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ソニー「INZONE」、初代の反響から「全部直してやろう」と挑んだ新モデル。“勝つための画質”も追求

「INZONE M10S」

9月25日に発表されたソニーのゲーミングギア「INZONE」ブランドの新モニター2モデル。発売に先駆けて実機をチェックすることができたので、ファーストインプレッションをお届けする。特に有機ELパネルを初採用した「INZONE M10S」は、高画質ではなく“勝つための画質”を求め、ソニーのゲーミングギアに挑む姿勢を色濃く感じるモデルだった。

25日に発表された新モデルはINZONE初の有機ELモデルとなるINZONE M10Sと、分割駆動に対応した4K液晶モデル「INZONE M9II」の2モデル。プロeスポーツチーム「Fnatic」と共同開発したモデルで、開発初期からFnaticの意見を採り入れた製品づくりがなされている。

画面サイズはどちらも27型で、発売は10月25日。価格はオープンプライス、店頭予想価格はM10Sが17万5,000円前後、M9 IIが13万2,000円前後。

M10Sの解像度は2,560×1,440ドット/QHD、M9 IIの解像度は3,840×2,160ドット/4K。M10Sは480Hzの高速リフレッシュレートと応答速度0.03ms GTG、M9 IIは160Hzのリフレッシュレートと応答速度1ms GTGに対応。共通の機能としては、画面サイズを一般的なeスポーツ用モニターと同じ24.5型サイズで表示する「24.5インチモード」を搭載している。

初代モデルは「勉強が足りなかった部分もあった」

2022年に登場した「INZONE M9」
初代モデルでは特長的なデザインのスタンドを採用していた

ソニーは2022年6月に「INZONE」ブランドを立ち上げてゲーミングギア業界に参入。ゲーミングモニターとヘッドセットを市場に投入した。

このうちモニターの「INZONE M9/M3」はソニー初のゲーミングモニターだったこと、ブラビアの技術も投入した製品だったことなどから大きな注目を集めたが、特に特長的だった三脚式スタンドの使い勝手などネガティブな意見も多く見られた。

INZONEの商品企画担当者も「2022年に(INZONE)M9、M3をリリースして、購入されたお客さまはもちろん、インフルエンサーやプロのeスポーツ選手からも、正直さまざまなフィードバックを頂いた」と振り返る。

「もちろん、ポジティブにお褒め頂いた部分もありますが、そうでない部分も正直ありました。それを受けて、2世代目をどうするのか真剣に議論して誕生したのが今回の2モデルです」

「我々がゲーミングギア業界に参入した後、大きく変わったのがeスポーツ業界の方々と触れ合う機会、ディスカッションする機会が圧倒的に増えたこと。そこで選手たちと会話していると、私が想像するよりも(eスポーツは)はるかにストイックでシビアな世界であることを改めて認識しました。ここでゲーミングギアブランドとして、彼らに認めてもらうことがINZONEが目指すステップだと考えて、今回の2モデルの商品コンセプトを作り上げました」

「INZONE M9」

デザイン面で大きく変更されたのがスタンドで、従来の三脚式から円形のエルゴノミックデザインスタンドに変更された。

商品企画担当者は「初号機(INZONE M9/M3)を出したとき、まだまだやっぱり勉強が足りなかった部分もありました。特に使い勝手の部分ですね。たくさんの方からフィードバックを頂いて、スタイリッシュでカッコいいという声もありましたが、奥行きの大きさ、位置調整機能、安定性にちょっと欠けるのではないかというご意見もいただきました」と明かす。

「ここは正直、全部直してやろうという気持ちで、新モデルを作り上げています。そういったスタンドの使い勝手のような部分も大幅に改善させたのが、今回の2モデルです」

薄い円形状のスタンドベースを新採用している

競合他社のゲーミングモニターでは、“ハの字”型スタンドを採用しているものもあるが、「キーボードやマウスパッドの配置を重視している選手も多く、自分のプレイスタイルを阻害しないスタンドデザインを要求する選手が多かった」として直径159mmの円形状小型スタンドベースを採用。ベース部の厚みも一般的なマウスパッドと同じという4mmに抑えて、デスクトップ上を広く使えるという。

実際にM10S/M9 IIを触ってみると、片手で簡単にモニターの高さや傾きの調整が可能で、調整中にスタンドがグラつくことは一切なかった。イスに座った状態で片手でモニターを180度回転させて背面の端子類にアクセスできるので、利便性も向上していると感じられた。

また初代モデルは本体カラーにホワイトを採用していたが、今回はブラックカラーを採用。これはゲーマーの多くはブラックカラーのディスプレイを好むことや、「色から“PlayStation 5専用なんでしょ”と思われてしまうこともあった」として、変更したという。

「アプローチから今までとは違うもの」になった“勝つための画質”

商品企画時には、「競技ゲーム業界の定義を塗り替えるレベルのクオリティとパフォーマンスを実現したゲーミングモニターを作ってやろう」と考えたとのことで、現在多くのeスポーツイベントで使われている他社のTNパネル製ゲーミングモニターを研究したという。

「TNパネル自体は非常に古い技術ですが、古いからと侮るのではなく、彼らのどこが優れているのか、どこか不満点はないのか、また実際にプロがどう使っていて、自分たちが使ったらどう感じるのかなどを一から研究して、それに対する答えが有機ELパネルの採用や高コントラスト、広色域、広視野角のクオリティと、超高速応答とハイリフレッシュレートといった要素でした」

「INZONE M10S」は「FPS Pro+」と「FPS Pro」の2種類の画質モードを新搭載

またFnaticとの共同開発の結果、搭載された機能のひとつが“敵を見やすくする”という画質モード「FPS Pro+」と「FPS Pro」。FnaticのVALORANT、APEX Legendsのチームメンバーと議論を重ねたというモードで、FPS Pro+は「VALORANT」や「Overwatch 2」といったFPSゲームに最適化されている。

具体的には画面全体の色彩度を抑えつつ、敵の輪郭色である赤、紫、黄色の彩度を強調することで視認性を高めるほか、有機ELの特性を生かして輝度コントラストを上げることで、さらに敵の視認性を強化したという。

一方のFPS Proモードは、先にも登場した“eスポーツ大会で多く使われているTNパネルモニター”の画質をシミュレートしたモード。画質を近づけることで、ふだんTNパネルモニターを使っていても移行しやすいという。INZONEの担当者は、これらの画質モードは「今までにないアプローチ」だと振り返る。

「よりきれいな画質で見せることはできますが、それを抑えて、今までプロの方々が使っていたモニターに近い画質を搭載することで違和感なく使ってもらえるというコンセプトのもとで作り上げています。(画質に関する)アプローチからも今までとは違うものになっております」

実際にFPS Pro+モードにしたM10Sと他社のTNパネルモニターで、VALORANTのプレイをチェックしてみると、FPS Pro+モードのM10Sのほうが、敵キャラクターの輪郭を縁取る赤色がよりクッキリしており、敵が遠くにいても位置を把握しやすい。

また「ヴァイパー」というキャラクターが使用できる技(アルティメット)で、緑色の毒ガスを展開する「ヴァイパーズピット」では、ヴァイパーズピット内に自キャラクターがいる場合、視界が緑一色に染まる中に赤く縁取られた敵が映るが、FPS Pro+のM10Sでは緑と赤のコントラストがはっきりしていて、赤がより鮮やかに表示されるので敵の位置を正確に把握できる。

また差が顕著だったのは、敵の片腕だけがヴァイパーズピットの中に入っている場合。こういった対戦型FPSゲームでは、見えている腕が左右どちらなのかを判別し、そこから相手の頭の位置を推測して、すばやくヘッドショットを決めることが勝敗を分ける要素になるが、TNパネルモニターでは見えている腕が左腕なのか右腕なのかが、すぐには判別しにくく感じられた。

それに対してFPS Pro+モードのM10Sでは、赤の縁取りがハッキリと見えるため、視界に捉えている腕が左腕なのか、右腕なのかが、即座に判断しやすい。VALORANTのようなゲームの場合、この一瞬の判断が自キャラの生死、さらにはチームの勝敗にも影響するので、この描写性能の違いはかなり大きく感じられる。

またTNパネルモニターの画質をシミュレートしたというFPS Proモードでは、通常モードから比べて画面全体が赤色にシフトし、上述のヴァイパーズピットの場合、TNパネルモニターと同じく緑色の毒ガスが少し赤寄りに感じられる。「APEX Legends」の射撃訓練場も空や地面の砂などが全体的に赤っぽい印象に変化する。シミュレート元になったTNパネルモニターと見比べても、その画質はかなり似ていた。

「24.5インチモード」を使っても、有機ELパネルの「INZONE M10S」では違和感を感じることはなかった

またM10Sは最大480Hzの高速リフレッシュレートに対応しているため、残像感はまったくなし。有機ELらしく、黒の引き締まった映像が楽しめるため、表示サイズを小さくする「24.5インチモード」でも周囲の黒縁が気になることはなかった。

「INZONE M9II」

直下型LED部分駆動を採用しているM9 IIでは、前モデル「M9」から制御量を細かくすることで、さらに精度の高い部分駆動を実現し、よりコントラスト感を高めている。実際にM9 IIで「モンスターハンター:ワールド」をプレイしてみると、生い茂った木々や空の青さが印象的で、よりゲームの世界感に没入できる印象だった。

また独自のバックライトスキャニング技術を採用したことで残像感を抑えつつ、160Hzリフレッシュレートと1ms GTGの応答速度を両立。「UFO Test」で前モデルと残像感の違いを見比べると、前モデルが対応していた144Hzの時点で新型のM9 IIのほうがボケ感が少なく、UFOに乗っているエイリアンの顔などもしっかりと確認できた。

酒井隆文