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戴社長が語るシャープ改革、テレビ復活やIoT強化。「過去の失敗は社長の問題」

 シャープの戴正呉社長が、本誌の質問に答え、「この7カ月間の自己採点は10点中6点。日本での取り組みは合格だが、海外は不合格」などと語った。また、過去のシャープの経営については、「この7年間は社長の問題である」と指摘。「私は、300万円以上の決裁はすべて自分で行なう。そこがこれまでの経営とは違う」と語った。また、2018年度に1,000万台の液晶テレビを出荷する計画は「鴻海との連携で達成できる」と自信をみせたほか、特別な貢献が認められた社員に対して3月24日に支給される社長特別賞は、500人規模に達する予定で、「まだ増えるかもしれない」などと述べた。なお、インタビューは合同で行なわれた。

シャープ 戴正呉社長

社長就任後の経営は合格点も、欧州に課題

――シャープの社長として、7カ月間に渡る経営の舵取りを行ってきたが、自己採点すると何点か。

戴:自己採点するのは難しい。だが、点数をつけると、10満点中6点である。合格点には達している。

――その採点の理由はなにか。

戴:まだまだやらなくてはならないことがある。国内は頑張っているが、海外はまだである。海外での成果があがればもう少しいい点数だっただろう。国内は合格だが、海外は不合格。一番の成果は、売上げや利益ではなく、シャープの幹部のモチベーションが高まったこと、また内部統制がしっかりできたことである。仮に、来年、私が社長を辞めたとしても、シャープの成長が続くための、制度とルールづくり、幹部の意識改革を大切にした。数字は、世の中が注目しているので公表するが、私が取り組まなくてはならないのは、数字よりも、シャープの経営と管理、内部統制である。

――海外で不合格の理由はなにか。

戴:欧州市場の場合は、スロバキアのUMCの株式を56.7%で取得し、子会社化した。これからシャープブランドの製品を出していきたい。テレビだけでなく、様々な製品を出していく。現時点では不合格だが、2017年度は合格するようにがんばりたい。米国では、現時点では、私はなにもできない状態にある。

 ASEANも不合格だが、2017年から、ラインアップを拡大し、開発投資を積極的に行なう。ASEAN市場で展開するにはまだ資源が足りないと考えている。中国・深センに商品開発センターを新設したのは、ハードウェアとIoTで先行していること、鴻海の本社にも近いこと、陸上運送にも適していることがあげられる。これらのインフラを生かして、ASEANはがんばりたい。

 中国市場は、シャープにとって大赤字の元になっていた。私がチェックして、それがわかった。昨年2月24日に、シャープは約3,500億円の偶発債務が判明したことを発表したが、そのうちの半分が中国。リベートや税金、コストなどが問題となっていた。日本と中国は文化が違う。中国市場は鴻海にサポートしてもらいたいと考えている。鴻海は中国市場に強い。コンシューマ向け製品の製造、販売を鴻海に任せることができる。また、海外体制はオーバーヘッドが重く、2017年に改善する必要がある。One Sharpへの統一、良い人材の派遣や採用を進める。シャープの海外拠点は、日本人が就いていることが多いが、国籍とか、性別に捉われない人事制度を進めたい。現地のビジネスは、現地の人に任せたい。たとえば、UMCの経営は現地の人に任せている。43.3%の株式を持つUMCの持ち株会社も、頑張らなくてはならない。そこにシャープから社長を派遣する必要はない。欧州市場のことを知らない、言葉が通じない人を社長として派遣しても意味がない。

 シャープには約200社の子会社があり、海外法人のすべてに日本人の社長が就いている。チェックをしてみると、海外法人の社長には、A等級でもなく、課長でもない人が就いていることがある。社内等級が高くない人がたくさん就いている。A等級以上のマネージャーは国内勤務が優先されてきた。私は、これから部長クラスでないと、海外法人の社長にはなれないようにする。また、できれば、現地の人を採用したい。日本人の英語はあまり通用しない。顧客としっかりとコミュニケーションができず、会話が通じにくい状態が生まれている。これを改善したい。それが海外での合格点につながる。

ここはシャープ、サウジアラビアではない。技術はあれど経営がない

――米国では液晶パネル工場の建設計画があるが、米国市場において、シャープブランドのテレビは、ハイセンスが販売権を持っている。作っても売れない状況にあるが。

戴:経営は難しいことにチャレンジするものである。シャープには不平等な契約がたくさんある。いままでも、その課題解決に挑戦してきた。いまは、日本での業績回復を優先しているが、そのあとに、海外の課題を解決したい。ハイセンスとの話し合いも、ネゴシエーションが大切であり、チャンスがあれば生かしたい。がんばればできる。そうした気持ちを持っている。

――内部統制の取り組みとはどんなことか。

戴:例えば、かつてのシャープは、150億円の契約書にサインをする際、将来、なにかあったときにこの150億円をリカバリーできるのかということまで考えていたのかが疑問だ。太陽光事業のポリシリコン材料調達の契約をいとも簡単に行なった。シャープの太陽光発電の技術や製品はすばらしい。だが、この材料の契約で赤字に陥っている。商品、技術、社員のがんばりとは関係がないところで赤字になっている。また、堺のシャープ本社の入口に2階に通じるエスカレータがある。3月12日に、サウジアラビアの国王が来日したが、専用機から降りる際のタラップがエスカレータになっていた。ここは、シャープであって、サウジアラビアではない。この場所に、エスカレータは必要がない。3月13日の会見で使用した集会室も、もともとは車寄せの部分だった。しかもクルマは2台しか止められない。そこにガラスの壁とカーペットを貼っただけで集会室ができあがった。記者会見や株主総会などにも使えるし、社員は休憩にも使える。マルチスクリーンを使えば、映画も見られるかもしれない。

車寄せ部分を使って作り上げた集会室。戴社長自慢のエリアだ

――かつてのシャープが大幅な赤字に陥った原因はなんだと考えているか。

戴:かつてのシャープは、技術はあったが、マネジメントが悪かったと思っている。社員の能力の問題ではない。5年前に鴻海は、SDP( 堺ディスプレイプロダクト:大阪・堺の液晶工場)に9%を出資したが、そのときに、私たちは経営管理委員会を設置しようと提案した。これが実行でき、シャープを改造できていれば、いまのシャープはこうはなっていなかった。その時からアドバイスができたはずだ。2015年の偶発債務がなければ、赤字ももっと少なくて済んだはずである。

 私は、150億円の決裁を、ちゃんと見ないで決裁はしない。カンパニー長にすべてを任せて決裁させるということもしない。300万円以上のものはすべて私が決済する。毎日、これをやっており、この半年間で約2,000件の決裁を行なった。そこがこれまでの経営とは違う。過去7年間のシャープの問題は、社長の問題である。液晶への投資や太陽光発電の投資も、コミュニケーションがなく決定している。経営陣同士の仲も悪かった。共有化できるユーティリティも共有しなかった。だから、こんな会社になってしまった。私は、次期社長を一生懸命に考える。いい人を探して、教育したい。次期社長へのバトンタッチの時期は、郭会長と話し合って決めることになる。

――いまのシャープに優秀な人材は集まるのか。

戴:様々な人材を募集する考えである。とくに海外での優秀な人材を採用する。年齢、性別、国籍を問わずに採用し、成果をあげた人にしっかりと報いる「信賞必罰」の人事制度をこれからも推進する。優秀な人材や若手人材の活躍を後押しする仕組みへと改革していきたい。

――特別な貢献が認められた社員に対して支給される社長特別賞は、何人に出すことになるのか。

戴:先週土曜日にサインした対象者が500人。まだ増える可能性もある。1人あたりの金額は機密であり、公表できない。1、2万円程度のレベルでなく、もらってびっくりする額にしており、それによって社員にやる気になってもらう。

賞与の改革。最大で8倍の差がつく。社長特別賞も用意

テレビ復活で年間1,000万台へ。8K LSI自社開発。「日本はIoT先進国ではない」

――戴社長は、シャープ社内では日本語を使ってコミュニケーションしているが、その理由はなにか。日本語で自らの思いが社内に伝わっているのか。

戴:私は、日本の企業と40年間に渡ってビジネスをしてきた。シャープは日本の企業である。だから日本語を使う。北京語や英語で話しても、通訳を入れるとかえって思いが伝わらない。日本語は難しいし、会見などでも言葉に一部間違いがあったかもしれない。日本語はそんなにうまくないが、その場でお互いに確認すればいい。私はストレートな性格であり、たまには失礼な言い方になるかもしれないが、社内をスピードアップさせるためにも、日本語の方が適している。それによって、シャープのスピードは変わってきたはずだ。私は、日本の文化を良く知っている。だから、みんなと一緒に仕事ができる。部長クラス以上とは、直接、日本語で対話をしている。

 私は40年前に家電メーカーで働き、37年前からの5年間は半導体事業を経験した。半導体は、いまのルネサスで経験し、佐渡島で教育を受けて、工場長もやった。さらに、その後は通信関係にも携わり、カメラモジュールのビジネスや、ソニーモバイルの携帯電話の製品化にも関係してきた。NTTドコモやKDDI、ソフトバンクともつながりがある。テレビについても、フォックスコンで経験をし、これはシャープが販売したテレビの数よりも多い。鴻海では30年間を過ごし、そのうち、副総裁として26年の経験がある。郭氏の隣で、戦略の検討を続けてきた。こうした経験は、いまのシャープのすべてに生かすことができる。

――シャープは、液晶テレビの復活に取り組みたいとしていたが、それは成し遂げられているのか。また、2016年度第3四半期累計での液晶テレビの販売台数は353万台。2018年度に年間1,000万台という目標は達成できるのか。

戴:シャープは、まだ液晶テレビのビジネスを続けなくてはならない。2018年度の1,000万台の目標は達成可能である。最大の要因は鴻海とのシナジーである。中国やASEANへの展開を加速する。そうした目標がなければ、中国・広州の液晶パネル工場も必要がない。Be Original.というスローガンは、シャープが強いところに戻るという意思を込めている。液晶テレビを、全世界にシャープブランドで展開していく。一方で、有機ELは、スマホ向けには展開しているが、テレビ向けに展開できるどうかはいまは疑問である。耐久性にも問題がある。

液晶テレビを成長の原動力に

 また、液晶テレビは日本においてはトップシェアを持っている。また、有機ELテレビではLG電子が先行しているが、実際に売れているのかわからない。スマホであれば、2年で買い替えるが、テレビは10年間使用する。有機ELが10年間に渡って、変色などの影響も出てくるのではないか。だから、いまは液晶テレビを中心に事業を展開している。NHKと進めている8Kでは、試作品では有機ELではなく、IGZOを使用している。もちろん、有機ELの大画面化は進んでくるだろう。だが、有機ELはLGからも調達できるし、自分たちでも作れるし、JOLEDと関係を作ってもいい。経営は、市場の動向を見ることが大切である。これは私の考え方でもある。

 有機ELの生産においては、前工程は液晶パネルの生産と共通であり、蒸着以降の工程が異なる。そのため、亀山第1工場の設備も有機ELの生産には活用でき、アップルがiPhoneのディスプレイを有機ELに変えたとしても影響はない。有機ELの生産については、4.5世代への投資をすでに発表している。

――鴻海は中国・広州に大規模な液晶パネル工場を稼働させるが、これは堺のSDPと競争につながるのではないか。

戴:中国・広州での液晶パネル工場は、鴻海精密工業の郭台銘会長が、会社とは別にして、個人で投資したものである。鴻海やシャープには経営面では影響がないようにし、それでいて、競争力をあげるという点でプラスになるようにしている。シャープは、そこからパネルを調達するに過ぎない。私の立場から発言することではないが、堺とは競争しないと考えている。郭会長は、個人の財産には興味がない。実際、財産の95%を寄付することを郭会長は宣言している。

――シャープは、今後の新規事業への取り組みにおいて、半導体を盛り込んでいるが、これは具体的にはなにか。

戴:シャープは、半導体の強い会社であった。だが、その後、液晶と太陽光発電に力を注ぎ、半導体への投資は少なくなった。8KテレビのLSIもやってこなかった。しかし、センサーやレーザー技術の強みや、カメラモジュールも強い。テレビのICドライバーなどにも強みがある。技術はシャープに残っている。私が来たので、8KのLSIの開発もスタートした。8KのLSIは自社開発をして、自ら活用するとともに、日本の電機メーカーなどに外販することになる。

――シャープが目指す「人に寄り添うIoT企業」という意味は何か。

戴:日本には電機メーカーが8社あるが、各社ともに、家電メーカーと呼ばれることが似合わなくなっている。シャープも、これからは、IoTの企業に転換しなくてはならない。人に寄り添うというのは、人がすぐに使える緊密な関係を持ちたいという意味がある。家電という製品そのものを見るのではなく、ビジネスモデル全体を見て、エコシステムとして展開していくことが必要である。それがIoTのビジネスである。家電はその中核製品のひとつであるが、そこに、ソフトウェア、コンテンツ、AI、ビッグデータなどを組み合わせたエコシステムでビジネスをすることが大切である。家電は故障する製品。だが、故障してから修理するのではなく、データを活用して、故障する前にパーツを交換したり、新たな製品に買い替えていただくということもできるようになる。そうした世界に入っていく。しかし、日本の市場は、IoTでは遅れている。日本はITの活用においては先進国ではないということを認識しなくてはいけない。