西田宗千佳のRandomTracking

第577回

Apple Vision Pro買ってきた日記 1日目:「予測された未来」がついに目の前に!

Apple Vision Pro

Apple Vision Pro(以下Vision Pro)をアメリカに行って購入した。

1日目のレポートとして、実機を使ったファーストインプレッションをお届けする。

購入に至る流れは「0.5日目」としてImpress Watchの方に掲載しているので、詳しくはそちらをご覧いただきたい。これ自体、ある種の旅体験として面白かった。

昨年6月に開発者イベント「WWDC 2023」でVision Proが発表された際、筆者も短時間だが体験し、その感想を「やばい」のひとことでお伝えしている。

「なにをおおげさな……」と思われたかもしれない。

だが、購入してじっくり使ってみた今も、「いろいろ留意点はあれど、確かにこれまでと大きく違うデバイスだ」というのが筆者の感想だ。

ではどんな体験なのか。実機写真とともにお送りしたい。

パッケージとその中身をチェック

パッケージは非常に大きい。正直、中に入っているものの量を考えると大きすぎるほどだ。

Vision Proの外箱。一緒に写っているのはiPhone 15 Pro Maxなのだが、だいたいの大きさがイメージできるだろうか

明確な理由は説明されていないが、おそらくは「パッケージ全体を紙で作っているから」だろう。

Vision Proは、ガラスのフロントカバーを採用し、内部にも色々な可動機構を組み込んでいる。見たところ、一般的な利用で壊れるほどヤワではないと思うのだが、それでも、重いボディが強い衝撃でぶつかる状況になるのは避けたい。

Vision Pro本体をクローズアップで

一方で、梱包材として耐衝撃性を高める場合、手近な素材はプラスチックなどになる。だが、アップルは全部紙でないとパッケージには採用しない。「しっかりとホールドできる立体構造」「十分な空間」「堅牢さ」などの条件を備えた紙素材のパッケージ、ということになると、この構造になってしまったのではないだろうか。

箱の中は紙製だがかなり強固な構造

中に入っているのは本体やバッテリーの他、追加のヘッドバンドとなる「Dual Loop Band」、バッテリーとケーブルにUSB Type-C(30W)の充電器などだ。

本体同梱品

標準で使うSolo Knit BandとLight Sealは、顔のサイズにあったものが「本体についた状態」で受け渡される。店頭では、その人にあったバンドとシールをバックヤードで本体にセットし、その上でパッケージしているようだ。

Solo Knit Band
Light Seal

わざわざ利用者本人に最適化したバンドなどをセットにしている理由は、「快適さの維持」である。

Vision Proは非常に精度の高い視線認識を特徴としている。そのため、視度調整や目とレンズの距離などをかなり厳密に管理する。さらに快適な使い心地を目指すためにも、「顔や頭がどういう形状なのか」に合わせて、Solo Knit BandやLight Sealのサイズはおすすめのものが選ばれる。

レンズ部。IPD調整は自動

ここまでの厳密さを要求することは、「手に入れやすさ」「カジュアルに他人と共有すること」にはマイナスだ。だが、Vision Proはかなりパーソナルなデバイスとして設計されており、そのことが「使い勝手の良さ」にもつながっている。

バッテリーは外付けだが……

付属品の中でも、バッテリーと電源のことは特記しておかなければいけないだろう。

付属のバッテリー

他のHMDの多くがバッテリー内蔵であるのに対し、Vision Proは外付けだ。本体重量を少しでも減らすためと思われる。

バッテリーは確かに邪魔で、内蔵の方が良いのは事実だろう。一方で、今は技術的にそれができず、「バッテリー外付けを選んだことで品質を担保できている」のは間違いない。

使ってみると、意外と慣れるものだ。バッテリーにはUSB Type-Cの端子があり、ここから給電する。すなわち、バッテリー動作時間よりもさらに長く使うことはできるし、バッテリーは机の上やポケットなどに配置する感じでいい。

充電用のUSB Type-C端子がある
本体とはこのようにケーブルでつながる

問題は「本体とバッテリーの両方を持ち歩くと重い(1kg近くになる)」ことの方だろう。

なお、バッテリーと専用ケーブルの接続端子が「Lightningっぽいなにか」であったことがSNSなどで騒がれたようだが、正確にはLightningよりも幅広な独自端子。そもそも、バッテリーとケーブルをひんぱんに外す構造にはなっておらず、脱落防止の爪もある。バッテリーのホットスワップ機能がないことを考えても、この端子から簡単にバッテリーが取れるようでは困るのだ。無理にバッテリーを交換するより、バッテリーにあるUSB Type-Cの先をどうするか考えた方が良いだろう。

Vision Proとは「ディスプレイの本質的な変化」のためのデバイスだ

さて、では実際に使った印象を語っていこう。

昨年6月の記事で触れた内容と、実は大きな差はない。技術的にいえば、

  • 解像度が高く、色再現性も高いディスプレイを使っている
  • 性能が高く、処理落ちなどがほとんど見られない
  • 精度の高い視線認識を採用しており、腕を大きく動かさずに操作できる

という話になるのだが、それらはあくまで「要素を技術的に分解するとそうなる」という話であり、体験として解説するなら、

  • 周囲が立体感含めて自然に見える
  • その上に重なるグラフィックスが自然でなめらか
  • 空間全体を無理なく使える
  • 操作していても腕が疲れづらい

ということになる。

ホーム画面を表示。後ろはホテルからのハワイの風景

もっとシンプルにいえば、以下の動画が実際の操作のものだが、まったくこのままの感覚で使える。

Vision Proを動かしてみた動画

空間に本当に、iPad用のアプリケーションが3D化されて浮いているようだ。しかも、自分の周囲のどこにでも置ける。

詳しくはまた次回以降に述べるが、映画や空間ビデオの体験は非常に素晴らしいし、そもそも、空間を活用して作業をできることは新鮮な驚きがある。

Disney+などで動画も視聴可能
写真などを好きな場所に配置して利用
iPhone 15 Pro Maxで撮影したパノラマ写真を体験

Macの画面を大きく映し出して、Vision Pro専用のアプリと同時に使うこともできる。

下のMacの画面がVision Proの中に。実際にはもっと大きな表示に拡大可能

重さや顔への負担など、気になる要素はもちろんある。暗いところでは解像感・色合いが落ちる印象があるし、UI上、色々まだまだ改良点は必要だろう。

だが、明らかにこれは今までの体験とは異なる。

雑駁にいえば「ARと言われていた世界の体験が、プロモーションビデオではなく現実として現れた」ということであり、「当たり前のものになったコンピュータの操作体験に、まだまだ新しい世界が存在する」ということでもある。「動画や写真を楽しむ新しい方法が生まれた」という言い方もできるだろう。

そのくらい、この変化は「ディスプレイの本質的な変化」だ。そして、その変化をちゃんとしたものとして提供するには、今のところ、3,500ドルの凝りに凝ったハードウエアとOSの組み合わせが必須という話でもある。

では、その新しい体験は具体的にどんな楽しさであるのか?

次回は帰国便の飛行機内でのオーディオ・ビジュアル体験を中心に語っていきたいと考えている。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『マンデーランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Xは@mnishi41