ミニレビュー

左右分離イヤフォンの大本命「AirPods」の魅力は解放感とSiri。使い方に注意も

 昨年末のアップルの完全分離型ワイヤレスイヤフォン「AirPods」発売から、約2カ月経った。この市場を切り開いた「EARIN」を始めとし、3万円台が中心だった市場に、アップルブランドで16,800円という破格の価格で投入されたAirPodsは、まだまだ品薄状態のようで、2月15日現在でもオンラインストアでの納期は6週間となっている。

AirPods

 だが、AirPodsが盤石か? といえば、そうにも見えない。2017年は完全分離型ワイヤレスイヤフォン(トゥルーワイヤレスイヤフォン)の年になると予測されてはいるが、年初のCESでは各社から続々と類似製品が登場。さらに5,000円を切る製品まで出てくるなど、市場が確立する前に〝雨後の竹の子状態”になっている。すでに何度かAirPodsのレビューをお届けしているが、今回は1カ月ほど普段使いした感想をまとめてみたい。

パッケージ

“ワイヤレス”が身近になる簡単設定

 AirPodsは、左右ユニットが完全に分離し、スマートフォンやMacとワイヤレス接続できるイヤフォン。同梱品は本体と、USBケーブル、充電ケースだけ。対応機器は、iPhone 5以降や、iPad Air以降、iPad mini 2以降、iPad Pro(9.7インチ/12.9インチ)、第6世代iPod touch、Apple Watch(38mm、42mm)。今回は主にiPhone 6sでテストしている。

AirPodsをケースから取り出し
同梱品

 AirPodsが、なにより他のBluetoothイヤフォンより優れている点が、iPhoneやMacをはじめとするApple製品との連携だ。AirPodsを充電ケースに入れたままiPhoneに近づけるとペアリング画面が表示され、「接続」をタップすればペアリングが完了する。デジタルデバイスに詳しくない人にとってのBluetoothイヤフォンの最大のハードルが、ものすごくシンプルに解消されていることに感動した。もっとも一回設定すると、その簡単さを味わう機会はないが……

近づけるだけでiPhoneとペアリング

 この機能はAppleの「W1チップ」により実現されているので、AirPodのような、完全分離型イヤフォンではなくても、Beatsの「Beats X」などの製品でも、シンプルに設定できることになる。正直、Apple傘下の製品以外にもこの仕組みを開放してほしいものだ。イヤフォンのワイヤレス化が一気に進みそうに思う。

 充電はケースに収納するだけ。1度の充電で約5時間の再生が可能で、充電ケースを使って最大24時間利用できる。また、充電ケースで15分充電するだけで3時間再生することもできる。ケースの充電にはLightning-USBケーブルを利用する。ただ、ケースを無くしたときはほぼ使えなくなる、ということは注意したい。

 優れているのが、耳に装着するだけでiPhoneからの音を聞けるようになること。光学センサーとモーション加速度センサーを備えており、AirPodsで耳への装着を感知して、再生してくれる。同様に耳から外すと自動的に再生停止となる。また、片方を外すと音楽再生を停止。また入れると再生が再開するなど、細かな操作にも追従してくれる。

 また、片耳だけで聞きたいときは、片方を外した後、iPhoneで再生操作を行なうだけだ。

ケーブルのない自由。解放感ある音

 基本的なデザインはiPhone標準のEarPodsと同じ。イヤーパッドが付属せず、樹脂部分が直接耳に触れるため、フィット感は高くない。落下の危険性がかなり高いので、通勤電車や本格的なスポーツ利用にはお勧めしづらい。個人的には、通勤電車ではほとんど使わず、座れたらたまに使う程度。基本的にはオフィスや喫茶店などで利用している。

AirPods

 左右のユニットをつなぐ“ケーブルが無い”という自由は、とにかく気分が良い。頭の周りがすっきりしており、首の動きに連動して、ケーブルが絡んだり煩わしく感じることはなく、“イヤフォン”を意識しないで使える。フィット感や密着感は低めではあるが、それゆえにイヤフォン装着の圧迫感を軽減しているようにも感じる。この辺りはEARINなど密着性を高めた他の完全分離型イヤフォンとは製品コンセプトが違う部分だ。また、本体の軽さ(左右各4g)も、圧迫感の少なさに寄与していると感じる。

滑りやすいのでフィット感はもう一歩

 音質については、情報量はしっかりしているが、密着度が低めのため、低音は弱くなりがちで、“迫力”を求める人にはあまり適していない。一方、閉塞感がなく、音場が広く感じられるのは良い部分だ。フォークロックのアコギ&ボーカルやジャズギターなどがすごく気持ち良く、ジョニ・ミッチェルやジム・ホールなどのプレイリストやアルバムを頻繁に聞くようになった。

再生画面
出力先としてをAirPodsを選択

 ただ、それなりに音漏れがあることには注意したい。これも耳への密着が弱めだからだろう。静かなオフィスではある程度音を控えめにして使いたい。音楽にきっちり向かい合うという気合の入った音楽鑑賞よりも、BGM的に音を聞くのが気持ちいいイヤフォンで、オフィスでの周囲の会話もある程度わかるというのも利点だ。

 マイクを内蔵しており、通話も可能。電話がかかってきた際に、AirPodsの下部をダブルタップすることで通話を開始する。音質もよく、ヘッドセットとしてとても使いやすい。iPhoneに触れなくていいので、PCでの作業中などの通話にももってこいだ。終話はダブルタップで行なう。

 そして、もう一つの大きな特徴が音声アシスタント「Siri」対応だ。AirPodsのダブルタップで、Siriの呼び出しが行なえ、例えば「音量を上げて」、「次の曲にスキップして」、「音楽を一時停止」、「お気に入りのプレイリストを再生して」といった操作ができる。Siriの認識もかなり良くなっており、選曲作業には結構使える。

 ただ、音楽コントロールは基本「ミュージック」(Apple Music)のみのようで、Spotifyなど他のサービスで使えないのが残念。iPhoneやMacなどApple製品やiOSに統合された使いやすさが特徴のイヤフォン、といえる。

 Siriでの操作は結構実用的だが、人が多いオフィスやカフェで、「音量を下げて」とかSiriでコマンドするのには勇気がいる。できれば、AirPodsのダブルタップでボリューム変更などが選べるようにしてほしかったが、ダブルタップの割り当てはSiriの起動のほか、再生/停止のみが選択できる。この選択は「設定」>「Bluetooth」のAirPods設定から変更できる。

ダブルタップの機能はSiriのほか、再生/停止に割り当て可能

 再生/停止操作はAirPodsを外すだけで対応可能なので、Siriを使ったほうがメリットは多いだろう。音楽や通話操作だけではなく、「自宅への道順は?」や「明日の天気は」といった対話にも対応する。天気など簡単な情報のやりとりは十分実用的で、結構使い道がある。地図などを確認する場合は、結局iPhoneのスクリーンを確認する必要はあるが、慣れると「ひと手間省ける」という感じで、Siriの利用頻度も上がってくる。間違いなく、AirPods利用後のほうがSiriの利用頻度は上がっている。

Siriで天気予報

 Appleは、「HomeKit」として、ネットワーク接続した家電のコントロールも提案しているが、音声でエアコンやテレビなどが操作できるようになれば、さらに使い道は広がりそうだ。もっとも、その領域にはAmazonのAlexaやGoogleアシスタントなど他のプラットフォームも狙いを定めている部分ではあるが。

完全ワイヤレスの魅力。Siriの進化/拡張に期待

 AirPodsの印象は、周囲の音をしっかり知覚しながら、音楽だけでなく通話も楽しめる、ケーブルの不満を一掃したヘッドセットというもの。音楽も通話もバランスよく対応でき、なおかつSiriによる音声操作というのは大きな特徴だが、音漏れや落下防止などの欠点を考えると、オールマイティなイヤフォンというわけではない。この辺りを重視する場合は、他の完全分離型イヤフォンも考慮に入れたほうがよいはずだ。

 また、Siriにより音声で様々な機能を使えるメリットは確かに多く感じる。CESでは、Amazonの音声エージェント「Alexa」対応のスマートスピーカーが多数登場し、同様に家電や自動車などにGoogleアシスタントの採用が始まっているように、エレクトロニクス機器は、明らかに音声操作と集中管理に向かっている。そういう意味では、AirPodsもSiri普及のための重要なピースといえるのかもしれない。であれば、Siri対応のスピーカーがほしいし、また、Siriの機能についても、Spotifyなど他社のサービス対応などを望みたい。

 AirPodsで一番魅力に感じるのは、“Bluetoothペアリング”をほとんど意識する必要がないという、設定の簡単さだ。この機能に対応した製品が増えてくると、ワイヤレスヘッドフォンにさらなる広がりができそうだ。同時に、少し迫力やオーディオ性能にこだわったAppleの完全分離型イヤフォンも見てみたい。Beatsを傘下に持つAppleだけに、今後に期待したい。

臼田勤哉