トピック

約1.4万円!? フィットするモニターイヤフォン形状で驚異の音場。Maestraudio「MAPro1000」

中央がMaestraudio「MAPro1000」

聴いたあとで値段を見て「どう考えてもコスパがよすぎる」と毎回思うのが、Maestraudioのイヤフォンだ。2022年に発売されたブランド第1弾「MA910S」(11,000円)、それをベースに4.4mmバランス専用にした第2弾「MA910SB」(13,200円)、リケーブル(Pentaconn ear)対応になった第3弾「MA910SR」(19,800円)と、いずれも1万円台だが、音のクオリティは非常に高く、「もうこれでいいのでは?」と思ってしまう、ある意味危険なイヤフォンだ。

左からMA910S、MA910SB、MA910SR

そんなわけで、「1万円くらいの有線イヤフォンで何かオススメのものがないか?」と聞かれるとMaestraudioの名を挙げる事が多かったのだが、新たなラインを攻めつつ、コスパもさらに高めてしまったとんでもない新製品が登場した。新シリーズ「MAPro」の第1弾と位置づけられる、「MAPro1000」だ。

「MAPro1000」

写真を見るとわかるように、筐体のデザインが大きく変化。モニターイヤフォン的な形状になり、より快適に耳にフィットするシリーズだという。「でもお高いんでしょう?」と心配になるが、そこはMaestraudio、価格は14,300円(税込み)と、“手の届きやすさ”を維持。

さらにこのイヤフォン、手の届きやすい価格ながらケーブルの着脱も可能。標準は3.5mm 3極入力だが、4.4mmのバランス接続ケーブル「MAPro1000 Cable 4.4」も5,500円(税込み)で発売する。つまり、イヤフォンとバランスケーブルを両方買っても、2万円でお釣りがくるわけだ。

聴く前から「Maestraudioだから、良さそうだな」と思っていたのだが、実際に借りて聴いてみると、「どう考えてもコスパおかしいだろこれ」と頭をかかえてしまう、かなりとんでもないイヤフォンになっていた。

注目は“パッシブ”ツイーター

なんかもう特徴をあらかた書いてしまったような気がするが、MAPro1000の概要をざっくりおさらいしよう。発売日は5月11日で、価格は14,300円(税込み)。カラーはGaral Blue、Boost Red、Shower Blueの3色。今回はGaral Blueをお借りしている。

カラーはGaral Blue、Boost Red、Shower Blueの3色

最大の特徴は、シェルの部分がモニターイヤフォン形状になった事。既存モデルと比べると、より薄く、コンパクトになっている。形状的には、イヤーピースだけで本体を支えずに、筐体形状も活用して耳に固定する事で、耳穴への負担を軽減しているそうだ。

左からMAPro1000、MA910SR

実際に装着してみると、コンパクトなシェルになって事でスッと耳に入れやすく、よりピッタリとフィットする。そのため、頭を動かしたり、歩いてもまったくズレる気配がなく、ストレスも少ない。

筐体が軽量というのもあるが、確かに「重いイヤフォンを耳穴に入れたイヤーピースだけで支えている」という感じはまったくなく、「小ぶりなイヤフォンで耳穴に蓋をしている」感覚だ。そのため、1時間、2時間と装着しっぱなしでも、耳が疲れにくい。

ドライバーはハイブリッドなのだが、普通のイヤフォンとちょっと違う。

まず10mm径グラフェンコートダイナミックドライバーを搭載しているのだが、これに組み合わせているツイーターが、独自技術のパッシブ型セラミックコートツイーターであるRST(Reactive Sympathetic Tweeter)というものだ。

ポイントとなるのが“パッシブ”である事。つまり、自分で振幅するドライバーではなく、ダイナミックドライバーからの音波を振動板に照射する事で、ツイーターの振動を誘発させ、音を出している。

このツイーターは、Maestraudio独自の圧電セラミックス技術を使って作られており、振動板の寸法や材質、支持方法などで音質をコントロールしているそうだ。

これまでのMaestraudioイヤフォンでも、このRSTが使われているが、MAPro1000では新たに、MAProシリーズ用に新開発した小型の5.8mm径RSTを初搭載している。小さくなったのは、筐体がコンパクトになったためだ。

小さくなると音の空間表現が難しくなるが、「新開発のユニットにより、広いサウンドステージと音に包まれるようなイマーシブサウンドを実現した」という。これは後ほど聴いてみよう。

筐体がモニターイヤフォン形状になった事で、ユニットの取付角度も刷新。RSTの基本設計も見直されている。一般的に狭い筐体内部では反射面の面積が少なくなるため、音の拡散が得られにくく、RSTが持つ本来の分割振動の音を活かすことが難しいという。

そこで、新たなセラミックコートツイーターでは、音響・振動シミュレーションを駆使し、「狭容量の筐体でもMA910Sシリーズ相当の高音域の分散と音圧が得られるよう最適化した」そうだ。インピーダンスは22Ω、感度は111dB。周波数特性は20Hz~40kHzとなっている。

イヤーピースには、密閉度を上げる為シリコンゴムの硬度を再調整したというオリジナルイヤーピース「iSep02」を4サイズ(S/MS/M/L)、より高遮音を目的としたフォームタイプイヤーピース「iFep01」を3サイズ(S/M/L)同梱する。

リケーブル対応でMMCX端子を採用

前述のように、この価格でもリケーブルが可能で、イヤフォン側はMMCXコネクターを採用している。なお、既発売のリケーブル対応イヤフォンMA910SRはPentaconn earで、端子が異なるので注意が必要だ。付属ケーブルの導体には高伝導のOFC線を4芯構成で採用。被膜は取り回しやすい柔らかさを追求した。入力端子は3.5mm 3極のL字型で、長さは1.2m。

付属のケーブルは3.5mm 3極のL字型

別売のバランスケーブル「MAPro1000 Cable 4.4」も、OFCを導体に採用。4芯構成で、「自然で癖の少ない滑らかなサウンドが特徴」という。プラグ部は4.4mm 5極L字のバランスプラグで、長さは1.2mで標準ケーブルと同じだ。

別売のバランスケーブル「MAPro1000 Cable 4.4」

音を聴いてみる

MAPro1000の音を聴いてみよう。比較相手として、リケーブル可能な「MA910SR」も用意した。

「ダイアナ・クラール/月とてもなく」を再生する。

MA910SR

まず、比較相手のMA910SRから。このイヤフォンもダイナミック型ドライバーとRSTを組み合わせた構成だが、ダイナミックが10mm径グラフェンコート振動板で、RSTは9mm径となっている。筐体内に音響補正デバイスである「HDSS」を備え、ハウジングに備えたアルミ製フェイスプレートも音作りで活用しているのが特徴だ。

MA910SRのサウンドは「透明感のあるダイナミック型サウンド」という印象。「月とてもなく」のアコースティックベースは、ダイナミック型らしく量感のあるドッシリとした描写で安定感がある。通常のダイナミック型イヤフォンでは、パワフルな低域を出すとその音で高域もマスクされ、ボワボワした音になりがちだが、MA910SRはその真逆。中高域は非常にクリアで、ピアノやボーカルの余韻が背後の空間に広がる様子もスッキリと見渡せる。

全体のバランスも整っているため、低域がもっと欲しいとか、高域がもっと突き抜けてといった要望がまったく思い浮かばない。それが「もう、イヤフォンはこれでいいのでは?」と思ってしまう完成度の所以だ。ダイナミック型の得意な部分を活かしつつ、苦手な部分をRSTやHDSSなどを用いてサポートしているように聴こえる。

では、イヤフォンをMAPro1000にしてみよう。

MAPro1000

音の話の前に、ハウジングが小さいのでMA910SRよりも簡単に、スッと耳に装着できる。装着後も軽量なので存在感が良い意味でない。この気軽さは大きなアドバンテージだ。

音のクオリティは素晴らしい。MA910SRとの違いとして、ベースやピアノ、ボーカルなどの音像が、リスナーとちょっと近くなる。これはイヤフォンが小さい事で、より耳の奥へと装着できる事や、ハウジングが小さくなった事も関係しているだろう。

ただ、圧迫感があるのかというと、そうでもない。確かに音像は近くなるのだが、その背後に広がる空間が広大で、ピアノやボーカルの余韻が広がっていく様子がクリアに見通せるので、音楽のステージが狭いという印象を受けないのだ。例えるなら、ステージは同じで、客席が何列か前に移動したような感覚だ。

モニターイヤフォンとしているだけあり、解像感は非常に高い。音像が近くなった事もあるが、ダイアナ・クラールの口の中まで覗き込めるような細かさがあり、聴いていてドキッとする。低域の中にある細かな音や、背後に広がる余韻が消える様子なども描写が細かい。

低域の沈み込みの深さはMA910SRと同程度だが、MA910SRの方がタイトでシャープ。ベースの弦が「ブルンブルン」と震える様子もMA910SRの方が見やすい。

では、低域が大人しくて迫力がないのか? というと、そうでもない。「米津玄師/KICK BACK」のような激しい曲を再生すると、ベースラインがゴリゴリと彫り込まれる様子が、タイトで重い低域で表現されるため、最高に気持ちが良い。響きでごまかさず、重さと鋭さで勝負するような低域だ。

タイトな描写であるため、分析的に曲を聴く事もできる。このあたりはモニターイヤフォンらしいサウンドと言えるだろう。

個人的に良いと感じるのは、中高域の描写が細かいのに、キツすぎない事だ。モニターイヤフォンの場合、解像度を追求するあまり、女性ボーカルのサ行などが硬すぎて、高音が耳に痛い製品も存在する。

しかし、MAPro1000の高域は自然で、しなやかさすら感じられる。新開発5.8mm径RSTを効果を実感できる。従来のRSTと比べると小さくなっているのだが、その影響はあまり感じられない。

ここまではアンバランスで聴いていたが、別売バランスケーブル「MAPro1000 Cable 4.4」に交換すると、音がさらにレベルアップする。

具体的には、音場がより広く、奥行きもアップし、音楽の立体感が向上する。また、低域の深さや分解能も、バランス接続した時の方がさらに良くなる。もちろん、全体のバランスの良さ、音の自然さといった利点は、アンバランス接続時と何も変わらない。マイナスになる部分が無く、全体のクオリティがアップするのだから、バランス接続しない手はないだろう。

余談だが、MA910SRはPentaconn earを採用しているが、MA910SRをベースにしつつ、アニメ「アイドルマスター シンデレラガールズ U149」とコラボしたオリジナルデザインモデルの端子はMMCXになっている。つまり、前述のバランスケーブルMAPro1000 Cable 4.4が、アイドルマスター シンデレラガールズ U149 Editionであれば使えてしまうわけだ。

MA910SR TVアニメ「アイドルマスター シンデレラガールズ U149」Edition

実際にU149 Editionのアンバランス、バランス接続を聴き比べてみたが、こちらでも立体感のアップ、中低域の分解能や押し出し感のアップといった変化が体験できた。ケーブルの名前がMAPro1000 Cable 4.4というので、「MAPro1000専用なんだ」と思われそうだが、U149 Editionのユーザーも注目すべきケーブルだ。

MA910SR TVアニメ「アイドルマスター シンデレラガールズ U149」EditionにもMAPro1000 Cable 4.4ケーブルが接続できる

イヤーピース交換でより理想の音へ

バランス接続したMAPro1000の音が気に入り、数日間使っていたのだが、次第に「イヤーピースを変えたら音も変わるかな?」と好奇心が頭をもたげてきた。

そこで、付属イヤーピースから、単品販売されているAZLAの「SednaEarfit ORIGIN」と、「SednaEarfit max ASMR」に付け替えてみた。

中央左がAZLAの「SednaEarfit ORIGIN」、右が「SednaEarfit max ASMR」

SednaEarfit ORIGINは、初代SednaEarfitをベースにしつつ、アップグレードした医療用シリコンを素材に使ったもの。

SednaEarfit max ASMRは、イヤーピース傘部とワックスガード部に、KCC SILICONEの医療用メディカルシリコンを使った“究極の低刺激フィット”イヤーピースをベースとしつつ、イヤーピース開口部を調整して、ASMR専用にしたものだ。

この聴き比べが非常に面白い。

前述の通り、MAPro1000はモニターライクでソリッドな描写だが、SednaEarfit ORIGINに変えると、中低域にゆったり感が出て、響きも増えて全体的に優しい描写になる。アコースティックな楽曲などを、うっとり聴く時にはこのイヤーピースの方が良いかもしれない。

SednaEarfit max ASMR装着時

対して、SednaEarfit max ASMRに交換すると、付属イヤーピースよりもダイレクト感が高まり、より“むき出し”なサウンドに感じられる。全体のバランスを考えると付属イヤーピースの方が良いのだが、よりソリッドでキレキレなサウンドが楽しみたい時はSednaEarfit max ASMRを使うというのも大いにアリだろう。

それにしても、MAPro1000の14,300円という価格は、“コスパが良い”を通り越して“衝撃的な価格”と言っても良いと個人的には感じる。バランスケーブルも間違いなくオススメなので、合計すると2万円近くはなるが、それでも十分にコスパの良いイヤフォンだ。

モニターイヤフォンと聴くと、「音が硬くて分析的」「解像度は高いがドライな音」というイメージを持たれがちだが、MAPro1000は「分析的でありながらバランスに優れ、音色も自然」なので、リスニングにも積極的に活用できる。

ハウジングが小さく、装着しやすいという使い勝手の良さも含め、多くの人にオススメできるイヤフォンに仕上がっている。1万円台という価格を見ると「有線イヤフォン世界へのエントリー」と思われがちだが、「エントリーどころか、終着駅でもいいかもしれない」と思わせる完成度の高さだ。

山崎健太郎