小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第969回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

YouTuberも注目! DaVinci ResolveとM1 MacBook Airで快適編集

MacBook Air M1とDaVinci Resolve17+Speed Editor

今、動画編集が熱い

リモートワーク需要を受けて、昨年は改めてPCの良さが見直された1年だったのではないだろうか。そんな中で昨年後半、大きな注目を集めたのがAppleの新プロセッサM1を搭載した一連のMacであった。

筆者のメインマシンはMacBook Proの2016年モデルでそろそろ変え時だと思っていたので、M1版のMacBook Airを購入した。MacBook AirにはGPUが7コアと8コアの2種類があるが、購入したのは8コアのモデルである。

プロセッサのベースがArmに変更されたことで、ソフトウェアは最適化が必要になるが、多くのアプリが対応を表明し、パブリックベータなどを積極的に公開しているところである。メモリ積載量が最大16GBということで、グラフィックス系アプリのパフォーマンスが心配されたが、いくつかのアプリでテストしたところ、良好なパフォーマンスを確認している。

動画クリエイターにとって昨年もう一つの大きな出来事は、DaVinci Resolveの簡易型キーボード「Speed Editor」が3万5,980円(税抜)で発売になったことだ。これまで純正のキーボードは113,800円(税抜)もするので手が出せなかったが、これなら買える。しかもキャンペーンとして、DaVinci Resolve Studio 17を購入すると、Speed Editorが無償で付いてくるという。この機会にフリー版のDaVinci Resolveからプロ版とも言えるStudioに乗り換えるのもいい。

そんなわけで筆者の編集環境は、ぐぐっとBlackmagic Design寄りにシフトした。ちなみに筆者の編集キャリアは、20歳で大手ポストプロダクションに就職して、1インチVTRでテレビ番組を作っていた頃からだから、かれこれ37年になる。

今回はM1とDaVinci Resolve + Speed Editorで編集がどれぐらい効率化するのかご紹介したい。フリー版DaVinci Resolveはダウンロードしたが、使い方がさっぱりわからないという方にも参考になるはずだ。

サクッと編集できる「カット」

DaVinci Resolveは、複数のページを持つハイエンドな総合プロダクションツールだ。ページを切り替えるとUIがガラッと変わって、別ツールに変身するというイメージである。作業中のタイムラインはどのページに移動しても共通なので、いろんなツールを渡り歩きながら1本の作品を仕上げていくという流れになる。

機能ごとにページを変えて作業する

一般的な作業であれば、ページを順に使っていくわけだが、最短コースであれば「カット」→「デリバー」だけで完成させることもできる。

無償版と違ってStudio版は、DaVinci Neural Engineでめんどくさい作業が自動化できたり、3D・HDRの対応、多数のフィルターやオーディオプラグインが使える。今回は編集用キーボードのSpeed Editorを使うのでStudio版を使用することになるが、多くの部分は無償版でも同じことができるはずだ。

現時点での最新バージョンは17だが、実はまだ最終版ではなく、パブリックベータである。したがって、Speed Editor付きの正規版を購入したわけだが、付属するのはバージョン16であった。ただシリアルナンバーはそのまま使えるので、要するにキーボードとシリアルナンバーを買ったようなものである。現在DaVinci Resolve 17は、M1バイナリとIntelバイナリが別々にダウンロードできるようになっている。執筆時点のM1対応最新バージョンは、17.1B Build 9だ。

Speed Editorは、「カット」ページでの利用が想定されている。ジョグ・シャトルやSTOP/PLAYのような一部のキーは他のページでも動作するが、ほとんどのキーは「カット」専用と考えたほうがいいだろう。

「カット」ページで使える機能を凝縮したSpeed Editor

「カット」ページは編集機能がシンプルにまとめられており、この機能が初めて発表されたNAB2019のプレスカンファレンスでは、報道のようなテープ編集のスピード感をノンリニアで実現するためのUIということであった。したがって、Speed Editorのようなキーボードとも相性がいいわけだ。

今回は5分程度の動画を作ってYouTubeへアップロードするという想定で説明する。「カット」で基本的な編集を行なったあと、「エディット」でテロップと音楽追加処理を行ない、「デリバー」でレンダリング出力という流れだ。

「カット」編集の方法論

用意した素材は、筆者が趣味で作っている畑の野菜を紹介する「コデラ家のハタケ」のものである。今回は動画クリップ7つと音楽素材1つをまとめていく。

「カット」の特徴は、すべての動画素材が1本のクリップであるかのように操作できるところだ。昔ビデオテープで取材撮影していたころは、1本のテープ上にいくつものクリップが記録されていたため、いわゆる「テープを転がして」編集していたものである。「カット」はその編集方法をノンリニアでも実現する。

黄色い枠で囲まれた部分が、1本にまとめられたクリップ

この方法のいいところは、早送りで素材内容に全部目を通すことになるので、せっかく撮ったのに使うのを忘れていたということがなくなる点だ。ただ、あんまり素材が多くなると、何がどのへんにあるのか記憶が追いつかなくなるので、かえって編集が難しくなる。

ベータカムで取材していた時代はテープ1本が20分だったので、20分ごとに素材が別れていた。1インチ編集の場合は60分か90分リールを使うので、1本に収録されている素材もそれぐらいだった。読み込んだ素材が全部1本に繋がってしまうことを考えると、だいたい素材全体で1時間ぐらいの作品が「カット」で編集するのに妥当なところだろう。逆に素材が8時間あるみたいな作品を「カット」で編集すると、かえって効率が上がらないことになる。

Speed Editorのジョグシャトルでは、この1本に繋がった素材をテープのように「転がす」ことができる。「SHTL」はダイヤルの角度に応じてスピードが変わる、早送りモードだ。手を離してもずっと進み続けるので、必要なところが見つかったら早送りを止める必要がある。油断しているとあっという間に最後まで行ってしまうので、初心者には使いづらいだろう。

Speed Editorには、テープ時代にはなかった「SCRL」というモードが新設されている。これはジョグのようにぐるぐる回すことで映像を進めたり戻したりする機能で、同じくダイヤルの回転で映像をコマ送りする「JOG」と似ているが、JOGのスピードがもっと速い版である。使いたい素材を探す場合には、SHTLよりも使いやすいと思う。

テープ時代にはなかった「SCRL」

動画編集には、やり方がいくつかある。頭から順に必要なカットを必要なぶんだけタイムラインに切り出していくというのがテープ時代の編集で、ノンリニアでも同じ方法は可能だ。この場合は限りなく完成に近いものが出来上がっていくので、タイムラインはいわば盛り付け皿みたいなものである。

一方でノンリニアらしい方法としては、素材を順番を気にせず使えるところを多めにタイムラインに切り出していき、あとはタイムライン上で細かく刻んだり順番を並べ替えたりして完成へ近づけていく方法だ。タイムラインはいわゆるまな板みたいなものである。

これらの方法に優劣はないが、仕上がりが速いのは盛り付け皿方式である。なぜならばこの方法論は、すでに頭の中に完成形があり、それ通りに組み立てていくだけだからである。自分で撮影して自分で編集する場合は、こちらの方法が圧倒的に速い。この方法の難点は、想定通りにしか組み上がらないので、想定したよりもすごく良くなった、みたいな「編集の魔法」が起きにくいことである。

一方まな板方式は、編集者が撮影現場に行ってないとか、撮影が想定通りにいかず、全体構成を考え直す必要がある場合に向いた方法だ。試行錯誤が入るので時間がかかるが、想定したよりもいいものが出来上がる可能性が高い。まな板方式は色々応用ができるので、今回はまな板方式で編集していく。

Speed Editorでスピードが上がるわけ

では早速編集である。今回の構成は、頭で顔出しの挨拶、畑の様子のレポート、最後に顔出しで締めという、シンプルな構成だ。途中にタイトルと音楽を挿入する。

ダイヤルのSCRLで操作しながら、撮影したもののうちから使えそうな部分をどんどん切り出していく。IN点、OUT点をセットして、「APPEND」でタイムラインに追加していく作業の繰り返しである。編集点の細かい調整についてはあとでやればいいので、ここでは素材を抜き出す感覚で作業する。

素材の抜き出しが完了すると、タイムライン上には1本に繋がった状態になる。「カット」の特徴は、一番下のタイムラインではつなぎ目の細かいところが確認できるように拡大表示になっているのだが、その上の部分では常にタイムラインの全体が表示されているところである。

一般の編集ツールでは、タイムラインの表示は1つしかないので、細かいところを見たり全体を見たりする際に、タイムラインをしょっちゅうズームインしたりズームアウトする必要がある。その作業が無駄、ということで、「カット」では2通りの表示が常にできるようになっている。

2つのタイムラインが常に同時に表示されるのが「カット」の特徴

現在タイムライン上は素材から順番に切り出しただけなので、撮影した順に並んでいるだけだ。完成品の順番は撮影順とは違うので、これを並び替えていく。Speed Editorでは、SPLITと書かれたボタンを長押しすることでMOVEモードになる。再生位置を動かしたいクリップのところまで持ってきてMOVEボタンを長押しすると、ジョグダイヤルでクリップ位置が変更できる。

クリップの順番入れ替えもダイヤルで操作できる

各クリップの使い始めと使い終わりを細かく切っていく「トリム」は、Speed EditorのTRIM INもしくはTRIM OUTボタンを長押しすると、トリミングモードに入る。そこでダイヤルを回すと、フレーム単位でトリミングできる。

トリム中の画面。ここまでマウス操作は一切ない

Speed Editorのボタンは、単に1回押せばいいもの、押しながら操作するもの、2回押すもの、2回押して2回めで長押しするものがわりとバラバラに存在する。ボタンの横位置に書いてある機能が長押しする機能ではあるものの、トリムのように表面に書いてあるのに長押しするものなどがある。基本的には、何かのモードに移って選択動作があるものに関しては長押しが必要、というイメージだ。ボタンの表面を見ただけでは判別できないので、自分がこれからどの機能を使って何をやるのかがしっかりわかっていないと難しいわけである。

不要なクリップは、そこに再生ポイントを持ってきて「RIPL DEL」ボタンを押すと、クリップが削除されてそこから後ろが前に詰まる。RIPLはRippleの略で「波紋」という意味だ。一つの行為がその後ろにまで影響する操作のことを、編集用語ではRippleという。単にクリップを消してそこが空白になるような場合は、Rippleではないわけだ。他にRipple Over Writeという機能もあるが、Rippleの意味するところがわかればそれがどういう動作になるのか、だいたい想像が付くはずである。

顔出しの喋りを編集していくと、どうしてもジャンプカットが発生する。昨今のYouTube動画では、あまりにも細かく喋りを切るため、あまりこうした編集点のジャンブは気にしていない傾向があるのは事実だ。だがもうちょっとスマートに、編集したのをあまりわからないようにしたいという場合は、「CLOSE UP」というボタンが使える。これは再生ポイントがある部分を5秒間だけ拡大する機能だ。AIを使って自動的に顔の部分へ向けて拡大するので、細かい調整が不要である。最終形がHDでも4Kで撮影しておくと、こうした機能も画質劣化なしで使う事ができる。

CLOSE UPボタンを使うと、一発でアップのカットを作り出してくれる

音声のレベルを調整したい場合は、「AUDIO LEVEL」ボタンを押しながらダイヤルを回すと、現在の再生位置にあるクリップのオーディオレベルを変更できる。こうした無段階に調整できるパラメータに対してダイヤルが使えるのは、非常に作業効率がいい。

なお文章の説明だけではわかりにくい方もあるだろう。実際にDaVinci ResolveとSpeed Editorを使ってのレクチャー動画を作ってみたので、実際にどういうオペレーションになるのか知りたい方、またこれまで自己流で編集してきて人の編集するところを見たことがない方は、参考になるかと思う。ただ途中はしょったところはあるとはいえ、本当に4分半ぐらいのコンテンツを制作しているので、作業時間としては50分ぐらいある。お時間のあるときにゆっくりご覧いただきたい。

DaVinci Resolve「カット」レクチャー篇
完成した動画

総論

今回の素材はiPhone 12 miniで撮影した、H.265の4K動画である。H.265は高画質だが高圧縮なので、従来は相当なハイエンドマシンでない限り、いったん編集用の中間コーデックに変換するか、プロキシを作成してからでないと、とても編集には耐えられなかった。

だがMacBook Air M1とM1ネイティブのDaVinci Resolve 17の組み合わせでは、H.265のままでどんどん編集していける。20万円もしない、どちらかといえばライトビジネス向けマシンで、これだけのパフォーマンスで動くのは驚異的である。

加えて記事を書きながら、だいたい8時間ぐらいずっと使いっぱなしであったが、バッテリー消費はフル充電の状態から約半分ぐらいである。この電力効率なら電源なしで取材先のプレスルームやカフェで、動画編集ができる事になる。

筆者自身もまだDaVinci Resolveはすべての機能を使いこなせていないが、Speed Editorがあればほとんどの機能は手元で使えるので、とにかく手数が減るのがありがたい。今回のキーボードバンドルキャンペーンでかなりの人がDaVinci Resolveへ流れたと思われるが、ビデオ系のジャーナリストやYouTuberなら、ぜひ揃えておきたいシステムである。

M1 Macでは、エミュレーションによりIntelバイナリもほとんどが問題なく動く。マシンパワー、時間効率、コストパフォーマンスを考えれば、次号機を待たずに早く使い始めるほど元が取れる、そういうマシンではないだろうか。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。