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日本発世界標準へ、VTuberで注目のフォーマット「VRM」コンソーシアム2月設立

VTuberなどの3Dキャラクターデータにおける、プラットフォーム共通のファイル形式として注目を集めているVRM。その策定や推進、日本発の世界標準フォーマット化を目指し、13社合同によるVRM共同事業体、一般社団法人VRMコンソーシアムが2019年2月に設立される。その発表会が20日に開催された。

VRMコンソーシアムのロゴ

参加したのはドワンゴ、バーチャルキャスト、ピクシブ、IVR、XVI、S-court、クラスター、クリプトン・フューチャー・メディア、SHOWROOM、DUO、ミラティブ、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン、Wright Flyer Live Entertainmentの13社。

VRMは、3Dアバター向けのモデルデータフォーマット。プラットフォーム共通のファイル形式であるため、対応するアプリケーション全てで同じアバター(3Dモデル)データが使える。これにより、生放送、動画、ゲーム、チャットなど、それぞれで存在するVR世界が繋がり、プラットフォームを超えた自由なコラボレーションが実現できる。

例えば、VTuberのキャラクターを作るスマホアプリで、3Dキャラを作成。それをVRM形式で書き出し、同じくVRMに対応した他の動画配信プラットフォームでそのキャラを読み込み、番組を配信。VRM対応のゲームで読み込めば、同じキャラクターを使ってゲームを楽しむといった事が可能になる。

このVRMは、3Dにおける事実上の標準フォーマットである「glTF 2.0」をベースとしているが、glTF 2.0では様々な事が“でき過ぎる”ため、そこに人型モデルを取り扱う際に、使いやすくするための制約と、拡張を追加したもの。2018年4月にドワンゴが提唱し、12月現在、国内16サービス以上が対応。

また、ゲーム開発用のエンジンとしてスタートし、現在では映像や建築のビジュアライゼーションなどにも広く使われているUnityで、VRMファイルを読み書きする標準実装を提供。ただし、フォーマット自体はプラットフォーム非依存であり、他のエンジンや環境でも取り扱えるオープンソースとして公開されている。

従来は、VRやVTuberなどで、人型のアバターを扱おうとした場合、クリエイターが使用するモデリングツールによって構成や3Dデータフォーマットが異なるなど、統一した取り扱いが難しかった。そのため、アプリケーションや3Dモデルデータごとに独自のシステムを開発したり、細かく調整をする必要があった。

こういった状況を改善し、3Dモデルクリエイターやアプリケーション側の取り扱いを簡単にするために作られたのがVRMであり、プラットフォーム非依存の3Dアバターファイルフォーマットとして提案している。

アバター利用時の“使いやすさ”も考慮されており、アバターとしてユーザーが一人称視点で使った際に、自分のキャラクターの頭部の内側が見えてしまわないように描画するといった情報も入っている。

通常の3Dデータの場合、テクスチャやマテリアルなどがバラバラになっている事があるが、VRMの場合は全データを1つのファイルにまとめて取り扱いできる。

3Dアバターは誰なのか? 問題にも対応

3Dキャラクターは単なるデータだったが、VTuberのような存在が広がっていくと、人気VTuberのデータを、VTuberの“中の人”ではなく、他の人が演じる事の可否といった新しい課題も生まれてくる。一方で、「この3Dキャラクターのデータは、誰もが自由に使い、演じていい」と規定したデータも存在する。

VRMでは、データ自体に、「どのような使い方をしていいのか」という権利情報を内包できるのも特長。

具体的には、アバターを演じることの許容範囲を、作者のみ、明確に許可された人限定、誰でも可から選択できる。さらに、暴力/性的表現を演じることの許可、商用利用の許可、その他のライセンス条件も内部に格納できる。

再配布や改変に関する許諾範囲も設定でき、ライセンスタイプは再配布禁止、著作権放棄、Creative Commons CC BYライセンスなどが選択可能。こうした権利保護手段の検討もVRMコンソーシアムで行なっていく。

なお、ベースとなっているglTFは、Khronosグループが仕様策定を行なっているが、KhronosグループからもVRMコンソーシアムに対して、密接に協力し、シナジーを最大化していくと、歓迎のコメントが贈られているという。

現在は2019年2月のVRMコンソーシアム設立を目指し、準備会として作業が進められており、今後は3Dモデル、IPを取り扱う関連事業者などを対象に、広く会員を募集していく。また、オブザーバーとして任天堂も参加予定。その他のオブザーバー会員も募っていく。

1億総アバター時代へ

発表会には、参加する13社が登壇。それぞれのサービスにおけるVRMへの対応状況や、今後への期待を語った。

3Dアバターが作れるPC、スマートフォン向けアプリ「Vカツ」を手がけるIVRの大鶴尚之CVOは、VRMの今後の活用について、VTuberや企業広報、バーチャルアナウンサー、VRタレントなどを挙げたほか、「エンターテイメント以外にも、教育、医療、芸術、文化と幅広く浸透していってほしい。目標は“1億総アバター時代”」と掲げた。

IVRの大鶴尚之CVO

VRを使ったアニメ制作ツールの「アニキャスト」を手がける、エクシヴィの近藤義仁代表取締役は、Twitterのアイコンに、PNGやJPEGといった静止画ファイルを使う事を例に挙げ、「VVR時代のPNG、JPEGになるのがVRM。アバター用の共通フォーマットとして、日本発のデファクトスタンダードになればいいと思っている」と語った。

エクシヴィの近藤義仁代表取締役

リリースから11日間で累計100万ダウンロードを記録した「カスタムキャスト」を手がける、S-courtの川崎大和代表取締役は、ユーザーからの3Dアバターに対するニーズの高さを説明。VRMにより、「これまでにない新しい体験ができるようになれば」と期待を語った。

11日間で累計100万ダウンロードを記録した「カスタムキャスト」
S-courtの川崎大和代表取締役

ミライアカリを始めとした、VTuberが所属する事務所であり、配信プラットフォームとなるアプリも手がけるDUOの塚本大地CEOは、タレント事務所としてマネジメントする一方、そのタレントが活躍するプラットフォームも展開するという立場を活かし、「マルチな視点で情報発信していきたい。様々なサービス間でキャラの移動が簡単になると、普通の人が、好きなプラットフォームで、好きな表現をしていくようになる。そういった世の中になるように、発信者としても、受け手としても期待している」と言う。

DUOの塚本大地CEO

ドワンゴの清水俊博副本部長は、「ドワンゴとしては、バーチャルキャストを設立し、そこにVR関連の開発は譲渡している。しかし、ドワンゴとしても独自でVR事業をやっていこうと思っており、カスタムキャストの開発に協力したり、VTuberが参加するバーチャル大晦日や、NHKさんと一緒にやるバーチャルのど自慢などの番組制作に関わったり、先日発表したVTuberのアニメ“バーチャルさんはみている”にも関わっている」と説明。

ドワンゴの清水俊博副本部長

バーチャルキャストの岩城進之介CTOは、「VRMを下敷きとする事で、様々な演者が出演でき、それを使ってまた新たな演出が可能にある」と、VRMの可能性を語った。

バーチャルキャストの岩城進之介CTO

スマホだけでゲーム実況やトークなどの配信ができる「ミラティブ」を手がける、夏澄彦CTOは、「今後ミラティブでも、作成したアバターをVRM化し、他のプラットフォームに持ち込んだり、他のプラットフォームで作成したVRMをミラティブに持ち込んで、ゲーム実況や雑談を、アバターを表示しながらできるよう、検討していく」とのこと。

ミラティブの夏澄彦CTO

バーチャルキャラクターによるライブやイベントなどを開催できるサービス「クラスター」の、加藤直人代表取締役は、同サービスが既にVRMに対応し、観客が好きなアバターを使ってライブなどを観戦できる事を紹介。「バーチャルキャラクターによる音楽ライブに、日本だけでなく世界中から、数十万人といった人が集まる、そういった未来は必ず来ると考えている。それを実現するためには、VRMの存在は不可欠」と語る。

クラスターの加藤直人代表取締役

初音ミクのライブなどを成功させてきた、クリプトン・フューチャー・メディアの熊谷友介CGMチームマネージャーは、音楽にあわせてリアルタイムで3Dキャラクターが歌い、踊る、リアルタイム3DCGコントロールシステム「R3」を紹介。「専門知識不要で、生演奏とバーチャルキャラクターの動きをシンクロさせたり、テンポが揺れやすいものと共演できる。今現在は自社で取り扱うキャラクターだけの展開になっているが、VRMの広がりによって(様々なキャラと)連携して、コンサートなどが実現できるのでは」と展望を語った。

クリプトン・フューチャー・メディアの熊谷友介CGMチームマネージャー

SHOWROOMのxRLabバーチャル事業開発責任者の近藤善洋氏は、キャラクターを使って配信できるアプリ「SHOWROOM V」を展開している事を説明。「SHOWROOMは、誰でもスターになれる場所だが、顔を出したくないなど、配信にあたってハードルを感じる人もいる。少しでもそれを下げるために、バーチャルで配信できるアプリを提供した。VRMのモデルを利用し、他社のサービスと連携し、もともと入っているプリセットだけでなく、いろいろなモデルを持ち込める」と可能性を説明した。

SHOWROOMのxRLabバーチャル事業開発責任者の近藤善洋氏

イラストを描く感覚で3Dキャラが作成できるソフト「VRoid Studio」を手がけるピクシブの運営本部本部長/新技術プロジェクトの清水智雄プロデューサーは、「作った3Dキャラが動いているところを、簡単に他の人に見せるためのプラットフォームとしてVRoid Hubを、ゲームなどからその3Dキャラを簡単に呼び出す仕組みとしてVRoid SDKも作っている。VRMには可能性を感じており、一緒に盛り上げていけたら」と言う。

「VRoid Studio」
ピクシブの運営本部本部長/新技術プロジェクトの清水智雄プロデューサー

ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの大前広樹氏は、「Unityを日本のクリエイターに、よりよく使ってもらうための支援をしてきたが、VRMコンソーシアムへの参加により、より洗練されたアバターを、より自由に使えるように、お手伝いをしていきたい。また、我々はKhronosグループの正式なメンバーでもある。日本で生まれたこのVRMを、世界標準にする橋渡しのお手伝いも、微力ながらしていきたい」と語った。

ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの大前広樹氏