レビュー
ネットワーク再生とヘッドフォンを小型機でも一段上の音に。「NT-503」でハイレゾ活用
(2015/12/10 10:00)
NASに保存した楽曲を直接再生できるネットワークオーディオプレーヤーと、パソコンなどの音楽を聴けるUSB DAC/ヘッドフォンアンプ。これらの両方に対応しつつ、価格や本体サイズも抑えているのが、ティアックが11月より発売した「NT-503」だ。
DSD 11.2MHzやPCM 384kHz/32bitなどを再生可能なUSB DAC機能と、DSD 5.6MHzやPCM 192KHz/24bitに対応したDLNAネットワーク再生機能を、“A4サイズ”とする幅290mmの筐体に搭載。DACや電源部、アナログ出力部までを左右分離させたデュアルモノラル構成や、左右独立した大容量トロイダルコア電源トランスなど、音質にもかなりのこだわりが見られる。
ネットワーク再生とUSB DAC/ヘッドフォンアンプのどちらにも対応しつつ、小型であってほしい大きな理由は、ヘッドフォンとスピーカーを、机の上に置くシンプルなシステムで楽しみたいから。ハイエンドのネットワークプレーヤーやヘッドフォンアンプだとフルサイズの横幅だったり、数十万円という製品も珍しくないが、単にネットワーク再生に対応したミニコンポでは物足りない人にとって、性能やサイズ、価格のバランスが取れた製品は少なかったように思う。
筆者は、'14年モデルのコンパクトな「UD-301」を愛用している。6月に同社からヘッドフォンアンプ/USB DACハイエンドモデルの「UD-503」が登場した当初は、バランス対応などの機能に魅力を感じたものの、同等スペックのライバル機も多く、購入するかどうか決めかねていた。
そんな中で登場したネットワーク再生対応モデルのNT-503は、実売価格148,000円前後で上記のUD-503と同等。大きな違いとして、NT-503はヘッドフォンのバランス接続に対応しないものの、同じ旭化成エレクトロニクスのハイエンドDACチップ「AK4490」や、500mW×2chのアンプ出力(32Ω時)、デュアルモノラル構成、XLR/RCA出力のプリアンプとしても使えるなど、共通部分は多い。
NT-503は前述したDSDの再生対応フォーマットを含め、上位機としてのスペックを一通りそろえつつ、価格を約15万円に抑えている。手持ちのUD-301との比較も含め、新機能であるネットワークプレーヤーの使い勝手や、USB DAC/ヘッドフォンアンプの音質などを中心に試した。
ネットワーク再生はスマホ操作。意外にBluetoothも便利
NT-503で使える機能は、PCオーディオに使えるUSB DAC/ヘッドフォンアンプと、NASやPCからのネットワーク再生、スマートフォンなどからのBluetooth受信、USBメモリなどのファイル再生がある。入力端子はUSBと同軸/光デジタル、出力はXLR/RCAライン出力と、標準ヘッドフォン出力などを備えている。
テレビなどとの接続も想定。ボリュームなどを大きな文字で表示するモノクロ有機ELディスプレイと付属リモコンにより、離れた場所からも視認/操作しやすくしている。ラックマウントのプロ機を思わせる両サイドのデザインは、「Reference」シリーズに共通しているものだ。電源がトグルスイッチになっているのも渋い。
まず試したのはネットワークオーディオ再生。本体にEthernet端子を備え、NASやパソコンに保存された音楽をLAN経由で再生できる。DLNA 1.5に対応し、iOSアプリの「TEAC HR Remote」からコントロールする。今回はiPhone 6sにアプリを入れて使用した。なお、Androidスマホの場合は「TEAC AVR Remote」アプリを使用するが、一部機能が使えないので注意したい。
パソコンやNT-503本体画面を使わずにスマホだけで操作できるため、ネットワーク再生が面倒だと思う人にも導入しやすいだろう。ネットワーク再生時は、DSD 5.6MHzや、PCM 192KHz/24bitまでのハイレゾ音源に対応する。
「TEAC HR Remote」アプリは、NASなどのサーバーと、再生機器であるレンダラー(今回はNT-503)を選んでから、選曲してNT-503側に再生指示を出すことが可能。一般的なDLNAコントローラアプリと同等のことが可能だ。さらに、インターネットラジオのradiko.jpや、tuneinもこのアプリからの操作で利用できる。
DLNA対応サーバー(NAS)が同じLAN内に見つかれば、特に複雑な設定などは不要。アーティストやアルバムなどから絞り込んで再生できる。今回使ったSynologyのNASキット「DiskStation DS216play」は、DLNA/UPnPレンダラーに直接DSDをストリームできるモデルで、「music」フォルダ内に入れていた楽曲は、DSD 5.6MHzを含め再生できた。アーティストやアルバム、ジャンル別での全曲でのシャッフル再生も可能。
なお、NT-503でのDSDネットワーク再生はdsfファイルのみの対応する。例えばe-onkyo musicで購入した類家心平のアルバム「4AM」(dff 5.6MHzファイル)は、リストに表示されるが選択しても再生できなかった。DSDはジャケット(アルバムアート)表示ができない場合もあり、例えばDSD 2.8MHzのSuara「DSD live session」などは、アプリの[Home Media]から選曲するとジャケット表示をしながら再生できたが、[DLNA]からだと再生はできてもジャケットが表示されなかった。一方、全曲シャッフルなどフォルダをまたいだ選曲がしやすいのはDLNAの方だ。
ここまで説明したネットワーク再生とは少し異なるが、NT-503ではiPhoneなどからBluetoothでの受信も可能。コーデックはSBCの他にaptXやAACもサポートする。据え置きのオーディオ機器では、音質的な意味でBluetoothを使わない人も多いかもしれないが、Apple MusicやAWA、LINE Music、Amazon Musicなどの定額音楽配信サービスを、ワイヤレスでNT-503に伝送して使えるのは便利。
定額配信サービスの特徴の一つに豊富なプレイリストがあるが、好きになったアーティストの楽曲を検索すると、本人名義のCDやハイレゾ配信などでは未発売でも、コンピレーションや他バンドのゲストで参加した楽曲が見つかる場合がある。そうして発見した曲も、NT-503のヘッドフォンアンプを介してより良い音で聴ける。
ヘッドフォンは「HCLD回路」で広い音場再現
次は、パソコンにつないでUSB DAC/ヘッドフォンアンプとして利用した。PC用の再生ソフトとして「TEAC HR Audio Player」がダウンロード提供されており、このソフトでDSD 11.2MHzを含むハイレゾ楽曲も再生できる。なお、Windows PCとの接続には、専用ドライバのダウンロードも必要。
ヘッドフォンはAKGの「K812」を使用。1.5テスラの強力な磁気回路を備え、広い音場表現力と、フラットかつワイドレンジな音の再現などが持ち味なヘッドフォンだ。NT-503のヘッドフォン出力とK812はバランス対応ではないが、標準ジャックに接続して聴くと、広いステージで描写できるK812の良さがさらに活かされていると感じる。
それを実現していたのが、4基の出力トランジスタで構成するTEAC-HCLD回路。左右各チャンネルの+(正相)を各2基のトランジスタでパラレル駆動するもので、「通常のシングルエンド・ヘッドフォンアンプよりもはるかに力強いドライブが可能」という。
実際に'14年モデルのUSB DAC/ヘッドフォンアンプ「UD-301」と比べても、アンプの力強さだけでなく、音場が広がりながらも、各パートの音像がぼやけるのではなく、広いホール内から聴こえるそれぞれの音の存在感が鮮明になったと感じる。デュアルモノラル構成のUD-301もセパレーションは決して悪くないが、NT-503ではさらにその特徴が際立ったという印象を受けた。
他に、UD-301との違いで分かりやすいのは、ボリュームがかなり細かく調整できる点。UD-301のボリュームノブは上限と下限の位置が決まっているが、ST-503は-95dB~24dBまで、0.5dBずつ256ステップでのボリューム調整できる「TEAC-QVCS」を採用。ボリュームノブから伝わるコントロール信号によって、左右チャンネルと、正負ごとに独立した合計4回路の可変ゲインアンプ型ボリュームが一括連動し、チャンネルセパレーションの向上に貢献しているという。
USB接続はアシンクロナス転送で、内部クロックは44.1kHz系と48kHz系の2種類を搭載し、ジッターの排除を図っている。さらにこだわりたい人のために、背面には10MHz外部マスタークロック入力端子も装備。より高精度なマスタークロック信号との同期も行なえる。
好みや楽曲フォーマットに合わせてフィルタの変更も可能。DSD再生時は2種類のローカットオフ(50/150kHz)、PCMでは4種類のデジタルフィルタを用意。PCMのフィルタは、オーディオ帯域外の信号を急峻にカットするシャープロールオフの[FIR SHARP]と、緩やかにカットするスローロールオフの[FIR SLOW]、シャープロールオフでショートディレイの[SDLY SHARP]、スローロールオフでショートディレイの[SDLY SLOW]から選択できる。本体ボタンでメニュー上から切り替えられるほか、リモコンだと順送りで簡単に切り替わるので、好みによって音の違いを楽しむにはリモコンが便利。独自設計のFPGAを搭載し、PCM信号の2/4/8倍アップコンバートや、PCMからDSDへの変換再生も行なえる。
USB再生では音質などに不満はないものの、再生ソフト「TEAC HR Audio Player」の使い勝手は少し物足りない。このプレーヤーは楽曲管理は行なわず、楽曲をドラッグ&ドロップしたりプレイリストを読み込んで再生することに特化したシンプルなソフトで、ジャケット表示はできない。再生フォーマットはDSD(DSF/DFF) 11.2MHzや384kHz/32bitはサポートするものの、それ以外はFLAC、MP3のみという状況だった。12月1日に提供開始された最新バージョンでApple LosslessやAIFFにも対応したが、AACには現在も非対応。
ギャップレス再生もできるのはライブ盤の再生などに便利だが、それ以外については、このソフトを使い続けるメリットは少ない。既にfoobar2000などのASIO/WASAPI対応の再生ソフトを使っているなら、純正にこだわる必要はあまりなさそうだ。
フリーのASIO/WASAPI対応ソフトは色々あるが、今回は「TuneBrowser」というソフトを使ってみた。1,500円のシェアウェアだが無料版も用意され、無料版は管理できるのが500曲という制限がある(最初の30日間は無制限)。DSD 11.2MHzを含め対応フォーマットが多く、何よりも初期設定が簡単。カスタマイズも豊富だ。ソフトの使い勝手は好みもあるが、foobar2000の設定が面倒に思う人などは、試してみてもいいだろう。
スピーカーへXLRでバランス出力。ウォークマン用ドックからデジタル入力も
前述したようにヘッドフォンとの接続はアンバランスのみだが、ライン出力はXLRとRCAを備え、XLRでバランス接続も可能だ。他のパワーアンプ、またはアンプ内蔵スピーカーへつないでバランス出力できる。
手持ちのGELELEC製モニタースピーカー「8010A」は入力がXLRのみのアクティブスピーカーで、コンパクトな筐体もNT-503との組み合わせに適していると思い、接続してみた。なお、8010AのXLR端子は2番がHOT(+)の割り当てになっているが、NT-503は2番/3番HOTのどちらも設定可能。
使ったのが音に味付けをしないモニタースピーカーということもあって、バランス接続による効果は分かりやすい。セパレーションが良く、ボーカルの輪郭と定位感も明確。観客席と近いアコースティックライブなどで、声の熱量、生々しさを味わえた。
また、音源としてPCやNAS以外に、ハイレゾ対応ウォークマン「NW-A16」と専用クレードル「BCR-NWH10」との組み合わせも試した。このクレードルは、ウォークマンを充電しながらデジタル出力できるもので、正式にサポートしているのはソニー製のUSB DAC/ヘッドフォンアンプなどだが、NT-503の背面USB端子に接続しても問題無く動作し、ハイレゾファイルもそのままのフォーマットで再生できた。
機能を凝縮しながら、音質と機能もステップアップ
ここ数年、ハイレゾのネットワークオーディオ再生ができる機器は、単体プレーヤーだけでなくAVアンプやBDプレーヤーなど選択肢が増えてきた。また、USB DAC/ヘッドフォンアンプ機能も多くの機種に搭載され、製品カテゴリとしての境界は曖昧になってきた部分もある。それぞれ別の専用機を使い分けるのもオーディオの楽しみ方だが、机の上のスペースでもNASにある大量の音楽をヘッドフォンからいい音で聴きたい人は少なくないはず。NT-503ではPCを使えばDSD 11.2MHzも再生できる一方、PCを使わなくてもスマホアプリから簡単にネットワーク再生ができる。
ネットワーク再生などの操作を、付属リモコンではなくスマートフォンアプリに任せていることから、今後のアップデートによる機能改善や強化にも期待したい。今のiPhoneアプリのシンプルなインターフェイスも悪くないが、もっと豊富な機能やカスタマイズ性を備えたiPad用アプリなどが登場しても面白そうだ。
ネットワークとUSBの使い分けを考えると、普段はスマホ操作でネットワーク経由のシャッフル再生を基本とし、新しく買った曲など特定のアルバム単位で聴きたい場合はPCからUSB経由で、といった利用がイメージしやすい。DSD 11.2MHzやPCM 384kHzを再生できるのはUSBのみで、PCソフトを活用すればスマホアプリよりも多様な聴き方ができるという違いを考えると、USB経由の再生は腰を据えてじっくり聴くのがメインになりそうだ。
再生ソースの豊富さや、対応フォーマットの幅広さからも、NT-503は買ってすぐに時代遅れになることもないだろう。CDミニコンポなどの一体型オーディオでは物足りず、機能も音質も高いモデルが欲しい人にも、ちょうど狙い目と言える製品だ。
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