レビュー

明るくなった有機ELか、ミニLEDの液晶か、今年TV選び“4つのポイント”

コロナ禍を端緒とする電子部品の供給不足や流通システムの停滞などが原因で、発表が遅れたソニーの高級大画面テレビの新製品を7月中旬やっとチェックできた。また、画質面の追い込みが遅れていて、最終製品の仕上がりが精査できていなかったTVS REGZAの有機ELテレビも、ほぼ時を同じくしてじっくり見ることが可能に。

そんなわけで、ここではこの夏の主要メーカー5社のトップエンド大画面テレビを全部テストしてわかったことを総括し、それぞれの詳細をお伝えしたいと思う。

トレンドは4点に集約

今シーズンの高級大画面テレビのトレンドは「色合いの豊かさの追求」と「有機ELの輝度向上」「液晶のコントラスト向上」それに「高音質化」の4点に集約できる。

「色合いの豊かさの追求」は、波長変換素子の量子ドット(Quantum Dot=QD)を用いて色変換を行ない、色純度の向上を図ることを指す。有機ELではソニーが、液晶ではソニー、シャープ、REGZAが採用した。

有機ELの「輝度向上」は、放熱効果に優れたパネル組立工法を独自に採ることによって、高電流を振り込むことで実現した。パナソニックが先行し、今シーズンでほぼすべてのメーカーが追随することに。

液晶の「コントラスト向上」は、バックライトに従来よりもはるかに小さい(約10分の1)ミニLEDを多数敷きつめ、それをきめ細かく、従来比10倍以上となる1,000以上の微小エリアを形成し、部分駆動することによって実現した。LGが先行し、今シーズンはシャープ、ソニー、REGZAが採用に至っている。

「高音質化」については、Dolby Atmos対応などテレビ内蔵スピーカーで3次元立体音響を実現するのが大きなトレンドだ。またソニーに続いてREGZAがアクチュエーターによる「画面叩き」を採用して“画音一致”に取り組んだことが特筆できよう。

それでは、各社それぞれの主力製品の紹介とそのパフォーマンスに対するインプレッションを記そう。

パナソニック:有機EL「LZ2000/LZ1800」

まずパナソニックから。じっくりチェックしたのは、有機ELの「LZ2000/LZ1800」シリーズだ。

LZ2000

ぼくが感心したのは、昨年のJZシリーズで初採用された映像モード「オートAI」画質の進化。同社独自開発の「シーン認識アルゴリズム」を基本とし、JZシリーズではコンテンツへの対応と部屋の明るさ連動を実現していたが、今年のLZシリーズでは照明の色温度まで計測し、最適画質を導き出すように進化させている。

オートAIの動作イメージ

映像モードの存在を知らないユーザーがほとんど、ソースや照明の状態によってそれを切り替えようなどと言ってもチンプンカンプン。そんな現状を鑑みれば、「オートAI」的「おまかせ」映像モードの搭載は必須と筆者は考える。それゆえパナソニックの取り組みを高く評価したい。

実際に150ルクスくらいのリビングルーム照明下で、55LZ1800と55LZ2000の「オートAI」モード画質をBS4Kのスポーツ番組などで精査してみたが、実にすっきりとした高精細映像とHLG(ハイブリッド・ログ・ガンマ)コンテンツらしい明快なコントラストが実現されていて、大いに感心させられた。ホワイトバランスもまったく違和感はなく、色合いもナチュラル。照明の色温度計測まで行なった「オートAI」画質のメリットがよくわかった。

LZ1800シリーズの55型「TH-55LZ1800」

LZ1800とLZ2000を見比べると、放熱効果がより高い組立工法を採った後者のほうが、やはりコントラスト感が際立つ。ハイライトの輝きが増し、映像により力感が加わるのである。さすが同社有機ELテレビのフラッグシップ機との思いを抱いた。

LZ2000のパネル構造。第3世代(LZ2000)の進化ポイントは高輝度有機ELパネルの採用。なお、第1世代(GZ2000/HZ2000)では、特別素材の貼付けシート・放熱プレートを採用することで放熱性能を改善。第2世代(JZ2000)では、バックカバーと放熱プレートを一体化し、さらに新素材の貼付け構造で組み立てることで放熱性能を最大化していた

部屋を完全に暗くして、映像モードを「シネマプロ」に設定してUHD Blu-rayの映画ソフトをいくつか観てみたが、LZ1800、LZ2000ともに歴代最高と思える精細度の高いS/N画質を訴求する。

UHD BD「DUNE 砂の惑星」の、APL(平均輝度レベル)の低いグレーの大面積をバックに黒い衣裳をまとった女性が登場する場面は、ほとんどの液晶テレビでは見るに耐えない画質となるが、LZ1800、LZ2000ともに暗部階調を精妙に描きながら、黒を艶やかに表示する安定した映像を見せた。この「シネマプロ」画質は、全テレビ中ナンバーワンかもしれない。

また興味深いことに、輝度を抑えた「シネマプロ」においては、LZ1800とLZ2000の画質にほとんど違いはない。そう考えると、AVファン、映画マニアにとってLZ2000に比べて値段の安いLZ1800は、たいへんなお買い得モデルということになる。

音声については、両モデルともにDolby Atmosデコーダーと画面上部にイネーブルドスピーカーを搭載し、内蔵スピーカーだけで水平垂直両方向の音の広がりを得ようと頑張っている。まず実際にAtmosコンテンツを再生してLZ1800の音を聴いてみたが、効果音が見事に3次元立体定位し、少なからず驚かされた。

LZ2000の音質面のこだわりはLZ1800以上だ。画面下にドライバーを複数個並べてラインアレイを構成する他、画面上部のイネーブルドスピーカーに両サイドにワイドスピーカーを加えた本格仕様。Atmos収録映画ソフトを観ても、たしかにその音数はLZ1800以上に多く、緻密な3次元音場が体験できた。

前面のラインアレイスピーカー

テレビ内蔵スピーカーだけで、この立体的なサラウンドサウンドを実現していることに少なからず驚かされたわけだが、残念なのが声の質感表現。LZ1800/LZ2000ともに女声が痩せて、かさついてしまうのである。もっと潤いと艶っぽさが欲しい。

声を美しく生々しく聴かせることが、テレビの音にとってもっとも重要なポイントだと筆者は思うが、簡単なようでいて、これを実現するにはコストがかかってたいへん難しいようである。

以上述べたようにLZ1800/LZ2000の画質はとてもすばらしいが、パナソニックは液晶テレビにはあまり力が入っていない。トップエンドのLX950シリーズの55型を観たが、BS4K番組などの「オートAI」の出来はとてもよいものの、IPSパネル採用機だけにコントラスト表現に不満が残る。どうしても黒が浮いてしまうのだ。

高画質を求める方は、有機ELのLZ1800/LZ2000を買ってくださいというのがパナソニックのスタンスなのだろう。

4K有機EL“完成形”を目指した旗艦ビエラ。前面にラインアレイスピーカー

パナソニック、イネーブルドSP搭載のミドル4K有機EL「LZ1800」

シャープ:8K液晶「8T-C65DX1」、4K液晶「4T-C55DP1」

8K液晶の65型「8T-C65DX1」

シャープに移ろう。ぼくが画質をチェックして同社製テレビでいちばん感心したのは、8K液晶の65型「8T-C65DX1」と4K液晶の55型「4T-C55DP1」だった。ミニLEDバックライトと量子ドット技術を組み合わせた高級機で、同社はこの組合せをXLED(エックスレッド)と呼んでいる。

従来のLEDとミニLEDの比較

これまで液晶テレビの最大の弱点だったコントラスト表現が、ミニLEDバックライトのきめ細かな部分駆動によって大きく改善されているのと同時に、量子ドットを用いた波長変換によって高純度な3原色が生まれ、これまで見たことのないような深い赤や緑にハッとさせられるのである。

普通の液晶テレビを隣に並べてみると、その違いは歴然。映像がとてもヴィヴィッドで艶やか、ワクワクするような躍動感に満ちているのだ。比較すると、旧来の液晶テレビは色がくすんで生気がないように感じられてしまう。

自発光の有機ELに比べても発色の豊かさは負けていないが、液晶の動画応答の問題なのか、映像が動くと(それが微小な動きでも)、少しボケるのが気になるといえば気になる。しかしそれは、視距離を2H(画面高)以下としたときに顕著に感じられる現象で、通常のリビングルームでの視距離ならさほど問題にならないだろう。

それから、8KのDX1のデザインは他社製品を圧倒する美しさ。約0.2mmという狭額縁で、後方にわずかにスラントさせたその意匠の完成度は高い。いっぽう、8Kは関心がないという方には、55型の「4T-C55DP1」がお勧めだ。65型よりも緻密な画質で、映像のボケもあまり気にならない。

もう一つ特筆したいのは、パナソニック同様DX1、DP1ともに内蔵サウンド・システムにたいへん力が入っていること。「アラウンド・スピーカー・システム・プラス(ARSS+)」と命名され、トップスピーカーを加えて画面全体をスピーカーとサブウーファーで取り囲む構成を採っている。

音響システム「ARSS+」を搭載

実際に音を聴いてみると、十分な音の広がりと音圧を感じさせ、その仕上がりに感心させられた。しかし厳しい耳で聴くと、やはり声の質感表現に不満が残る。ドライバーユニットの非力さゆえか、キャビネットの剛性不足か、女声アナウンサーの声がかさつき、色艶に欠けるのである。パナソニック機同様、声の質感向上という本質的な問題を解決するには、今以上のコストがかかるということなのだろう。

シャープの4K有機ELテレビのラインナップもとても充実している。供給元のLGディスプレイが「evo」と呼ぶ最新の高輝度有機ELパネルを採用し、同社独自の放熱構造を採ったES1シリーズとサイズバリエーションが豊富な弟シリーズのEQ1/EQ2で構成される。

とくに面白いのが、42型の「4T-C42EQ2」。42型の小さな4Kテレビに存在価値があるのか、そのサイズならフルHD(2K)でいいのでは? とお考えになる方もおられるかもしれないが、本機の映像をごらんになれば、誰もがその魅力のトリコになるはず。自発光ならではのヴィヴィッドな質感に42型ならではの画素がぎゅっと詰まった凝縮感が加わり、有機ELの新たな魅力を発見した気分になる。

42型「4T-C42EQ2」

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LG:有機ELの「55C2PJA」、「65G2PJA」

LG(LGエレクトロニクス)は、有機ELの55型C2「55C2PJA」と65型G2「65G2PJA」をチェックした。

「OLED evo」パネルを採用した「C2」
65型G2「65G2PJA」

同じグループ企業のLGディスプレイが開発した、最新有機ELパネルをいち早く入手できるのが同社の強み。C2は新発光構造の「evo」に進化、G2はさらに高輝度化を果たした「evoEX」仕様が採用されている。また両シリーズには同社が「α9 Gen5」と呼ぶ最新の映像処理エンジンが搭載され、AI技術を大胆に導入して、ノイズ除去と高精細化に注力したという。

第5世代プロセッサー「α9 Gen5 AI Processor 4K」

65型のG2は、ピーク輝度の伸びに加えて画面全体が明るく力強さがみなぎっている。従来機で気になっていた明部の色ヌケがきわめて少ないのと同時に、階調表現がきわめてスムーズ。暗部階調の描写がきびしく問われる難しいUHD BDの映画コンテンツなども、じつに見通しがよく、そのSN比の良さも信じられないほどだ。

フルHDの4Kアップコンバート画質も格段によくなった。以前気になった絵の甘さが払拭されているのである。

55型のC2も同様に好印象を抱いた。高輝度パネルの使いこなしが進化したせいか、階調推移に不自然さがない。また、G2、C2ともにホワイトバランスの設定が絶妙。SN比の良さも相まって、女優さんの肌が驚くほど艶っぽくて美しい。このへんの追い込みは、ジャパンラボの熟練エンジニアの「画質を追い込む目」が大きく寄与しているのだろう。

この2モデル、画質はきわめてハイレベルだが、他社製品と比べると、音にはあまり力が入っていない。画面下部から放射される下向きスピーカーの音は痩せて中域が薄く、声が聞きづらい。

ぼくなら光デジタル音声出力、またはHDMI出力を用いてその入力に対応するオーディオアンプとつないで、外部スピーカーを鳴らしたい。

LGにぜひチャレンジしてほしいのは、以前REGZAが試みたように、ステレオアンプを別途内蔵して、外部スピーカーを駆動できるようにすること。コレがいちばん手っとり早い高音質アプローチだと思うのだが……。

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REGZA:4K有機EL「55X9900L」

7月中旬に見せてもらったTVS REGZAの有機ELテレビの旗艦モデル、55型の「55X9900L」は文句なくすばらしかった。

55型(左)「55X9900L」と65型のX9900Lシリーズ

X9900Lシリーズの注目ポイントは大きく二つある。一つは従来比約4倍の処理能力を誇る画像処理エンジン「ZRα」の採用による高画質化、もう一つはREGZA初となるアクチュエーターで画面を叩く「スクリーンスピーカー」の採用である。

採用された有機ELパネルはLGディスプレイから供給された新世代タイプ。それにREGZA独自開発の高冷却インナープレートを組み合わせて大電流を振り込めるようにし、従来比約2割アップの高輝度を実現したという。

AI技術をふんだんに盛り込んだ「ZRα」エンジンの威力を強く実感できるのは、水平解像度がフルHD(1,920画素)に満たない1,440画素の地デジや多くのBS放送、そして高圧縮低レートのネット動画だ。

画像処理エンジン「ZRα」

実際に画質モード「おまかせAI」で、地デジやネット動画を見てみたが、その成果は歴然。とくに複数回の超解像処理と3次元NR処理を施す「地デジAIビューティZRα」の効果は見事だった。テロップ周辺のモスキートノイズや大面積の平坦部に乗るカラーノイズがすっと消える効果によって、画面全体の見通しが俄然よくなるし、超解像処理の巧さによって、精細感がぐんと上がって見えるのである。

REGZAの歴代モデルの放送波、とくに地デジ画質の良さは他社製品を圧倒していたが、ここにきていっそうの飛躍を遂げていることがよくわかった。

もっとも“テレビ番組はほぼ観ない”、“ネット動画がメイン”という若年層が増えている現実もある。そこでX9900Lシリーズにおいては高圧縮のネット動画でもっとも気になるバンディングノイズ(階調段差)を目立たなくする「ネット動画AIビューティZRα」回路が投入されている。

実際に圧縮率の高いYouTubeの映像をネット動画AIビューティZRαをオンにして観てみたが、なるほどYouTubeのほとんどのコンテンツで気になるバンディングノイズが目立たなくなる劇的な効果が実感できた。

ネット動画AIビューティZRα

それからもう一つ感心したのが「美肌AIフェイストーンZRα」の効能。コレが入ることで肌色のグリーン被りや黄味の強調が雲散霧消、じつにすっきりとした美しいフェイストーンが甦るのである。

まあいずれにしても、「おまかせAI」モードで観るX9900Lの放送番組&ネット動画画質は、ナンバーワンであることは間違いない。まずここにかけがえのないREGZAの魅力があると言っていいだろう。

美肌AIフェイストーン:オン時
美肌AIフェイストーン:オフ時

「映画プロ」モードに切り替えてUHD BDを何枚か観てみた。UHD BDの映画ソフトは放送番組などに比べると断然SN比がよいので、3次元処理をジャンプする「ピュアダイレクト」オンで観ることをお勧めする。

こうすると内部演算はフル12bit/4:4:4処理となり、階調表現をはじめとしてオーバーオールの画質向上が期待できる。

「最後の決闘裁判」で感心したのが、高SN比に裏打ちされた映像の品格の高さだった。まるでフェルメールの絵画が動き出したかのような美しい映像が続くが、馬小屋の中でヒロインが逆光で捉えられたシーンの階調情報の豊かさは信じられないほど。これはフル12bit/4:4:4処理となる「ピュアダイレクト」オンの効能も大きいと思われる。

また、様々なUHD BDを観て感心させられたのが、その音質。本機は先述したように画面中央にアクチュエーター1個を配置して300Hz以上を受け持たせ、画面下部に2ウェイ・バスレフボックスのL/Rスピーカーが、画面両サイドとトップ2カ所にツイーターが、背面に200Hz以下を鳴らすサブウーファーが配置される本格仕様だ。

アクチュエーターによる「スクリーンスピーカー」で声の主要帯域をカバーしているためだろう、画面に映し出されている人物がしゃべっている、歌っているというリアルな実感が得られるのだ。

筆者はAV再生でもっとも重要なポイントは、映像と音像位置の一致だと信じるが、それを大画面テレビで実現するには、スクリーンスピーカーによる「画面叩き」か、テレビ両サイドに単体スピーカーを置いてセンターチャンネル成分をファントム定位させるしかない。

また、緻密にスピーカーシステムを組み上げた本機のサウンドそのものがきわめて良質なことにも驚かされた。アクチュエーターでガラスパネルを叩くと、共振による雑音が乗ってクセっぽい音になるのでは? と予想してしまうが、そんな違和感はまったくない。加えて全帯域の音のつながりがきわめて良いのである。

リニアPCM2.0chを選んで再生したUHD BD「ザ・レイディ・イン・ザ・バルコニー/エリック・クラプトン」がとてもすばらしかった。ギターを弾きながら歌うクラプトンのヴォーカルがピタリと画面上に定位し、まるで眼前でほんとうに歌っているかのようなイリュージョンを引き起こす。

ベースには適度な量感があり、ギターのアタックの表現も精妙。ドラマーのスネアのブラッシュ・ワークも生々しい。ほとんどのテレビ内蔵スピーカーではガサコソしたノイズにしか聞こえないブラッシュ・ワークが、本機はちゃんとブラシでスネアをこすっているリアリティが感じられるのである。間違いなく本機の音は今日のテレビ内蔵スピーカーの中で最上クラスだと思う。

REGZAは液晶テレビもきわめて充実したラインナップを誇っている。ミニLEDと量子ドット技術を投入した75型・65型の「Z875L」、55型「55Z870L」のほか、従来サイズ、数のLEDの直下型でIPS系パネルを採用した「Z770L/Z670L」がラインナップされている(前者は「タイムマシン」機能あり、後者はなし)。

まだ店頭モードの「あざやか」画質しか仕上がっていないということだったが、見せてもらった55Z770Lの色のインパクトは衝撃的だった。カラフルなステージを収録した昨年の「NHK 紅白歌合戦」の4K放送エアチェックを観たが、発色の良さ、色合いの豊かさは予想以上。店頭効果も抜群なはずで、大きな話題になること間違いなしだろう。

55型「55Z770L」

レグザ、次世代エンジンZRαの最高峰4K有機EL「X9900L」

レグザ初、ミニLED×量子ドット搭載のフラッグシップ4K液晶

レグザ、広色域量子ドット×全録のミドル4K液晶「Z770L」

ソニー:65型の有機EL「XRJ-65A95K」、液晶「XRJ-65X95K」

65型「XRJ-65A95K」

最後はソニー、65型の有機ELテレビXRJ-65A95Kと液晶テレビXRJ-65X95Kをチェックした。A95Kは、サムスンディスプレイが開発した「QD-OLED」と呼ばれる量子ドット技術を投入してRGB 3原色の色純度を向上させた有機ELパネルを国内メーカーで初めて採用したモデル。今シーズン、他社の追随はなかった。

200ルクス程度のリビングルーム照明下、映像モード「スタンダード」でBS4Kの番組をいくつか見てみたが、やはり色の訴求力は抜群。女性アナウンサーの肌色もほんのりピンクがかって美しい。このスキントーンはソニー伝統の美しさ、なのだが。また、コントラスト性能のよさもあり、HDR(HLG)コンテンツの安定感のある描写にも感心させられた。

また、部屋の照明を落とし、「カスタム」「シネマ」の両映像モードで観たUHD BD「ウェストサイド・ストーリー」がすばらしかった。

ぼくはこの映画を色純度の高いデュアルRGBレーザープロジェクターを用いた東京・池袋のIMAXシアターで観賞したが、各社の有機ELテレビの中で、この映画館の色再現にもっとも近いのは本機だと思う。

プエルトリコ系移民の女性たちがニューヨークの街角で歌い踊る場面を観たが、原色を大胆に取り込んだ彼女たちのカラフルな衣裳や健康的なスキントーンなど、IMAXシアターさながらの美しさ。補正の少ない「カスタム」や「シネマ」でも、色純度が高く色合い豊富なQD-OLEDパネルならではの魅力を生々しく実感できた。

また、本機はアクチュエーターを用いて画面を叩いて発音させる「Acoustic Surface Audio+」が引き続き採用されている。6世代目になるそうだ。ステレオ用に2基配置されたアクチュエーターは、昨年モデルに採用されたものに対してインナーボイスコイルの直径を拡大させたということで、中低域の表現力が高まり、サブウーファーとのつながりがいっそうよくなったように感じる。

今シーズンはREGZAが追随したが、オーディオビジュアル再生において、映像と音像の一致こそが何より重要と考える筆者は、Acoustic Surface Audio+技術の進化がとてもうれしい。映し出された人物がほんとうにしゃべっている、歌っているという確かなリアリティを得ることこそ、すべてに優先されるべきオーディオビジュアルの必須条件なのである。

65型「XRJ-65X95K」

ミニLEDと量子ドット技術両方を採用した液晶テレビXRJ-65X95Kも実に魅力的な製品だ。明部(ハイライト)の色合いの豊かさや液晶テレビの常識を打ち破るコントラストの高さ、黒の黒らしさと暗部の粘り強い階調描写に感心させられたが、2H(画面高の2倍)くらいまで近づくと、シャープ機同様動きボケが少し気になる。

2021年発売の直下型LEDバックライトモデル「X95J」(左)と、ミニLEDバックライトモデルの「X95K」(右)の比較。X95Jはハローが盛大に出ていることが分かる

液晶テレビが自発光タイプに追いつくためには、この動きボケ改善こそが最後に残された課題だろう。

ソニー初、QD-OLEDパネル採用の最上位4K有機EL「A95K」

ソニー、ミニLED初採用のフラッグシップ4K液晶「X95K」

総括

国内市場の主要テレビメーカー5社のこの夏の旗艦モデルを見て歩いて気づいたポイントを様々にお伝えしたが、いかがだっただろうか。有機ELテレビについては、各社ともに画質追求の勘どころを手中に収めたのは間違いなく、昨年モデルに比べて著しい画質向上が認められ、「いま買い時の有機EL」との思いを強くした。

その中で画質・音質の完成度でアタマ一つ抜け出たのは、東芝X9900Lだろうか。おまかせAI画質の見事さには感服だし、様々な画質調整をしたいときには、懐深く対応してくれるのもうれしい。アクチュエーターを用いた画面叩きによる画音一致アプローチも初めての試みだが、システム・チューニングの巧さに感心させられた。

照度環境対応まで踏み込んだ「おまかせ」画質については、シャープ、LG、ソニーもぜひチャレンジしてほしい。ユーザーベネフィットが高いのは間違いないし、この「おまかせ」映像モードこそ、メーカーの画質思想と知見、実力があらわになるわけで、評論家としてもとても興味深いのである。

パナソニックLZ2000/LZ1800の「シネマプロ」の精細度のSN比の高さは驚異的。とくにLZ1800はお買い得と思う。

シャープは43型の4T-C42EQ2が魅力的。小さいサイズの有機ELテレビが欲しいという方はぜひ。

LGのG2/C2も確かな実力機。コントラストの良さと階調表現の巧さに唸らされた。音質面はあまり力が入っていないが、良質なオーディオ・システムと組み合わせれば何も問題はない。

ソニーA95Kは、色再現の見事さが突出している。Acoustic Surface Audio+の進化もうれしい。

液晶タイプでいちばん感心させられたのは、シャープの8KテレビDX1だ。8K放送の高精細映像をナチュラルに見せる画質設計が好ましいし、フルHD(2K)や4Kコンテンツのアップコンバート画質も見事だ。また、デザインの美しさも突出している。

テレビの使用年数を約10年と考えると「安物買いの銭失い」だけは避けたいところ。この記事を参考に、ぜひご自身にピッタリ合った長く使って満足できる製品を見つけていただきたい。

山本 浩司

1958年生れ。月刊HiVi、季刊ホームシアター(ともにステレオサウンド刊)編集長を務めた後、2006年からフリーランスに。70年代ロックとブラックミュージックが大好物。最近ハマっているのは歌舞伎観劇。