レビュー
NEC最後のCDプレーヤー「CD-10」をメンテ!鮮烈で強烈なサウンドが復活した
2025年2月3日 08:00
今回のメンテはお気に入りのCDプレーヤー、NEC「CD-10」
先日、NECの「CD-10」というCDプレーヤーをメンテした。しかも2台立て続けにメンテした。1台は30年程前に自分で購入したものだ。購入当時3年くらいメインで使ってしばらく寝かしていて、数年前、現用のプレーヤーが不調になったときに使おうと思ったら壊れていたのでそのままラックに仕舞っておいたものだ。
もう1台は旧知のオーディオ評論家の炭山アキラさんから昨年連絡があり、「故障したCD-10があるんですが、市川さん、いりますか?」といわれタダで譲ってもらったものである。CD-10はお気に入りだったのでいつか直そうと思っていたのだが、せっかく炭山さんからもう1台もらったので古い1台もラックから引っ張り出した。
CDプレーヤーの故障原因で最も多いのは光学ピックアップ(OP)の劣化なのだが、最近いろいろな機種を修理してみて、OP劣化以外が原因のことも少なくないことが分かってきた。
実は以前CD-10のボンネットを開けてみたときに、とても気になる部分があった。CD-10のOPは新品部品を買い置きしてあるのだが、安直にOP交換する前に“気になる部分”を確認してみようと思い立ったのだ。
中級機ながら、出てくる音の非凡さは前代未聞!?
メンテの話の前に、CD-10について説明しよう。
NECは1970年代には「DianGo」(ジャンゴ)というブランドで単品コンポやシステムコンポなど幅広いラインナップをそろえていたが、1983年にNECをそのままブランド名として再始動した。
プリメインアンプの「A-10」シリーズや「CD-705」など記念碑的な製品を繰り出したものの、NECブランドはそう長くは続かなかった。1989年に「A-10X」とCD-10を発売したのを最後にオーディオから撤退していった。
A-10は末尾の更新で進化を続けたが、CD-10は一代限りの型名である。しかし、NECブランドのCDプレーヤーは当初から同じ設計姿勢を貫いてきたので、パッと出の機種ではないのである。そしていろいろな面でユニークなプレーヤーなのだ。
当時の価格は99,800円と中級クラスだったが、鉄製インシュレーターと3枚重ねの底板を使ったシャーシの構造は非常に強固であり、このクラスとしては前代未聞だった。電気回路も贅沢かつユニークで、2チャンネルのマルチビットDACを2個使って無変換のネイティブなバランス出力を実現していた。
しかし、読み取りメカはごく普通の軽量級のもので、ボンネットも薄手の鉄板プレス。強じんなシャーシや贅沢な電気回路と、普通のメカと貧相なボンネットはどうみてもアンバランスなのだが、出てくる音の非凡さはこれまた前代未聞といえるものであり、ユニークを通り越して不思議なプレーヤーという印象さえある。
音質対策の“接着剤”固定がアダに……経年劣化で金属を浸食
では、メンテの説明に戻ろう。
前述の“気になる部分”とはボンネットを開けると一目で分かる。それは接着剤だ。
基板に林立する電解コンデンサを固定するため、接着剤が何カ所も大量に塗ってある。元々は白かったであろう接着剤が経年劣化で茶褐色に変色し、接着剤に覆われた周辺の小さな部品が青サビを噴いている。これはもう一目でヤバい状況になっていることがわかる。
電解コンデンサなどの大型部品を接着剤で固定するのは音質対策として有効なのだが、手間がかかるため、製造時にこの対策が行なわれるのは珍しい。
接着剤は電解コンデンサの周囲だけではなく、近くの小さな電気部品や基板上の銅線にべっとりと塗られている。
この接着剤は非導電性で本来は問題ないはずなのだが、経年劣化で恐らく湿気を吸ったことで金属を侵食するようになり、抵抗、ダイオード、トランジスタなどの小型部品が数多くやられてしまったのだ。幸いな(皮肉な?)ことに、電解コンデンサのリード線には接着剤の魔の手は及んでいない。
この状況から救出するためには、回路図やサービスガイドなどの技術情報がほしいところだが、CD-10の技術情報はネットで探しても残念ながら見つからなかった。A-10もそうだったのでNECのオーディオ機器は全般的にネットでの技術情報入手が難しいようだ。しかし、引き下がるわけにはいかない。技術情報がないなら現物確認で何とかするしかない。
いざメンテ。しかし、メカ基板よりもオーディオ基板のほうが重傷だった
2台のCD-10の元凶は接着剤だということは明白だが、発生している症状はそれぞれ異なっていて、1台目はトレイや読み取りレンズが動かず、レーザーもまったく光らない。2台目はメカは動くし読み込みは問題なく、再生ボタンを押すとカウンターは進むのだが音がまったく出ない。
まずは1台目から取り掛かる。
初めにメカ基板の電源電圧を調べたところ、プラス側の電圧がまったく出ていないことが分かった。メカが動作しない原因はこれだろう。接着剤の影響で青サビを噴いていた抵抗を点検したところ完全に断線していて、さらにジャンパーの断線も確認できた。つまり、電源の流路がバッサリ切断されていたわけだ。
そこで電解コンデンサや周辺部品を一度取り外してから、固着した接着剤をそぎ落とすように除去して、腐食した抵抗とジャンパーを新しいものに交換したところ見事に電源が復活しメカが正常に動くようになった。接着剤は石のように固まっていて除去するのが大変だった。30年経ってこんなことになろうとは、誰も想像だにできなかったであろう。
メカが直ったのでCDをかけたところ、正常に読み込んでカウンターも進んでいる。しかし音がまったく出ない。つまり2台目とまったく同じ状態になったわけだ。
オーディオ基板の電源電圧をみたところ、3系統のある電源回路のいずれも出ていないことが分かった。オーディオ基板はさらに大量の接着剤が塗りたくってあって、埋没して青サビを噴いた部品が何個もある。
特に6個の定電圧ダイオードがひどくやられていて、部品の表面に書いてある文字が判読不能な状態になっていて電圧値がわからないのがやっかいだ。回路図があれば定電圧ダイオードの型名が書いてあるはずだが無いものは仕方ない。
他に抵抗やトランジスタも腐食しているが、抵抗値を示すカラーコードやトランジスタの品番は読めるのでこっちは何とかなりそうだ。
基板のパターンを辿って、無傷の部品を観察して、頭の中で回路図を描きながら、精いっぱいイマジネーションをふくらませつつ、固まった接着剤を削り落とし、朽ちた部品を外していく。メンテってきれいごとだけじゃできないよな、などと独りごちながら作業を進める。
難関だった定電圧ダイオードは、リード線のサビを削り落としたところ、かろうじて電圧の実測ができた。実測した結果で6Vと16Vの2種類使われていることがわかった。
それぞれ手持ちの6Vと15Vの新品に交換し、抵抗は同数値の新品に交換した。トランジスタも断線していたが、脚を短く切って再利用。パターンもけっこうやられていて何カ所か補修した。メカ基板よりもオーディオ基板のほうが重傷だったのだ。
2日がかりでようやくオーディオ基板の処置を終えた。仮組み状態でテストしたら電源電圧はすべて正常値に戻った。再生テストも問題なし。あー、よかったあ。この快感は何ものにも代えがたい。これがあるからメンテはやめられない。よしよし。
2台の修理でわかった、カップリングコンデンサ省略のワケ
CD-10はメインで使っていた当時、各種の音質対策を自分でいろいろやった。ボンネットの内側に制振ゴムを貼ったり、メカのブリッジやトレイに鉛を取り付けたり、コンデンサやICに銅箔やタイルを貼ったりした。対策で故障するようなことはなかったが、今考えるとちょっと度が過ぎたと思える。若気の至りとはこのことだな。
そんなこともあってCD-10のことはよくわかっているつもりだったのだが、今回初めて気づいたことがかなりあった。
まず最も特徴的なのは、飛び交うリード線だ。基板を見ると太く硬いリード線が何本もアーチ状に貼り巡らしてある。この線にはもちろん電流が流れているのだが、その多くが「なくても音が出る」のである。つまり、基板のパターンと並列に配線されているので、この線がなくてもパターンだけで回路は動作するのである。特にアースラインはこのリード線で徹底的に強化されている。
電源回路の構成も凝っている。トランスからの交流電源がメカ基板とオーディオ基板に直接供給されていて、整流と制御を各回路の近くで行なうようになっている。これはローカル電源といわれるテクニックで、アンプではよく見るがCDプレーヤーでは珍しい。この方式はアンプのA-10でも多用されたものでもある。
それから発売当時、「CD-10は使い込むとDC(直流)が漏れてくるが、調整で直せる」と言われていた。メインで使っていた頃、僕も実際に調整したことがある。ボンネットを外して出力をテスターで測りながら半固定抵抗を回して調整するのだ。
実はこの話を教えてくれたのは、長岡鉄男先生である。「髪の毛一本くらいね。ほんのちょっとだけ回すんだよ。」なぜかうれしそうに教えてくれたことを憶えている。
CDプレーヤーなどの出力回路は、DCをカットするために「カップリングコンデンサ」というものが挿入されていることが多い。
音質優先ならカップリングコンデンサはないほうがいいのだが、普通は安定性を考慮して挿入されている。ただCD-10は、音質最優先の設計のためカップリングコンデンサが省略されているのだ。
それがDC漏れの理由なのだと今回初めて気づいた。当時は技術的な理解度が浅かったので、まあそういうものか、としか思わなかった。カップリングコンデンサを省くということの重大さはいまならよくわかる。
1台目を直したことで勘所がつかめたので、2台目はおおよそ半分の時間でメンテが完了した。こちらのほうが接着剤の被害は幸い軽微で、電源がダウンしていたのはオーディオ基板だけだった。ちなみに2台ともベルト交換や可動部のグリスアップなど、メンテの定番作業は怠りなくおこなった。
鮮烈で強烈なサウンド。CD-10が見事復活してルンルン気分♪
メンテ完了後はお楽しみの試聴である。
まずは、ロック系のダイアー・ストレイツの「Brothers in Arms」から。エレキの輝かしく鮮烈な切れ味が気持ちいい。ベースとバスドラはゴリっと芯がありローエンドもしっかり伸びている。ボーカルは鮮烈で目前に張り出してくる。実に気持ちのいい鳴り方だ。
古い録音のジャズからオスカー・ピーターソン・トリオの「The Trio」。ピアノのハイスピードなフレーズと、金粉をまき散らすようなシンバルの響きは、CD-10のハードな質感にマッチして、まさに目が覚めるようだ。ゆったりした曲ではライブハウスの雰囲気が見事に再現される。
いやはや、何とも鮮烈で強烈なサウンド。CDの優秀録音盤だけではなく、近年発売のSACDハイブリッド盤のCD層も聴いてみたのだが、現在メインで使っているエソテリックの「X-01」で聴くSACD層よりもダイナミックにバリバリと鳴りまくる印象がある。
機器のテストによく使うEighty-Eight'sレーベルのハイブリッド盤、ティファニーの「The Nearness of You」のCD層は、生々しくも繊細なボーカルが秀逸で、伴奏はいずれの楽器も立体的で存在感が際立つ。やや腰高だがこの俊敏さは最高クラスだ。
最後に2台のCD-10の音を比べてみた。そんなに変わらないだろうと予想していたが、結構違うので驚いた。
1台目は2台目と比べて全体に大人しく抑制が効いて歪み感が少ない。制振対策の効果だろうか。2台目は若々しく弾けるような雰囲気でややオーバーシュート気味な印象さえある。どちらも30年経っているので、本来の音ではないのは当たり前だし、エージングは十分すぎるほどなのだが、なぜかエージング不足のような感じがする。
お気に入りのCD-10は見事復活してルンルン気分の僕なのである。朽ち果てた部品たちは見るも無残だったが、あきらめなくて本当によかった、よかった。そしていまさらながらCD-10のことを深く知ることができたのも、よかった、よかった。
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