レビュー

ブラビアがカメラで賢くなる!? ソニー「BRAVIA CAM」を試した

カメラ・マイクユニット「BRAVIA CAM」(型名:CMU-BC1)

ソニーの薄型テレビ・ブラビアに組み合わせる専用アクセサリーとして、今年8月に発売開始した「BRAVIA CAM」(ブラビアカム)。先日、ブラビアのソフトウェアがアップデートされ、BRAVIA CAMを使った一部機能が利用できるようになった。

スマホやタブレット、ノートパソコンなどでは、内側設置の“インカメラ”が当たり前になりつつあるが、テレビでの展開例はまだ少ない。テレビにカメラを組み合わせることで、どのような機能が楽しめるのか。ソニーのプレスルームで、BRAVIA CAMを実際に体験してみた。

プレスルームに展示されていた「KJ-55A1」(写真左)と「XRJ-65A95K」。輝度や赤の発色が大きく異なる

ソニーがテレビ用に作ったカメラ“BRAVIA CAM”とは

今回取材したBRAVIA CAMは、その名の通り、ソニーがブラビア用に開発した“外付け”のカメラ・マイクユニット。正式な型名は「CMU-BC1」で、直販のソニーストアでは24,200円で販売されている(9月中旬現在)。

内蔵しているCMOSセンサーの解像度は2,560×1,920ドット。Google Duoとして動作するビデオチャットなどのビジュアルコミュニケーション時は最大1,920×1,080ドット、そしてユーザーの視聴位置を把握するセンシング時は2,560×1,920ドットで出力している。フレームレートは30fpsで、2基のマイクも内蔵している。

前面
背面
取り付けた状態のイメージ

ソニー、人の位置を把握して視聴環境を最適化する「BRAVIA CAM」

BRAVIA CAMが利用できるのは、型名に“K”が割り当てられている2022年発売のブラビア。具体的には、4K有機ELテレビの「A95K」「A80K」「A90K」シリーズ、そして4K液晶テレビの「X95K」「X90K」「X85K」「X80K」シリーズだ。シリーズで唯一BRAVIA CAMを同梱する「A95K」シリーズ以外は、BRAVIA CAMを別途購入する必要がある。

注意したいのは、シリーズによってできる機能・できない機能があること。後述する「画音質調整機能」は、認知特性プロセッサー「XR」搭載機でしか動作しない。また、2021年発売ブラビアにおけるBRAVIA CAMの利用に関しても、Google DuoによるUSBカメラとしてしか機能しないようになっている。

QD-OLED搭載の4K有機ELブラビア「A95K」シリーズのみ、BRAVIA CAMを同梱する

スタンドを含めたユニット全体のサイズは約82×43×86mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は約217g。使用する際は、ユニット前側のフックと後側のスタンドを、対応テレビの中央上部に挟むように載せて設置する。あとはユニット直出しのUSBケーブル(Type-A)を、ブラビア背面のUSB端子に挿し込むだけ。USBから電源が供給されるので、別途電源用の配線は接続しなくていい。

カメラ同梱のA95Kの場合は、専用の着脱ソケットに挿し込む仕様。USBケーブルも使わず、ワンタッチで設置・接続できる。ユニット天面には、カメラレンズを物理的にマスクできるカバーを内蔵しており、プライバシー面も考慮されている。

対応テレビの中央上部に、前側のフックと後側のスタンドを挟むように載せて設置する
これは「A95K」シリーズの同梱カメラユニット。専用の着脱型になっている
天面のレンズカバーを閉じると、“カメラ機能は使えない”との案内が数秒表示される

平たく言えば、BRAVIA CAMそのものはシンプルな“USBカメラ”だ。しかし、本機を対応ブラビアと接続することで、他社のテレビや一般的なUSBカメラにはない機能が利用できるようになっている。

では、実際にどのような機能ができるのか。ブラビア×BRAVIA CAM連携で用意されている以下の主要4機能を順に試してみた。

  • 画音質調整機能
  • ジェスチャーコントロール
  • 近すぎアラート
  • 自動省電力モード

なお、これら機能は[設定]→[リモコンとアクセサリ]→[BRAVIA CAM]から設定できる。また画音質調整は[設定]→[画面と音声]→[画質]→[カメラによる画音質調整]からでも設定することが可能だ。

BRAVIA CAMでできる機能

画音質調整機能:視聴位置に合わせて画と音を最適化

画音質調整は、BRAVIA CAMが認識したユーザーの位置に応じて、映像と音声を自動でコントロールする機能だ。

これまで画音質調整は、コンテンツのジャンル情報や形式、信号の解析、外光の照度や色温度などの情報を基に自動で調整を施すモデルがほとんどだったが、BRAVIA CAMを使ったこの調整は、見ている人間の位置を検知して、それを画音の調整に生かしているのが新しいところ。

具体的には、ブラビアが調整するのは「映像の明るさ」と「ボイス成分の強調」、そして「音のバランス」の3項目。

例えば、ブラビアに対してユーザーの視聴位置が近いと判断した場合はブラビアの輝度が下がり、逆に遠いと判断した場合は輝度が上がる。ボイス強調も、視聴位置が近いと強調は弱め、遠ければ強調が強めになる。

音のバランスは、視聴者がいる方向に応じて――仮に4名が右側に固まって視聴していた場合は、音のバランスを右側にシフトさせるようになっている。この3項目は同時に動作させる事もできるし、どれか1項目であったり、すべてをオミットさせる事も可能だ。

画音質調整のメニュー。左上に見える緑色の●が、BRAVIA CAMが検知している人の位置
ソニー「BRAVIA CAM」装着時の[カメラによる画音質調整]メニュー

視聴位置を左右前後に移動すると、上記動画のようにパラメータは動くものの、実際の表示映像はパラメータの動きのような急激な変化は感じない。どちらかといえば、認識・動作がわからない程に穏やかな加減だった。

テレビ楽しんでいる時は姿勢を変えたり顔の位置がズレることもあるし、カメラのセンシングエリア内に別の認識物が飛び込んでくることもあるわけで、その都度画音がポンポンと変わってしまっても違和感を感じるだろう。投入第一弾ということもあって、ここはあえて穏やかな加減にしているのかもしれない。

ジェスチャーコントロール:片手でチャンネル/音量切り替え、電源オフも

独自機能のもう1つの目玉が「ジェスチャーコントロール」だ。片手の動きをカメラが検知。それに応じて、ブラビアにチャンネル切り替えや音量上げ下げ、早送り・早戻し、スキップ、電源オフなどの操作を指示できる。

以下の動画は、ジェスチャーコントロールで音量の上げ下げや電源オフなどの動作を実演してもらったものだ。

BRAVIA CAMを使ったジェスターコントロール:音量操作
BRAVIA CAMを使ったジェスターコントロール:電源オフ
BRAVIA CAMを使ったジェスターコントロール:早送り・早戻し

BRAVIA CAMを設置したブラビアの前で片手を挙げると、BRAVIA CAMがその“サイン”を認識。画面中央に操作メニューが現れる。ユーザーはその状態で、手を上下左右に動かすと、任意の操作が行なえる。また、手のひらを見せた状態と、人差し指を立てた状態とでは、操作の内容を変える事ができる。

ジェスチャー操作一覧

認識から実際の動作まで、多少もっさりした感があるのは否めないものの、片手がふさがっていて、すぐ手元にリモコンが確保できない場合などは、ジェスチャーコントロールが活用できそうだ。

近すぎアラートと自動省電力モード

子供が不用意にテレビ画面に近づき、光の明滅などを避けられるように搭載したのが「近すぎアラート」。

以下の動画のように、ユーザーとブラビアが設定距離よりも近いとカメラが判断した際は、画面上にアラートを表示。離れて見るよう促すアナウンスを流すものだ。距離が離れたと認識するまで、アラートとアナウンスは繰り返される。

「BRAVIA CAM」の近すぎアラート

近すぎアラート機能を動作させるには、警告を出す距離を予め設定する必要がある(初期値は1m)。距離は、BRAVIA CAMを使った測定もしくは任意での設定が可能。

近年のコンテンツは、過度な明滅などほぼ含まれなくなっているが、大きく明るいテレビを、子供などが近くから長時間見続けるのはなるべく避けたいところ。設定さえ行なえば、親が逐一注意を促さなくてもアラートが自動で表示されるので、小さな子供がいる家庭では重宝される機能と思う。

近すぎアラートの設定画面
カメラの測定機能を使って、距離を測定する事も可能

「自動省電力モード」は、ユーザーが一定時間、テレビの前から離れた場合にテレビの使用電力を自動で抑える機能。これはシンプルに、テレビで電力を最も使う部分の“光源”を強弱するものだ。液晶の場合はLEDバックライトの光量、有機ELの場合はパネルに流す電力を弱め、“省エネモード”で動作させる。

省電力モードに入る時間は、1分、3分、5分……などから選べ、省電力効果も「弱」「強」から選ぶことができる。

あくまで電力を抑える機能で、長時間経過しても電源が自動で落ちることはない。配達や電話、手洗いなど、“電源を切るまででもないけれど、しばらくテレビの前を離れるような状況”の場合においてもこまめに自動で省エネできるのは、地味ながらも今後必要になってくる機能だろう。

自動省電力モードの設定画面

なお、今回体験した主要4機能……「画音質調整機能」、「ジェスチャーコントロール」、「近すぎアラート」、そして「自動省電力モード」のうち、9月中旬現在、提供開始しているのは、画音質調整機能と近すぎアラートの2項目のみ。ジェスチャーコントロールと自動省電力モードは、現在アップデートの準備中で近日公開される予定だ。

また、BRAVIA CAM同梱の「A95K」シリーズに関しては、画音質調整機能と近すぎアラートを含む主要機能が提供前となっている。

BRAVIA CAMは「あると意外に便利」。今後の進化に期待

BRAVIA CAMの発表当初は「テレビにカメラなんて……」と正直思ったものだが、いざ様々な機能を体感してみると「あ。あると意外に便利なのね」と感じる事ができた。

個人的に、最も興味を持ったのが「画音質調整機能」。

現状の「映像の明るさ」「ボイス成分の強調」、そして「音のバランス」の3項目だけでは、AV Watch読者のような“ガチ勢”には物足りないとは承知しているが、例えば今後、視聴位置や視覚特性を踏まえたHDRや超解像を最適化したり、ユーザーを認識して、360RAなどで取得した個人の聴覚特性をブラビアの音質調整に生かすなどすれば、テレビとインカメラの連携が活躍する場面が大幅に増しそう。また、行く行くはカメラがユーザーの喜怒哀楽を認識して、それをレコメンドに生かす、なんてことができるかもしれない。

BRAVIA CAMの今後の進化に期待したい。

阿部邦弘