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新生ビクター第1弾、スタジオでユーザーの特性を測定して頭外定位を実現する90万円のヘッドフォン
2017年5月11日 11:17
JVCケンウッドは、新生ビクターブランドの第1弾製品として、ヘッドフォンリスニングでもスピーカーで聴いているような“頭外定位”を実現するため、ユーザーにマッチさせるための個別測定作業をビクタースタジオで行ない、その効果を忠実に再現できるヘッドフォン「HA-WM90」、ポータブルアンプなどもセットにした「WiZMUSIC90」(ウィズミュージック)を発売する。価格は90万円(税込)、予約販売は6月24日でパッケージが届くのは10月上旬。300台限定となる。また、ビクタースタジオではない部屋での測定とヘッドフォン、ヘッドフォンアンプをセットにした通常パッケージ「WiZMUSIC30」は30万円(税込)で7月下旬予約販売開始、10月上旬に届けられる。
いずれのパッケージも、独自の「EXOFIELD」(エクソフィールド)技術を採用している。EXOFIELDの詳細は3月の発表時にレポートしているが、ヘッドフォンを装着して音楽を聴いても、まるで目の前にあるスピーカーから音が出ているような音場や定位が感じられるという技術。
例えば、音楽ホールなどに座って測定をして、そのデータをヘッドフォンに反映させると、自分の部屋でヘッドフォンを聴いている時でも、音楽ホールで聴いていた時のようなサウンドで楽しめる。
「WiZMUSIC90」では、再現する環境として、神宮前にあるビクタースタジオを活用。ユーザーは普段入れないビクタースタジオ内の「EX Room」で、耳に装着する補聴器型のマイクを使った測定サービスを受け、音楽が生まれる場所であるスタジオの音響を、EXOFIELDを使ってデータ化。そのデータを、専用のスマホ向け再生アプリにインストールして、HA-WM90を使って聴く事で、「アーティストも認める本物の音場が楽しめる」という。
なお、通常パッケージ「WiZMUSIC30」は、JVCケンウッドが監修したリスニングルームで測定する。場所は首都圏を予定。地方での測定などは、今後のユーザーからの要望を踏まえて検討していくという。
測定サービスを利用するためには、WiZMUSICの専用サイトから予約が必要。WiZMUSIC90は5月11日から、WiZMUSIC30は6月下旬から予約ができ、WiZMUSIC90は6月24日から順次、ビクタースタジオで測定・体験が可能。
測定が受けられる人数は、購入者本人とその家族、最大4人まで。体験して納得した上で、購入予約を行ない、10月上旬に商品が受け取れる。その際、指定した場所への配送してもらえるほか、ビクタースタジオを見学しつつ(約60分)、スタジオで受け取る事もできる。
WiZMUSIC30の測定・体験は7月下旬から実施し、測定サービスが受けられるのは購入者本人のみとなる。商品は配送のみで、10月上旬から実施する。
また、5月13日(土)~14日(日)の2日間、東京国際フォーラムで開催されるオーディオ・ビジュアル関連の展示会「OTOTEN 2017」でも、予約制で体験ができるという。
ヘッドフォンの詳細
WiZMUSIC90とWiZMUSIC30に含まれるヘッドフォンは「HA-WM90」で共通。詳細仕様は後日公開となるが、ハイエンドヘッドフォンとしての高音質再現と、頭外定位ヘッドホンとしての音場再現を両立したハイスペックなモデルとして開発。EXOFIELD効果を忠実に再現できるだけでなく、EXOFIELDを使わない場合でも、通常のヘッドフォンとして高い音質を実現しているという。
磁束密度を高め、リニアリティを大幅に向上させた新開発の高磁力ネオジウムドライバユニットを採用。「EXOFIELDの広々とした音場空間と高音質なスピーカーサウンドを十分に再現できる音場感と自然でフラットな特性を実現した」という。ハウジングは無垢のメイプル天然材で、北アメリカの冷えた水底に約160年間沈んでいた希少性の高いヴィンテージウッド「アクアティンバー」を採用。現代材に比べ、木目が細かく硬いため、減衰比が小さく、振動伝達性が高く、クリアで自然な音響効果を発揮できる。
アクアティンバーから削り出したモノコックハウジングに、ドライバユニットを直接固定する、スピーカーと同じ設計の「ダイレクト・マウント」方式を採用。ダイレクトに固定させることで不要な振動や共鳴を低減し、振動板が再生する音をストレートに表現する。
イヤーパッドには新開発の素材を使っており、柔らかいフィット感があり、人肌に近い感覚の合成皮革と、側頭部の形状に馴染む低反発ウレタンを組み合わせている。ヘッドバンドも肌触りと機能性を追求した新開発のもの。バンドの内側には、スエード調人工皮革素材のウルトラスエードを採用。「なめらかでソフトな肌触り」、「メンテナンスのしやすさ」、「均質性」などを実現したという。外側にはシープスキンを使っている。
ハウジングは平らにして収納可能。日本の職人が一つ一つ丁寧にハンドメイドしたという、本革の専用キャリングケースも付属する。
付属品や特典も充実
WiZMUSIC90はヘッドフォンに加え、単体発売もされているポータブルヘッドフォンアンプ「SU-AX01」(実売11万円前後)と、ヘッドフォンをバランス駆動するための1.8mケーブルも付属。「ヘッドフォンの持つポテンシャルと、EXOFILEDで測定した音場を最大限に引き出す」という。
WiZMUSIC30にも「SU-AX01」は付属するが、バランス駆動用のケーブルは付属しない。1.2mのアンバランスケーブルのみが付属する。
WiZMUSIC90にはさらに、200曲相当のハイレゾ楽曲を特典として提供。ビクタースタジオのエンジニアが厳選した30曲と、フリークーポン(170曲相当)が付属する。
専用音楽再生アプリ「WiZMUSIC」は、前述の通り、EXOFILEDの測定データをインストールし、聴いている人に合わせた補正をリアルタイムでかけながら楽曲再生が可能。EXOFILED効果はON/OFFできる。さらに、複数のデータを保持し、切り替える事もできる。
「WiZMUSIC」アプリでは、EXOFILEDの個人データをインストールしないとハイレゾ再生機能は利用できない。現時点でアプリは開発中で、PCMは384kHz、DSDは11.2MHzまで再生できる予定だが、帯域が広くなると、EXOFILEDの補正処理の演算量も大きくなっていくため、スマホ側の処理が追いつかないと音飛びなどが発生する可能性がある。その部分も含めて、現在調整をしているところだという。
アプリの「WiZMUSIC」は、スマホからデジタル出力が可能で、同梱するDAC内蔵ヘッドフォンアンプ「SU-AX01」とデジタル接続して高音質再生もできる。
パソコンでの再生は、既存の音楽再生アプリのプラグインで対応する。
EXOFIELDの特徴と測定の流れ
人間が音を聴く際に、スピーカーから放出された音は、聴いている人の頭や耳などに当たって変化する。つまり、CDなどのソースの音がそのままの形で耳に届くわけではなく、頭や耳などに当って“変化した後の音”が耳に届く。
その変化を伝達関数として用いて、音に処理を加え、“前方に置いたスピーカーから再生された音が耳に届くまで”を再現したサウンドをヘッドフォンで流すと、ヘッドフォンリスニングでありながら、まるで前方に置いたスピーカーから音が出ているように感じる。これが「頭部伝達関数」を使った技術となる。
この技術では頭部伝達関数を測定した人の頭や顔の形状によって関数が変わってしまう。そこで、多くの人で効果が感じられるように関数を標準化して用いるのが、一般的なバーチャルサラウンド系の技術。しかし、多くの人が効果を体験できる一方で、標準化した関数を使っているため、各ユーザーに最適な効果を発揮する事が困難という問題があった。
この問題に取り組んだのが「EXOFIELD」。関数を標準化せず、1人1人が頭部伝達関数して、より強力な頭外定位音場処理を実現する技術で、その測定などの工程を簡略化し、再生時の処理もリアルタイムで行なえるのが特徴。
測定には新開発聴診器型MEMSマイクを使用。これを耳に装着した上で、スピーカーから流れる「ビビッ、ビビッ」というような測定音を聴く。これにより、測定環境や、頭部伝達関数などを測定。
次に、マイクをつけたまま、その上からヘッドフォンを装着。ヘッドフォンからの再生音が、ユーザーの耳穴などで同変化するかといったデータも測定。それらを踏まえて最適な音場にチューニングしたデータを作成する。
自分専用の持ち運べるリスニングルーム
JVCケンウッドでは、伝統ある「Victor」ブランドをJVC、KENWOODに続く第3のブランドとして新たに展開していくことを3月に発表しているが、その新生Victorブランドの第1弾として、今回のWiZMUSICを展開していく事を発表。
旧日本ビクターが1927年に創立されてから、今年で90周年を迎える事もあり、「ビクター創立90周年記念商品」としても訴求していくという。
メディア事業部 プロダクツビジネスユニット長の秋山 啓司氏は、WiZMUSICの特徴を「自分専用の持ち運べるリスニングルーム」と表現。「いつでもどこでも音楽を楽しめる、新しいリスニングスタイルを提案したい」と語り、頭外定位を実現する魔法のような体験ができ、まるでWizard(魔法使い)と共に(With)、MUSICを楽しむような製品である事から、「WiZMUSIC」と名付けたという。
ビクタースタジオのエンジニアグループゼネラルマネージャーの秋元秀之氏は、WiZMUSIC90に「Tuned by Victor STUDIO」マークが使われる事について、「仕上がりについて、相当な自信を持っている現れと理解して欲しい。EXOFILED技術のポテンシャルの高さ、そしてビクタースタジオがサポートしているという事、ここも自信の一端だ」と説明。
また、WiZMUSIC90で測定する部屋として選んだ「EX Room」について、「ビクタースタジオの要となる部屋。音楽づくりや制作過程での音質チェックだけでなく、完成したマスターや音楽ソフト製品の最終的な確認にも使用される部屋で、ビクタースタジオの“音の出口”といえる部屋。フルスペックのマルチメディア(マルチチャンネル)にも対応している」という。この部屋は、JVCケンウッドの音作りや、ハイレゾ音源の厳密な比較試聴にも使われているとのこと。
秋元氏は、「ビクタースタジオの要となる音響空間をお持ち帰りいただき、存分に音響空間をお楽しみいただければ」と語った。
実際に「EX Room」で試聴・測定し、そのデータを反映したヘッドフォンを自宅に持ち帰ったという、メディア事業部 プロダクツビジネスユニットのWiZMUSICプロジェクトリーダー 斉藤靖之氏は、「自分の部屋が本当にEX Roomになったようだった。聴いている途中にヘッドフォンである事を忘れ、“深夜なのでボリューム上げすぎかな”と心配してしまったほど、不思議で楽しい体験ができる」と感想を語った。
同じく、効果を体験したオーディオ・ビジュアル/デジタル・メディア評論家の麻倉怜士氏は、「今までも頭内定位を解消する技術ができたので聴いてくださいと言われた事は何度かあったが、何もしないよりかは良いけれど、前から音は来ないというものがほとんどだった。しかし、この技術は、スピーカーからの音と100%同じとは言わないけれども、かなり近似した音場が楽しめた。個人の特性を測定するヘッドフォンというのは、知っている限りでは初めてではないかと思う」と効果を説明。
さらに、「可能性もある。VRにこそ、このような技術が入ってくるといい。ホームシアターにも有効。私は古いオーディオファンなので、五味康祐の(リスニングルームの)タンノイの位置を再現できるなとか考える(笑)。ウィーン・フィルのムジークフェラインザール(ウィーン楽友協会大ホール)で聴いている音場を、その場で測定するというのもいい。90万円どころか、900万円くらいかかるかもしれないけれど(笑)。個人のデータ測定を発展させれば、スピーカーで聴く時だって個人特性はある。あなたに合ったスピーカーや部屋を作る、一般大衆向けではなく、あなたに最大限満足してもらうような特性で音楽を作ってあげるというところまで、将来的には発展できるのではないか。AVメーカーはこれまでなかなか個人、個人に合わせたサービスに入れなかったが、モノとコトの統合ができるようになったのではないか」と、今後の展望を語った。