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「20万円で始めるAtmosシアター」リアより先に“イネーブルド追加”が効果的!

先日、「2chから始める10万円以下のホームシアター」を体験。テレビを中心としたリビングシアターとして、デノンAVアンプ「AVR-X580BT」とPolk Audioのスピーカー「Polk Monitor XT60」を組み合わせた。2chでも十分楽しめたが、徐々にチャンネル数を追加していくことで“ホームシアター的満足感”がどんどん高まるのを実感。

それと同時に、AVアンプとスピーカーを合わせたフルシステムでも20万円以下に収まる、デノン + Polk Audioのコスパの良さにも衝撃を受けたわけだが、そうなると「この価格でこの満足度なら、もうちょっとお金を出したらどうなるのよ?」とも思った。

なんだか“沼”への入口のような気もするが、今回は、その沼に潔く足を踏み入れてみた!「2chから始めるホームシアター」の続編レポとしてお届けしよう。いわば、前回と同じ“2chとマルチシステムの聴こえ方比較”を、ワンランク上のシステムで体験してみたのだ。

ちなみに先に言っておくと、2chの時点でいきなり大きなグレードアップで頭を抱えてしまった。

どうなる? AVアンプもスピーカーも同ブランドでグレードアップ

まずは、今回の“ワンランク上の機材構成”を、前回と比較しながらチェック。

AVアンプはデノン「AVR-X580BT」(58,300円)から「AVR-X1800H」(110,000円)へ、スピーカーはPolk Audio「Monitor XT」シリーズから「Signature Elite」シリーズにグレードアップされた。使用機材のブランドを前回と揃えることで、リアルにグレードの違いを実感できる構成だ。もちろん視聴コンテンツも前回と同じく、映画「トップガン マーヴェリック」を再生している。

左からデノン「AVR-X580BT」、「AVR-X1800H」

前回の試聴では、実力のある機材を選べば、2chシステムでも十分に映画が楽しめることがわかった。エントリーモデルながらHi-Fiと通じる自力を持ったAVR-X580BTをAVアンプに選んだこと、そしてフロントスピーカーにフロア型のMXT60(1台33,000円)を選んだことが大きな肝となった。

特に、低域をカバーできるフロア型スピーカーを選ぶことで、サブウーファーがなくても低音を稼ぐことができ、ホームシアターとしての満足感が得られたのだった。今回も、基本の考え方は同じだ。

AVアンプのAVR-X1800Hに関しては、デノンのサウンドマスターである山内慎一氏が手掛けるワンランク上のモデル。AVアンプでも、Hi-Fiアンプに通じるサウンドの傾向だという。

全チャンネル同一構成のディスクリートアンプを採用し、最大出力175Wを確保する7.2ch出力モデル。前回のX580と機能面の差は、Dolby AtmosとWi-Fiに対応すること。そう、ついにAtmosサウンドを体験できるのである。

AVR-X1800H

そしてスピーカーのSignature Eliteは、日本で展開されるPolk Audio製品の中で中級クラスに位置付けられるシリーズだ。最上位シリーズ「Reserve」の思想を取り込んで高音質パーツを使用しつつ、コストパフォーマンスも意識しており、ワンランク上ながら価格帯は現実的なのが特徴。

今回のフロントスピーカーは、このSignature Eliteの中から、もちろんフロア型モデルを選択。2.5cm径のツイーター×1基 + 16.5cm径ウーファー×2基という、2ウェイ3スピーカー構成の「Signature Elite ES55」(1台63,800円/以下ES55)を2台使用するところからスタートした。

Signature Elite ES55

もしかしてこっちの2chの方がコスパ良い?

AVR-X1800H + ES55による2chシステム

前回体験したAVR-X580BT + MXT60による2chシステムは、価格帯的にサウンドバーからのステップアップになる事も多いと思われるので、「サウンドバーと比較して上下左右方向の広がりやレンジ、純度が数段階パワーアップした感じ。テレビの画面サイズを大きく超えて、奥行きのある豊かなサウンド空間が広がる」と表現した。

そこから機材をAVR-X1800H + ES55に入れ替えることで、より大きな変化を感じたのは、まず音声がよりクリアになったことだった。2chの音楽も激変するのだが、「トップガン マーヴェリック」でも音質向上は明白。ヘリコプターの「バラバラ……」というプロペラ音がより細かくわかり、セリフなど声の質感も向上している。風切り音が頬を吹き抜ける際の感触まで伝わるほどだ。

低域の深みもグッと増した。航空機のエンジン音や、メカの鈍い金属音がリアルに響き、爆発音の低域がより沈み込む。上下左右の音の広がりやレンジの広さはX580BT + MXT60でも十分に感じられたが、X1800H + ES55では「全体的に質が向上した」という表現がふさわしいだろう。

ES55のウーファー振動板は、ポリプロピレンにマイカを加えることで軽量ながら、剛性を高めているのが特徴。低域の迫力があると同時に、解像度も高い

「さすが、お金をかけるとワンランクもツーランクも上の体験が得られるのだな……」としみじみしていたのだが、冷静に実売価格で計算してみると、X1800Hが約7万円、ES55が約48,000円×2台 = 約96,000円。なんとトータルで約16万円でできる。…え? 16万?

X580BT + MXT60は10万円を切っていたので、もちろん安い金額差ではない。ないのだが……。個人的に、音質の向上具合はその価格差を軽く越えているので「コスパだけで言ったら、X1800H + ES55の方が良いのでは……?」と思ったのが正直なところ。比較試聴したことで、その価格差と音質差がリアルに実感できたのだ。うーん、恐ろしい沼だ。

フロントスピーカーの次に買うのはイネーブルドスピーカーという選択

というわけで、2ch再生からいきなりX1800H + ES55のコスパの高さに慄いた筆者だが、ここからステップアップするならどうするか?

前回は、「2chからのステップアップなら、意外と4chがアリ」という発見をした。サブウーファー追加による低音の量感アップを後回しにして、リアスピーカーを加えてサラウンド感を優先する選択だ。もちろん今回も、リアスピーカーを足して4chに進化させるのはアリだ。

……しかしだ。上述の通り、X1800HはAtmosに対応している。そう、あくまでも「シアター」が前提にある以上、Atmosという要素が入ってきたら無視できない。

そこで今回は、リアスピーカーは一旦置いて、イネーブルドスピーカー「Signature Elite ES90」(ペア66,000円/実売約5万円/以下ES90)だけを加えてみることにした。Dolby Atmosは、上からのサウンドにも包まれるのが特徴だが、天井にスピーカーを設置するのはハードルが高い。イネーブルドスピーカーは、ユニットを上向きに搭載する事で、天井に音を反射させ“上からのサウンド”を手軽に楽しめるようにするものだ。

イネーブルドスピーカー「Signature Elite ES90」
X1800HはAtmosに対応している
ES90の面白いところは、底面がカーブを描いていて、Signature EliteシリーズのES20、ES55、ES60天面とジャストフィットする事。デザイン性に優れているほか、底面にラバーベースも備えていて、余分な振動が下のスピーカーに伝わらないようにしている

フロントスピーカー + イネーブルドスピーカーの2.0.2chという、あまり体験したことのない構成。しかしやってみたら、これが非常に面白かった。

高さ方向の音が強化されることにより、まるで画面が上に伸びているように感じるのだ。映画の世界に入り込んだ感じが高まり、ミサイルの飛ぶ位置や、レーダー音の動きなど、画面の枠外にある景色の存在が感じられるし、飛行中の航空機が上下反転するシーンではより没入感も出た。

また、上方向に音が伸びることで、横からも音が聴こえるような“気がする”のも興味深い。軽いサラウンド効果と言って良いだろうか。2chだけのシステムゆえ、逆にトップ反射の恩恵がわかりやすいというのもあるかもしれない。

AVR-X1800H + ES55 + ES90

ちなみにAVR-X1800Hには、Atmosとは別に「スピーカーバーチャライザー」機能を搭載しており、バーチャルで高さ方向の音を再現できる。せっかくなので、このスピーカーバーチャライザー機能も試してみたが、断然リアルなイネーブルドスピーカーの方が視聴感も変わり、効果がより強く感じられる。はっきり言って、2ch段階でもイネーブルドスピーカーはあったほうが良い。

結論を言うと、Atmos対応のシステムを組むなら、フロントスピーカーの次はイネーブルドスピーカーを導入するという順番はかなり有力だ。スピーカーケーブルが部屋を横断する事になるリアスピーカーよりも、イネーブルドスピーカーの方が気軽に導入できるのも良い。なにより、Atmos対応のAVアンプを買ったら、はやくAtmosの効果を体験したいもの。イネーブルドスピーカーを導入すれば、それも体験できるというわけだ。

予算に余裕があるなら、いきなりこのフロントスピーカー + イネーブルドスピーカーという2.0.2ch構成からスタートするのも良いだろう。ちなみにES90は実売約5万円なので、、トータルコストは約20万円。「20万円から始めるAtmosシアター」が実現できるわけだ。そう考えると結構すごい。

やっぱりフルシステム最高! 本格シアターで満足度最高潮

最後に、これまでのシステムにリアスピーカー、サブウーファー、センタースピーカーを加えたフルシステムも体験した。しかも今回は、イネーブルドスピーカーも加えたAtmosの5.1.2chシステムだ。

リアスピーカー「Signature Elite ES10」

追加したのは、リアスピーカー「Signature Elite ES10」(ペア37,400円/実売約27,000円)、センター「Signature Elite ES30」(1台33,590円/実売約33,000円)、サブウーファー「Monitor XT12」(1台49,500円/実売約35,000円)。AVアンプを含めたトータルのコストは約30万円ほどだ。

センター「Signature Elite ES30」
サブウーファー「Monitor XT12」

その没入感はまさに圧巻。音の包まれ感が最大になって、低域が豊かに増幅し、満足度は最高潮である。

ミサイル発射時などは低音の粒が濃くなったように感じたし、爆発音も深く沈み込んで迫力満点だ。また、包まれ感が向上したおかげでミサイルの移動感もリアルで、風切り音は本当に耳の横から聴こえてきて、航空機が自分のすぐ横を駆け抜けていくようである。これぞ、ホームシアター。憧れのシアターサウンドだ。

前回の取材でも、2chからスタートしてサラウンドへ進化させていく楽しさを感じたが、今回はワンランク上の機材を選ぶことで、そこにAtmosという要素が追加され、環境のアップグレードを文字通り“立体的”に実感できた。

また、エントリーからミドルクラスの機材にステップアップした事で、改めてデノン + Polk Audioのコスパに驚いた。音のクオリティが明らかに向上するミドルクラスの製品だからこそ、「この音でこの価格は凄い」というコスパの良さを再認識。恐る恐る足を踏み入れた“沼”だったのに、たいへん居心地が良く、ここからしばらく抜け出せそうにない。

杉浦みな子

オーディオビジュアルや家電にまつわる情報サイトの編集・記者・ライター職を経て、現在はフリーランスで活動中。音楽&映画鑑賞と読書が好きで、自称:事件ルポ評論家、日課は麻雀……と、なかなか趣味が定まらないオタク系ミーハーです。