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カメラ“だけ”でここまで撮れる、LUMIX「S5II」。AF & 手ブレ補正超進化でコスパ最強

LUMIX「S5II」。フルサイズながら取り回しの良いサイズ感

あの「S5」が強力になって帰ってきた

パナソニック・LUMIXのフルサイズ機として、2020年発売の「DC-S5」は、手に入れやすい価格ながら4K/60p撮影にも対応するなど、静止画と動画のバランスをうまくまとめたモデルとして市場で高い評価を得てきた。だが発売からすでに2年半が経過しており、次はどうなるのか、多くの人が注目していたところである。

そんな中、今年1月5日に待望の新モデル「LUMIX S5II」が発表された。2月16日発売で、ボディ単体(DC-S5M2)、「LUMIX S 20-60mm」が付属するKキット、Kキットに「LUMIX S 50mm F1.8」も加えたWキットをラインナップする。いずれもオープンプライスだが、ボディ単体でもかなり手にとりやすい価格、さらにWキットは「コスパ最強なのでは」とネットでは大騒ぎになっている。

Mark IIでありながら、センサーや画像処理エンジンはもちろん、ボディまで刷新された意欲作だ。今回は注目のWレンズキットをお借りして、動画と静止画の性能をテストしてみた。

Mark IIだが別設計のボディ

LUMIX S5は、ハイエンドのS1シリーズに比べると一回り小型ボディで設計されており、動画の手持ち撮影では取り回しが良いということで人気を博した。新モデルのLUMIX S5IIも、S5の特徴である小型ボディを継承している。

コンパクトボディながら新設計のS5 II
背面のボタン配置はS5を継承

グリップ部もS5より深くなっており、しっかりホールドできるようになった。写真撮影時に安定するのは当然として、動画撮影時も手ブレ補正が強化されたことにより、ハンディ撮影での可能性が大きく拡がっている。

グリップ部も深くなり、ホールド感が向上

サイズは前作S5より縦横高さともに若干大きくなっているが、印象で大きく違うのはビューファインダー部だろう。いゆわる「ペンタ部」と言われる部分が高くなっているが、ここに130万画素以上に高精細化した新OLEDビューファインダを搭載した。

またこのペンタ部分の両脇に通気口が見える。実はここに冷却用ファンを搭載したことで、動画の長時間無制限記録を実現している。

ペンタ部を放熱に利用
放熱のイメージ

これに合わせてマイク位置も変更されている。ファン音を拾わないように、ビューファインダの先端近くに寄せられた。これにより、撮影しながら喋るV-logなどは“外部マイク要らず”となっている。

マイク位置が後ろに調整された

外部マイクは3.5mm入力があるほか、ホットシューでは既発売のXLRマイクロホンアダプタ―「DMW-XLR1」も利用できる。外部マイクを併用する場合、最高でLPCM 4ch 48kHz/24bitもしくは96kHz/24bitで収録できるので、編集時に前と後ろの音量バランスを取ることもできる。

ボディの接合部やボタンなどはシーリングされ、接合部には撥水剤を塗布、防塵・防滴にも配慮されている

細かいところでは、ストラップホールは従来型の三角環を廃止し、ボディから直接板金の平形ホールが出っ張るスタイルに変更された。動画ユーザーの間では、ハンディ撮影でカチカチする音が入ってしまうということで、三角環を外しておく例が多かった。これに配慮したものだろう。

ストラップホールも動画向けに改良

デュアルSDカードスロットは、前作ではスロット1のみUHS-II対応でスロット2はUHS-Iまでだったが、今回は両スロットともにUHS-II対応となった。高解像度動画のリレー記録も安心して行なえる。

上下で性能が同じになったSDカードスロット

HDMI端子は、フルサイズとなった。動画撮影時に外部モニタやレコーダを接続することも多いが、ケーブル接続時の堅牢性がよりアップしている。USB-TypeC端子はUSB PDにも対応しており、本体バッテリー充電だけでなく、撮影中の外部給電にも対応する。

細かいところで使い勝手を上げた端子部分

キットレンズの「LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6」は、昨今のワイドブームに十分対応できる20mmスタートのズームレンズで、最短撮影距離15cmのマクロ撮影にも対応。

Wレンズキットのもう1つ「LUMIX S 50mm F1.8」は、ボケを活かした人物撮影で使いやすい50mmの明るいレンズで、「F1.8単焦点シリーズ」の1つである。特筆すべきはその軽さで、約300gしかない。ボディ本体と合わせても約1,040gで、軽快な撮影が可能だ。

WキットレンズのLUMIX S 50mm F1.8(左)とLUMIX S 20-60mm F3.5-5.6

一新されたセンサーと画像処理エンジンの威力

注目はやはり新型センサーである。画素数は変わらないものの、新たに779点 像面位相差AFを搭載。従来型の315点コントラストAFと組み合わせて、追従性の高いAFを提供する。

コントラストAFの弱点は、フォーカスを追従するために常時ちょっとだけフォーカスをずらし続けるという、矛盾した宿命を持つ事である。写真なら瞬間的にフォーカスが合っていればいいのだが、動画では常時動き続けるフォーカスのために背景が少しずつ揺れるという問題がある。

一方、像面位相差AFでは、方式的にフォーカスをずらす必要なく追従できるため、動画撮影としてはまさに待望の機能である。

絞り解放でAFの強さが光る
逆光や点光源にも強いAF

AFのサンプル動画を見ていただければわかる通り、フォーカスの追従は素早くスムーズで迷いも少ない。サンプルの9秒あたりから、砂浜を歩いて貝殻を拾い上げて顔の前に持ってくるシーンでも、貝殻に瞬時にフォーカスが合っているのがわかる。

よく、YouTuberがガジェット紹介動画などで、購入した製品をカメラの前に持ち上げて「今日は○○を紹介します」とやるが、そんな時でもAFが迷わず、製品にバシッとフォーカスが合うだろう。

9秒あたりから、拾い上げた貝殻に瞬時にフォーカスが合う

AF関連の機能としては、AF追尾モードにおけるAFエリア枠を動かす背面のジョイスティックが、上下左右だけでなく斜め方向の移動にも対応し、8方向に動かせるようになった。ジョイスティックは波形モニタ表示の場所移動などにも使えるので、構図に応じてよりスピーディに位置を変更できるようになっている。

ジョイスティックが8方向対応に

画像処理エンジンも、ライカと共同開発したL2 Technology(エルスクエア・テクノロジー)搭載の新エンジンとなっている。すぐれた放熱処理技術により、上限6K24p 4:2:0 10bit、および4K60P 4:2:2 10bitまで無制限記録を実現。6K/30pでも「放熱処理が追いつかなくなるまで」という条件付きだが、長時間記録可能だ。

L2Technology搭載の新エンジン
記録停止温度も「標準」と「高」が選べる

またノイズリダクションとディテールのバランスも再考された。ツルツルの絵にしてしまうのではなく、ノイズを活かしながらディテールやグラデーションの階調を残すようチューニングされている。

夜間撮影でもノイズ感とディテール感のバランスが良い
暗部のSN表現も十分

新手ブレ補正は、動画撮影時の“手持ち撮影”を正面からサポートしているのが注目ポイントだ。これまで手持ち動画撮影する際、手ブレ補正を効かせても、歩きに合わせて映像が上下に揺れる「歩行感」が出てしまっていた。そのためにジンバルを併用することも多かったと思う。

一方、今回搭載された「アクティブ I.S.」では、ボディ内とレンズ補正両方のコンビネーション動作を最適化、従来制御の約2倍の補正幅となっている。実は今回撮影している動画は、三脚やジンバルを使っておらず、すべて手持ち撮影である。歩きながらの撮影に、「歩行感」がほぼないことがわかる。またフィックス撮影も、「手ブレ補正ブースト」をONにすることで、三脚なしで撮影できるのはありがたい。

歩きでもフィックスでも万能感のある新手ブレ補正
フィックス撮影では「手ブレ補正ブースト」をONにする

電子シャッターにより、6K解像度で秒間30コマ連写も見逃せない機能だ。しかもJPEGだけでなく、RAWも一緒に連写記録できるとは恐れ入った。

動画ユーザーでも、静止画連番になることで面白い絵作りができる。例えばこの動画は、1枚を4フレームに設定して、各フレーム間にスムースカットを適用した。高解像度で任意のスロースピードに設定できるだけでなく、通常のスローとは違ったフワフワした感じのショットが作れる。

静止画連番ファイルでスロー動画を作成

電力効率はかなり良好だと感じた。4K撮影で約40分ほどの素材を収録したが、バッテリーの目盛りは1つぶんしか減っていない。

LUTの魅力を再発見する「リアルタイムLUT」

本機を手にしたならぜひ試していただきたい機能が「リアルタイムLUT」だ。

HDRコンテンツ制作で使われるLog収録とは、センサーからの信号をクリップさせることなく収録するために開発された機能だが、そのカーブとカラースペースで収録された映像は、人間の目には低コントラストに見えるので、望ましい結果となるよう、撮影した後で調整(現像処理)が必要になる。

一方のリアルタイムLUTは、Log収録した際の絵作り用として広く配付されているLUT(LookUpTable)をカメラに読み込ませ、その状態をそのまま記録してしまう機能である。上記の動画サンプルも、リアルタイムLUTを使って収録している。

これまではLog収録する際に、モニタープレビュー用としてLUTを適用するというのが一般的だった。収録される映像はLogファイルなので、編集時にまたLUTを当てて編集する事になる。

もちろん編集時なら時間をかけて細かい微調整ができるわけだが、逆に「現場でOKだったあの色そのままでいい」場合もある。また撮影時にどのLUTでモニターしたのかわからなくなって、編集時に困るという事も起こる。

一方、リアルタイムLUTは、現場でLUTを当てた“見た目そのままを収録”してしまうので、こうした手間がなく、プロの知見が詰まったLUTを手軽に利用できるのがメリットである。

なおこのLUTは、動画だけでなく静止画にも適用できる。静止画のほうはJPEGに加えてRAWで同時記録できるので、やっぱりオリジナルの絵が欲しいという場合でも、RAWから再現像すればよい。

パナソニックでは、「LUMIX Clolor Lab」というサイトを展開しており、ここには著名クリエイターが作ったLUTが無償提供されている。

LUMIX Clolor Labで、プロのLUTを無料でダウンロードできる

設定方法を簡単に説明しておこう。まずダウンロードしたLUTのうち、「.cube」の拡張子が付いたファイルを、SDカードのルートにコピーしておく。これをカメラに差し込んで、「設定」メニューの「画質」から「LUTライブラリ」へ進む。ここに10個までLUTが読み込んでおける。

「LUTライブラリ」からLUTを読み込む

余談だが前モデルのS5では、カメラのOSが8文字しか読めなかったため、長い名前のLUTは8文字にリネームしてから読ませなければならなかった。細かいところだが、S5 IIでは長い名前もそのまま読めるよう改良されている。

長いLUT名でもそのまま読み込める

次に動画設定の「画質1」から「フォトスタイル」を選択。ここで「リアルタイムLUT」を選び、パラメータ「LUT」のところに移動する。AFモードボタンがLUT選択ボタンとなるので、ここで読み込んだLUTを選択しておく。あとは撮影するだけで、「リアルタイムLUT」収録となる。

LUTの割り当ては、「フォトスタイル」から設定
「リアルタイムLUT」内の「LUT」に任意のLUTを割り当てる

「MY PHOTO STYLE」を活用すれば、さらに使い勝手が上がる。ここにも同様にLUTを割り当てることができるほか、プリセットのフォトスタイルとも組み合わせて、コントラストやハイライトの調整もできる。

今回は「LUMIX Clolor Lab」で提供されているLUTから、「DramaticViolet」「Realistic Cinetone」「S Deep Forest 2」「Golden Hour 2」の4種を試してみた。それぞれに個性があって面白いが、日中でも夕景の絵になる「Golden Hour 2」は使い勝手がいい。夜景撮影でも電球光の照明との相性がよく、かなりお気に入りのLUTとなった。

「DramaticViolet」
「Realistic Cinetone」
「S Deep Forest 2」
「Golden Hour 2」
動画によるリアルタイムLUT収録

カメラ「だけ」でここまで撮れる

従来機のコントラストAFでも、バツグンのフォーカススピードで使い勝手が悪いと思った事はなかったが、今回のS5IIは像面位相差AFを搭載したことで、より安心してフォーカスをAFに任せられるようになった。特に点光源を相手にした場合の迷いがなくなり、夜景撮影には強みを発揮するだろう。

手ブレ補正、特に歩き撮りの補正が強化されたのは大きい。観光地での撮影で大型電動ジンバルまで持ち出すと、周りの人にドン引きされる事も多いが、カメラ単体でここまでブレが抑えられれば、無理にジンバルを使うまでもないだろう。カメラ本体だけなら写真を撮っているのと変わらず、本来撮りたかった動画が目立たずに撮影できる。

「リアルタイムLUT」により、LUTの利用が格段に楽になったのも魅力の1つだ。従来の「フォトスタイル」より、一段深いレベルでの豊かな映像表現になっているのがわかる。なんといっても、「撮ってる時にすでに楽しい」というのが魅力だ。

またLUTの読み込みも10個まで、「リアルタイムLUT」も「MY PHOTO STYLE」を利用すればさらに10個仕込んでおけるのも、クリエイターとしてもうれしいところだ。

LUMIXは、マイクロ4/3のGHシリーズで動画カメラとして圧倒的な信頼を獲得したが、パナソニックはいよいよフルサイズでも「標準機」のポジションを取りに来た。LUMIX S5 IIは、そういうカメラである。