麻倉怜士の大閻魔帳

第40回

ビクター、衝撃の8K対応レーザープロジェクタ。早くも今年のNo.1!?

「DLA-V90R」

JVCケンウッドが9月に発表したビクター(Victor)ブランドの世界初8K60p、4K120p入力対応レーザープロジェクター「8K対応D-ILAプロジェクターシリーズ」を、麻倉怜士氏が体験。「長い日本のプロジェクターづくりのなかで集大成に近い、“プレ集大成”」というクオリティで、「大閻魔帳にふさわしい、今年のオーディオ・ビジュアル製品のNo.1、グランプリになりえる製品」と太鼓判を押す。その魅力を、麻倉氏自ら解説する。

DCI 4K解像度のD-ILAデバイス

その前に、基本的な情報をおさらいしよう。独自のD-ILAデバイスを搭載した8K対応プロジェクターの新モデルは、光学部や明るさなど、仕様の異なる3機種をラインナップ。価格は「DLA-V70R」が125万円、「DLA-V80R」が165万円、「DLA-V90R」が275万円。2018年に発表した「DLA-V7」、「DLA-V9R」の後継機となる。

業務用プロジェクター、および民生用旗艦機「DLA-Z1」(2016年発売、350万円)で採用していたレーザー光源技術を3機種すべてに投入し、従来機よりも明るさとコントラストを大幅に強化。さらに、民生用プロジェクターでは世界初となる8K60p入力や、PlayStation 5・Xbox Series Xなどの最新ゲーム機をサポートする4K120p入力、制作者が意図したHDR映像を再現するHDR10+規格に対応した。

65mmレンズのDLA-V70R(左)と、100mmレンズのV90R

8K表示・8K入力のサポートでは従来機で搭載していた「8K e-shift」技術を3機種すべてに展開。DCI 4K解像度のD-ILAデバイス(0.69型/4,096×2,160ドット)と、画素ずらし技術を組み合わせることにより、8K/8,192×4,320ドット(2D)の映像表示を実現した。さらに上位2モデルでは、シフト方向を従来の“斜め2方向”から、“上下左右4方向”に高速化した240Hz駆動の「8K e-shiftX」を新搭載している。

スクリーンの意義は映像に“意味合い”や“世界観”があること

――8K対応プロジェクターの前に、テレビが大画面化している今、“プロジェクターを選ぶ理由”が改めて重要になっていますね。

麻倉:今問われているのは「スクリーンにはどういう意義があるのか」というところです。お金をかければLGの325インチディスプレイが買える時代ですし、それを別にしてもソニーの85インチとか、98インチとか、8Kの直視型ディスプレイが売られている。またスクリーン、映画館の方も直視型を目指している状況です。

麻倉怜士氏の自宅にある“145インチ麻倉シアター”

そうなるとスクリーンの意義ってなんだろうと。家庭でも明るい環境のなか、直視型ディスプレイで映画が楽しめる時代が来ている。でも僕が思うに、直視型の本質は情報性ですね。向こうから押し出された光が、こちらに向かってくる。それはなにか画素に詰まっているハイレゾな、高精細な情報を呈示するディスプレイです。

それに対してスクリーンは単なる情報ではなく、情感というか情緒というか、“ファンタジー”を感じるものです。光源から照射された光を反射させるのがスクリーンで、直接的に情報を押し出し、向こうから視手に向かってくるのが直視型。一方、光が反射される――つまりワンクッションを置いて目に届くのがスクリーン。この反射の際に、“意味合い”や“コンセプト”、“世界観”が付与される――というより、それは映像信号にすでに含まれているものですが、それがより濃く感じさせるようになるがスクリーンですね。その意味では直接光と反射光の違いは、サイズの問題を超え、どこまでいってもあります。

値段からしても、98型の8Kテレビは1,000万円くらいします。それに対して、スクリーン自体はすごく良いモノでも数十万円ですし、今回のプロジェクターだって、一番高いもので275万円、一番安いもので125万円。そういう意味でコストパフォーマンスが非常によくて、手軽に映画館の雰囲気を味わえて、本質的には映像が持っている情感性というか、“感動性”、世界観をリアルに体感できる。目で見るだけでなく、体のすべてが光を感じるというのがプロジェクターの良さじゃないかと思うんです。

従来とは“別物”に進化した「e-shift」

麻倉氏所有の「DLA-Z1」

麻倉:今回、技術的に注目したのはe-shift。これまでは“なんちゃらアップコンバート”の代表格のようなものという印象でしたから(笑)、自分で買ったプロジェクターは(e-shift非搭載の)「DLA-Z1」でした。

ところが今回のDLA-V90Rのe-shiftは完全に別物のように感じられたんです。私は基本的に「宮古島」(ビコム/宮古島 癒しのビーチ)と「マリアンヌ」というふたつのソフトで映像をチェックします。このうち、宮古島ではまずチャプター4を観るんです。

灯台が向こうにあって、そこから地面が続いていて、左右に海が広がっているような映像。この細密描写というか、非常に細かいところまで描写されているんだけど、これまでだとゴチャゴチャしてしまうようなところもスッキリとしていて、すごく細かいんだけれど、たいへん安定している。波の立ち方の描写も細かくて、そこに色のグラデーションも入ってくる。

宮古島は、映像の情報量で見せるソフトですけど、すごく細かいところまで安定して見えてくる。この安定感とか、細かいところまでの丁寧な描写というのは、これまでのe-shiftにはなかった新しい価値だなと感じました。

今回のe-shift、正確には8K e-shift Xは、これまでは4K/120Hzだったのを、FPGAを新しくして、スピード処理、ソフトウェアの書き方も変わったことで処理が2倍になって、いままではシフト方向が“斜め2方向”だったものが、“上下左右4方向”に高速化されました。

しかし、上下左右4方向になると画素が重なる部分が出てきてしまいます。情報量はどの方向にも増えますけど、これまでの斜め2方向に比べると、重なり部分は4回重なってしまうんですが、そこの処理が上手いなと。

――従来のe-shiftと比べ、新型ではどのような処理、画質の進化を感じましたか?

麻倉:具体的には、ノイズ対策が凄く上手くなったと見ました。フィードフォワードの技術、特に予測技術がすごく進化したなと感じました。

高速化されたことで、内部の処理も「ノイズを増やすと階調が出る」「ノイズが減ると階調も減る」の2択になってしまうんですが、そこでビクターは『ノイズよりも階調だ』と、“階調、命”で映像を出してきている。そうなるとノイズが増えてしまうのですが、これに対してはディザで対処する。

これまでディザは結果に対して掛けていたそうなんですが、今回のモデルでは、データベースとしてディザ用のノイズ情報を作っている。入ってきた映像を分析して、画のパターンを割り出して、「このパターンでは、こういうノイズが出るから、ここにディザをかけよう」といった処理を、ノイズを検知したらフィードフォワードで処理してしまう。考え方としてはソニーのデータベース型の超解像技術に近いものですね。

これがすごく効いていて、先程の宮古島の映像で言うと、非常に透明感が高い。向こうまでスッキリ見えて、高い解像感です。“臨場感”というか、“眼前のスペクタクル感”が強く出ているなと思いました。

強化された画像分析と「HDRを信用しない」ビクターの強み

高出力レーザーダイオードパッケージ

麻倉:もうひとつは画像分析が効いているなと感じました。今回のモデルはレーザー光源を採用しています。DLA-Z1もレーザー光源でしたけど、DLA-Z1では8個入りのレーザーダイオードが6つ搭載されていたのに対し、今回はモジュールとしては1個のみ。そのなかに5個4列のレーザーダイオードが配置されています。

だからZ1よりも発熱も少ないし、筐体的にはV9Rとほぼ変わらない大きさ。でも輝度は3,000ルーメンもあります。レーザーを採用したすごく大きなポイントは、絞りが瞬時にできる点。普通は映像の輝度が変わってから機械式の光学絞りが動きます。ところが光学なので、映像の速い展開についていけない。だから、じわりじわりと光学絞りが行なわれます。

それに対し、レーザーは瞬時に光の量を調整できるので、レーザーを使った俊速の絞りコントロールができる。ただ、絞りコントロールをするには入力された映像が正しく分析されていなくてはなりません。この映像は果たして明るいのか、明るい中に黒いものがあるのか、暗いのかということがわかっていないとダメなんです。

そこを先程のディザを使うための入力分析と同じような仕組みで映像分析する。入ってきた映像を瞬時にすべての項目で分析している。

これまでの絞りは動きが遅い、もしくは合わないので掛けないでおこうというのが定石でした。あまりかけると副作用のほうが大きくなりますから。しかし、今回は副作用が少ないので、絞りの効用を徹底的に活かす。

絞りの設定は1、2と2種類あって、2のほうが強い。普通は強い方がデフォルト設定にはならないんですが、今回は2がデフォルトになっています。そうすることで光のパワーがぐっと伸びてメリハリが効いて、立体感が出てくる。このあたりがレーザー光源を使ったことの良さだなと思います。

Frame Adapt HDRのイメージ

――コントラストの面では、フレームごとの最大輝度を独自のアルゴリズムで解析して、ダイナミックレンジをリアルタイムで調整する「Frame Adapt HDR」もありますね。

麻倉:ビクターの矜持は“コンテンツのHDR(のメタデータ)を信用しない”というところで、そこから生まれたのが「Frame Adapt HDR」という技術。これは前からあるものですが、今回はFrame Adapt HDRにも映像分析の結果が使われている。入力信号を見て、平均輝度、ピーク輝度、その面積がどれくらいかというのを測定してトーンカーブを変えるものですから、今回、入力の分析がすごく精密になったことで、Frame Adapt HDRの効果が、これまで以上に出ていると思います。

Frame Adapt HDRは今回、新たに採用されたHDR10+と「シーンごとに最適なメタデータを与える」という考え方は共通していますが、ある場面ではFrame Adapt HDRがHDR10+を凌駕しているところもある。さらに適切にイコライジングでアジャストすると、光に非常に敏感に反応するハイクラスのHDRを楽しめます。出口のe-shiftの進化と、入り口の入力分析の進化が効いているなと思います。

「マリアンヌ」ロンドン空襲のシーンで、初めて「夜らしい」映像を実感

麻倉:宮古島の映像に話を戻すと、空気感の透明さ、オブジェクトがいろいろあるんだけど、その存在感などには、すごく感動しました。チャプター4の、ドローンの空撮映像はもともとすごく悪い画なんです。ソフト自体はソニーPCLが2016年ごろに作ったもので、当時はドローンカメラの性能が良くなかったので、あの映像は30pのあまりたいしたことない4Kカメラで撮られています。

30pなので、“ジャギっている”のと解像感も低いんですが、今回のプロジェクターでは、なぜか異様に綺麗に見える。ノイズがたいへん少なく、揺れも少なく見える。

チャプター5には長間浜のシーンがありますが、ここの砂は星砂のようになっている箇所があって、単なる砂利の砂ではなく珊瑚の砂なんです。そこに人の足跡が入っていく微妙な色の階調、そして海を見ると青かったり、緑だったりグラデーションがあって、空にも青のグラデーションがあって、ものすごく色のグラデーションやディテールが出るチャプターなんです。このチャプター5の始まりから15秒くらい進むと、画面の真ん中に岩があって、右が浜で遠方に人がいて、左に海があって波が立っているというシーンがあります。

この場面の岩の存在感がすごく強かった。岩というものが真ん中にあるんだけど、まるでそこに生えているような感じがしたんです。岩の表面もゴツゴツしていて穴が開いているんだけど、単にひとつの焦げ茶色ではなく、ちょっと赤っぽいところがあったり、シャドウがかかっているところは黒いし、そういうリアルな臨場感というか、実際にその場にいたら感じるであろう感情的なものも感じました。

同じシーンを液晶テレビで見ると、黒が浮いてしまうので、真ん中の岩は薄茶けた見え方になります。有機ELテレビだと黒はしっかり出るんだけど、出過ぎるところがあって、逆にもうちょっと抑えてほしいなと思ったりもする。それに対してスクリーンだと、一度反射させることで、“トロッとする”というか、味わいが加わると感じましたね。これは冒頭に述べたことの例証ですね。

――「マリアンヌ」を鑑賞した感想はいかがですか。

麻倉:「マリアンヌ」で最高に難しいのはチャプター11のロンドン空襲の場面です。しかし、これまで見たビクターのプロジェクターの中で、これほど色があって、暗部階調があって、しかも「夜らしい」映像だったのは初めてでした。

逆に「夜らしくない」映像になってしまうのが多くの有機ELなんです。有機ELもすごく黒が出て、階調も出るんですけど、全体的に明るくみせるんです。これを抑えようと画面を暗くしてしまうと、有機ELならではのパワーがなくなってしまう。これまでのビクター(JVCケンウッド)のプロジェクターも、黒の階調がちょっと曖昧で、そこにあるべき色が出ていなかった。

それが例えば、ブラッド・ピットが映る場面で、高射砲のマズルフラッシュで、すごく暗いシーンだけど登場人物の顔だけ明るくなって、そこにグラデーションが映るシーンがあるんですが、この場面はできの悪い有機ELやプロジェクターだと、明るいんだけど色の階調が出せない、硬い画調になりがちです。

今回は色の階調が素晴らしい。そこに暗部の階調もついているので暗さは残りながら、色が乗るべきところに、しっかり色が乗っている。撮影監督が、ああいう暗いシーンでも的確に色を乗せることで物語を進めていることが分かります。ストーリーとしては上司と対立している場面なんですけど、上司やブラッド・ピットの感情がよく出ている。そういった表現ができるようになったんだなと驚きましたね。

麻倉氏が大好きという「サウンド・オブ・ミュージック」。この写真のなかだけでも2パッケージ確認できる

――なるほど。逆に解像度の低い、2Kコンテンツはどのような印象でしたか?

麻倉:2Kコンテンツのチェックには、私が大好きな作品のひとつ、サウンド・オブ・ミュージックを観ました。4K修復版のBlu-rayを、どうやって8Kまでアップコンバートするのかというのも重要な点。これも感心させられましたね。

よく使うのはチャプター19の「ドレミの唄」。芝生が広がるシーンで、遠くに山々があって、マリア先生を7人の子供たちが囲んでいる場面です。あそこはワイドスクリーンを考えた人物配置されているんですが、芝生の緑の細かいところから、子どもたちが着ている草緑色のようなワンピースの浮き上がり方が絶妙なんです。

このシーン、解像度が高くないと草緑色のワンピースが芝生のなかに溶け込んでしまう。逆に鮮鋭感が高すぎると書き割りになって、変に立体感が出るというか浮き上がってしまう。そこのバランスが絶妙で、すごく細かいところまで見えているんだけど、自然な輪郭で立体感がありました。単に4Kを見るだけじゃなく、2Kをホームシアターの大画面で楽しむにもふさわしいプロジェクターだなと思いましたね。

――今回の新モデルは、HDMIケーブル1本で、8K60p信号が入力できるようになったのもポイントですね。

麻倉:8Kですが、これはすごくて当たり前。でも8Kの残念なところは、8K放送を簡単に観られないところです。なぜなら、8K放送をHDMIケーブル1本で出力できるチューナーやレコーダーがないからです。せっかく、今回のようなプロジェクターが出てきていて、8KテレビもHDMI 2.1の入力を持っているわけだから、今4Kレコーダーを出しているメーカーは“8Kレコーダー”を作るべきなんです。Blu-rayの規格にも8Kは入っているわけですからね。特に8K映像は65型のテレビで観てもしょうがないわけで、やはりプロジェクター向きだと思いますよ。

今の所、8K映像はハイパフォーマンスなPCがあればYouTubeで視聴できます。4方向のe-shiftになった分、8K映像のよさが従来モデルよりも出ます。8Kならではの“壮絶な質感”というのがしっかり出てくるし、HDRであればFrame Adapt HDRも効くわけで、そういったトータルの効用が8Kにも効きます。

プロジェクター遍歴と、麻倉氏が考えるビクターならではの“強み”

――“麻倉シアター”には先生がこれまで使ってきた各社プロジェクターの名機が並んでいます。先生が感じる“ビクター・プロジェクターの魅力”ってどんなところですか?

麻倉:私が一番最初、80年代終わりに買ったのがバルコの「Data 800」。当時、オーディオ評論家の中で、山中敬三先生だけがビジュアルにすごく積極的でした。VHSは大画面には適さず、VHDになっても解像度は240ドット。ところがレーザーディスクになると格段に画質が良くなる。ハイビジョンの前のSD画質でしたけど、150インチに拡大しても「全然大丈夫じゃん!」というのがあって、「この世界があるな!」と。そして当時、先生がバルコを使っていたので、なんとかバルコを手に入れたかったんです。

当時は、ソニーとバルコが双璧で、バルコもソニーのブラウン管を使っていたのに絵作りがぜんぜん違う。ソニーは情報系というか、はっきり、くっきり出す、いわゆる“ソニーの絵”でした。

バルコの絵は、そこに得も言われぬアーティスティックな色気があったんです。バルコの「Data 800」は決してホームシアター向きではないんです。「Data」と付くぐらいだから会議室などでの利用が主。それでもプロジェクターの世界にのめり込んで、バルコの「シネマックス」に買い替えました。

フルHD解像度に対応した初の家庭用SXRDプロジェクター、ソニー「QUALIA 004」こと「Q004-R1」
ソニーのマスターモニター「BVM-2012」の姿も

ただ、これはハイビジョンが精一杯。2000年代からフルハイビジョンが始まって対応がイマイチだったところにソニーの「QUALIA」が出てきた。これ以降、ソニーからいろいろなプロジェクターが出てきましたが、ゴージャスさも違った。特に階調がものすごくいい。液晶なので、そこまで下がらないんですが、階調がすごくいい。

そういうような経歴を経て、プロジェクターには本物を追求する方向プラス、“感動追求”があるなと。“本物性”と“感動性”が、プロジェクター映像の本質であって、それが今回V90Rですごく新しい、感動性と情報性を感じたんです。感動性と情報性というものが高い次元でバランスしているのは、長いプロジェクター史のなかで特筆すべきかなと。

――なるほど。

麻倉:それから、個人的にはビクターには“縛られない”という強みがあると思っています。HDRの解釈についてもビクターは、まず映像のメタデータを“疑う”ところから始める。

コンテンツを神のようなものとして100%信じるのではなく、一度分析して、平均輝度や最高輝度、階調の精度などをちゃんと測って、それを再編成して一番いいHDRとして出すというのがビクターの姿勢。この姿勢の原点を突き詰めていくと高柳健次郎さん(日本ビクター元副社長・技術最高顧問/1924年に浜松高等工業高校でテレビジョンの研究開発を開始。1926年12月にブラウン管に“イ”の字を映し出した、“日本のテレビの父”)にたどり着くと思っています。

戦後、ビクターのテレビが一世を風靡したんですけど、感覚と科学の世界というか、そういったものをすごく追求するんです。(高柳氏が)亡くなる前にインタビューしたことがあるんですけど、高柳先生の問題意識は『なぜテレビの画像よりも、絵画のほうが感動的なんだろう』ということでした。

今も、そういった高柳先生の“伝統”を受け継いでいるところがあります。すごく映像を真摯に捉えて、その最大の情報量を出していこうという姿勢が見える。そのなかで、例えばソニーが最大の情報量を出せば“ソニーの絵”になるし、ビクターがやれば“ビクターの絵”になる。そこには高柳先生由来のDNAがあるのかなと。

そういったビクターのテレビで培われていたものが、今回のプロジェクターにも流れているなと思いました。それが感動性の元なんじゃないかと感じています。

プロジェクターは生活のメリハリに相応しい

麻倉:日常のテレビディスプレイと非日常のプロジェクターという使い分けが大切だと思うんですよ。年がら年中、200インチの大画面を使おうと思っても、テレビ番組はパンが早いし、ズームはするし、正直あまり見れたものじゃない。特に地デジは映像も良くないですし。

なので、テレビはあまり大画面にしないで、“特別な時間”が欲しいときにプロジェクターを使うという2ウェイがいいと思うんです。特別な時間というのが大切だと思うんですよ。この時間だけは濃密に、という生活のメリハリ感を出すのにプロジェクターが相応しいと思うんです。日常はテレビ、非日常はプロジェクターという、コンテンツによる使い分けが大事ですね。150インチでニュースを見たら、卒倒しますから。

メディアやコンテンツ、オケージョン、タイムを分けて、(テレビとプロジェクターを)使い分けたほうがいい。そして仮に今回の8K対応D-ILAプロジェクターを買えば、音にもこだわりが出てくるはず。テレビはサウンドバーを追加するくらいしかやりようがないですけど、プロジェクターなら5.1chやDolby Atmos環境を構築することで“感動空間”を作り出せるんですよ。

麻倉怜士

オーディオ・ビジュアル評論家/津田塾大学・早稲田大学エクステンションセンター講師(音楽)/UAレコード副代表