイヤピースを同梱

フィッティング具合は、耳型にはめてみた様子を見ていただければお分かりのように、エンクロージャ部が耳の窪みにぴったり入り、飛び出すのはスティック部だけである。耳穴への入り込み角度も良好で、装着に無理がない。

耳のくぼみにぴったり

対応コーデックはSBCとAAC。本体外側に配置されたフィードフォワードマイクと、鼓膜に近いドライバーユニット側に配置するフィードバックマイクを使う、ハイブリッド型ノイズキャンセリング機能を備える。

また通話に関しては、4基のビームフォーミングマイクを使用し、環境音と声を分離して集音できる。加えてどちらか片方だけ使える「Dual Connect」機能を搭載。片方を充電しながら交互に使用することができる。連続のリモート会議などでは重宝しそうだ。

NCオンでイヤフォン本体の再生時間は約6時間。ケースと合わせて24時間分の再生に対応する。「Google Fast Pair」にも対応しており、1度接続すれば、同じGoogleアカウントを持つ他のデバイスでも簡単にペアリングできる。

Googleアカウントに紐付けされてペアリングされる

設定アプリは「My JBL Headphones」で、イヤピースのフィット状態を測定できる。またノイズキャンセリングも3モードを備え、Bluetooth接続も3タイプを備える。またイコライザもプリセット3つのほか、マニュアル設定は完全にパラメトリックで柔軟な設定が可能だ。

設定アプリの「My JBL Headphones」
フィット状態の確認機能もある

続いてAnker「Soundcore Liberty Air 2 Pro」を見てみよう。本機は今年1月に、同社初のノイズキャンセリングイヤフォンとして登場した。前作となった「Soundcore Liberty Air 2」からの進化版という位置づけだが、本体もケースも新デザインとなっている。同時に廉価モデルの「Soundcore Life A2 NC」(9,990円)も発売されているが、こちらはスティックタイプではない。

Anker製品はAmazonで頻繁にタイムセールやプライムデーのセール品となっており、本機も先日のプライムデーで3,000円 OFFになったばかりである。カラーはブラック、ホワイト、ネイビー、ピンクの4色で、今回はブラックをお借りしている。

Anker初のワイヤレスノイキャン「Soundcore Liberty Air 2 Pro」

ドライバ径は11mmで、10層に積層された独自のPureNoteドライバを採用。剛性を高めたことで従来比45%の低音増加が謳われている。エンクロージャは外側に行くほど絞られており、耳からの飛び出し部分が細身に見えるよう工夫されている。

こちらもエンクロージャは小さめ

イヤーピースはXXXSからL+まで、計9種類が付属。標準ではMが本体に装着されている。これだけあればどれかは必ず合うはずだ。

パッケージ内に大量のイヤピースが

フィッティングはこちらもエンクロージャが耳穴にすっぽり収まるサイズで、装着感は良い。イヤピースの高さもあまりなく、耳穴に軽く入れるスタイルだ。

耳穴への収まりも綺麗

対応コーデックはSBCとAAC。ノイズリダクションは、外側と内側2つのマイクを組み合わせるハイブリッド式アクティブノイズキャンセリング。このあたりのスペックはLIVE PRO+ TWSとよく似ている。

NC ONでイヤフォン本体の再生時間は約6時間。ケースと合わせて21時間分の再生に対応する。設定アプリは「Soundcore」で、こちらも密閉感を測定できる機能を備えている。加えて個人の聴覚感度に応じたEQ調整を行なうHearIDを搭載しており、測定後もそれをベースに細かく調整できる機能を備えている。

設定アプリは「Soundcore」
フィット状態の確認機能もある

ケースのコンパクトさはLIVE PRO+ TWSのほうが上だが、スペックはほぼ互角と言っていいだろう。

ケースサイズはJBLが最小

聴き応えのあるサウンド

では早速音質をチェックしてみよう。両モデルともaptX非対応、AACメインということだが、JBLのLIVE PRO+ TWSがGoogle Fast Pair対応ということで、そのあたりのテストも兼ねてスマートフォンはGoogle Pixel4a 5Gを使用している。こちらはAACにも対応しているので、音質的には問題ないはずである。

まずLIVE PRO+ TWSだが、低音にパンチ力があり、高域表現のカラッとしたサウンドだ。OASISの「ワンダーウォール」のイントロではアコースティックギターのストロークも華があり、なかなか聴かせる。低音は下から潜り込んで持ち上がってくる感じはあまりなく、サウンド的に旨味のある200Hz付近に特徴を持たせたサウンドだ。ボーカル帯域には甘みを感じさせ、耳障りがよい。

ビートルズの「サムシング」ではタム回しがボンつくところだが、本機はギリギリ耐えて、タムの音色を表現できているのが聴き取れる。

とはいえ、強力なパラメトリックEQを搭載しているので、ある意味サウンドはどうにでもできるという強みがある。気に入る音を作っていく楽しみもあるだろう。

柔軟なパラメトリックEQを装備

ノイズキャンセリングは「日常モード」「トラベルモード」「アクティブモード」の3種類がある。室内使用において、エアコンや扇風機といったファンノイズは消えるが、人の喋り声は遠くで聞こえる程度のキャンセル力だ。日常モードとトラベルモードは、今回テストした限りではあまり違いがわからなかったが、乗りもの特有の低音ノイズがカットできるのがトラベルモードなのだろう。「アクティブモード」はジョギングなどで使用するのを想定しているのか、車のロードノイズはあえてキャンセルしないチューニングになっている。

ノイズキャンセリングは3モード

Soundcore Liberty Air 2 Proは、HearIDによって調整されたEQがセットされるのが特徴だが、筆者の年齢的に高域が聞きづらいだろうと判断されたのか、かなり高音寄りのサウンドになってしまっている。しかしこれではかなり高域が持ち上がりすぎで聴き疲れするので、HearIDのカーブに基づいて自分でチューニングする方法をとった。

聴覚感度を測定してEQが最適化されるHearID機能

硬質な振動板を使っていることもあり、音の歯切れやスピード感を感じさせる音だ。ボーカル帯域もザラリとした生々しさがあり、解像感の高い音が好みの人には合うだろう。ライドシンバルのような金物系の鳴りも涼しげで、無理がない。完全にノーマルの状態だと低域も結構出ているが、HearIDでは硬質な音に変えられてしまっている。これに頼るのも良し悪しだろう。

こちらもかなり自由度の高いEQを装備しており、ある意味音はどうにでもなる感じだ。元々高域特性に伸びがあって無理がないので、サウンド的にはいじりやすい。

EQの自由度も幅広い

ノイズキャンセリングは、「交通機関」「屋内」「屋外」「カスタム」の4タイプから選択できる。キャンセル力はかなり高く、エアコンなどのファンノイズなどはもちろん、人の会話もかなり低減される。筆者が試した限りでは、「交通機関」と「屋内」は違いがよくわからなかった。おそらくこれも、交通機関車内特有の低音がテストできなかったせいだろう。「屋外」はJBLの「アクティブ」同様、あえてロードノイズを取り入れたモードのようである。

ノイズキャンセルがカスタマイズできるのは面白い機能

「カスタム」はサークル状のコントローラで制御するのだが、単純にノイキャンの強弱ではなく、「効き方を変える」ようなコントロールになるようだ。個性的な周波数帯域のノイズがある場合に試してみると、ハマるポイントがあるかもしれない。

リモート会議向け通話性能もテスト

最後に、周囲がうるさい場所の通話で、どれぐらいノイズがキャンセルできるのか、あるいは音声がどれぐらい拾えるのかを歩道でテストしてみた。詳しくは動画を見ていただきたいが、両製品とも背後のロードノイズはほとんど拾っておらず、マイク使用時のノイズキャンセルもかなり効くことがわかった。

LIVE PRO+ TWSは通話音声がフラットで、自然な感じで通話ができる。時折音声がクリップするのは、周囲のノイズレベルではなく、風からのフカレが原因だろうと思われる。

Soundcore Liberty Air 2 Proは、通話音声が硬く、明瞭度は高い。言葉を聞かせやすいという点では優秀だが、ナチュラルというわけではない。どちらかというと電話音声に近づけたように思える。

通話によるノイズキャンセルのテスト

比較としてAirPods Proをテストしたが、音声通話としてはクリップしてしまって全然ダメだ。風のない場所ならそこそこ使えるのだろうが、2019年発売当初はまだイヤフォンによる音声通話がそれほど重要視されていなかった時代でもある。その後に通話技術はものすごく進化したので、その差が出たということだろう。このあたりは次期新モデルの仕上がりに期待したいところである。

総論

イヤフォンにおける日常使いとはなにか、を考えると、第一に装着感が軽く長時間着けていられること、ノイズをカットして集中できること、音楽再生も変な癖がないことぐらいが条件だったわけだが、ここにきて「リモート会議にも使えること」が加わった。Soundcore Liberty Air 2 Proが売れているあたり、そのへんに注目ポイントがあったのかなと思う。

フィット感に関しては、筆者の体感では“LIVE PRO+ TWS > AirPods Pro > Soundcore Liberty Air 2 Pro”の順になる。さすがにJBLはフィット感重視で作られていることもあり、重量バランスなども含めてよく考えられている。

ノイズキャンセル力については、“Soundcore Liberty Air 2 Pro > AirPods Pro > LIVE PRO+ TWS”の順になる。Soundcore Liberty Air 2 Proは同社初のノイキャンだが、初号機からかなりレベルの高いものを出してきたなと思う。

両モデルともAirPods Pro対抗という事になるだろうが、通話性能まで考えると、今からAirPods Proを買うという選択肢はないかなと思う。ただApple製品には空間オーディオ対応という強力な武器があるのが悩ましいところだ。

ノイキャンありだけど耳がラク、という選択肢が出てきたことは、非常に好ましい傾向である。今後スティックタイプの魅力は、そのへんになりそうだ。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。