レビュー

AK新最上位「SP2000」をさっそく聴いてみた。SP1000からの進化とは!?

Astell&Kernブランドの新フラッグシッププレーヤー「A&ultima SP2000」が、国内披露された。注目は旭化成エレクトロニクスの最新DACであり、同社初の電流出力方式を採用した新最上位DAC「AK4499EQ」を、デュアルで搭載。さらに単体プレーヤーながら、ドライブ能力の高いアンプを搭載している事もポイントとなる。5日に開催された発表会の会場で、短時間ではあるが試聴してみた。

左から「A&ultima SP2000」Stainless Steel、Copper

SP2000の高音質ポイント

「A&ultima SP2000」の概要については、別途個別記事で紹介しているのでそちらを参照して欲しい。価格はオープンプライスで、直販価格は479,980円(税込)。発売時期は、Stainless Steelモデルが7月、Copperが8月の予定だ。

「A&ultima SP2000」Stainless Steel
「A&ultima SP2000」Copper

SP1000に代わる、新たな最上位モデルと位置づけられている。大きな特徴は、前述の通り新しい32bit 4ch DAC「AK4497EQ」を、L/R独立で1基ずつ、デュアルで搭載している事。高分解能な32bit処理に加え、ノイズ耐性の大幅な改善により、さらに繊細な音の表現を可能にしたという。

32bit 4ch DAC「AK4497EQ」を、L/R独立で1基ずつ、デュアルで搭載
内部基板の比較

また、電流出力方式を採用しているため、I/V変換回路なども新たに開発する必要があり、オペアンプとアナログアンプブロック構成を一から見直した新しい回路設計を導入している。

さらに、AKシリーズでは初めて、オーディオチャンネルをバランス出力とアンバランス出力で完全に分離しているのもポイント。出力の切替時にスイッチするのではなく、最初から完全に分離されており、「AK4497EQ」が4chアンプである事とも関係している。

AKシリーズでは初めて、オーディオチャンネルをバランス出力とアンバランス出力で完全に分離している

音楽データはPCMが768kHz/32bit、DSDは22.4MHzまでネイティブ再生が可能。MQA再生もサポートする。内蔵ストレージメモリーは512GBと大容量で、microSDをカードスロットも搭載。最大512GBまでのカードが利用でき、最大1,024GBまで拡張できる。

アンプも強化されており、アウトプットレベルはアンバランス3.0Vrms、バランス6.0Vrms (負荷無し)で、SP1000を超えるスペックとなっている。出力インピーダンスはバランス出力2.5mm(1Ω)/アンバランス出力3.5mm(1.5Ω)。

なお、イヤフォン出力は、3.5mmのアンバランスで光デジタル出力兼用端子を1系統、2.5mm 4極のバランス出力も1系統備えている。

SP1000とSP2000のスペック比較

SP1000とSP2000を聴き比べる

イヤフォン「AK T8iE MkII」や、平面駆動型のヘッドフォン、フォステクス「T40RP mk3n」を使って試聴した。

まずSP1000との比較。どちらもStainless Steelを使い、マイケル・ジャクソン/スリラーのDSDなど、同じ曲を使って聴き比べてみる。

左からSP2000、SP1000
左からSP2000、SP1000

SP1000は、ポータブルプレーヤーとしては非常に高音質なモデルで、これを超えるのは容易な事ではないが、SP2000に切り替えると、音質がさらに一段上がった事がハッキリとわかる。特に違うのが音場の広さと、そこに定位する音のSNの良さだ。SP2000の方が、空間の奥行きが深く感じ、その空間の中で、音がある場所と、無い場所の違いがハッキリとわかる。音自体の情報量が多くなるというのもあるが、音の無い場所の静けさがより静かになっている事もあり、その結果として、音楽がよりリアルに、細かく聴き取れる印象だ。

ワイドレンジで色付けは少なく、ニュートラルな音の傾向はSP1000と大きな違いはない。ただ、Stainless Steelで聴き比べると、SP1000はソリッドで響きがクール、切り込むような鋭さのあるサウンドなのに対し、SP2000の方はそこまでキレキレではなく、少しおだやかで質感豊かな描写になっていると感じる。

情報量だけでなく、アンプの駆動力も上がっているのがわかる。中低域の音圧、低域の沈み込みの深さも、SP2000の方が一枚上手だ。

なお、鳴らしにくいヘッドフォンの「T40RP mk3n」を接続した場合、SP1000はボリューム最大値の150で、ちょうど十分な音量が得られ、低域と高域のバランスも良好になる。SP2000では、135あたりで十分な音量で、低域は明らかにSP1000よりもパワフルに出る。最大値の150では、聴いていられない事もないが、ちょっと音が出すぎて長時間聴くのはツライ……という音量だ。

SP2000のStainless SteelとCopperを比較

ここで、SP2000のStainless SteelとCopperを聴き比べてみた。筐体の素材の違いだけだが、やはり音は違う。Copperの方が、ホッとさせるウォームな響きで、女性ボーカルやアコースティックな楽曲とマッチする。Stainless Steelの方は鋭さがあるので、打ち込み系の楽曲などと親和性が高そうだ。

ただ、両者の“違いの幅”は少ない。というのも、SP1000のStainless SteelとCopperを聴き比べると、その違いはかなり大きく、どんな曲でも明瞭にキャラクターの違いがわかる。それに対してSP2000は、確かに素材で音は変わるが、ほんとうに“最後の隠し味レベル”の違いに収まっている。

「SP1000 + ジャケット型アンプSP1000 AMP」VS「SP2000」

同日にはSP1000専用の周辺機器として、背面に取り付けるジャケット型のヘッドフォンアンプ「SP1000 AMP」も発表された。7月発売予定で、価格はオープンプライス、直販価格は109,980円(税込)だ。詳細は個別記事を参照のこと。

SP1000ユーザーにとっては、このSP1000 AMPを装着した際の音質向上と、その向上した音と、SP2000の比較も気になるところ。その比較も試してみた。

ジャケット型のヘッドフォンアンプ「SP1000 AMP」
SP1000と接続するところ
SP1000の底部にはアンプ接続用の端子が備えられている。SP2000には無い

まず、素のSP1000(Stainless Steel)と、SP1000+SP1000 AMPをドッキングしたサウンドを聴き比べてみる。違いは圧倒的で、中低域の量感、低域のキレがSP1000 AMPをプラスすると格段にアップ。メリハリのある、躍動的なサウンドになって面白い。

それではSP2000を越えられるかというと、この違いも非常に興味深い。低域のパワフルさ、音圧の強さでは、SP2000よりもSP1000+SP1000 AMPの方がハイレベルだ。一方で、細かな音の情報量や、描写の繊細さ、空間表現ではSP2000の方が勝っていると感じる。

左からSP2000、SP1000+SP1000 AMP

鳴らしにくいヘッドフォンを使っているとか、パワフルさ、エネルギッシュさを求める人には、SP1000+SP1000 AMPがマッチしそうだ。一方で、情報量の多さ、空間の広さ、音の純度などを求める人には、SP2000がオススメと感じた。

なお、SP2000にはジャケット型アンプを取り付けるための接続端子は搭載されておらず、SP1000 AMPを取り付ける事はできない。

「パワーがありながら、音質的にも最高のもの」

発表会では、旭化成エレクトロニクスで「AK4499EQ」を手がけたオーディオマイスターの佐藤友則氏も登壇。佐藤氏は、電流出力方式に最適化したローディストーションテクノロジーにより低歪-124dBを達成した事や、DR・SN比についてもモノラルモード時140dBを実現している事などを紹介。

音の傾向としては、「今までの旭化成と変わっており、スイッチドキャパシタの繊細さよりも、あたたか味のある低音感といった部分では、だいぶ違った聴こえ方になっていると思う」と説明。

オーディオマイスターの佐藤友則氏
旭化成の新DACを積極的に採用してきたAKシリーズ

AKシリーズの営業を担当している、iriverのソニア氏は、「最初に旭化成エレクトロニクスさんのDACを使った時に、結果がとても良かったため、また、最新のDACを製品に使おうと、以前から考えていた。SP2000は、昨年6月頃に本格的にAK4499EQを使おうという計画がスタート、9月に開発用ボードを頂き、それでテストした結果、“これで決まりだ”という話になった」という。

iriverのソニア氏

初の電流出力型DACという点については、「I/V変換回路の開発などが難しかった。ただ、(既発表の)KANN CUBEで、違うメーカーの電流出力型DACを使っていたため、そのノウハウをSP2000に投入できた」と説明。発熱や消費電力のコントロールなどにも注意したという。

音の傾向については、「SP2000はパワーがありながら、音質的にも最高のものになったと自負している。空間、音場、リアリティ、ハイレゾの情報量にフォーカスし、音作りも行なった」と説明。

SP2000に、外部アンプ接続用端子が無い事については、「SP2000は外部アンプ無しでも十分な出力が得られるため、スタンドアローンで十分だと考えた。SP1000 AMPの開発当初は、SP2000とSP1000の両方で使えるようにしようと思っていたが、SP2000の出力が十分高いため、SP1000専用アンプになった」という。

ソニア氏は新製品について、「SP1000やAK380、AK240ユーザーの皆さんに、1つの選択肢になると思う。SP1000 AMPも非常に面白い製品なので、ぜひ、試聴していただきたい。その上で、好みで選んで欲しいと思います。個人的にはその上で、SP2000が選ばれるようにと期待しています(笑)」。

山崎健太郎