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第475回

躍進のU-NEXT・堤社長に聞く「コロナ後の映像配信戦略」

U-NEXT・代表取締役社長の堤天心氏

新型コロナウィルス感染症の流行以降、コンテンツサービスとしての「動画配信」の価値はより高まった。その中で注目しておきたい事業者が「U-NEXT」だ。

U-NEXTのトップページ。画像はPCのブウザだが、スマホ・タブレットのほか、テレビやPS4などのゲーム機からも視聴可能

AmazonやNetflixなど、海外勢の躍進が目立つ一方で、日本独自のサービスとしてシェアを伸ばしてきている。インプレス総合研究所が7月に発刊した「動画配信ビジネス調査報告書2020」でも、日本でのシェアを4位に伸ばしたとされており、親会社であるUSEN-NEXT HOLDINGSの2020年8月期第3四半期決算でも、U-NEXT事業の収益は前年同期比で34%上昇した、と説明されている。

「動画配信ビジネス調査報告書2020」(インプレス総合研究所・刊)より引用。U-NEXTのシェアは4位。伸び率はNetflixと並び大きい
USEN-NEXT HOLDINGSの2020年8月期第3四半期決算資料より抜粋。事業の伸びは前年比で34%と大きい

映像配信の好調は世界的な流れだが、日本の場合、他国と違うところもある。U-NEXTの好調は、そこに関係しているのでは……と筆者は考えている。

そこで、U-NEXT・代表取締役社長の堤天心氏に、同社ビジネスの現場と、「コロナ後」の流れについて聞いてみた。

U-NEXTはなぜ「ハイブリッド型」なのか

まずU-NEXTがどういうサービスなのか、それをおさらいしておこう。U-NEXTは他社同様、月額料金制で提供される動画配信サービスで、もちろん見放題機能を備えている。ただ、料金は月額1,990円と、他社より多少高い。理由は、同社がハイブリッド型のサービスになっているからだ。

U-NEXTの料金表。月額1,990円と他社より高い水準だが、それは、新作レンタルや電子書籍に使える「ポイント」が含まれているからだ

U-NEXTは「見放題作品」と「レンタル作品」、さらに「電子書籍サービス」の3つを組み合わせたサービスだ。見放題作品を視聴しつつ、見放題にはまだ提供されていない、新作の単品レンタル視聴もできる。

1,990円の中には、見放題作品を視聴するための権利と、レンタル作品を観たり、電子書籍を読んだりするのに使える「1,200円分のポイント」が含まれている。だから毎月の会費で、新作を毎月数本レンタルし、さらにドラマやアニメなどの見放題作品を視聴する……という使い方ができるわけだ。

しかもこのポイントは最大90日「繰越し」ができて、さらに、アカウントとポイントは「ファミリーアカウント」として最大4人まで共有できる。

Netflixは単品レンタルがなく、Amazon Prime Videoの場合、サービス利用料とは別に料金が発生する。「1,200円分のポイントがあって、それを新作に使える」ハイブリッド型であり、それを家族でも共有できるというところが、U-NEXTの特徴だ。

文章でもおわかりのように、U-NEXTの欠点は「わかりにくさ」があることだ。お得ではあるが、お得に使うには能動的に使う必要がある。この点を、堤社長も認める。

堤社長(以下敬称略):確かに、弊社はサブスクリプション・サービスとしては(料金が)高めです。それは「ポイント」が含まれているからなのです。そこにわかりにくさがあり、どう向き合うかがポイントではあります。

一方我々は、コンテンツに能動性を持っている、消費意欲を持っている人々にフォーカスしています。他と同じことをやっても戦略上厳しい。ですので、このサービス形態に理解と協賛をいただき、新しいコンテンツを見ることで、一定数はサービスに根付いていただいている、と考えています。

「巣ごもり」で伸びた利用者、ポイントは「新作レンタル」か

そんなU-NEXTだが、冒頭で述べたように、現在サービス利用者が順調に増加している。

堤:アクセス数も増えているのですが、セッションタイムも伸びています。すなわち、より“利用している時間が伸びている”、ということです。SVOD(サブスクリプション・ビデオ・オンデマンドの略。見放題サービスのこと)も含め、この時期に品揃え強化をアピールしましたので、もしかすると、2月・3月までは月に2、3本の映画しか見なかった方が、4月・5月には4本、5本と見るようになっていたのではないか、と予想しています。

なぜサービス利用が伸びたのか? 堤社長は「現状は仮説の域ですが」と前置きした上で、次のように説明する。

堤:まず、過去にサブスクリプションを使ったことがある方から、弊社が「2つめ・3つめ」のサービスとして選ばれた、ということはありそうです。

コロナの影響で映像消費が増え、(1つめに加入しているサービスの作品を)「もうちょっと見たい」「見尽くした」という方もいたでしょう。

契約しているサービスで見たいものを検索したが、なかった。でも、ネット検索したらU-NEXTで見つかった。そこで品揃えにご満足いただき、複数利用が進んだ……というところではないでしょうか。

また言葉は良くないですが、まだ「デジタル配信を触っていなかった」人々に使う機会ができた、ということもあります。

そこでトリガーになっているのは「新作映画」です。作品公開のスケジュールやタイミングも含めて、相乗効果として利用者増に貢献しているのではないか、と思います。

映像作品には、ご存知の通り「ウインドウ」と呼ばれるものがある。劇場映画が典型的だが、まず劇場でかかった後にディスク販売やレンタルが行なわれ、有料放送に配信され、その後見放題サービスや無料の地上波に供給される例が多い。

ウインドウ戦略において、映像配信は「配信方法」で順番が変わる。一本単位でのレンタル(トランザクション・ビデオ・オンデマンド、TVOD)や販売(エレクトリック・セルスルー、EST)は、ディスク販売と同じく映画館の次のウインドウとなり、現在はDVDレンタルより前のものに位置付けられている。それに対し、見放題(SVOD)は数段階あとになり、提供されるまで時間がかかる。

海外では2006年にアップルが「iTunes Store」で映像配信を始めた頃から、TVODやESTの利用が増え、ディスクレンタルとディスク販売が急激に減少し始めた。Netflixに代表されるSVODは、2010年代前半に開始され、2015年頃から定着した。また特にアメリカの場合、1990年代以降、ディスクレンタルと並行し、CATV網での「ペイ・パー・ビュー(PPV)」が広く利用されてきた。

すなわち、海外では映像コンテンツの消費の主軸は“ディスク→TVOD/EST→SVOD”という形で推移してきた、と言ってもいい。

だが、日本は違う。海外に比べ映像配信の普及は遅く、TVOD/ESTの利用よりもディスク販売とレンタルが中心だ。ここ数年で、それを飛び越してSVODが定着してしまった、と言っていい。

しかし、このタイミングで「自宅から出られない」状況が増えたことで、映像配信の中でも、新作のレンタルを中心としたTVODの利用者が増えている……と聞いている。この点については堤社長の見解も一致している。

堤:今までディスクレンタルを中心に利用していた方々が配信を利用するようになったのは事実です。ただし、ディスクレンタルも地方での利用を含め、伸びてはいます。日本において市場規模の絶対数では、ディスクレンタルがまだまだ強いのは間違いないんです。ディスクレンタル利用の減少幅を、配信で埋められているわけではありません。

一方で、配信の利用が伸びたのは間違いありません。そして、一度配信を使った人が再びディスクレンタルに戻ることはありえないでしょう。

特にTVODでの新作映画やライブなど、よりウインドウが「興行」に近いもの、ファースト・ウインドウやアーリーウインドウに近いものには、一定の価値と効果がある、と考えています。

一方で、サブスクリプションではシリーズものの方が有利です。シリーズものでは、サブスクリプションがファーストウインドウになりつつあります。

「テレビで映像配信」の定着がサービス利用を促進

おそらく、日本での映像配信利用は、新型コロナウィルスの影響がなかったとしても伸びていただろう。実際、2019年も各社堅調だったのだ。このタイミングで利用が伸びているのには、別の要因もある。堤社長はそれが「テレビだ」という。

堤:映像配信の利用は、スマートフォンが市場のトリガーと言われます。しかし、実際の利用を見ると、弊社もそうですが、視聴時間はテレビがメインなんです。大画面テレビにおけるコネクティビティ機能、いわゆるスマートテレビは、ようやく市場が立ち上がってきたところです。ここ1、2年でのテレビのインターネット接続率が上がっていて、特にハイエンド製品では、7~8割に達するものもあります。また弊社の場合、PlayStation 4などのゲームコンソールから視聴しているユーザーが多いのも特徴です。

要は、「当たり前」がようやく実現してきた、という言い方ができるでしょう。

「コロナが、映像配信の普及にとって1つのトリガーとなっている」状況であるのは間違いないようだ。だが、堤社長はまだまだ難しさも残っている、とみている。

堤:とはいえ、ディスクレンタルの全量が配信に移行するとは思えません。リテラシーや習慣など、いくつかの問題があります。特に年齢が高い層が厳しい。タッチ&サポートやプロモーションを含めたコミュニケーションだけではスイッチしてもらえません。

そのくらい「商習慣」の問題は難しい。弊社にも経験があるんです。

実は、地方のレンタルビデオ屋さんが閉店する際にキャンペーンとして、U-NEXTのスタッフをお店に配置して(配信サービスへの移行を)案内をさせていただいたことがあります。これでもハードルは高かった。

要は「自宅にインターネット環境がありますか?」とたずねても「わからない」と答える人々が一定数いらっしゃるわけです。そして、現金決済がまだ強く、そこにディバイドがある。高齢者にはディスクレンタルが定着しているんです。

ですから、すぐに「配信100%」にはならないでしょう。しかし、キャッシュレス化含め、世の中全体がデジタル化していく中で、日本でも確実にデジタルがメインになっていくでしょう。

「ユーザーを取り合いつつ複数共存」を支える「いつでも退会・再契約」

では、堤社長はライバルとの関係をどうみているのだろうか?

堤:総論でいえばライバル視しているわけではありません。ジャンルごとに競合環境が違う、と理解しています。もちろん、「あのコンテンツの契約を取った、取られた」みたいな競争はあるのですが。

まず、Amazonは「Prime」という独自の体系ですし、サービスの質が違います。Amazonを経由してU-NEXTへ加入、という形もあるので、共存条件もあります。

Netflixはある面では脅威です。それは、彼らが「コンテンツ独占」する方向性にあるからです。

とはいえ、弊社のサービス内に、“彼らにないもの”を整えていくことで、共存しうると思っています。コンテンツ差別化で共存できます。Disney+ (ディズニープラス)も同様ですね。Huluについては、テレビ局と一緒のサービスとして、1つの解だと思います。

他のサービスを評価しつつ、自社が十分に競合していける、と考えているのは、実際の顧客の動きとして、「サブスクリプションとして1つのサービスしか選ばない」のではなく、複数のサービスを併用するのが基本になっているからだ。

堤:今の市場は、まだ全体の底上げが必要。日本だと、まだ2つめ・3つめのサービスをどうしようか……と考えている段階です。アメリカでは“3つがアベレージ”、とも言われますが、もっとOTT(インターネットによる映像配信事業者)が増えるなら、組み合わせは増えていくはずです。

とすると、単に顧客の月額支払い負担が増えるだけ……というイメージを持つ。だが、実際にはそういうわけでもない。「サービスの退会や休会をして切り替え、またコンテンツに魅力ができたら再加入」というやり方を選ぶ人が増えていくからだ。

携帯電話にしろケーブルTVにしろ、加入した後にサービスを切り替えるのは大変なことだ。衛星放送も、機器の購入や設置、設定があるため、心理面も含めた切り替えコストは大きい。

だが、ネットサービスは比較的簡単に解約できる。主要な映像配信は、皆ウェブからすぐに解約が可能になっている。過度な解約引き止めもない。U-NEXTも例外ではない。

堤:リジョイン(一時解約と再契約)は、前向きに捉えています。流動性が厳しくなるわけですが、それはチャンスでもあります。

「海外市場での強さ」で変わるオリジナル作品制作のハードル。日本は実写よりアニメ

その際、再契約につなげるにはやはり「コンテンツ」の認知と魅力が必要になる。NetflixやAmazonがオリジナル作品に注力するのはそのためだし、ディスニープラスが有利と言われるのも、ディズニーブランドの強さゆえだ。Huluは地上波テレビ局、という非常に強いメディアを持っている。

U-NEXTは現状、外部のパートナーと連携した調達が基本だ。

堤:弊社が「ハイブリッドモデル」を採っている背景にあるのは、「新作のプレミアム」を生かしたい、という点があります。新作映画などのTVOD提供が始まる時には、弊社だけでなく映画会社なども宣伝を行ないますし、人々も注目する。そこでの外部効果を使って認知を広げていく……というのが、過去数年の戦術です。

SVODの世界では、新作をてこに、ブランド認知をいかに活性化できるかが重要です。要は“バズるコンテンツがないと意味がない”。ただ、そういう新作を集め続けると言う「サステナビリティ」のためにも、サブスクリプションから得られる原資が必要です。

では、U-NEXTは「オリジナル作品」をどう作っていく戦略なのだろうか?

堤:ライブアクション(実写作品)は、アニメなどとは組み立て方が違います。正直、実写のドラマ・映画の方が難易度が圧倒的に高く、ハードルがあります。

理由は、日本製のライブアクションの場合、国内消費がほとんどだからです。Netflixがライブアクションに投資できるのは、グローバルなコンテンツのための投資だからです。日本の会員のためだけに作るのはハードル、ということになります。

日本でのライブアクションは、テレビ局が圧倒的に強い状況です。それはエコシステムがサイクルとして確立しているから。我々のような事業者が無邪気に入っていけるレベルの話ではありません。我々がNetflixと同じことをするのは難しいので、放送局などと組めるかどうかがポイントになります。

ただしアニメの場合には、日本以外への配給が広がっていますから、オリジナル作品に近いところにチャレンジする可能性はあり得ます。オリジナリティという意味でも、コミック・アニメの領域は可能性がひろがっています。

堤社長の説明は確かにその通りだ。額の小さな投資で作るのであれば実写もできるが、それでは結局良いものは作りづらい。作品の良し悪しは制作費だけでは決まらないが、制作費が多い方が有利なことは間違いない。世界を目指すと制作費として集められる額が変わってくるし、ヒットした時の影響も大きくなる。

この辺がわかりやすく出ているのが、Netflixの投資方針だ。彼らは韓国では「実写ドラマ」に多額の投資をしている。それに対し、日本では「アニメ」への投資の方が大きい。韓国ドラマは世界的に売りやすく、投資効果が高い、と判断され、巨額のオリジナル作品の制作が続いている。現在の日本のNetflixのランキングを見ても、Netflix出資による韓国ドラマの躍進が見えてくる。彼らの投資額の変化は「韓国ドラマを調達する領域の人々の間ではホットなテーマ」(堤社長)となっている。

参考までに、記事執筆段階(8月12日)でのNetflixのランキング。1位・2位・4位が韓国ドラマで、6位以降にはアニメが続く。Netflixでの韓国ドラマのヒットは、今年に入ってからの明確な傾向の1つ

「テレビで見るライブ配信」に大きな手応え

堤社長が、ドラマ・アニメ以外で大きな手応えを感じているのが「ライブ配信」だ。

堤:先日(6月25日)に開催されたサザンオールスターズのオンラインライブなどは、テレビで楽しんでいるユーザーが意外に多いんです。大画面の画質、プロの演出によるコンテンツを「鑑賞」できますから。SNSでは「U-NEXTに、サザンのライブをきっかけに入った」コメントも多いです。すなわち、「ライブ」が会員獲得のトリガーの1つとして、確実に来た印象があります。「テレビで楽しむライブ」というのを今後より強くPRしていきます。

というのは、ライブはテレビの「編成」に合わないからです。2時間、と時間が最初から綺麗に決まっているわけでもないですし。オンラインであれば編成に縛られません。

6月25日に行なわれたサザンオールスターズの特別ライブは、U-NEXT独占というわけではなかったものの、同社にとって大きな顧客獲得の要因を担ったようだ

ただ、これは海外ではすでに起きていたことでもある。冒頭で述べたように、アメリカでは1990年代から、CATV網によるPPVがあった。そこでは主にスポーツのプレミアムイベントが配信され、大きな収益を生み出している。

堤:海外はPPVが、スポーツでも音楽も莫大な市場を生み出しています。一方で日本にはまだなかった。ですが、「サザン」でその可能性を肌で感じた方も多いのではないでしょうか。これが日本でも非常に大きなものになる可能性があります。

「舞台配信の可能性」はコロナ以前から、主に2.5次元作品などで実証・評価されて来たものだが、コロナ以後はコンサートも含めた「興行」そのものが打撃を受けているため、大物から新人まで、幅広い層のアーティストが配信に乗り出している。U-NEXTは配信へのサポートを行なっている企業の1つだが、LINEやサイバーエージェント、ドワンゴなど、およそ「映像配信とエンターテインメント」に関わり、開発力のあるところは皆この市場に殺到している、という部分もある。堤社長も「この領域で最初に成功へと行き着いたものが大きな果実を得るのは間違いない。IT系の企業がどのように出てくるかは注視している」と話す。

堤:理想の世界は、「テレビで鑑賞してスマホでコマース」という形かと思います。ライブと物販、マーチャンタイズの連携は必然で、技術的にも難しくありません。今年・来年にかけて、その部分でのプラットフォーム開発面を強化します。そして「ステップ2」として、インタラクティブ体験やVRなどのリッチ化、投げ銭対応などと続くことになるでしょう。

好調な電子書籍事業、オリジナルコンテンツ制作に向けて「独自作品」の展開も

そしてもう1つ、オリジナルコンテンツ展開としては、同社が重要と考える点がある。それが「書籍連携」だ。

他の事業者は映像配信が中心だが、U-NEXTは同じ料金体系の中で、ポイントを使って電子書籍も販売している。映像配信と書籍の連携は、他にフジテレビが運営する「フジテレビオンデマンド」が手がけている他、Amazonも、同じ売り場で映像と書籍が同時に買える、といってもいいだろう。U-NEXTは料金体系に電子書籍が含まれる分、より積極的だ。

堤:コミックは特に、コロナ以降売り上げがのびたジャンルです。そもそも、アニメとライトノベル、コミックは「原作」というシナジーもあり、映像とシームレスに結びつきます。出版サイドも積極的です。

書籍ビジネスにはもっと投資したいと考えています。実際、利用者には毎月数千円・数万円使っている方もいらっしゃいます。ポイントを含めて、「アウトレットとしての電子書籍」はアピールしていきたいです。実際、月額会員の方ならば、電子書籍を買うと、購入金額の40%がポイントで戻って来ます。それによって「どこよりも安く」ということをアピールし、存在力を高めていきたいです。

そして、堤社長が「書籍」に注目しているのは、今後のオリジナルコンテンツとの関係も大きなものになる可能性が高いからだ。

堤:特に日本では、オリジナル作品を生み出していくには、書籍領域が重要です。個人的には、日本のクリエイターの方々、オリジナルを生み出す能力は、出版領域の「濃度が高い」と感じるのです。他の国なら映画や映像の世界に行く方が、コミック・小説の世界にいらっしゃる。出版社との連携も含め、そうした才能を重視します。

同社は8月17日から、新しい施策をスタートする。会員向けにオリジナル小説を提供するサービスを始めるのだ。そこからの「IP創出も狙っていきたい」と堤社長はいう。U-NEXTとしてはまず電子書籍の形で提供するが、1~3カ月後を目処にKindleストア、Apple Booksなど他のプラットフォームでも提供。一部の作品は紙の書籍化も予定。そこでは既存の出版社をパートナーとすることもあり得る、という。今後、年間約20点のオリジナル書籍を出版する予定だ。

月額会員であれば追加料金不要で“読み放題”のオリジナル書籍。第1弾は町田康「令和の雑駁なマルスの歌」、藤井清美「ある朝殺人犯になっていた」、誉田哲也「六法全書」、新津きよみ「半身半疑」、チョン・ミジン「みんな知ってる、みんな知らない」、高野史緒「二つと十億のアラベスク」、柴田哲孝「夢の中の家」の7作品

自社のサービスのあり方と、今後さらに競争が増す「オリジナルコンテンツ作り」のために、ある種のインキュベーターとしての「出版」に期待している、ということなのだろう。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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