西田宗千佳のRandomTracking

第486回

「PlayStation 5はこうして生まれた」ハード・プラットフォーム開発トップに聞く

UHD BDドライブを省いた「PlayStation 5 Digital Edition」

11月12日に発売されるPlayStation 5(PS5)。先日公開した実機レビューでも示したように、読み込み速度高速化をはじめとした機能により、「ゲーム機の進化は画質・音質が上がること」という思い込みを吹き飛ばすに十分なインパクトを与えてくれた。

ではPS5は、どのような思想で企画され、設計されて来たのだろうか? 各機能はどんな意味を持って作られてきたのだろうか?

ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)でPS5開発を指揮した2人のキーパーソンに独占インタビューした。

お話を伺ったのは、ソニー・インタラクティブエンタテインメントLLC EVPハードウェアエンジニアリング&オペレーション担当の伊藤雅康氏と、同・SVP プラットフォーム・プランニング&マネジメント担当の西野秀明氏。ハード開発のトップが伊藤氏であり、プラットフォーム企画のトップが西野氏である。

彼らの口から、「PS5は何を狙って作られたのか」を語ってもらった。

なお、伊藤氏は日本、西野氏はアメリカにいる関係もあり、今回の取材は全てオンラインで行なわれている。

伊藤雅康氏。ソニー・インタラクティブエンタテインメントLLC EVPハードウェアエンジニアリング&オペレーション担当 兼 株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメント 取締役 副社長 ハードウェアエンジニアリング&オペレーション本部長 兼 ソニー株式会社 執行役員
西野秀明氏。ソニー・インタラクティブエンタテインメントLLC シニア・バイス・プレジデント プラットフォーム・プランニング&マネジメント担当

振り向いたらもう動いている! 「時間の使い方」を見直して高速読み込みにこだわる

PlayStation 5

筆者が聞きたかったことはシンプルだ。PS5は何を狙って、どういうポリシーで作られたゲーム機なのか、ということだ。

PCやアーケードで育ったゲームの市場がゲーム機(ゲームコンソール)を軸にしたビジネスになったのは、家庭用ゲーム機に関わった多くの人々による成果であり、PlayStationもその一翼を担っている。

一方で、スマートフォン向けのゲームが増え、再びPCゲームも活発になってくると、「なぜゲーム機を選ぶのか」という点が重要になる。そこに価値がなければ、選んでもらえないと思うからだ。

西野氏は「コンソールありき、という発想ではなかったのですが」と前置きしつつ、「まずはビジネスとプラットフォーム、という側面がある」と話す。

西野氏(以下敬称略):我々はプラットフォーマー。ユーザーとクリエイターをつなぎたい、ということが根底があり、その上に作れる価値があるとすれば、コントロールできるのは「テレビとのセット」。そこは考えました。

その上に、ユニークな価値がないと来ていただけない。そのユニークさを最大限に高めるためにコンソールでやる……、ということなんです。

伊藤氏はその中で、あるポイントを重視した。

伊藤:今欠けているところ、どこが問題なのかを考えたとき、「時間の使い方」なんじゃないか、と。みなさん忙しいなか、空き時間での体験を求めている。コンソールの中でのプレイにはなかなか時間がかかるところがありました。もっと時間をうまく使えないか、どうやってコンソールの体験の「時間」を変えることができるのかを、コンセプトからセットとして開発してきたんです。

もちろんこれは、SSDと独自のI/Oコントローラーを使い、ファイルシステムなどにも工夫を加えた「読み込み速度の速さを生かしたコンソール」という点につながる。

PS5はメインボードにSSD(フラッシュメモリー)が直付けされ、ゲームに特化した12チャンネル対応のための独自I/Oコントローラーと共に動作する

PS5の製品レビューでも触れたが、ロードの速さはPS5の特徴の一つだ。ゲームが始まるまでの時間もさることながら、ゲーム内での場面転換やステージの移動などのストレスも軽減されている。

PS4 ProとPS5のゲームロード時間を比較した動画。PS4 Pro実機(ハードディスク搭載、左上)とPS5のPS4互換モード(右上)で「Marvel's Spider-Man」を、PS5で「スパイダーマン:マイルズ・モラレス」をプレイ
(C) 2020 MARVEL (C) Sony Interactive Entertainment LLC. Created and developed by Insomniac Games, Inc.

西野:そこは最初から、そういうコンセプトでPS5の開発に入りました。業界を見渡しても「いまや2.5インチのハードディスクを使っている人はほとんどいないよね」というのも事実で。

なのでSSDというか「とにかく速いものに行きたい」ということはありました。もう、攻めるだけ攻めたい。

なので(ハード設計の)伊藤の方で「オンボードでフラッシュメモリーを積んでI/Oコントローラーもやる」と決めてもらいました。そこで「SSDを入れたからロード(時間)が10秒に下がってよかったね」で喜んじゃいけない、と伊藤にも言われました。

サーニー(PS5のリードシステムアーキテクトである、マーク・サーニー氏)はそこで「Flip」って言葉を使ったんです。もう「振り向けばすぐ」。それを狙いました。

PS5に特化したゲーム開発という「課題」

一方、PS5がSSDを生かした新しいゲーム機であるが故に、その本質として、「PS5向けに特化した作りであればあるほど価値が高まる」という点がある。SIE傘下のスタジオで開発されるゲームについては問題ないだろうが、他のデベロッパーは、多くがPCや他のゲーム機、時にはスマートフォンなどに向けて「マルチプラットフォーム」の形で開発を行なう。

そうすると、PS5向けに特化した開発をどれだけやってもらえるのか? という点が課題になる。そこはどうだろうか?

伊藤:SSDの採用要求というのは、デベロッパーの方々からも非常に多くいただいていました。なので最初から一緒に議論を重ねて取り組んできたんです。「ゲームにどう使うべきなのか」という議論はかなりしましたね。なので、デベロッパーの方々には非常にポジティブに捉えていただいています。

一方、これは基本的なことですが、それをどう使うかは、デベロッパーの方々に任せています。ポリシーとして強要することはしません。ただ、他のコンソールも含め、みなさんSSDの方向には来ている。その上でどうアレンジをするのかは、サードパーティーのデベロッパーの方々にお任せします。

西野:マークとの話し合いの中で、「回廊がなくなるとゲームが変わる」という話がありました。マップ同士を移動する「回廊」はゲームのロードのために用意されている場合が多いのですが、もしロードが速くなれば、マップにわざわざ「回廊」を作る必要がなくなります。

2月に行なわれた、マーク・サーニー氏によるPS5のアーキテクチャを解説した講演の映像より

西野:なるほどね……と思う一方、「じゃあ、そういう作り方が増えていくとしたら、すでにあるPS4はどうなっちゃうの?」とも思いました。「そこはGood Pointだ」ということで議論にはなったのですが。

実際、PS5に特化した開発がDay 1からできるのかといえば、なかなかそうではないのかもしれません。当面はPS4向けの開発も必要です。

そこは数年かけてデベロッパーさんが使い倒してくれるくらいのシステムを用意しないとPlayStationではないので、この先大きな可能性があるところかとは思います。

同様に、PS5では高速読み込みとネットワークを連携させ、簡単な操作からネットワークプレイや追加コンテンツの利用までを楽しめる「コントロールセンター」という仕組みがある。

PS5のUIの特徴の一つである「コントロールセンター」。ゲームとネットワークをうまく連携させ、ワンボタンでプレイしたい場所までショートカットできるため、プレイの仕方が多様になる

コントロールセンターとネットワークサービスを連携させると、ゲームとユーザーとの間ではより長く密接なエンゲージメントを構築できる可能性がある。一方で、そうした部分はゲームソフト自体とは別に、ゲームを発売する会社が作りこんでいかなければいけない部分ではある。

西野:ゲームは売り切りだけでなく「運営型」のものも増えていますし、売り切り型でも販売キャンペーンなどの連動が重要になっています。どんなゲームでも「ユーザーエンゲージメント」が必要です。

確かに新しい開発が必要な部分ですが、我々の側でもテストゲームを作り、「こういう風に生かす」ということを示すようにしています。そのシーンを示して、ゲームメーカーさんにはもっとこちら側に入ってきて欲しい。そこでの協力体制についても、いくつかやりとりはさせていただいています。

なにより、ゲームのロードを速くした分、その時間をゲームに使ってもらいたいんですよ。

アイデアを活かして「より多くの人の体験をリッチに」

新しい「DualSense」コントローラー

PS5では、新しい「DualSense」コントローラーが採用されている。ハプテックやアダプティブ・トリガーなどの新要素を搭載し、手のひらの中で「ゲームへの没入感を高める体験」ができる。このコントローラーの開発思想はそこにあったのだろうか?

伊藤:コントローラーのフォルムは、PlayStationの歴史の中で定着しているので「変えない」ということがありました。ほぼ変えない形の中で、プラスアルファ、 何を入れれば体験を変えられるだろうか……というところから開発をスタートしています。 そういう意味では「大きく変えてしまおう」という意識でチャレンジしたわけではないです。

PS5の最初のコンセプトとして「体験を豊かにする」ということがありました。それがSSDであったり、コントローラーであったり、3Dオーディオであったりなんです。

実は、今回PS5を開発する上で、どの技術も、「これは今まで世の中にまったく存在しなかった」というようなものを設計した部分は、本当に1つもないんです。すべて過去から蓄積した技術です。そこに色々なアイデアをくわえて工夫を重ねることで、体験を豊かにしています。

3Dオーディオもその一環だ。今回、コントローラーに普通のヘッドホンをつなぐだけで3Dオーディオを楽しめるようになっているが、これは今回の重要な設計思想に基づく。

西野:「高価格で特別なスピーカーやヘッドフォンを用意したからいい音がでます」といわれれば、「それは出るでしょう」と思うんです。狙っているのはそこではありません。

今後テレビに内蔵されている「普通のスピーカー」でも3Dオーディオを実現しようとしています。これはいろんなテレビがあるので、全てに対応するには時間がかかるかもしれないのですが、「プレステのマジック」的な要素として、「これ本当にテレビから出ているの?」って言われるようなものをやりたいと思っています。

3Dオーディオに対応したヘッドセットで、デュアルノイズキャンセリングマイクも搭載する「PULSE 3Dワイヤレスヘッドセット」。9,980円

なお、現状のPS5は1440pでの出力に対応していないが、これは「テレビへの対応を最優先としたい」(西野氏)という考えに基づく。「技術的には全く問題ない」(伊藤氏)とのことで、あくまで市場の動向を見つつ、要望が多いなら対応を……ということになりそうだ。

PS5が「静か」になった理由とは

PS5の快適さを支えている特徴として、筆者が挙げたいのが「静粛性」だ。正確には、メニュー時でもゲームプレイ中でもファンの動作音が大きく変わらず、静かなままである。

SIEが以前に公開した「PS5公式分解動画」では、巨大なファンをゆっくりと回転させて十分な量のエアフローを確保していることがわかった。だがファンの形状は、PS5の設計思想の一部分でしかない。SoCの電流・電圧のコントロールまで含め、従来のゲーム機やPC、スマホとは違う設計思想であるのがポイントだ。

SIEが公開したPS5の分解動画より。ファンは非常に大きなもので、これが常に一定の回転で周り、エアフローを確保している

伊藤:その点に気づいていただけたのは嬉しいです(笑)

従来、特にPS4の時の思想は、CPUやGPUの最大負荷をみて、最大負荷になった時を想定して冷却機構の設計をしていました。

ただ、CPUもGPUも同時に最大負荷になることというのは本当に稀なことなんです。せっかく最大負荷を想定した冷却機構を持っていても、それを活かせなかった。

今回は、CPU・GPUで、周波数を可変させています。つまり、CPUが休んでるときはその分GPUを回す、GPUが休んでいるときはCPUを回す。そうして常に最大負荷で回り続けることが設計思想のベースにあります。

じゃあ、「最大負荷で回った時にファンがうるさくていいのか」というとそれはまた別の問題で。最大負荷で回しても静かになるような機械設計にする……そういう設計思想です。

そうなると気になるのは、「負荷がずっと高いなら、消費電力は上がってるのではないか」ということだ。

伊藤:チップ性能も上がっていますし、SSDも使っていますから、正直に申し上げて、消費電力自体はPS4よりも上がっています。それもあるので、どのような冷却機構で効率的に冷やすのか、ということを考えました。

PS5のメインプロセッサー。AMDとの共同開発で、CPUはZen2ベース、GPUはRDNA-2ベースのものになっている。PS4に比べ大幅に性能向上した分、消費電力も上がった

PS5は冷却機構にとにかく凝っている。先ほどあげた大きなファンはもちろんだが、ヒートシンクも大型で、さらにSoCの熱をヒートシンクへ逃すための媒体であるTIM(Thermal Interface Material)として、液体金属を採用している。液体金属は熱伝導効率が極めて良いものの、腐食対策や製造にかかる工程などの問題から、「数百万台レベルの量産品」にはあまり使われてこなかった。しかし今回、SIEは採用に踏み切っている。

PS5のヒートシンク。SoCからの熱はもちろん、SSDやメモリーなど、メインボード上の発熱源からの熱を効率的に集め、ファンからの風で外へ逃す
SoCから熱を効率的に伝えるためのTIMとしては、グリスなどではなく液体金属が採用された

ポイントは「意外とシンプルである」ことだ。確かに大きなファンや液体金属は目を惹くが、複雑な経路のエアフローを使うわけでもなく、メインボードも1枚で中の構成はシンプル。印象としては「自動化して低コスト化しやすく、最終的な生産コストも下げやすいのではないか」と感じた。その感想を伊藤氏にぶつけると、彼はこう答えた。

伊藤:おっしゃる通り。実は液体金属を使ったのも1つの要因です。液体金属そのものを使うと従来のTIMよりコストは上がるのですが、しかし、システム全体で見ればそんなに上がってなくて、同じくらいです。

設計思想はもう「とにかくシンプルにして美しく」。分解されても美しく見えるものを。それが今回は実現できたと思っています。

分解したパーツ全体。非常にすっきりしていて確かに「美しい」と思える

「UHD BD世代かつディスクなしも存在」を最初から想定して開発

もう一つ、設計上の特徴といえば「ディスクドライブのないバージョン」があること。据え置き型のPlayStationとしては初めて、光ディスクドライブのない製品として「Digital Edition」が用意された。

これは、設計のどの段階で考えられたものなのだろうか?

伊藤:最初から色々な想定はしていました。光ディスクドライブがない場合ももちろんです。それに対応できるよう設計していました。

西野:これはある種の思想なんだと思うのですが……。

まず、「将来は光ディスクを必要としないお客様が過半になるだろう」という想定はありました。

これはどの世代でも検討はされるんです。しかし、ジェネレーションの中でやろうとするとジレンマがあります。

世代の後半はコアーユーザー様ではなく、どちらかといえばホワイトユーザー様が中心になります。そうすると「彼らにはディスクが大事です」という話が出てきて、ディスクレスモデルの話はどこかへ行ってしまうんですよ。

もう一つ重要なこととしては、「ディスクを取ったから値段が安くなる」とジェネレーションの途中で言うのは非常にわかりにくい。というか、なんかこう、すっきりした感じじゃない。

伊藤の努力でどんどんコストが下がっていく。この綺麗な方程式の中で、「ディスクを取ったからもう50ドル、100ドル安くなったよ」と言うのは、「なんかちょっとやり方として美しくない」っていう議論もありました。

過去のジェネレーションでそういう議論があったので、「これはもう途中でディスクレス版をだすのは無理かな」と思いまして、「最初っからやる」と決めたんです。

ここは値段がどうこうよりは、お客様への統一印象をご提供するという思想です。

そういう意味では、「初めて光ディスクがないことをプラットフォームの段階で考えたPlayStation」といえます。

ただ、まだまだディスクで遊んでいただく方もいます。あんまり目立たないんですが、ゲームディスクが「100GB」になっているのも大きいんですよ。

それに、ビデオを見られる方もいらっしゃいますしね。

そこで疑問がある。今回、PS5ではUHD BDに対応した。一方でPS4 Proの時には、4Kを意識したプラットフォームであるにもかかわらず、UHD BDを搭載しなかった。この判断との関係はあるのだろうか?

西野:PS4 ProでUHD BDを採用しなかったのは「PS4のジェネレーションはBDだ」と考えたからです。これも思想です。今回サポートを決めたのは、PS5はUHD BDのジェネレーションだ、ということもあるのですが、同時に、必要としないお客様もいる。チョイスとして両方用意しよう……ということになったんです。

実は、ここでもう一つのハードウエアが関わってくる。

VR用周辺機器である「PlayStation VR(PSVR)」はPS5に対応する。だが、「PS5専用」のタイトルでの対応ではなく、「PS4タイトルの互換機能」としての対応となっている。これは少し残念にも思う。

西野:これも思想の問題です。

PSVRはPS4互換機能でサポートしています。ただ、単純に「互換」で片付けるつもりはありません。

PSVRをお買いになられた方がPS5に乗り換えた時につながらない、と言うのはありえないです。またそこで、PS5によって体験が向上する、と言う「ブースト」的なメリットはある、と考えてはいます。

しかし、西田さんのご質問についての回答は、「PS5にはPS5に相応しいVR体験を期待したいですよね」とお答えします。それ以上のコメントはできませんが、期待したいですよね(笑)。

互換は「大前提」、PS4とのクロスジェネレーションを意識

PS5はPS4のゲームを動かせる「互換機能」を持っている。古くはPS2がPS1の互換機能を持ち、PS3では初期モデルのみハードウエアでのPS2互換機能を持つ、という形になった。その後、PS4に至り、CPUアーキテクチャをx86系に変更したこともあって、過去との互換は「クラウドでの対応」を中心としたものに切り替わって行った。

PS5は、PS4と同じくAMDのプロセッサーで動作している。そのために互換性を維持しやすかっただろう。実際、かなりのPS4ソフトがそのままPS5上で動作している。互換の開発についてはどうだったのだろうか?

伊藤:正直な話をすれば、今回、互換のために特別なことをした、という意識はないです。もちろん、プロセッサーの世代が変わっていますから、その面での細かなチューニングは必要でしたけれど。PS5は最初から互換を想定して開発しており、x86から変えないことも大前提でした。

西野:互換という意味では、PS5でPS4のタイトルを動かすことも重要なのですが、前方互換(PS5と同じタイトルをPS4にも供給する)ことが大事、と主張してきました。

現在の想定では、PS4からPS5への移行には3年くらいかかると予想しています。その間、PS4でもゲームを買い続けていただくにはどうしたらいいのか? 購入したゲームがPS5でも遊べるかどうか? そこが重要です。

とある時期を境に、デベロッパーの方々には、PS4とPS5の「クロスジェネレーション」を前提に開発をお願いしています。もちろん、それを容易にするためのライブラリーの充実も必要ですが。

「互換」という意味で少し気になる部分がある。

PS4には、動画配信アプリなど、ゲームとは違う枠組みで動作する「ミニアプリ」があった。PS5にも「メディア」というタブの中にこうしたアプリ群が集められている。現状はサービス開始前ということで公開許可が降りておらず、スクリーンショットなどをお示しすることはできないが、複数の動画配信サービスが使えるようになる予定だ。

これは、PS4の「ミニアプリ」と同じものなのだろうか?

西野:ゲーム以外にメディアアプリが動く、というのはPS4と同じです。アプリの中にはPS4互換モードで動いているものもあれば、そうでないものもある状況です。

となると気になるのは、「PS5ローンチの段階ではサポートされない」と明言されている「トルネ」アプリの存在だ。トルネはバッファローにハードウエアのビジネスが移管され、ソフト・サービスはSIEジャパンが運営する形での存続が決定している。どうなるのだろうか? ここは同社広報コメントとして「PS5での対応については、今後検討していく」とのみ回答が寄せられた。

もう一つ。ソフト面の機能として、PS4にあってPS5にないものとして「ウェブブラウザ」が挙げられる。

西野:現状、PS5にはウェブブラウザを搭載するつもりはありません。色々なネットワーク機能を使うためのコンポーネントとしてはもちろん使っていますが、アプリとしてウェブブラウザがゲーム機に必要なのか疑問もあり、見極めさせてください。チャイルドスイッチ対策なども必要になるため、ウェブブラウザの搭載にはそれなりの工数もかかりますので。

PS5は令和の「ソニーの5」になれるか

最後にお二人に、PS5のどこに注目して欲しいか、一言ずつ聞いてみた。

伊藤:やはり、「SSDによる高速体験」「Tempest 3Dによる3Dオーディオ」、そして「コントローラーによる体験」です。我々はこの3つを柱にずっと開発してきましたので、その体験の違いを楽しんでいただければと思います。

西野:コントローラーが生み出す新しい時間を、遊びまくっていただきたいとは思います。

PS4のお客様は1億人以上いらっしゃいますが、なるべく早くPS5へ移行していただけるように努力します。その結果として「やっぱりこれは次のPlayStationだよね」と思っていただければな、と思うのですが。

西野氏は一言こうもいった。

西野:いやあ、私もソニーで商品企画をするものとして、「5」に関われたのはラッキーです。これは巡り合わせですかね。

ソニーにとって、「5」がつく型番の製品は特別なもの……と言われる。1955年に生まれた携帯型トランジスタラジオ「TR-55」、「スカイセンサー」シリーズ1号機の「ICF-5500」、パスポートサイズのハンディカムとしてヒットした「CCD-TR55」、そして「VAIOノート505」……。

さて、PlayStation 5は、「ソニーの5」の伝統に入れるのだろうか。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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