日沼諭史の体当たりばったり!

第51回

JBLとShokzがオープンイヤー型TWS!? oladanceも加えて三つ巴対決!!

左右が独立した完全ワイヤレスイヤフォンがすっかり定着した今、筆者の注目ジャンルはそのなかでも耳穴をふさがない完全ワイヤレスイヤフォンである。装着していても自然に外音を取り込むことができ、カナル型のような圧迫感がないので快適度も高い。防水・防じん性能を備えるものもあり、外音を取り込めることと合わせて考えると、屋外使用やスポーツにも向いているのだ。

そんなわけで今回は、個人的に気になる「耳穴ふさがない系完全ワイヤレス」の最新3モデルを試してみることにした。メーカーからお借りしたのは「JBL SOUNDGEAR SENSE」「Shokz OpenFit」「oladance OWS Pro」の3つだ。

耳掛け型で耳穴をふさがないタイプの製品には骨伝導ヘッドフォンもあるが、今回は骨伝導ではない開放型の機種に絞っている。移動中やデスクワーク中などの普段使いの他に、ランニングやインドアサイクリングといった筆者がよく使うシーンにおける使い勝手もチェックしてみたい。

低遅延の重厚なサウンド「JBL SOUNDGEAR SENSE」

「JBL SOUNDGEAR SENSE」本体
充電ケース

JBL初の耳をふさがない完全ワイヤレスイヤフォンとして2023年10月に登場したのが「JBL SOUNDGEAR SENSE」。デザインはオーソドックスな雰囲気の楕円形ではあるものの、ドライバーユニットのグリル部分の見せ方にJBLらしさを感じさせる気がする。

ちなみにここにLとRが大きく刻印されているのは個人的にはわかりやすくてありがたい(刻印が小さかったり薄かったりしてLRを見分けにくい製品が多く、老眼が進みつつある筆者には厳しいのだ……)。

オーソドックスなイヤフォン形状
グリル部分に大きくLRの刻印。見やすいのでうれしい
本体重量は実測26.2g
充電ケース込みで95g

音質はウォーム系。JBLというとパンチのある低音が特徴的なところだと思うが、その片鱗は感じさせるものの、開放型イヤフォンのためかそれが少し薄まっているかもしれない。

それでも、今回紹介する製品のなかでは最も厚みのあるサウンドを響かせていた。専用アプリを使えばイコライザー設定で音質をカスタマイズできるので、よりバイブスを感じさせるサウンドにして楽しむのもいいだろう。

装着したところ
JBL製イヤフォン専用アプリ「JBL Headphones」
イコライザー設定。試してみた限りではユーザー設定は50個以上追加登録できた

SOUNDGEAR SENSEならではの機能として挙げられるのは、低遅延にフォーカスした設定が用意されていること。音質重視の「オーディオモード」と低遅延を実現する「ビデオモード」とを切り替えることができ、「ビデオモード」では確かに遅延が低減され、違和感なく動画を見ていられる。

効果音が重要なゲームでも「ビデオモード」は有効だ。また、低遅延かつ高効率になるとされるLE AudioやLC3コーデックへの対応が予告されている点も、動画視聴の多いユーザーにはうれしいところだろう。

「オーディオモード」と「ビデオモード」を切り替え可能。切り替え時にはイヤフォンの再起動が必要になる
本体センサータップ時のアクションは左右それぞれで簡易的にカスタマイズ可能

そんな風に音質面での優位性が高いSOUNDGEAR SENSEだが、筆者的に最も活躍しそうなシーンはランニングだ。完全ワイヤレスイヤフォンではあるもののネックバンドが付属しており、左右の本体をネックバンドでつなげることで、動きの激しいアクティビティでもズレにくい・外れにくいスタイルに変えられる。

イヤフォン本体だけでも、角度を半固定可能なイヤーフックのおかげでそれなりにしっかりホールドできるが、ネックバンドを使うことで頭の両サイドに押さえつける力がアップし、さらに安定する。ただ、ランニングで1時間以上装着していると少し耳が痛くなった。

ネックバンドで左右イヤフォンをつなげられる
ネックバンドを使って装着してみた

もう1つ面白いのは「イヤフォン本体を見つける」機能があること。室内のどこかに置き忘れてしまったときに専用アプリから操作することで、イヤフォンから大きな音を鳴らして探し出しやすくする、というのが1つ。

それに加えてAndroidスマートフォンとの組み合わせでは、Googleの「デバイスを探す」アプリを利用して、最後にそのスマートフォンとBluetooth接続していたときの場所を地図上に表示することもできる。小さいのでうっかり紛失したり落としたりするのが心配な完全ワイヤレスイヤフォンだが、万が一のときも見つけやすくなるわけだ。

音を鳴らせるだけでなく、Androidの「デバイスを探す」アプリを通じてイヤフォン本体の位置を地図表示してくれる

骨伝導ではない、超軽快な着け心地のShokz「OpenFit」

「OpenFit」本体
充電ケース

骨伝導イヤフォンで知られるShokzの、初の完全ワイヤレスイヤフォンが「OpenFit」だ。骨伝導ではなく開放型になっているという意味でも、Shokzとしてはチャレンジングな製品と言える。

が、これまでの同社製品のような小型軽量かつミニマルなデザインはそのまま。とりわけ重量は左右合計でも実測16.7gと他2製品より10g前後軽いうえ、充電ケースと合わせてもたったの75g。ケースサイズもコンパクトで携帯性は抜群だ。それでいて動作時間は単体7時間、充電ケース併用で28時間と意外にスタミナもある。

小さくシンプルな見た目
裏側
本体重量は実測16.7g
充電ケース込みで75g

音質は、どちらかというと「JBL SOUNDGEAR SENSE」に似た傾向だが、押し出し感は少し控えめ。低音から高音までまんべんなく鳴らし、音楽ジャンルを問わず「いい音」を聞かせてくれるオールマイティさは骨伝導モデルのノウハウを受け継いでいるように思う。こちらも専用アプリを通じてイコライザー設定が可能なので、好みの音質にカスタマイズするのもOKだ。

Shokzイヤフォン用アプリ「Shokz」
センサーボタンタップ時のアクションはカスタマイズ可能

他2製品と同じく「マルチポイント」にも対応する。そのうえで、専用アプリ上で「マルチポイント」と「マルチペアリング」の状態にあるデバイスを確認できるのは親切だ。

2台のデバイスとの切り替えが容易になる「マルチポイント」だが、多数のデバイスとペアリングしていると「今どれがマルチポイント接続可能なデバイスなのか」がわからなくなってしまいがち。なので、使わなそうなデバイスからイヤフォンとの接続設定を解除するのだが、後でまた接続したくなったときに再びペアリングし直す、みたいなことを繰り返す結果になったりする。

OpenFitの場合はアプリ上でそれを確認しつつ、「マルチポイント」にするデバイスを選ぶこともできるので、無駄なペアリング設定作業もなくなるだろう。

「マルチポイント」と「マルチペアリング」の接続や状態を確認し、コントロールできる

しかしなんといっても、OpenFitは軽さが一番の強みだ。移動やデスクワーク中の普段使いでは、長時間装着していても気にならないし、スポーツに使っているときもイヤフォン自体の軽量さは実感できる。

スペックシート上は10g程度の違いではあるけれど、装着して比べてみると軽快感が明らかに違う。しかもフィット感の高い形状になっているためか、動きの大きいアクティビティでもズレたりする不安は少ない。ランニングとインドアサイクリングのどちらでも不満なく使えるだろう。

装着したところ。ランニングのように身体が動かすアクティビティでもズレる心配は少ない

ノイズキャンセル機能付き、圧倒的スタミナのOLADANCE AUDIO「oladance OWS Pro」

「oladance OWS Pro」本体
充電ケース

かなりトガった個性をもつ完全ワイヤレスイヤフォンが「oladance OWS Pro」。ツヤのある塗装と、なだらかな曲線を描く形状は実にファッショナブルな見た目だ。

音質は他2製品とは印象の異なる硬質なもので、音楽を流したとたんに「カタいな!」と感じる。高音がキンキンしているとかそういうことではなく、低音もしっかり出ているが、全体的にシャープさが際立っているようだ。イヤフォン単体で16時間、充電ケース併用で58時間という圧倒的スタミナも魅力だろう。

ファッショナブルなデザイン
裏側
本体重量は実測27.3g
充電ケース込みで102g

機能面の最も特徴的な点が、ノイズキャンセル可能な「集中モード」があること。オンオフ切り替えのみで調整はできないのと、開放型ということもあるせいか効きはマイルドだが、周波数低めの風の音やファンノイズをある程度低減してくれる。「フォーーー」と聞こえていたファンノイズが「スーー」くらいに抑えられるイメージだろうか。音楽をしっかり聞きたいときはもちろんのこと、仕事に集中したいときに(音楽を流さず)ノイズ低減のみで使うのもいい。

専用アプリ「Oladance」。ノイズキャンセル機能の「集中モード」を備える

操作性もユニークだ。ドライバーユニットの上部分に設けられた細長いセンサー内蔵ボタンで各種操作ができるのだけれど、これを前後になぞることで音量調整や曲のスキップができる。一度スライドさせるごとに1段階ずつ音量アップ・ダウン(または1スキップ)する仕組みだ。

ボタンのクリック操作(ワンクリック、ダブルクリック、トリプルクリック)にも機能を割り当てることができ、カスタマイズ性も高い。ただ、実際に使ってみたところでは、スライド操作がボタンクリック(や他製品で一般的なタップ操作)に比べて特別操作性に秀でているとはあまり感じられなかった。

装着してみた
細長いセンサー内蔵ボタンで操作できる
ボタンの機能カスタマイズも細かく行えるが、左右共通設定となる(左)。EQ設定は3種類+ユーザー設定1種類(右)

もう1つ、トガっているのが「マルチポイント」接続時の使い勝手。たとえば一方のデバイス(スマートフォンなど)で音楽再生中に、もう一方のデバイスで音楽再生を始めると、即座に切り替わるのだ。おそらく一般的なマルチポイント対応製品は、他2製品を含め、少なくともオーディオ再生中ならいったん曲を止めて(またはそのアプリを非アクティブにして)、それからもう一方のデバイスで音楽再生を始めないと切り替わらない。が、OWS Proはそんなのおかまいなしとばかりに、再生を新たに始めた方の音声を出力する。

マルチポイント接続している2台のデバイス間の切り替えがめちゃくちゃシームレス

これぞまさしく本当のマルチポイントだ! と思うのだが、これがBluetoothのマルチポイントの仕様として正しい動作なのかまではわからない。でも、2デバイス間の切り替えがシームレスすぎて感動すること間違いなしである。なお、音楽再生しているとき、もう一方のデバイスに電話着信があった場合、強制的にそのデバイスに切り替わるのは3製品とも共通の動作となる。

「ペアリング履歴」で現在マルチポイント接続しているデバイスがわかる。ただし、マルチポイント接続の制御ができるわけではない(左)。イヤフォンから大きな音を出して落とし場所を探しやすく機能が使える(右)

筆者的には、「集中モード」のあるOWS Proはインドアサイクリング向きだと感じる。いつも自転車をこぎながらタブレットで動画を見ているのだけれども、開放型のイヤフォンだとペダリング時のチェーンノイズやサーキュレーターの稼働音で音声が聞こえにくい。「集中モード」をオンにすれば完全ではないにしろそれらのノイズが抑えられ聞き取りやすさがアップするのだ。

一方、ランニング中に使うのはやや不安感がある。あくまでも他2製品との相対的な比較だけれども、ホールド性がさほど高くなく、重量もあって、ステップに合わせてイヤフォンがジャンプするのだ。とはいえ、ウォーキングやインドアサイクリングくらいなら問題ないだろう。

インドアサイクリングでは周囲のノイズを低減して動画視聴するのに「集中モード」が効果的

ランニングはJBL、インドアサイクルはOWS Pro、オールマイティに使いたいならOpenFitか

最後に3製品それぞれの機能を表に整理し、個人的な重要ポイントにおける違いをざっくりとしたレーダーチャートで表してみた。

【耳穴ふさがない系完全ワイヤレスイヤフォン機能比較】

レーダーチャート
※1 少なくとも50個以上作成できることを確認
※2 LE AudioおよびLC3は将来対応予定

まとめると、「JBL SOUNDGEAR SENSE」は、ワイヤレスかつ開放型ながらもそこそこパワフルなサウンドが持ち味。LE Audio対応などの将来的な性能アップにも期待できる。ネックバンドもあることからランニング向きで、紛失時に見つけやすい「デバイスを探す」に対応しているのも大きいだろう。

「OpenFit」は軽快な装着感と持ち運びの容易さが最大の特徴。全般的にはSOUNDGEAR SENSEとOWS Proのちょうど中間的な機能・性能で、耳穴ふさがない系完全ワイヤレスのスタンダードモデルという感じ。長時間使いたい人、ランニングやインドアサイクリングで使いたい人など、幅広いユーザーにマッチしそうだ。

「OWS Pro」は個性が際立っているが、特にスタミナ重視のユーザーには強くおすすめしたいモデルだ。ノイズキャンセル機能は音楽や仕事に集中したい人にうってつけで、インドアサイクリング中の動画視聴にも欠かせない機能と言える。そして、マルチポイント接続で音楽再生するときの(いい意味で)恐ろしいほどのシームレスさはぜひみなさんにも体感してほしい。

日沼諭史

Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、フリーランスのライターとして執筆・編集業を営む。AV機器、モバイル機器、IoT機器のほか、オンラインサービス、エンタープライズ向けソリューション、オートバイを含むオートモーティブ分野から旅行まで、幅広いジャンルで活動中。著書に「できるGoProスタート→活用 完全ガイド」(インプレス)、「はじめての今さら聞けないGoPro入門」(秀和システム)、「今すぐ使えるかんたんPLUS+Androidアプリ 完全大事典」シリーズ(技術評論社)など。Footprint Technologies株式会社 代表取締役。