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ありがとう仮想アース。理想の音を求め「Crystal E」と出会い、なぜ“大筒の連結”まで至ったのか

“少しでもいい音に”いじらずにはいられない

好きな音楽をいい音で聴いてもっと感動したい! というのがオーディオという趣味に走る一番大きな動機だと僕は思っている。だから、優れたオーディオ機器であるならば、普通に電源を取って普通に繋いで普通に置けば、音楽を楽しませてくれるものであって欲しい。

あって欲しいというか、それが本来のオーディオシステムの在り方で、“ナニナニしないといい音が聴けません”とか、“これを使わないと機器本来の能力は発揮できません”みたいなことは、普通のことをちゃんとこなした先にある話であって、初めから、あるいは最後まで、そんなことを気にする必要があるかどうかは人それぞれ。気にしなくても音は出るし、そもそもいい音かどうかは、それぞれの人が決めるものなのです。

で、オーディオ好きにもいろいろな方がいらっしゃって、中には、とにかく隙あればなんとか少しでもいい音にしたいとあれこれいじり倒す、僕のようなビョーキの人もいて、こういう人はオーディオマニアと呼ばれる。

僕はとにかく、ことオーディオに関しては自分が参加しないと気が済まない性格で、“参加する”というのはこの場合、調整とかそういうことを意味していて、調整したから必ずしもいい音になるわけではないのに、どうしてもやってしまうのは、サガとしか言いようがない。本当はもっと気楽にオーディオで音楽を楽しめればいいとはわかってはいても、それができないのは性格のせいなので仕方がない。この文章はそうしたオーディオマニアの方に向けて書いています。

僕の言う調整とは、どう電源を取って、それぞれの機器をどう繋いで、どのように置くかが、ほぼ全て。

アナログプレーヤー周りではもう少し項目が増えるけれど、基本的な調整の考え方は“オーディオ機器が気持ちよく動作してくれること”を目指すのが一番。その際には、特別なアイテムに頼らず、普通であることを心がけている。

普通を心がけていても、あれやこれややることはたくさんあって、たとえば、いくつかあるアンプの電源を、それぞれどのコンセントから取るのが一番自分にとって好ましい音になるのか、それを探るだけでも、簡単に1カ月や半年や1年は溶ける。スピーカーの置き方もそんなこんなで細かく調整しようと思えば年単位の時間はすぐに経つし、アンプの置き方でだって音は変る。

アナログプレーヤーに至っては調整項目が多いだけでなく、定期的なメインテナンス(クリーニングや注油)が欠かせない。できることは何でもやる。だからそれだけで飽きることがない。自分で考え、自分の手を動かして行なう調整こそが、僕のオーディオの楽しみ方なのだ。

「飽きることがない」と書いてしまったが、いろいろやり過ぎている自覚はもちろんあり、一時期、もう調整の余地がないのではと煮詰まっていたことがあった。音が悪いわけではなく満足はしていたし、ベーシックな音色・質感はシステムのどこかを変えたいという気が全く起きないくらいに練り上げてきたつもりなので。

だから、これ以上はやりようがないのなら、もう調整に明け暮れるのはやめて音楽を落ち着いて楽しもうと思ったりもしていた。一方で、そこはオーディオマニアだから、低域のディフィニションをもっと上げられないかなとか、音数をもっと増やしたいなあとか思っている自分もいて、でも、それを解決するアイデアが浮かばないのだから、そこは諦めるしかないように思っていた。

仮想アースとの出会い

そんな時期にふと目に止まったのが、光城精工の仮想アース「Crystal E」(34,400円)だった。アース問題は長年薄々と気にしていながらも、ほぼ手付かずで過ごしてきたジャンル。手詰まりを感じていたその頃の僕に取って、一度試してみる価値はあると思った。タイミングというやつだ。

最初に導入したCrystal E(34,400円)

仮想アースは音声信号経路に挿入するものではないし、「Crystal E」の場合、オーディオ機器とはケーブル接続になるので、機器の機械振動モードに影響をほとんど与えないというのも好ましく、そして、あくまでもパッシヴな機器だから、副作用も少なそうだ。なので、一個お試しで買ってみて、プリアンプのアース端子につないだ。その結果は驚くべきものだった。音数が倍くらいに増えて、低域のディフィニションも向上した。

もちろんオーディオマニアの僕は、付属ケーブルでただ繋ぐだけでは飽き足らず、ケーブルの種類、長さ、そして端末処理を吟味して、自分に好ましい音質になるように調整を行なった。さらにはもう一台追加購入してタンデムに繋いだ。その調整の過程があまりにも面白かったので、季刊『ステレオサウンド』誌の編集長に直談判して、記事を書かせてもらうことにした(ステレオサウンド219号。2021年夏号)。こちらから何かを書かせて欲しいと誰かに頼んだのは後にも先にもこれだけだ。

記事を書くにあたっては責任があるから、一応いろんなことを調べたり、何人かの人にご意見をうかがってみた。さらには、ちょっと興味を持ちそうな人には、そそのかし焚き付けて買わせて使った結果を報告してもらった。

仮想アースに関する意見は、賛否両論、いやむしろ、電気理論をよく知っている人は否定的な意見が多かった。「音は変るかもしれないが、音質にはなんら貢献せず、ノイズを引き込むものでしかない」とする見解もあった。実際に買ってもらって使用した人の感想も、僕と同様に凄く効いたとする人と、まあ効いたかなという程度の人に反応が分かれた。

僕としては、理屈はともかく、音が変ったことは僕にとっての事実だから、どちらを優先するかは、これはもう現実の一択でしかない。理論とは一般的に、現実の事象を解明・説明するためにあるのであって、理論が現実を規定するのではないからだ。

もちろん、あくまでも物理法則に則ってオーディオシステムは動作しているわけで、そのことは忘れないようにしてはいる。でも現実に起こっていることを素直に受け取るのも大事だろう。音にまつわる全ての事象が理論で説明できているわけではない。

そして、音の変化を捉えられるかどうかは、その人が、音のどこを、何を、重視しているかによって変るわけだけれども、Crystal Eはだから、僕が大切にするところを向上させてくれたものということになる。

アンプに代表される電子機器にとって、アース(あるいはグラウンド)は極めて重要だ。アースとは電気回路の動作の基準である。基準は、極端に言えば、プリント基板に引かれた1本のラインでもいい。実際、電源を含め、電気回路が基板上で完結している電気機器がある。特にノイズの飛び込みを極端に嫌うようなデリケートな機器では、アースを含めて電気回路はできるだけコンパクトに完結した方が良かったりもする。

そしてこの際、回路基板上のアース(グラウンド)パターンをどのようにするのかが設計のポイントで、基板上のアース部分にどのように信号を落として、その面積や形をどのようにするのかで性能と音が変る。

ただ、こうした基板だけで回路が完結している機器はオーディオでは少なく、回路基板からグラウンド線などを引き出し、金属筐体(シャーシ)に接続しているものがほとんどだ。なぜそのようなことをするのかと言えば、基板上のアースパターンよりもシャーシの方が面積を広く取ることが可能で、一般的には、面積の広いシャーシにアースを落とすことによって電気回路の動作安定性が高まるからだ。グラウンド面積が広くなるとグラグラしづらくなり、動作の土台がしっかりする、と例えられよう。

この時も電気回路のどこからアースを引き出して、シャーシのどこに接続するのかでノイズの出方が変ったりもするし、ノイズの出方がほとんど変らなくても音質は変化する。アース処理の仕方はアンプ設計者の腕の見せ所でもある。

この文章ではアースとグラウンドを区別せずに使っていて、その使い分けは全然厳密ではなく気にしないでいただきたいのだけど、アース(地球)にせよグラウンド(大地)にせよ、広大で安定しているものを電気用語として使っているのが面白い。

そしてアースとかグラウンドとか言うのならば、いっそのこと実際の大地(地球)に電気回路のアースを落としてしまえと考える人がいるのは自然なことで、アンプのアース端子あるいは筐体から線を伸ばし、庭などに穴を掘ってアースを落とす実例は昔からある。

ただし、この場合、アンプからのアース線は何(十)メートルにもわたって伸びてしまうことになり、ケーブルは時にアンテナにもなるのでノイズを引き込む可能性が高まるし、長いケーブルになればケーブルの抵抗もバカにならず、せっかくアースを落としたと思っても、高抵抗なゆえにアースが落ちてるとは言い難い状況に陥ったりもする。

だから本格的に大地アースを実践している方は、シールドを施した太いケーブルを使って、庭の穴も可能な限り深く広く掘ってアースを落としている。これがうまくいけば、音質にプラスになる可能性はあると僕は思っていて、僕が長年薄々気にしていたアース問題とはこのことなのです。

と言っても大地へのアース工事は大掛かりだし、失敗のリスクもある。なにより、長年大地アースを取らないでオーディオをやってきて大きな不都合は感じなかったので、工事には踏み切れなかった。でも、さらなるブレークスルーを望むにはどうしたらいいのか、さんざん調整を繰り返し煮詰まって、やっぱり大地アースかなあと考えていたところに現われたのが、仮想アースという製品だったのだ。

2台に増えたCrystal E

光城精工の仮想アース、Crystal Eの考え方はとてもシンプルで、電気回路のアースの面積を増やすというのが主要コンセプト。これは先ほど述べた大地アースと同じ方法論。大地アースほどのグラウンド面積の拡大は望めないかもしれないが、長々とケーブルを伸ばす必要がなく、地質や湿気で効果が変る大地アースより、安定した効果が望めるのがメリット。電気回路でアースをどうシャーシに落とすのかで音が変るとすれば、グラウンド(シャーシ)の面積や状況を変えることで、音が変るのは当然とも思える。

Crystal Eはアンプのアース端子等を利用してシャーシに接続することで、グラウンド面積を増やす(ただし、グラウンド面積が増えた恩恵を与えたいのは電気回路であるから、シャーシにアースが落とされていないアンプ等では、この接続では効果はほぼない。その場合は、アンプの入出力端子の、アンバランスならマイナス側、バランスならグラウンドピンに接続すれば良い)。

2台繋げば面積増加分は2倍となる。僕の実験による感覚的な評価は、2台を使うことで効果が2倍になるわけではないが、3割増にはなる。3割は無視できない違いなので、2台にしたのだった。

なお、一般的に、オーディオシステムを構成する個々の製品のグラウンド(アース)は、ケーブルによって接続されているので、1台の機器のグラウンドに仮想アースを接続すると、アースが繋がっている全ての機器に、程度はともかく、何らかの影響を与えるものと考えられる。

配線はとにかく可能な限り短く、アンプとの接続ケーブルは10cm程度にし、仮想アース同士の接続はネジが締められるギリギリの距離(数cm)までケーブルを切り詰めた。ケーブルは手元にあった何種類かを試し、普通の平行ケーブル(20芯)が一番良く、不満なところもなかったので、以後、このケーブルが仮想アースを使う時の標準品となった。ちゃんとしたアースケーブルの方がより良い音になる可能性があるかもしれないが、不満がないところはいじらないというのも僕の流儀である。

2台のCrystal Eも可能な限り短いケーブルで接続

そして、聴いてわからないことは、僕は気にしない。あるいは音の違いはわかっても、その違いが僕には重要でないと思えた事象も気にしない。仮想アースは理屈はともかく、接続して聴いてみたら自分に好ましい違いあったので導入した、ただそれだけの話なのです。

こういう現象をプラセボと呼ぶ人もいる。先入観で音が良くなったと勘違いしているだけだ、と。僕はこの音の違いはプラセボではないと思うけれど、でも仮にそうだとしても構わない。なぜなら仮想アースを導入した音の方が気分よく聴けるからで、趣味とは気分が良くなることが目的だと僕は思っているのだ。

それに、仮想アースに限らず、ケーブルにしても何にしてもオーディオを取り巻くさまざまなものを、ある理論上、あるいは測定上、そんなことで音が変ることはあり得ないという前提で試聴に臨むのも、一種のプラセボではないのかなあ……。理屈に縛られず、いろんなものを試してみて楽しんだ方がいいと僕は思います。趣味なんですから。

コンパクトな「Crystal Ep」にも手を出すが……

Crystal Eは大ヒットモデルとなり、光城精工は続けて、アンプ等の入出力端子等に直接挿して使える、コンパクトな「Crystal Ep」シリーズ(26,400円~)を開発した。同社の仮想アースをすっかり気に入っていた僕は、こちらも早速試してみることにした。そして前者を「箱」、後者を「筒」と呼ぶことにした。

コンパクトな「Crystal Ep」登場

「箱」(Crystal E)は、まずはグラウンドとしてのシャーシにアプローチしているのに対し、「筒」(Crystal Ep)は電気回路のアースにアプローチしようとしている点が違う。結果的にはどちらも電気回路のグラウンド面積の拡大、つまりアースの強化を狙っていることは共通だが、筒の方が手軽に使えるし、アプローチが直接的である。接続ケーブルが不要になったことも大きなメリットだろう。

金属板を積層することで面積を稼いでいた箱に対して、電解コンデンサーの構造を活用することで、前作をはるかに超えるグラウンド面積を確保した筒は、面積増加の度合いが違うせいか、音の変化度合いも箱以上だった。つまり、さらに音数が増え、立体感も向上した。

でも、何かが引っ掛かる。箱の時のようにすんなりと受け入れられないのだ。ここから長い道のりが始まった。

聴いてわからないことは気にしないのが僕の流儀なのだが、反面、聴いてわかることに関しては、とことん追求・調整しないと気が済まないのがビョーキな人の特徴だ。

僕の調整は、スピーカーにしろプレーヤーにしろアンプにしろ、本当にうんざりするほど細かく執拗で、ずいぶん昔、尊敬してやまないオーディオ評論の大先輩に、ついうっかり何かの調整手法を嬉々として話してしまったところ、即座に「キミ、それはビョーキだ」とお墨付きをいただいたことがあるくらいだから間違いがない。

かなりオーディオ好きな人であっても、僕の調整手法を詳しく話せば話すほど「そんなことで音が変るんですかぁ??」と可哀想な人を見る目をされる事態が発生する。孤独である。だから、最近はあまりにも細かい調整話はしないように心がけている。このビョーキの細かさが、仮想アースに対しても発動されてしまった。仕方がない。

“音数が増える”と言うのはオーディオでは完全に近い褒め言葉だろう。音場感や立体感や透明感の向上も同様。僕も大抵の場合は、それらを褒め言葉として使う。けれども、そんな時いつも注意しているのは、その増えた音が音場感が立体感が透明感が、果たして僕のオーディオで重要なものであるかどうかだ。自分にとって意味のない音が増えたところで音楽の感動は増さないし、音場が広大になっても音楽が遠のいて希薄になるのは無意味だし、不自然と感じる立体感は鑑賞の邪魔、そして無菌室のような透明感ではくつろがない。

さらに、いくら音数が増えたところで、それまで聴こえていた音の音色・質感が変ってしまっては全くもって意味がない。なぜなら、音色と質感の追求こそが、僕のオーディオで最も大切なことであり、カイゼンをはかったつもりでも、その点が失われてしまうのはガマンがならない。加えて、増えた音の音色・質感も妥当でなければならないわけで、それらのチェックもしなければならず、グレードアップはタイヘンだ。

何かを得るためには何かを差し出さなければならないとすれば、音に関しても、新しい魅力を獲得したら同時に、差し出してはいけない大事なものを失っていないかどうかチェックしてしまうのが僕の困ったクセなのです。

僕の調整のポイントはつまり、妥当な音色・質感を保ったまま、音数を増やし、音場感や立体感や透明感を向上させたいというもの。もちろん、現状の音色や質感に不満があれば、それが妥当と思えるところまで変えてくれる何かを探すのだけれど。

適切なビートの重さ、キレが良くタメのあるリズム、気持ちの良いグルーヴ、音の質量や体積の表現、十二分なダイナミクス、疎密のないフラットなレスポンス、さらに音楽全体のフォルムとプロポーションも、極めて重要なチェックポイント。

ディテールにこだわりすぎると、全体のフォルム・バランスが崩れてしまう危険性が高まるので、調整の際は、音色・質感と共に、そこを一番注意する。全体像をまず眺め、それからディテールを吟味するのが、僕のチェックの順番。ディテールを積み上げる手法で望ましい全体像を描くことは、僕にはできないからでもあります。

「Crystal Ep」のYラグ仕様

筒は接続用に何種類かのプラグが用意されていて、僕はプリアンプのアース端子に取り付けるつもりでYラグ仕様を導入し、試した。効果の傾向は前述したように箱と同様で、さらに威力が増していたのだけど、違和感もある。

入出力端子仕様の筒を選ばなかったのは、それらの端子に何かを取り付けると、アンプの振動モードが変り、音のオープンさが失われることが多かったためだった。このへん、気にならない方のほうが多いはずなので、これはあくまでビョーキの人の話であることに注意して欲しい。

じゃあ、入出力端子に接続するケーブルはどうなんだと言われれば、ケーブルを繋がないと音は出ないのだから、そこは検証しても仕方がないし、僕は気にしない。おそらくケーブルの場合は、端子のところで発生した振動モードの変化を、ある程度の長さとしなやかさがあるケーブルで、減少させているのではないかと推察する。

ところが接続するのが端子状のものだけだと、端子自体の振動がアンプにモロに伝わり、あるいは接続した物がアンプ(の端子)の振動を抑えるため、音質に影響があるのではないだろうか。この文脈だと振動しない方が良いと取られるかもしれなけど、僕は決してそうは思っておらず、基本的に振動は無理に止めずに空中に放り投げるのを基本として、ケース・バイ・ケースでダンピングを行なうようにしている。

なので、アース端子に接続すれば影響は少ないだろうと思ったのだけれど、アース端子であっても、筒の目に見えない微妙な振動がアンプに直接伝わってしまうのか、音質は方向としてはカイゼンに向かっているとは言え、何となく落ち着かない。落ち着かなければ筒の使用をやめてしまうのも手だが、やめてしまうにはあまりにも惜しい、それはカイゼン効果だったのだ(今になって思うのだが、最初に筒を使っていたら、僕はここまで仮想アースにハマらなかったかもしれない。箱での経験がなかったら筒をここで諦めていたような気がするのだ)。

さて、どうするか。直接アンプに取り付ける方法が僕には違和感がある結果になるのだったら、箱と同じ方法、つまり、アンプの振動モードに影響をほとんど与えない、ケーブル接続を試すことにした。筒の大きなメリットのひとつがケーブル不要であるのに、そのメリットをガン無視するようなことを実行するにあたっては、最初にメーカーに対して申し訳ない気持ちを(届かないかもしれないが)送っておいた。

筒は先端部分がネジ式で取り付けられているのでYラグを外し、代わりに普通のネジをネジ込み、ケーブルを繋いだ。ケーブル接続では思った通り、揺らぎのようなものはほとんどなくなり、この方法でどこに接続するのが一番効果的なのかを探っていった。結論から言うと、2台タンデムに接続した箱の先に繋ぐのが僕には最も好ましかった。そして筒もまた2台接続とした。でも、まだ何か違和感がある。

先端部分がネジ式なので取り外しできる

箱に接続した筒は、棚の上に直接転がされることになって、何せそんな使い方は想定されていないのだから、丸い筒はどうしたって音圧によって微妙に不要に動くはず。また、固いもの同士はピッタリ密着させればいい結果になることが多いが、触れている程度なら、何かクッションになるものを両者の間に介して設置する方法が有効だ。だから、まずフェルトを噛ませて設置した。しかしフェルトは筒の自然な振動を吸収しすぎるためか、音から活気を失わせる結果になった。このことは筒の響きが音に乗ってることを示唆している。

次に適当なゴム足を買ってみて筒に貼り付けた。ところが、今度はこのゴム足の固有音らしきものが検知されてしまって、うんざりした。いま思い出して書いているだけでも本当にうんざりしてしまうので、読んでいる方はもっとうんざりしているのではないだろうか。

でも、ここで止めてしまうわけにもいかないので、どういう類のゴム足がいいのか、そもそも形状としてどんな形がいいのか、いくつかのゴム足を試し、結論的にはゴム足の周りの、通常だったら捨ててしまうバリの部分を小さく切って、ひとつの筒に対して2箇所貼り付けるのがベストとなった。もちろん、どこにいくつ貼るのがいいのかも試し、いろいろ聴いた上での判断だ。ビョーキである。

ゴム足の形状もいろいろ試した。接続用ケーブルの端末処理も変えてみた
バリの部分を小さく切って活用

ビョーキと言えば、接続用ケーブルの端末処理も何パターンも試したし、ケーブルを止めるためのネジも数種類試している。音が変るのだから仕方がないが、これでは憐れみの目で見られるのも仕方がないとご納得いただけるだろう。

試行錯誤の跡……

Crystal E-Gが登場、これも導入してしまう

こうして箱 + 筒の、自分にとっての最適な使い方を探り出し、その結果に大いに満足していたのであったが、2023年の夏だったと思うけれど、今度は改良を施した箱に筒を6本仕込んだ「Crystal E-G」(85,800円)という製品が光城精工から発売されてしまった。勘弁して欲しいと思ったが、オーディオマニアのサガはそれを許さない。だから導入した。もうなんだかワンパターンのようだが、これも明らかな向上が認められてしまった。

「Crystal E-G」

当然、どう繋ぐのが最適なのかなどの作業を繰り返した。作業経過の詳細は書かない。結論としては、プリアンプのアース端子を始点とし、箱~箱~筒入り箱改(Crystal E-G)~筒×2で繋ぐのがウチでのベストだった(接続の仕方は、システムの事情で大きく異なってくるとは思う)。

箱~箱~筒入り箱改(Crystal E-G)~筒×2で繋いだところ

さらに、ウチでは、フォノイコライザーのアース端子にも仮想アース(筒×2)を繋ぐとさらなる好結果が得られた。フォノイコに仮想アースを繋ぐと、そのフォノイコを使っていない状態でも全体の音質が変化するのだが、その理由は既に述べています。

最初に箱を導入してから2年半を経て、ようやく安息の日々が訪れた。

光城精工の仮想アースのいいところは、システムに馴染んでしまうと、サウンド上ではその存在感が消えてしまうことで、これが僕には何よりもありがたい。素直と言いましょうか、邪心が(少)ないと言いましょうか、使いやすいのです。サウンド上の存在感を無くすために2年半を費やした、という言い方もできるけれど。

もうひとつ告白しておくと、この2年半の間に、接続できるところには全て仮想アースを繋ぐ実験もしたし、台数をさらに増やした音も聴いている。箱も筒も安いとは言わないが、バカ高くはないので、ついうっかり増えてしまうのが難点だ。

しかし、それらが採用されていないのは、自分に有効な効果がなかった、効果はあるが「やり過ぎ」の音がした、うまい置き方(安定していて視覚的に邪魔にならない)ができなかった、という理由によるものです。

やり過ぎないと、自分にとって丁度いい、最適なポイントは見つけられないですよね?

電源コンセントに挿し込む!?「Crystal Eop-G」登場

2年半をかけて到達したサウンドは、それ以前とは異なるステージに到達していた。ステージが変ると、見えてくる、聴こえてくるものも変るわけで、昔なら全然気にしていなかったところが、気になったりしたりもする。それがいいことかどうかはわからないが、もしオーディオリテラシーという概念があるのだったら、それが向上したという実感(ないしは錯覚)を持って、日々、過ごすようになってしまった。

もちろん、全体的なサウンドには満足はしていた。でも時々、「あそこがああなればなあ」と思ったり思わなかったりという部分がなくはなかった。それとて、録音の限界なのかもしれないし、イチャモンレベルの話であるのは自分でもわかっているから、気にしないようにしていた(本当です)。それに、そこで鳴っている音楽の全てを僕は聴き取れているわけではなく、もし今後も、自分の聴く能力が成長できたなら、録音の限界と思っていたところも、実はちゃんと音として描かれていたことがわかるかもしれないではないですか。

そんな折、今度は電源コンセントに挿し込む、新しい仮想アース「Crystal Eop-G」(198,000円)が発表された。電源コンセント?と思ったが、この仮想アースが凄いのは、スーパーキャパシター(コンデンサーの一種)を採用し、1台でサッカーフィールド1面分のグラウンド面積を確保しているということで、これはこれまでの仮想アースとはケタ違いの広さであり、どうしたって試さざるを得ないではありませんか(!)。

電源コンセントに挿し込む仮想アース「Crystal Eop-G」
壁コンセントや電源タップの空きコンセントに接続できる

なので、ステレオサウンド誌の記事をきっかけに知り合うことができた、光城精工のTさんにお願いして試聴機を借用した。箱のようにポンと買える価格ではなく……。ちなみに、光城精工はオーディオアクセサリのメーカーと思われているかもしれないが、医療機器向け内蔵電源、LED照明用ドライバーの設計・開発や量産、リチウムイオンバッテリーの充放電装置アセンブルなども手掛けている。

さて、型番を覚えるのはタイヘンなので、Crystal Eop-Gは「大筒」と呼ぶことにしたのだが、コンセントに取り付けるという方法論がイマイチわからない。

仮想アースは、電気回路のグラウンド強化製品であるのならば、電源コンセントから回路のグラウンドまでどうやって到達させているのか。大筒の接続部分は、いわゆる3P型のアース端子を活用しているもので、日本製品に多い2P型ではそもそも接続が成立しない。また、電源コンセントも3P対応のものでしか使用できないし、3P型であっても隣のコンセントとアース端子が接続されている保証はない。

すなわち、大筒を活用するには、3P型の電源ケーブルを持ったオーディオ機器であることと、大筒を挿し込んだコンセントと機器の電源を挿し込んだコンセントのアース端子が繋がっていることが条件だ。念を入れて書くと、たとえ3Pの電源ケーブルを使用していても、そのアース線が、オーディオ機器のシャーシ(=電気回路のアース)に接続されていないと意味がない。

でも、現代のオーディオ機器の多くは、電源のアース線はシャーシに接続されているし、たとえ2Pの電源ケーブルを使っている製品であっても、これを3P電源ケーブルに交換すればアース端子とシャーシが接続され、大筒の効果が体験できることになる。また、僕は壁の電源コンセントを最初に想定してしまったのだが、3P型の電源タップを使っている場合には、この使用方法はグッと身近に感じられるはずだ。

3P型の壁コンセントの上下のアース端子が導通していることを確認して、フォノイコライザーに大筒を接続してみた。すでにかなりの数の仮想アースを導入していて、さらに大筒を加えるのはやり過ぎかとも思ったけど、その効果は……次元が違った。サッカーフィールドの広さはダテではないのだ。やり過ぎの先に、さらに丁度いいポイントがあるのか……オソロシイことです。

これまでの仮想アースでは、音数が多くなったことや空間が広がったことがまず最初の印象となるのだが、「大筒」の場合は、一言で言えば、全体に品位の格段の向上がもたらされる。音色の基本は変らずに、飛び切り上等な楽器に交換したかのように質感が変化し、あたかも美しい林を吹き抜けてきたような美味しい空気で空間が満たされた。これを品位の向上を言わずして何と言うのか。

呆気に取られているばかりではまずいので、落ち着いて細部もチェックしていくと、さり気なく、かつ圧倒的に音数が増え、空間の広さと立体感の向上ぶりも著しい。録音の限界などないのではないかと思わせるような再生音なのだ。

Tさんは大筒をなぜか2台送ってくれていたので、2台を連結すると、残念なことに、その効果はさらに高まるのだった。この時点で、2台購入することは決定事項になっている。

大筒は2台連結すると効果が高まる

大筒を載せる“台”まで作り始めてしまう

しかし、ここで終わらせないのが僕の悪いところで、このコンセントに挿し込む使い方は僕にとってはちょっと不満、と言うか、異なる使い方を試してみたい。

大筒に限らず、仮想アースがアプローチしたいのは、電気回路のグラウンドのはず。そうであるのなら、1~2mの長さのある電源ケーブルのアース線経由でアンプ等のシャーシに繋ぐよりも、最短距離で、機器のシャーシに繋いだ方がより大きな成果を得られるのではないかと、実は借用する前の段階から考えていた。

どうすれば大筒をアンプのアース端子に繋ぐことができるか。その答えはすぐに見つかった。3Pの電源プラグを2Pに変換するアダプターは、海外製品をお使いになっている人ならよくご存知のはずで、あのアダプターからは短いアース線が伸びている。つまり、3P/2P変換アダプターに大筒を挿し、変換アダプターから出ているアース線をアンプのアース端子に接続してしまえば、最短距離が実現するはず。

だから僕は大筒が届く前から、変換アダプターを机の引き出しから引っ張り出し、そのアース線にYラグを取り付けて、準備万端にしておいた。

3Pの電源プラグを2Pに変換するアダプター

壁の電源コンセントから「大筒」を引っこ抜き、変換アダプター経由で、プリアンプのアース端子に接続した。思った通り、いや、思った以上に、この接続方法は有効であった。言葉にすれば同じことで、やはり向上のポイントは品位なのだけれど、その向上の度合いが圧倒的なのだ。

変換アダプターを接続した大筒

本当はアダプターなど経由せずに、接続できればいいのだが……この製品はプラグ部分がネジで外れるようになっているので、単なる蓋を作って、そこにネジを1本打てるようにすれば、さらに音質は良くなると思う。将来的に、アンプのアース端子に最短で接続できる仕様もメーカーで用意してもらえると嬉しい。アダプターを取り付けた状態は格好いいとは言えないし、と書いて反省した。そもそもメーカーの推奨通りに使っておれば、美しくまとまっていたのだから。

大筒はプラグ部分がネジで外れるようになっている

本当は僕だってこんなことはしたくないのだが、筒の時の経験がアタマをよぎって仕方がない。仕方がないので、接続方法のみならず、大筒の設置方法もあれこれ試してみることにした。なにせ今回はサイズがそこそこあるので、筒のようにゴムを貼っておしまいというわけにはいかず、何か台を作らねばならぬ。

図面をあれこれ描いてみて、ホームセンターに出かけて適当な木材(9mm厚の桧)を選んで、凹型の置き台を作ってみた。台の裏側にはゴム足をつけた。案の定、直接棚に転がした状態と比べて、変な揺れのようなものはなくなった。比較すれば安定感がグッと出た。それはいいのだが、音の重心が上に行ってしまったままで落ち着きに若干欠けるのと、これはたぶん大筒のキャラだと思うのだが、極めて微量だが、煌びやかな華やかさが音に乗る。

置き台の図面もあれこれ描いてみた。これは最初の構想(実現はしていない)
桧の置き台に設置した

ふと思いついて、置き台を裏返して大筒を載せてみた。4つのゴム足にちょうどよく大筒が乗って安定した。ナンダ、これでよかったのか。

裏返しでも置き台として使えることが判明

今度は単なる板の表裏にゴム足を貼って、置き台にした。構造がシンプルなぶん、凹型より音質は素直になった。ゴムに接することで大筒の筐体のダンピングも期待できる。これでひとまず決着しようとも思ったが、そういえば木材の吟味はしていなかったな、と思った。そう思うということは何かが引っ掛かっているわけで、桧はちょっとQが高い感じ(甲高さ)がするのだ、何となくだけど。

またしても近所のホームセンターに行って、今度はMDFで置き台を作ってみた。そもそも最初の構想では、共振の鋭くないMDFを使おうとしていたのだが、お店の在庫に適当なサイズのものがなかったのでつい日和ってしまったのだ。なにせ必要なのは4cm×7cmの1枚の板なのに、30cm×60cmの部材を買うのは何だか癪ではありませんか。しかし今日の俺は固い決意を持ってお店に来ているので、迷わずMDFを購入し、指定のサイズに切ってもらった。これが本命だったのだ。

MDF板の表裏にゴム足を貼って、置き台に

MDFの置き台にすると、思った通り、音に落ち着きが出た。しかし落ち着いたのはいいのだが、何だか地味である。音楽が艶消しに聴こえる。本命であるはずだったこの台は、たったの15分で却下となり、桧に戻した。けっこうガッカリした。オーディオ難しい……。

ありがとう仮想アース

以上が現在の状況。

大筒の置き台に関してはまだ吟味の余地はあるし、アース端子への接続方法もよりスマートな方法が登場するのを待っているのだが、とりあえず現状においても、過去のどの状況下よりもトータルで最も音楽にどっぷりと浸れる、生命感あふれるサウンドとなっている。アンプが安定した土台を獲得して、実に気持ちよく安心して動作している感じもする。

音数の多さはとてつもなく、ここまでの音楽の全体像の提示の揺るぎなさやギョッとするほどの立体感は、仮想アースなしでは到達できなかったものと確信している。大地アースを試してみたいという思いもさっぱりとなくなった。これらの仮想アースを開発してくれた光城精工には、感謝の念に堪えない。

面白いのは、大筒のグラウンド面積拡大に比して、その1%の面積にも満たない、それまで接続していた箱や筒も、音質に確かな貢献を果たしていること。これらがあってこそ、大筒の効果がテキメンに出た、あるいは僕がテキメンに感じることができたのだろう。したがって、大筒×2台は、箱~箱~筒入り箱改~~筒×2と並列に接続して使っている。

大筒×2台は、箱~箱~筒入り箱改~~筒×2と並列に接続

誰のオーディオシステムにも仮想アースは有効であるとは、もちろん僕は言わないし、大筒ことCrystal Eop-Gはかなりの高額だから、気軽に試してみてとも言えない。でも、もし、この長い文章を読んで仮想アースにご興味を持たれたのなら、Crystal EやCrystal Ep、あるいはCrystal E-Gを試してみるのは面白い経験になると思う。そしてすでに同社の仮想アースの効果を認めている方ならば、Crystal Eop-Gを導入する価値は充分にあるだろう。現在品薄になっているようだが、10月頃には在庫も復活予定だそうだ。

そして、いずれにしても僕のような使い方をする「必要」は全くありません。やりたい人は止めませんが。

オーディオシステムについて

ここでの試聴印象は、僕のオーディオシステムで起きたことを書いているので、どんな機器を使っているのかお知りになりたい方もいらっしゃるかもしれない。でも、僕は自分のシステムを公開することはこれまで極力避けてきていて、ここでも記述は行なっていない。理由はいくつかあるのだけど、悪しからずご了承いただけると嬉しい。その代わりと言っては何ですが、仮想アースの各製品の試聴は、ステレオサウンド試聴室をお借りして、同誌のリファレンスシステム(アキュフェーズのセパレートアンプやB&Wのスピーカーなど)でも行ない、基本的な音質傾向を掴んだ上で文章を書いているので、ある程度の普遍性は担保できているのではないかと思います。

小野寺弘滋

酒も飲まずギャンブルもやらず、ひたすら音楽を聴き続けて約半世紀。猫と鳥とカメラ(レンズ)と双眼鏡とシトロエンとコーヒーと空が好き。季刊「ステレオサウンド」元編集長。