レビュー

買った、届いた、マランツ薄型アンプ「CINEMA 70s」デスクトップで使い倒す

CINEMA 70sを使ったデスクトップシステム

昨年末の記事で「CINEMA 70s、喜んで買います」と言ったが、その後、晴れてマランツのCINEMA 70sが我が家にやってきた。

前回の記事では、次世代「CINEMAアンプ」シリーズから「CINEMA 50」(286,000円)と「CINEMA 70s」(154,000円)を借りて、各種機能の確認や、上位機種に当たるCINEMA 50と、70sの比較を中心に紹介した。

今回はまず、購入したCINEMA 70sと、筆者が以前から使っていたNR1608を比較。さらに、省スペース性を活かして「デスクトップシステム」で活用する事で、CINEMA 70sの素性により深く切り込んでいきたい。

7.2ch スリムAVアンプ「CINEMA 70s」

ちなみに、筆者が購入したCINEMA 70sの仕上げはシルバーゴールド。元々筆者が初めて購入し、思い入れのあるマランツのAVアンプ「PS4500」もゴールド系統の仕上げだったこともあって、マランツのAVアンプを導入する際、もしゴールド系統の仕上げがあるならぜひそれを選びたいと常々考えていた。

NR1608から、四世代分の進化に驚く

あらためてNR1608とCINEMA 70sを並べると、仕上げの違いもあいまって、ますますCINEMA 70sは良い意味で「AVアンプらしくない」雰囲気を感じる。

NR1608(左)とCINEMA 70s(右)

シルバーゴールドの仕上げは明るい雰囲気のリビングやテレビラック/ボードにもよく合うだろうし、デザインの面でもこうした選択肢が用意されているのはありがたい。筆者の環境でCINEMA 70sの定位置となるデスクトップシステムでも、明るい木目の自作ラックを使っているので、やはりシルバーゴールド仕上げの方がしっくり来る。

CINEMA 70sをデスクトップシステムの定位置に収めた様子

さて、NR1608とCINEMA 70sの純粋な音質比較は一般的な環境を想定して、前回の記事と同様、主に「テレビを中心とした普通の部屋」を意識したシステムで行なっている。フロントにB&Wのブックシェルフ「706S2」、サラウンドにParadigmのトールボーイ「Monitor SE 3000F」、Dolby AtmosイネーブルドスピーカーとしてPolk Audioの「MXT90」という4.0.2ch構成も同様だ。

NR1608とCINEMA 70sの比較は主にリビングシステムで行なった

まずは、LGの4K有機ELテレビ「OLED55C1PJB」の本体機能を使って、Netflixのオリジナル映画「タイラー・レイク -命の奪還-」から、終盤の銃撃戦のシーンを再生する。本作の音声はDolby Atmosなので、テレビとAVアンプをHDMIで接続すれば、eARCによってDolby Atmos再生が可能になる。テレビと対応AVアンプさえあれば、別途何らかの映像プレーヤーを用意せずとも最先端のサラウンドコンテンツを楽しめるのだから、いまさらながら良い時代になったものである。

NR1608の時点で、重さと鋭さを伴う銃撃音、手榴弾やロケットランチャーがもたらす破壊といった瞬間的な威力は見事であり、サラウンド感も十二分にある。ロッシー音声ということを考慮にいれてもなお、アクション映画の迫力や映像音響の醍醐味は存分に味わえる。

CINEMA 70sに替えると、各種重火器の威力の向上もあるが、それ以上に印象的なのが「密度」の向上だ。中低域が充実し、音に厚みが増したおかげで、NR1608に比べると「空間に音が充満している」感覚がかなり高まる。細かい音、微小な音の描写もやはり一枚上手であり、これも前述の感覚に一役買っている。

続いて、PS5を使ってUHD BDで比較してみる。筆者の大好きな歴史スペクタクル「ブレイブハート」から、スターリングの戦いのシーンを再生。メル・ギブソン演じる主人公のウィリアム・ウォレスがスコットランドの軍(といっても実態は寄せ集めの民衆)を鼓舞し、その後イギリス軍の指揮官と皮肉に満ちた応酬を経て、両軍の血みどろの戦闘に突入する、中盤のハイライトといえるシーンである。

Netflixに対してUHD BDの音声はロスレスであり、ソースの絶対的なクオリティが段違いに高いためか、NR1608とCINEMA 70sの差は「タイラー・レイク」よりもはっきりとわかる。

CINEMA 70sはNR1608に対しダイナミックレンジが広がり、ひとつひとつの音から窮屈さ、不自然な強調感が軽減される。これは特にダイアローグにおいて顕著であり、士気に欠ける民衆に対してスコットランド人としての誇りを語る主人公の演説が、より伸び伸びと、よりいっそう心に響くものとなる。

また、やはり中低域の充実は大きく、イギリス軍の騎兵が突撃するシーンで、地面と大気を揺らす蹄の轟きなどは、もはやエントリークラスのAVアンプに想定される音とは完全にレベルが違う。レビューを行なっているリビングシステムの広さは6畳程度だが、これくらいの空間であっても、音の広がり、特に上方向への拡大も明らかに感じられる。

ゲームの音の表現力についても確認するべく、昨年末にDLC「焦熱の海辺」が発表され、あらためて注目を集めたタイトル「Horizon Forbidden West」をプレイ。鬱蒼と茂る森の中で、炎の機械大熊「ファイアクロー」と戦ってみた。初登場の前作DLCで見せた文字通り悪魔的な強さからすると、今作ではずいぶん戦いやすくなったとはいえ、相変わらず作中屈指の強敵であることに変わりはない。

CINEMA 70sはサラウンドの充実が凄まじく、回避した炎の砲弾が視界後方で大爆発する様や、大振りの爪の連撃を至近距離で掻い潜る際の空気の震えなどが、NR1608とは別物のような存在感で描かれる。となれば当然、プレイを通じてもたらされる緊迫や興奮の度合いも段違いだ。緊張を強いる「動」のシーンばかりではなく、本作のように音響的にも極めて高い次元で作り込まれた作品では、ただゲーム内世界を歩くだけの「静」のシーンにおいても、環境音の豊かさ、濃密ぶりでもって、CINEMA 70sの実力を体感することができる。

そろそろ比較のたびにCINEMA 70sとNR1608のスピーカーケーブルを繋ぎ替えるのに疲れてきたところで、仕上げとして、2ch音楽ソースの再生を聴き比べた。デノン・マランツ製品に搭載されているネットワークオーディオの機能「HEOS」を使い、音源には今を時めくアニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」から、結束バンド「Distortion!!」を用いた。

ネットワークオーディオ機能「HEOS」を使って再生している様子

サラウンド再生と同様、音楽再生においてもCINEMA 70sとNR1608の差は大きい。曲の冒頭から勢いよく雪崩れ込むギター・ベース・ドラムの時点で、楽器の重なりを解きほぐす能力がだいぶ違い、少々混濁感のあるNR1608に対し、CINEMA 70sでは曲が様々に展開してもボーカルと各楽器の分離は明確に保たれ、ミキシングの意図もよくわかる。また、「ブレイブハート」でも感じたように、再生音、特にボーカルから強調感がなくなってしなやかさが増し、より上質なシステムで音楽を聴いているという感覚が俄然強まる。純粋にアンプとして、CINEMA 70sが706S2の能力をしっかりと引き出していることは明らかだ。

記憶をたどると、CINEMA 70sの再生音は、706S2との組み合わせも含めて同じ環境で聴いたことのあるマランツの多機能プリメインアンプ「NR1200」の印象と近い。NR1200はHDMI入出力を搭載して映像コンテンツとの親和性を高めているとはいえ、製品としての立ち位置はあくまでも「2ch Hi-Fiアンプ」である。CINEMA 70sの音楽再生の音にNR1200と近しいものを感じたということは、それだけCINEMA 70sが「音楽も映像も分け隔てなく楽しめる、マランツならではのAVアンプ」という理想に近付いたということだろう。

総じて、CINEMA 70sは一般に想定されるであろうユースケースにおいて、エントリークラスのAVアンプとは一線を画したクオリティを実証した。154,000円という価格を考えれば、ある意味そうでなければ困るのだが、「薄型AVアンプ」というカテゴリーを堅持しつつ、本質的なクオリティアップを果たしたことは賞賛に値する。NR1608からの四世代分の進化は期待通りに大きかった。

デスクトップオーディオで使ってみる

では、筆者がCINEMA 70sを導入した本来の目的である、デスクトップシステムでの活用に話を移そう。

筆者は「本気でデスクトップオーディオする」というコンセプトで、かなり気合を入れて机を中心としたシステムを構築している。そのデスクトップシステムにおいても、映像やゲームといったコンテンツでサラウンドを楽しむために薄型AVアンプを使用しており、それを今回マランツのNR1608からCINEMA 70sに更新した形になる。

現在、デスクトップシステムはParadigmのブックシェルフスピーカー「Persona B」と、Nmodeのプリメインアンプ「X-PM9」を中核としている。サラウンド再生を行なう際は、CINEMA 70sのフロントプリアウトをX-PM9に接続し(X-PM9はボリュームをバイパスしてパワーアンプとしても使える)、サラウンドにParadigmの「Monitor SE Atom」、Dolby AtmosイネーブルドスピーカーとしてPolk Audioの「MXT90」という構成だ。我ながらかなり力業ではあるが、机を中心とした環境でもDolby Atmos音声の再生を実現している。

4.0.2ch構成のサラウンドも実践している筆者のデスクトップシステム。ちょうどいいスタンドがなく、サラウンドスピーカーの位置がいささか高すぎることが現状の課題

前述の通り、この構成ではCINEMA 70sはフロント2ch分のパワーアンプを使わないことになるが、CINEMA 70sは上位機のCINEMA 50と同様、各チャンネルでパワーアンプを使うか、それともパワーアンプを使わずプリアウトに専念するかを選択できるので、システムに応じた柔軟なクオリティ追求が可能だ。

設定で、フロントのパワーアンプを停止して「プリアウト」のみにできる

このシステムで、例えばPS5を使えば、ゲームも映像もサラウンドで十全に楽しめるわけだが、Windows PCでも然るべき設定をすれば、Dolby Atmosを含むサラウンドコンテンツを扱える。例えばNetflixのデスクトップアプリを使えばタイトルによってはDolby Atmosで視聴可能だし、PCゲームも「ANUBIS ZONE OF THE ENDERS : M∀RS」のように、音声がDolby Atmosに対応しているタイトルが存在する。

PCの音声出力でCINEMA 70s(marantz AVRと表示されている)を選択し、「スピーカーのセットアップ」を「Dolby Atmos for Home Theater」に設定する
NetflixのデスクトップアプリでDolby Atmosを再生
「ANUBIS ZONE OF THE ENDERS : M∀RS」でDolby Atmosを再生

スピーカーのセットアップなど、一般的なシステムに比べて遥かに制約の大きいデスクトップシステムでも、CINEMA 70sはNR1608から確かな再生音の向上を感じることができた。

特に、机を中心とするコンパクトな環境においてさえ、映像再生でより大きな音の広がりを感じられたのは素直に喜ばしい。フロントに思いっきりハイエンドなスピーカーを使っているということを踏まえても、2畳程度の空間で血沸き肉踊る体験ができるのだから、オーディオという趣味にはまだまだ可能性があると感じられる。

ゲーム機にせよPCにせよ、ハードとコンテンツの双方がサラウンド、果てはDolby Atmosに対応している以上、それを楽しまないというのはあまりにももったいない。しかし、そう思う一方で、オーディオビジュアルのための環境として、机を中心とするコンパクトな空間しか用意できないとなれば、従来的な“でかい”AVアンプを使うことは現実的に難しい。

その点、CINEMA 70sは高さだけでなく奥行きも抑えられており、設置スペースが限られる環境と相性がいい。もっぱらリビング環境との親和性を高めるために設定されたコンパクトサイズが、結果的にデスクトップ環境との親和性も高めたことになる。

すなわち、マランツが長年に渡って途絶えることなくラインナップしてきた「薄型AVアンプ」は、デスクトップシステムでもあきらめることなく本格的なサラウンドを楽しもうと思った時、現実的になんとか導入し得るほぼ唯一の選択肢であり続けたわけで、CINEMA 70sはまさにその点でも最先端に位置する。

CINEMA 70sはリビング環境によし、デスクトップ環境によし、それでいて再生音のクオリティはエントリークラスのAVアンプとは明らかに一線を画す、まさに全方位に活躍できるポテンシャルを持った傑作機であると断言しよう。

(協力:マランツ)

逆木 一

オーディオ&ビジュアルライター。ネットワークオーディオに大きな可能性を見出し、そのノウハウをブログで発信していたことがきっかけでライター活動を始める。物書きとしてのモットーは「楽しい」「面白い」という体験や感情を伝えること。雪国ならではの静謐かつ気兼ねなく音が出せる環境で、オーディオとホームシアターの両方に邁進中。個人サイト:「Audio Renaissance」