レビュー

ソニーのゲーミングヘッドフォン「INZONE H9」使ってみた。驚きの空間描写力

「INZONE H9」をPC&PS5で使ってみた

6月29日に「INZONE」ブランドでゲーミングギア市場への参入を表明したソニー。第1弾製品としてゲーミングモニター「INZONE M9/M7」、ゲーミングヘッドセット「INZONE H9/H7/H3」の2ライン5製品を発表した。このうちノイズキャンセリングを搭載したワイヤレスのヘッドセット最上位「H9」を、PCやPS5と組み合わせて使ってみた。結論から言うと、H9の音質は圧倒的で「ゲーム用に良いヘッドセットが欲しい」というニーズにドンピシャな製品だ。

まずは製品を簡単におさらい。INZONEゲーミングヘッドセットは、開発テーマとして、ゲーマーのニーズを満たしつつ、これまでソニーがオーディオヘッドフォンで培った立体音響技術、装着快適性、ノイズキャンセリング機能が投入されている。

INZONE H9

ラインナップはNC搭載+ワイヤレスのH9、NCなし+ワイヤレスのH7、NCなし+有線接続のH3という3製品。ワイヤレスの2機種はUSBトランシーバーを使った低遅延な無線接続とBluetoothによる無線接続の2種類に対応している。店頭予想価格はH9が36,000円前後、H7が29,000円前後、H3が12,000円前後。

高い空間描写性能。“個人最適化”は使わないともったいない

INZONE H9

さっそくH9を手に取ると、ハウジングの厚みが目を引く。見た目としては防音用イヤーマフに近い。ゲーミングヘッドセットではないが、BOSEのQC35、AppleのAirPods Maxといった一般的なワイヤレスヘッドフォンと比べると、その肉厚ぶりがわかる。

INZONE H9をBOSE QC35と並べたところ
INZONE H9を装着したところ
参考にBOSEのQC35を装着したところ

見た目は重そうだが、重量は約330gで装着しても、特に重いと感じることはない。イヤーパッドはソフトフィットレザーイヤーパッド(合皮)で触り心地も良い。またPS5本体と同時発売されたワイヤレスヘッドセット「PULSE 3D ワイヤレスヘッドセット」と違って、ヘッドバンドの長さを自分で調整できるので、耳に圧迫感も感じなかった。

付属のUSBトランシーバー。側面に動作モードを切り替えるスイッチがある

まずはWindowsでの使用感をチェックした。PCで利用する前に設定などを行なうソフト「INZONE Hub」をソニーのページからダウンロードし、インストールしておく。付属のUSBトランシーバーにはPS5とPCの動作モードを切り替えるスライドスイッチが付いているので、スイッチを「PC」に切り替えておこう。

PCとトランシーバーを接続し、H9の電源をONにすると、自動でH9とパソコンが2.4GHzワイヤレスで接続される。Bluetoothヘッドフォンのようなペアリング操作は不要だ。

今回はWindows 10のPCを使用したが、INZONE Hubをインストールしていれば、特に何も設定しなくてもH9からパソコンのサウンドが聴こえるようになる。この時にひとつ注意しなければならないのが、WindowsからはH9が「ヘッドセット イヤフォン(INZONE H9/INZONE H7 -Chat)」と、「スピーカー(INZONE H9/INZONE H7 -Game)」というふたつのデバイスとして見えるという事。

Windowsとの接続後、サウンドデバイス設定には気をつけよう

既定の再生デバイスとして選択するのは「スピーカー(INZONE H9/INZONE H7 -Game)」の方にしよう。こちらを選ばないと、H9が7.1chのデバイスとして認識されず、普通の2chヘッドフォンとして音が出てしまうからだ。

「スピーカー(INZONE H9/INZONE H7 -Game)」を選んで、スピーカーのセットアップ画面に移動して、7.1chのサラウンド再生のテストができる画面になっていれば、7.1chデバイスとして認識されているという証拠だ。このヘッドセットは、7.1ch入力された音声を、PC側のソフトウェアで2chのバーチャル立体音響に変換し、2chのヘッドセットで再生するという流れになる。

INZONE Hubのサウンド設定画面

次に、「INZONE Hub」に移動すると、7.1chでWindowsから入力されたサラウンド音声を、ソフトウェアで仮想的に2chで再生する立体音響のON/OFFや、イコライザー設定、ノイズキャンセリングの設定、ダイナミックレンジのコントロールなど、細かなカスタマイズが可能になる。

まずは気になる立体音響から。人気のバトロワゲーム「Apex Legends」で試してみたが、これがなかなかスゴい。

立体音響どうこう以前に、H9はヘッドフォンとして音場の再現が上手く、密閉型でも広大で抜けの良い音場が再生できている。そこに、敵の足音や銃撃音などの音像が定位するわけだが、試しに、テルミットグレネードという地面で燃え続けるボムを投げて、「ゴーッゴーッ!!」と燃え盛る炎の音を聞きながら、キャラクターをぐるぐる回したり、炎に近づいたり遠ざかったりしてみる。

すると当然、炎の音像が“目の前”から“左斜め前”、“真左”、“左斜め後ろ”、“背後”、そして“右斜め後ろ”、“真右”……と移動していくのだが、この移動感が非常に明瞭。

特に、多くのバーチャルサラウンド・ゲーミングヘッドセットが苦手とする“斜め後ろ”と“背後”の描き分けがキッチリできている。さらに特筆すべきは、斜め後ろ、背後にある音像と、それを聞いている自分との距離感もしっかり描けている事。

つまり、背中の方向で燃えている炎に対して、背中を向けたまま近づいていった時に、「まだ炎まで遠い」とか「だいぶ近づいてきた」という距離感の違いが認識できるのだ。これは斜め後ろ方向でも同じ。バーチャルサラウンド・ゲーミングヘッドセットでは曖昧にしか感じられないこの部分が、もともとの音場の広さや、音像定位のクリアさも手伝って、非常に明瞭に聴き分けられる。

この空間描写性能はゲームプレイでも有利に働く。例えば「立てこもった家の1階に敵が入ってきた」とか「同じフロアの違う部屋に敵が入ってきた」というような、音だけでは状況を把握しにくい場合でも、音の距離感の違いや、高さ方向の音像定位の確かさなどで「あ、これは1階だな」とか「横じゃなくて後ろのドアから来たな」みたいな事がわかりやすい。プレイに有利というだけでなく、ゲームの世界をリアルに感じられるという面では、没入感にも寄与していると言えるだろう。

この立体音響の効果をさらに高める方法として、「個人最適化」がある。ご存知のとおり、ソニーのオーディオ用ヘッドフォンでは、スマホのカメラでユーザーの耳の形状を撮影し、その形状などから個人の聴感特性を解析し、個人差を補正することで立体音響がより効果的に聞こえるように補正する“個人最適化”に対応したモデルが増えている。

個人最適化に必要な撮影測定アプリをスマホにインストールするよう促される

その技術をゲーミングヘッドセットにも適用したというわけだ。オーディオ用ヘッドフォンと同様に、専用アプリ「360 Spatial Sound Personalizer」をダウンロードし、耳を撮影し、INZONE Hubと連携させることで実現する。すでにオーディオ用ヘッドフォンで耳の撮影を済ませている人は、同じアカウントでサインインする事で、クラウド上に保存されている個人最適化データをINZONE Hubで読み込み、改めて耳を撮影しなくても個人最適化を完了できる。

なお、この個人最適化を行なうと、前述の“炎の音像ぐるぐる”をやった時の、移動感がさらに滑らかになる。自分の周りを移動している音が、特定の場所で奥に引っ込んだり、出っ張ったりする事がなくなる。背後や斜め後ろといった音の距離感も、より聞き取りやすくなる。使わないともったいない機能だ。

本体のボタンアサインなど、細かな設定を変更する画面。Bluetoothの音質優先、接続優先もここで切り替えられる

ゲーム自体のサウンドとしては、輪郭をクリアかつシャープに描写する高解像度系。オーディオ用ヘッドフォンとは当然ながら音作りが違うが、音像のエッジを不自然になるまでカリカリに強調し過ぎている……というほどではないので、これはこれで聞いていて気持ちが良いし迫力もある。しばらく使ってエージングが進めば、少し落ち着いた音にもなるだろう。

高価なヘッドフォンなので、立体音響をOFFにして、普通の2chヘッドフォンとして音楽再生にも使いたいという人もいるだろう。

前述のとおり、ヘッドフォンとしての音質は、高解像度で音圧が豊か。ちょっと刺激が強いが、低域から高域までのバランスは良好。密閉型だが、高域の抜けは良く、音がこもる感覚は無い。音場も広大なので、一般的なゲーミングヘッドフォンと比べると、高音質と言える。

ゲームごとに、個別の設定を記憶させ、アプリ起動と連動して切り替えられる

PS5でも空間描写力は健在

PS5正面のUSBポートにトランシーバーを接続。使用中、トランシーバーが白く光る

続いてはPS5での使用感もチェック。ここではPS5と同時発売されたワイヤレスヘッドセット「PULSE 3D ワイヤレスヘッドセット」との聴き比べも行なった。

H9とPS5の接続は、USBトランシーバーのスイッチを「PS5」に切り替えて、PS5本体のUSBポートに挿せば準備はOKだ。今回はPS5本体正面のUSB Type-Aポートに接続した。こちらもヘッドセットとUSBトランシーバーのペアリングは不要。

PS5と接続すると「USBヘッドフォン(INZONE H9 INZONE H7)と表示される

PS5との接続時には「Perfect for PlayStation 5」と名付けられた機能群が利用でき、PS5の画面上でもヘッドセットの音量、バッテリー残量、マイクミュートのステータスを表示でき、ヘッドセットのボタンで音量やゲーム音とボイスチャット音のバランス調整なども可能。

PULSE 3D ワイヤレスヘッドセットとPS5を接続したところ。H9接続時にはなかったEQプリセットの項目が表示されている

ただし現時点ではPULSE 3D ワイヤレスヘッドセットで利用できるイコライザー機能は利用できなかった。

さっそくリアルドライビングシミュレーター「グランツーリスモ7」で、H9とPULSE 3D ワイヤレスヘッドセットの音を聴き比べてみる。PS5の3Dオーディオはオンにして、プレイしたのは富士スピードウェイのタイムアタック、車両はレーシングカー「スープラGT500 '97 Castrol TOM'S」だ。

まずはPULSE 3D ワイヤレスヘッドセットで走ってみると、レーシングカーならではの低く唸るようなエンジン音が気持ちよく響く。1,475mあるメインストレートでは「ゴォーッ」という風切り音が聴こえ、高速でストレートを疾走している感覚を味わえる。

続いてH9で走ってみると、聴こえてくる音がまったく違う。低域に迫力があったPULSE 3D ワイヤレスヘッドセットとは違って高域も伸びてくる。走行中のエンジン音では、PULSE 3D ワイヤレスヘッドセットではほとんど聴き取れなかった「キーン」というターボの回転音がしっかりと耳に届く。

メインストレートの風切り音は「コォーッ」と低域が弱くなり、高域が強めに感じられ、さらにPULSE 3D ワイヤレスヘッドセットでは気がつかなかった風圧や路面の凹凸で車体がカタカタと揺れる音も聴き取れるようになった。

グランツーリスモ7では、自分の走りをチェックするリプレイ映像も重要な要素。ここでも2台のヘッドセットで聴き比べると、音の広がり方の違いに気がついた。H9ではレーシングカーのエキゾーストノートがサーキット全体に響いているような音場の広がりを感じられた一方で、PULSE 3D ワイヤレスヘッドセットでは、広大なサーキットに音が響いているような感覚はない。こちらもINZONEのほうが、よりサーキットに居るような感覚だった。

続いてFPSゲーム「Call of Duty:Vanguard」をプレイ。こちらもH9では、足音や銃声の位置といった定位感がより明確に感じられる。PS5接続時はPCで利用できた個人最適化は使えないが、PS5側で3Dオーディオの設定を行なっておけば、音の距離感や移動感もしっかりと得られた。

先日PS5版の配信が始まった「バイオハザード:RE2」も遊んでみると、空間描写性能が高いH9では恐怖感も倍増。ゾンビのうめき声で「この角を曲がったところにいるな」と感覚で理解でき、心の準備ができる。

ただ、突然ゾンビがガラス窓を「バンバンッ!」と叩いてくる場面では、運悪く視界の外、左後方から音が聴こえてきたため、あまりの怖さと驚きで思わず飛び上がってしまった。筆者のように“ビビりやすい”人は、INZONE×ホラーゲームには心して挑んだほうがいい。

有線モデルのH3をPS5で使うときは、コントローラーのヘッドフォンジャックに接続する
PC接続時に使用するアダプターにはSONYロゴが

ちなみに有線モデルのH3の音質傾向はH9とほぼ同じだが、音場の広さはH9と比べると少し狭く感じられた。またH3をPS5で使用する場合はコントローラーのヘッドフォンジャックに端子を挿す必要がある。ケーブル処理を面倒に感じるが、ヘッドセット側のバッテリー残量を気にしなくていいのは、長時間のゲームプレイ時には嬉しいところ。H3をPCで使用する場合は付属のアダプターを使ってUSB接続する。

1000Xシリーズ譲りのNC性能。NCオン/オフで音質は変化

最上位モデルのH9には、アクティブノイズキャンセリング機能と、アンビエントサウンドモード(外音取り込み)機能が搭載されているのも特徴。1000Xシリーズで実績のあるデュアルノイズセンサーテクノロジーを用いたものだが、屋内利用が主なゲーミングヘッドセットにANCは必要なの? と疑問に感じる人もいるかもしれない。

しかし実際に試してみると、ANCがあることでゲームへの没入感は大きく増す。というのも、エアコンや扇風機、空気清浄機など、意外と部屋の中にはノイズを出しているものが多い。もちろんPCでゲームを遊ぶ際のファンノイズもそのひとつ。

特に筆者はエアコンとダイソンの“羽のない扇風機”を併用して暑さをしのいでおり、このダイソンの扇風機がかなりうるさい。FPSやアクションゲームの場合、戦闘など激しいアクションシーンではそういったノイズが気になることはないが、例えばFPSの潜入ミッションやホラーゲームなど、ゲーム内で静かな場面が続くと、ヘッドセットをしていても、こういったノイズが耳につく。

しかし、H9のNCは、さすがソニーという強力さで、WH-1000XM5やWH-1000XM4といった、オーディオ用ヘッドフォンのNC性能に近いレベルのものを実現している。エアコンの動作音はキレイに消え、扇風機のノイズも高音部分が少し残るレベルまで抑えられる。ゲームをプレイしはじめたら、まったく気にならない。ゲーミングPCのファンノイズも同様で、「ゴォー」という低い音はキャンセルされ「コォー」という高音だけが少し残るかなというレベルまで静かになる。

気になるのは、NCのON/OFFで音質がだいぶ変化する事。NCをONにすると、低域のパワフルさがグッとあがり、沈み込みも深くなる。全体として低重心な、貫禄のあるサウンドになる。この方が派手と言えば派手で、万人受けするサウンドだ。しかし、オーディオ用ヘッドフォンの感覚で聴くと、ちょっと低域が過多だ。あくまでゲーム用というチューニングなのだろう。

逆に、NC OFF状態では、派手さはなくなるがモニターヘッドフォンっぽい自然なバランスになる。こちらの音の方が、ヘッドフォンとしての“素の音”に近いと思う。“中高域が高解像度”という、H9の特徴が聴き取りやすい。音楽の細かな表情を聴くには、NC OFFの方が良いだろう。

音作りとしては“常時NC ONで使うこと”を前提としている感じはあるのだが、オーディオとゲーム用途の両方で使いたいという場合は、映画やゲームでは「NC ON」、音楽は「NC OFF」と使い分けてもいいかもしれない。

またワイヤレスモデルのH9/H7はBluetoothにも対応。PCやスマートフォンとペアリングすることで、例えばPS5でゲームを遊びながら、PC/スマホのチャットアプリで友人とボイスチャットを楽しんだりもできる。ボイスチャットをしなくても、例えばペアリングしたPCでYouTubeのライブ配信やラジオ動画、radikoなどの音声を聴きながら、RPGのレベル上げなどを黙々と進めるといった使い方もできた。

なお、マイクについてはゲーム上でのボイスチャットでは試すことができなかったが、PCと接続してオンライン会議で試したところ、聞いている相手からは「聴き取りにくい」などの意見はなかった。ただ、ワイドレンジかつ自然に声をとらえるというより、明瞭度を重視して中高域をメインに集音しているような音。FPSの大会などで、指示や報告を出し合って戦うようなシーンを意識した音なのかもしれない。なお、ブームマイクを跳ね上げれば自動でマイクミュートが有効になるので、ハウジングの大きささえ気にならなければ、オンライン会議でも活用できそうだった。

ライバルを圧倒する音質と性能。悩ましい価格差

ソニーが満を持して投入してきたゲーミングヘッドセット。これまで同社がオーディオヘッドフォンで培ってきた技術がふんだんに盛り込まれているため、ヘッドセットとしての音質は群を抜いている。空間描写性能も高く、ゲームで勝つためのパフォーマンスも十分。強力なNCによって、より深くゲームの世界観を味わえた。

気になるのは価格の高さ。今回発売された3機種のうち、もっともリーズナブルなH3は実売12,000円前後だが、こちらは有線モデル。ワイヤレスモデルとなると、NCなしのH7でも実売29,000円前後、最上位のH9は36,000円前後と一気に価格が跳ね上がる。ゲーミングヘッドセットは他のオーディオメーカーも参入しておりライバルも多い。主にPS5で使う場合は10,978円とリーズナブルなPULSE 3D ワイヤレスヘッドセットもあるので、さらに悩ましい。

PS5での使用に限れば気軽にPS5でワイヤレスヘッドフォンを使いたい場合や、迫力ある音質が好みの人はPULSE 3D ワイヤレスヘッドセットを、長時間ゲームをプレイする、ゲームにも音質を求めたい人はINZONEを選んだほうがいいだろう。INZONEの3製品のなかでは、環境にあわせて有線/無線モデル、ANCの有無を選べば問題ないはずだ。

酒井隆文
山崎健太郎