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「DHT-S218」だけじゃない! デノン“山内サウンドバー”3機種を自宅で聴き比べる。無線リアも体験

デノン「DHT-S218」

今、安くて音の良いサウンドバーを教えてと言われたら、AV Watch読者でデノン「DHT-S218」を挙げる方は多いと思う。2019年に初代モデル「DHT-S216」が登場して以来、デノンのS200番台は「ピュアオーディオライクなサウンドバーの代名詞」と言っても過言ではない地位を確立し、先日発売された「DHT-S218」はその最新モデルとして早くも市場から高い評価を得ている。

しかし、その印象が強いので「S218の上位モデルって何があったっけ?」とか「上位機は試聴したことがない」という人もいるのでは? ……実は筆者も、S218の衝撃もあり既存モデルの記憶が少々朧げになってきていた。そこで今回はS218を含めたデノンサウンドバーの有力モデル3機種を自宅で使い比べてみた。

ラインナップは以下の通り。

  • ワンバータイプの「DHT-S218」(オープン/36,300円前後)
  • サブウーファー付きの「DHT-S517」(オープン/59,800円前後)
  • ワイヤレスリアスピーカー付属「Denon Home Sound Bar 550 Surround Set」(オープン/12万円前後)

いずれも、デノンのハイエンドHi-Fi製品を手掛けるサウンドマスター・山内慎一氏がチューニングするモデル、いわゆる“山内サウンドバー”。その全3機種の使い比べである。

サウンドマスター・山内慎一氏

この中で最も安価なのはもちろんエントリー機のS218だが、実際に自宅で使い比べて思ったのは「結局全部コスパが良いじゃん」ということ。S218も含め、歴代S200番台のコスパの高さは有名だが、“山内サウンドバー”は全てのグレードにおいてお得感・満足感を与えてくれた。

驚きの進化を遂げたピュアオーディオサウンドバー「DHT-S218」

DHT-S218

結論から書いてしまったが、まずは最新モデルであるS218を使用し、それを軸にして他モデルをレポートしていきたい。S218が、現在のデノンサウンドバーの最新モデルにして主力製品であることは間違いないので、同モデルと比較しながら語った方がわかりやすいためだ。

改めて概要を説明するとS218は、デノンサウンドバーのエントリーライン、S200番台の最新モデルだ。初めての“山内サウンドバー”として開発された初代S216の「ピュアオーディオ系のサウンドバー」というコンセプトがユーザーに刺さって大ヒット。一躍デノンはサウンドバー市場を代表するブランドとなった。S218は、そのコンセプトを継承している。

筆者もS216、S217とデノンS200番台が新しくなるたびにそのサウンドを聴いてきたが、正直、第三世代となる今回のS218には驚いた。内部ユニットなどハードウェア面は第二世代のS217とほぼ同じはずなのに、明らかに音質が進化している。

横幅890mm、高さ67mmの本体に、25mmツイーター、45×90mmミッドレンジ、75mmサブウーファーを2基ずつ搭載する。これだけ見ると、本当にS217と変わらない。しかしS218の方が音の明瞭度が高く、低域の迫力が高まっている。特に映画を視聴した時、思った以上に低音がキレ良く鳴っていることにびっくりした。

内部の構造

Netflixで「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」(4K/Dolby Atmos)などハリウッド・アクションを中心に視聴したのだが、ラスト近くで橋が破壊される時の爆発音から、列車が崩れるまでの一連のシーンでちゃんと低音が沈み込み、映画的な迫力がある。緊迫感もマシマシ。

正直に告白すると、今回は他の2機種(S517、550SRSET)との聴き比べになるので、ワンバータイプのS218で映画視聴時の低音についてはそんなに書くポイントはないかと想像していたのだが、完全に自分の認識が甘かった。

また、一にも二にも音が明瞭でサウンドステージが広く、音楽再生で使いたくなる。ジャズやクラシックの再生に応えるピュアな音質の魅力は、すでに各所で語られているが、個人的には今どきのJ-POPと相性が良いのも嬉しかった。

手持ちのスマホ・Pixel 6aとBluetooth接続して、Amazon Musicのプレイリスト「2024年上半期 Best of J-POP」を再生すると、Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」ではメインのラップ、コーラス、真ん中に定位するリズムなど各レイヤーのメリハリが効いている。明瞭で立体感があるので、強力なリズムに透明感がある今っぽいJ-POPサウンドの魅力を、ストレートに楽しめる。

初代S216が発表された時、山内氏が「サウンドバーで、オーディオファンが納得する音を目指した」と仰っていた記憶があるが、S218はそのひとまずの“完成形”と言って差し支えないのではないか。

サウンドモードやバーチャルサラウンド処理をバイパスして、高純度な再生を行なうPUREモードも備えている

また、コンテンツに合わせて「Movieモード」や「Musicモード」の音声モードを使い分けることができ、テレビに接続する音響機器としてのエンタメ性も押さえられているバランスはさすが。

特に「Musicモード」は、S217よりさらに自然で聴きやすくなった印象がある。上述の「Bling-Bang-Bang-Born」は、「Musicモード」にすると低域が増強されてコーラス成分が左右に広がりグルーブ感が増すが、メインのリズムのキック感はほどよくナチュラルさをキープ。声の不自然さもかなり抑えられている。どんな風にその楽曲を楽しみたいかで、音声モードを使い分ける楽しさがより強まった。

ただ、少々玄人好みなS218をずっと使い続ける事を考えると、「より低音が欲しい」とか「ドラマチックさも欲しい」といったように、“わかりやすいエンタメ的な演出”をもっと求める人も少なからずいるだろう。

しかしご安心を。その声に応える上位モデルとして、続いてご紹介する2機種がある。

迫力重視な映画ラバーの心を満たすサブウーファー付き「DHT-S517」

DHT-S517

まず、「より低音が欲しい」 という主に映画ファンの声に応えるモデルとして、DHT-S517を見ていこう。上述のS218がワンバータイプのエントリーモデルなのに対し、S517はサブウーファーが付属する2ユニット型のミドルクラスモデルである。

横幅1,050mmのサウンドバー部には、フロントL/R用の25mmツイーターと120mm×40mmミッドレンジを2基ずつ、センターch用の25mmフルレンジを1基、そして66mmのDolby Atmosイネーブルドスピーカーを2基内蔵する。サブウーファー部は150mmユニットを搭載するバスレフ型で、サウンドバー部とはワイヤレスで接続可能だ。

DHT-S517のスケルトン。フロントにL/R用の25mmツイーターと120mm×40mmミッドレンジを搭載
センターch用の25mmフルレンジを1基

先程のS218もDolby Atmosに対応はしていたが、Dolby Atmosイネーブルドスピーカーは搭載しておらず、バーチャルな再現になっていた。しかし、S517は斜め上に向けたイネーブルドスピーカーを搭載し、音を天井に反射させる事で、リアルな“上からの音”を再現できる。より本格的なDolby Atmos対応を求めるなら、S517が第一候補になってくるのだ。

天井にスリットがあるが、この奥に斜め上に向けたイネーブルドスピーカーを内蔵する

もちろんS517も、基本の音質はピュアで“山内サウンドバー”している。本機は2022年発売で、世代的にはS217と同時期だが、当時すでにデノンサウンドバーの「音楽も聴ける素直な音で、テレビ番組の音もナチュラルなまま向上する」という特徴は確立していた。上述したような音の明瞭度は最新モデルのS218に譲るが、本機も音楽再生をHi-Fi的に楽しめるサウンドバーであることは間違いない。

つまり、サウンドバーを購入する時に“ホームシアター”を意識し「それなりの重低音やトレンドのAtmos対応を求める人」にオススメできるのがS517というわけ。シンプルなピュア感に加えてホームシアター的な迫力も欲しいなら、S218にもう少し予算を加えてS517という感じだ。

DHT-S517

実際に自宅で使ってみて、音楽だけでなく映画もたくさん楽しむなら、S517は魅力だと思った。やはりサブウーファーがあると一気に“シアターっぽさ”が出る。上述の「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」でいうと、街中のカーチェイスシーンでは、ブォンッと厚みのあるエンジン音で迫力満点。ラスト近くの橋の爆破シーンでは、水飛沫まで分厚くて水の重さが感じられる。そして、低音に十分な量感がありつつ自然で心地よい。

本機の発売時、サブウーファーの繋がりを良くするために、そのあたりのタイムアライメントはかなり追い込んだと山内氏から伺った。ホームシアターの醍醐味はサブウーファーの重低音だが、その低域に無理がなく自然な迫力で楽しめるのが、S517の魅力だと思う。

またAtmos対応コンテンツを視聴する時、物理的なスピーカーユニットが上方向の音を鳴らしてくれるので、目の前の画面が縦方向に広がったかのように臨場感が増し、“Atmos観てる感”が享受できるのは間違いなく本機の強み。単に機能としてAtmosに対応しただけではなく、Atmosによる音の広がりを計算して音質が作り込まれているサウンドバーと言える。

“山内サウンドバー”ならではのピュア寄りの音質、質の良い低域を提供するサブウーファーの迫力、イネーブルドスピーカー搭載のAtmos対応といったS517の特徴は、発売当初の6万円弱という価格でも十分にコスパが良く感じたが、2年が経過した現在の実勢価格は約5万円まで下がっているようだ。コスパの良さが上がっているお得感も見逃せない。

ワイヤレスサラウンドが音楽・映画好きの生活になじむ「Denon Home Sound Bar 550 Surround Set」

Denon Home Sound Bar 550 Surround Set

最後に、リアスピーカーを加えたリアルサラウンド環境を叶えるモデルとして、「Denon Home Sound Bar 550 Surround Set」を紹介しよう。言うなれば「ドラマチックさも欲しい」とエンタメに重厚さを求める人にぴったりな、デノンサウンドバーのハイエンドモデルだ。特に、リアスピーカーをワイヤレス化できることが大きな特徴。

本機の構成は、それぞれ単体でも販売されているワンバータイプのサウンドバー「Denon Home Sound Bar 550」と、Wi-Fiスピーカー「Denon Home 150NV」を2台組み合わせた3ユニットのセット。後者をリアスピーカーとして、サウンドバーとワイヤレスで接続できる。

ワンバータイプの「Denon Home Sound Bar 550」と、Wi-Fiスピーカー「Denon Home 150NV」を2台組み合わたのがDenon Home Sound Bar 550 Surround Set

サウンドバーのBar 550は、横幅650mmのコンパクトさながら、内部に19mmツイーターを2基、55mmミッドバスを4基、さらに50×90mmパッシブラジエーターを3基備え、ユニットそれぞれに個別のアンプを割り当てた6ch独立駆動の本格設計だ。

デノンのHi-Fi思想が詰まった高音質仕様のサウンドバーで、山内氏がハイエンドオーディオ製品の開発コンセプトとして掲げる“Vivid & Spacious”なサウンドを、コンパクトなワンボディで実現するハイグレードモデルである。

2021年の発売当初、単体価格は8万円前後とサウンドバー市場では強気に見える価格設定だったが、音を聴けばその中低域に厚みがあるHi-Fiっぷりに納得。これ1台でコンパクトな印象を覆すほど低域が豊かに鳴っているし、音の広がりもあって十分にすごい。さらに、そこに2台のHome 150 NVを組み合わせることで、高品位なワイヤレスサラウンド環境が作れるのは大変な魅力だ。

そのHome 150は、25mmツイーターを1基と89mmウーファーを2基内蔵する2ウェイタイプ。Wi-Fi/Bluetoothに対応するワイヤレススピーカーで、単体でAmazon MusicやSpotifyなどの配信サービスを再生することもできる。なおスピーカーとしてはモノラル仕様だが、本機を2台並べて連携させるとステレオ再生ができるようになっている。

先述の「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」のような“背後に音がまわる映画”を、自宅のリビングにいながら存分に楽しめるのは至極だ。当たり前だが、フロントだけのサウンドバーよりサラウンド感が明確で、四方八方から撃ち合う銃撃戦のシーンでは本当に銃弾が頬を掠めていくよう。暴走列車の屋根の上でのアクションシーンでは、トンネルの壁がリアルに自分を取り囲んで抜けていくようで閉塞感がすごい。音質云々の前に、自宅のリビングでこのサラウンド感が味わえることに感動した。

なお、Sound Bar 550はDolby Atmosのバーチャル再生に対応しているが、イネーブルドスピーカーは非搭載。しかし、元々Sound Bar 550が広がりのあるサウンドであることと、Home 150NVを2台加えてリアルサラウンドに拡張するおかげで、Atmosならではの上方向の表現も感じられる。

リアスピーカー役のHome 150NVは、2台ともリビングのダイニングテーブルの上に設置して使った

リアスピーカーがあれば没入感が高まるのは当たり前と言えば、当たり前だ。一方で、「Home 150NVを、リア用として常にリビングに置きっぱなしにしておくと邪魔」と感じる人が多数だろう。正直、ただのリアスピーカーだったら鳴らさない時間の方が長いし邪魔だ。しかし、Home 150NVの場合は、リアルに自宅で使ってみると「これならリビングでリアもイケる!」と思った。

それはズバリ、映画を見ない時はHome 150NVを寝室に置いておき、普通にWi-Fi対応のワイヤレススピーカーとして使用できたことだ。むしろ、「普段は寝室で使っているWi-Fiスピーカーを、映画を観る時だけダイニングテーブルの上に移動しリアスピーカーにする」というスタイルが叶うのである。これがめちゃくちゃ良くて、本機を積極的に欲しくなった。

2台のHome 150NVはそれぞれ、Sound Bar 550とピア・ツー・ピアで接続される仕様なので、ワイヤレスでも安定しやすいし、設定はHEOSアプリから簡単に調整できる。この辺りの使い勝手や機材自体の安定性も、家の中で様々な場所に気兼ねなく持ち運びやすい要素だと思う。

言ってみれば、550 Surround Setは「音楽と映画が大好きな人」のライフスタイルになじんだ使いこなしができるセット。それぞれ単体発売もしているので、まずはSound Bar 550を単体で導入し、後からHome 150を2台買い足すという選択肢もアリ。ただ、最初からセットで購入した方が1~2万円ほど安い。

しかも発売から時間が経過していることもあり、実勢価格はSound Bar 550単体で6万円台、2台のHome 150NVが付属する550 Surround Setではなんと約11万円まで下がっているようだ。上述のような音質と機能性のバランスを考えたら、現時点ではS218、S517より550 Surround Setの方がコスパが高いと感じる人も多いのではないか。というか、サラウンドを体験してしまうともうそれがない頃に戻りたくない……。

なお、550 Surround Setにさらに重低音を加えたい人に向けて、別売の専用ワイヤレスサウブーファー「Denon Home Subwoofer」も用意されているという抜かりない製品構成はさすが。

“音が良い”は大前提。自分の音楽・映画スタイルになじむモデルを選べる

というわけで、デノンサウンドバーの有力モデルは決してS218だけではない……というのが、自宅で使ってみて良くわかった。冒頭で述べた通り、“山内サウンドバー”は全てのグレードにおいて、お得感・満足感を与えてくれた。

もし、デノンサウンドバーのラインナップがS218だけだったら、リアルなサラウンド拡張を求める層にとっては、購入候補にもならないわけで、3機種ある事が、多くの人がデノンのサウンドバーに注目する事に繋がっているだろう。

そして、オーディオ製品のグレードの差は、主に音質の差であることが多いわけだが、“山内サウンドバー”3機種の場合は、いずれもデノン製品として一定以上の高品位なサウンドを実現しており、その上で機能性とのバランスで違いがあるのも良くわかった。“音が良い”は大前提で、その中から、自分の音楽・映画スタイルになじむモデルをチョイスできる選択肢があるのが嬉しい。

杉浦みな子

オーディオビジュアルや家電にまつわる情報サイトの編集・記者・ライター職を経て、現在はフリーランスで活動中。音楽&映画鑑賞と読書が好きで、自称:事件ルポ評論家、日課は麻雀……と、なかなか趣味が定まらないオタク系ミーハーです。