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技術者集団ピクセラ本社に潜入、 Android TV端末「Smart Box」向けチューナ登場?
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- ピクセラ
2018年2月27日 08:00
PC用デジタルTVチューナの代表的なメーカーと言えばピクセラ。AV Watch読者にとっては、お馴染みの企業だろう。USB接続でWチューナの「PIX-DT295W」を筆頭に、スマートフォン・タブレットでのワイヤレスTV視聴を実現する製品まで、まさにフルラインナップを揃えている。
そのピクセラが、ここにきて新しい製品ジャンルに取り組んでいることをご存じだろうか。その第一弾が、昨年10月に発売した「Smart Box(KSTB5043)」。Android TVを採用した4K対応の小型セットトップボックス(STB)だ。
実はこの製品、今後の製品展開を図る上で重要な戦略モデルだという。どんな未来図を描いているのか? そのヒントを得るべく、大阪市にあるピクセラの本社に潜入した。
始まりは「日本初のMac用プリンタドライバー」
ピクセラは、私鉄・南海電鉄のなんば駅に隣接する商業エリア「なんばパークス」の超高層ビル25階に本社を構えている。エントランスには、これまで販売された製品の一部が展示されており、アナログTV用キャプチャーユニットには思わず「懐かしい!」と呟いてしまった。これだから会社訪問は楽しい。
最初に話を伺ったのは、経営企画本部 副本部長の森佳昭氏。ピクセラの創業は1982年。今でこそTVチューナで著名だが、創業当時はパソコン周辺機器の受託開発がメインだった。創業の地が大阪・堺ということもあり、シャープとの関係が非常に深かったという。
最初のターニングポイントとなったのが、日本初となるMacintosh用プリンタドライバの開発だ。1990年代に遡るが、当時はまだプリンタを動作させるドライバがOS標準で提供される事は少なく、プリンタの機器メーカーはドライバをフロッピーディスクやCD-ROMのかたちでパッケージに同梱し、顧客に提供していた。
しかしMS-DOSやWindowsなど、数あるOSごとにそれぞれ異なるドライバを作るのは一筋縄ではいかない。そんな中、ピクセラがMac用のプリンタドライバーを手がけていた訳だ。具体的には、当時キヤノンが販売していたインクジェットプリンタ「WonderBJ」シリーズ向けのMac用別売ドライバは、まさにピクセラが開発した。
「日本初でかつオンリーワンな製品だったため、その他のプリンタメーカーさんからもOEM供給の話を非常に多くいただきました。ただ、最初はインクジェットプリンタ用のドライバーだったんですが、それがPostScriptなどに話が膨らんでいき、さらにはネットワークの低層部も考慮した開発などにも繋がっていきました」(森氏)。
こうした要望に応えられたのは、同社が高いスキルを持った技術者集団だったからだ。ちなみに、森氏の入社は2000年だが、実は同社における営業職採用の第1号とのこと。1982年の創業から10数年は、技術者の方々が営業活動もしていたそうだ。ピクセラが「技術の会社」である証明のようなエピソードだ。
ドライバ開発で磨いた「マルチOS対応」
こうやってプリンタメーカーと良い関係を築いていく中で、ソフトウェア開発力が認められていき、業務領域は周辺へと広がっていく。まずはプリンタのバンドル用ソフト。メーカーはプリンタ本体の拡販もちろん、ユーザーのプリンタ利用頻度を上げて、インクなどの消耗品の売上も増やしたい。そこで静止画編集・加工ソフトの開発をピクセラに依頼。「PixeCRAFT」などのソフトを世に送り出した。
静止画編集からスタートしたこの流れは1990年代後半以降、IEEE 1394やDVテープの登場を経て、動画へと辿り着く。「ピクセラとしてまず手がけたのは、(動画から)静止画キャプチャを行なうためのソフトでした。その後、ビデオカメラメーカーのご依頼で動画編集ソフトも作るようになりました」(森氏)。
加えて、2000年前後からはデジタルカメラに動画撮影機能を搭載した機種が増えていく。ここでまた、カメラとPCを接続するためのドライバが必要となり、ピクセラの開発力が活かされた。バンドル専用の動画編集ソフト「ImageMixer」の開発にも着手。一時期は国内の全カメラメーカーに採用されるほどのヒット商品となった。最大13カ国語という多言語対応はもちろん、ユーザーサポートの都合上、Windows/Macでユーザーインターフェイスを共通化していほしいという要望にも応えた労作だ。ビデオカメラ用のバンドル編集ソフトは、現在もキヤノンやJVCケンウッドの製品で採用されている。
創業からの約20年、OEM先からの要望にきっちりと答え続けていく中で、ピクセラとしての強みも蓄積されていった。「当時は営業のセールストークで『インターフェイスならピクセラに任せろ』とよく言ってました。パソコンとプリンタのように、デバイスとデバイスを繋ぐには必ずドライバであったり、ミドルウェアなどを色々開発する必要があります。OSの種類がWindows、Mac、その後はLinux、Android、iOSと色々増えていく中でも、やはりそういった開発の需要がある。この『マルチOS対応』が2018年のピクセラにも繋がるコアコンピタンスになっていますね」(森氏)。
ビデオカメラ用ソフト開発が、なぜPC用チューナへと行き着いた?
ビデオカメラやデジカメの周辺ソフトウェア開発は、現在のピクセラの主力製品であるデジタルTV用チューナ開発に繋がっていく。
「当時はまだビデオ撮影というと、年に数回しか使われていないのが実情でした。(旅行や結婚式といった)特別なイベントの時だけ使われるという。ただ、開発者からみると『毎日使ってもらえる製品を作りたい』という発想がどこかにあったんです」(森氏)。
折しも1990年代後半は、それまで高価だったハードウェアエンコーダーの低価格化がまさに進展していた時期。その立役者だったのが、シリコンバレーにあった半導体メーカーのiCompression(当時の社名)。ピクセラはそれまでの様々な取引の実績から、iCompressionとも縁があり、同社のハードウェアエンコーダーを採用した『毎日使ってもらえる製品』、つまりTVチューナの開発に乗り出すこととなった。
その頃、国内市場でもTV視聴機能を内蔵したデスクトップパソコンは存在した。しかし、その多くは番組を単に見られるだけ。ピクセラはそこで一工夫し、「TV番組をパソコンに録画できないか」と考えた。
そしてTVチューナカードの試作品が完成。しかしPCメーカーとはコネクションがない。そこで森氏らが各メーカーを訪ね、売り込みをかけた。「コンパック、ゲートウェイなど色々な会社を回りましたね。初めて採用していただいたのが、当時Priusを展開していた日立さん。神奈川の海老名に事業所がありましたね。弊社製品のご採用後、PC本体シェアが伸びたという有り難い話もいただきました」(森氏)。
ピクセラが開発したTVチューナは以後、その他のメーカーでも採用が進んでいった。ちなみに、ピクセラはファブレス(自社工場を持たない)だが、協力工場を通じて、各種の接続ケーブルや、コンパクトフラッシュカードリーダーを製造するノウハウを持っていた。それを活かして、パソコン向けのTVチューナカードが開発・生産されたそうだ。
地上デジタルへの移行と、知られざる暗闘
ここまではTVがアナログ放送だった時代の話だが、2003年12月1日からは地デジの放送が一部エリアでスタート。放送番組がデジタル化されると、ともすれば無劣化で映像を違法コピーできてしまう。そのため、国内の電波利用製品の標準規格化作業などを主導するARIB(一般社団法人電波産業会)は、PCにおける地デジの視聴・録画には極めて慎重な立場をとっていた。当初は、PC向け地デジチューナの単体販売すら許容されていないほどだ。
この課題への切り札となったのが、富士通製のチップだった。「兵庫県の明石市に富士通の半導体研究所がありまして、そこがセキュア通信のためのチップを開発したんですね。その用途を色々考える中で、“これを地デジチューナに応用しよう”と。そこへ富士通の電子デバイス事業所、当時は『電デバ』と呼ばれていました、が加わって共同開発をし、コンテンツ保護の枠組みを作りました」(森氏)。
こうして、地デジ録画機能を備えた富士通製PCが世に送り出された。最初のモデルは液晶一体型デスクトップだったが、これは前述の通り、チューナの単体販売制限問題を回避するための側面も、少なからずあったようだ。しかし、それでもARIBを説得するのに1年近い時間がかかったという。
プログラム面での開発にも多くのリソースが割かれた。数千ページにおよぶARIBの仕様書を読み込み、あらゆる信号のやりとりを暗号化し、データ放送用のBMLブラウザもゼロから新規開発した。「この時は、社内の大会議室を潰して、机とパソコンをバーッと並べて、そこで作業したんです。それでも開発に1年かかりました。その後にもワンセグ絡みの案件などはありましたが、開発規模は比べものにならない。この時の苦労が、今のピクセラの原点だと言えますね」(森氏)。
新領域も開拓中、Smart Box向けの録画機能付きチューナが登場!?
こうして「マルチOS対応」「TVチューナ周辺技術の開発力」という2つの強みを持つピクセラだが、言い方を変えれば、技術力を武器に、OEM先の要望や時代の趨勢に合わせて柔軟に製品展開を変えてきた企業と言える。2018年現在は、新規の事業領域として、個人向けIoT/スマートホーム構築サービス「Conte」などを始めている。
そして昨年10月に発売したAndroid TV採用STB「Smart Box」も新たな試みの1つ。Android TVという新OS・プラットフォームをキャッチアップしつつ、光ファイバー回線サービス「ピクセラ光」とのセット販売プランも用意するなど、売り方にもこだわる。
このSTBにチューナは搭載されていないが、これまでの歴史を振りかえると、「もしかしたら……」と思っている方もいるかもしれない。そう、このSmart Boxに、地デジチューナと録画機能をアドオンする製品が、密かに開発されているようなのだ。本社の中で、その試作機を発見。さらに、この製品のソフトウェア周りの開発担当者である小田﨑祐大氏(製品事業本部 ソフトウェア開発部門 インターメディアプラットフォーム開発部)にも話を聞いた。
今まさに開発の最終段階とのことだが、基板はまだむき出しの状態。ここに、すでに発売中の裏録画対応USB接続式チューナ「PIX-DT295W」相当の機能と、1TB HDDが搭載される。Smart Box本体の上に重ねて設置できる構造・サイズとなっているため、ピクセラ社内では「2階建て(チューナ)」と呼ばれているらしい。
チューナは、Smart Boxに1ポートだけあるUSB端子経由で接続する。実はこの「USB端子が1つだけ」というのが、「2階建て」開発の遠因にもなっている。USB接続のチューナをSmart Boxに接続すると、端子が無いのでUSB HDDが接続できない。視聴はできても録画ができないのはマズい……USBハブを使うと電力供給が……ということで、専用ハードウェアを開発してしまったというわけだ。ピクセラがいかに録画機能を重視しているかが、逆説的に伝わってくる部分だ。なお、電源供給に関しては割り切っており、USB給電を諦め、チューナ部を動作させるためのACアダプターを別途用いる。
興味深いのは、本体とチューナの重ね方。ピクセラとしてはSmart Boxを1階に見立てた場合、チューナを2階、つまり上に重ねる事を推奨する予定。これは放熱性が関連している。最大の熱源となるHDDを1階、Smart Boxを2階にしてしまうと、熱が溜まりやすくなってしまう。これを回避するための措置なのだ。
開発がスタートしたのは昨年10月。小田﨑氏によると、Smart BoxはAndroid TV端末なので、すでにピクセラがリリースしているスマホ/タブレットのAndroid向けアプリの開発資産も活かせたため、比較的スムーズに開発は進行しているという。
一方で、スマホアプリであればタッチ操作が前提となるが、Smart Boxはテレビ画面を見ながらリモコンで操作するという違いがある。番組表をはじめとした各種インターフェイスをいかに快適にリモコン操作できるか、小田﨑氏としてもこだわったポイントだ。
チューナとしての仕様はPIX-DT295Wをほぼそのまま踏襲するが、ユーザーインターフェイスはAndroid TV向けに刷新されている。加えて、音声入力への対応も大きなトピックだ。マイクに向かって「テレビ」と喋ると、検索結果の一覧にテレビ局のチャンネルリストが表示される。「まだ開発中ですが、録画番組や、これから放送予定の番組も音声検索の対象になる予定です。なんとかチューナの発売には間に合わせたいと思っています」(小田﨑氏)。
Smart Box向けに提供するアプリは、今後継続的にバージョンアップしていく予定だ。小田﨑氏は「まだ個人のアイデアレベル止まり」と断りながらも、“ジャンルまるごと録画機能”などを考えているという。「この機能自体は他社の製品にもよくありますが、ドラマなりニュースなりを一気に録画できるので、実現できれば便利そうです」(小田﨑氏)。
このチューナは、3月にも発表される見込みだ。小田﨑氏は「音声検索も含めて、Android TVの機能を色々と活用した製品になります。また、発売以降も、より便利にお使いいただくためのアプリバージョンアップを色々とご提供できると思いますので、ぜひ期待してください」とアピールした。
ピクセラ社内を探検してみた
潜入した大阪の本社オフィスには、開発部門はもちろん、ユーザーサポートや修理の拠点も集約されている。製造以外のほとんどの部門が一カ所に集まっているので、例えば不具合発生時の対応迅速化にも一役買っているという。見学していると“技術者集団”のメーカーだけあり、面白そうなものがゴロゴロしている。
チューナと言えば、12月の新4K/8K衛星放送に向け、ピクセラは試験放送用のチューナを既に開発。4K放送関連企業向けに販売しているほか、12月からの本放送に向けて、一般ユーザー向けの4Kチューナの開発も予告している。
その開発現場を見学していると、一般向け4Kチューナの試作機を発見! まさに受信テストの真っ最中だった。
そんな見学を終えようとしていた時、開発現場の片隅に、見慣れない大画面テレビを発見。ロゴをよく見ると……「PIXELA」の表記が!? 森氏に聞いてみたが、ニヤリと笑うだけで詳細は教えてもらえず。残念。
STBが“家の中心”に。「スマートホームハブ」構想の実現へ
ピクセラが新事業領域にチャレンジしていることは、ここまで繰り返し述べたとおり。その戦略の柱の1つとなっているのが、「スマートホームハブ構想」だ。
2018年末の12月1日、BS/CS(左旋を含む)での4K/8K実用放送がいよいよスタートする。2020年の東京オリンピックに向けては、当然この新方式での放送も本格化すると考えられる。当然、テレビやチューナの製品販売も拡大するだろう。
前述の通り、ピクセラは4K/8K実用放送対応のチューナを一般向けに市販することを表明済みだ。4K需要が高まるタイミングで、4K放送対応の新型STBを市場投入。そのSTBはテレビ受信だけでなく、中核のハブとなって、IoTやAIとも連携するプラットフォームを構築……つまり“スマートホーム”の実現に向けた製品展開を行なっていくという。
Smart Boxはチューナこそ内蔵していないが、4K出力に対応したSTBだ。森氏も多くは語らなかったが、恐らくはこのSmart Boxが、今後発売されるであろう「4K放送対応の新型STB」へと繋がるベーシックモデルになると見て間違いない。
AV Watchの読者であれば、恐らくピクセラの名前を聞いたことがない人はいないだろう。PC用のTVチューナでは高い知名度を誇り、4K/8K放送にもいち早く取り組んでいる。多くの人が「TVに強い会社なんだな」という印象を持っているだろう。
しかし、創業から現在への事業の足跡をたどると、TVだけでなく、その懐の深さに改めて驚かされる。筆者は昔、プリンタ関係でアルバイトをしていたのでMac用プリンタドライバ時代からピクセラを知っていたが、その流れが、各種カメラのバンドルソフトや、PC向けTVチューナ、さらにはAndroid TV採用STBの開発まで途切れることなく見事に繋がっていた。取引先からの要望に真摯に応えていく中で、結果としてこのような歴史になったのだとは思うが、それを可能にしたのも高い技術力という地力があってこそだろう。
開発の現場を見ると、その技術力を活かし、今後も新しい分野でいろいろな製品が登場しそうだ。そして、作る製品は変わっても、ドライバやファームウェアの開発で培った技術力は活かせる。「マルチOS対応」、「TVチューナ周辺技術の開発力」の2つが、今後どんな展開をみせるのか? 2018年のピクセラに期待したい。