レビュー
7mm DDとは思えない流石のサウンド、ゼンハイザー「MOMENTUM True Wireless 4」を聴く
2024年3月12日 08:00
3月1日に発売されたゼンハイザーブランドの完全ワイヤレスイヤフォン最上位機種「MOMENTUM True Wireless 4」(MTW4)。音質はもちろん、アクティブノイズキャンセリング(ANC)の強化など、あらゆる面で“魅せる進化”を果たしたという。
そんな新モデルを借りて実力をチェック。結論から言えば、気になる部分もあるものの、実直に音質を極めるゼンハイザーの最上位機にふさわしい1台だった。
スペックおさらい。伝統のTrueResponseダイナミックドライバーで音質を追求
MTW4は、2022年発売の「MOMENTUM True Wireless 3」(MTW3)以来、約2年ぶりに登場したゼンハイザー完全ワイヤレスイヤフォンの最上位機種。MTW3で採用した高品位DACチップとQualcomm製Bluetoothチップの2チップ仕様を継承しつつ、音質とANCの強化、次世代オーディオコーデックのLC3対応、バッテリーの強化など、全方位的に性能が強化された。実売価格は49,940円前後。
搭載ドライバーは、MTWシリーズで連綿と受け継がれている自社開発の7mm径TrueResponseダイナミックドライバー×1基。緻密なチューニングで高域のレスポンスに磨きをかけたといい、中音域の解像度がよりクリアとなって、広大なサウンドステージを提供するという。
最近のイヤフォン市場では、MEMSドライバーを採用したモデルが話題だが、そういった新技術に飛びつかず、長年使っているダイナミックドライバーを継続使用して、チューニングでさらなる高音質を目指すあたりは、老舗ブランド・ゼンハイザーらしい姿勢の表れと言える。
ANCについては、新しいノイズ低減マイクとノイズフィルターデザインのアップグレードにより、MTW3よりも「前モデルよりも自然で高いパフォーマンスのノイズキャンセリングになった」とする。新マイク採用により、外音取り込み時のホワイトノイズも低減した。
BluetoothコーデックはSBCとAAC、aptX、aptX Adaptive、aptX Losslessをサポート。また今後のアップデートにより次世代オーディオコーデックのLC3やAuracastにも対応する。
バッテリー持続時間は、イヤフォン単体ではANC OFF時で最大7.5時間、ケース併用では同30時間と、ケース併用時の駆動時間はMTW3から2時間強化。バッテリー自体も1年など長期間使用してもパフォーマンスが低下しづらい仕様に改良されており、長い期間でも安心して使えるようになった。
カラーバリエーションはBlack GraphiteとWhite Silver。今回はBlack Graphiteモデルを借りている。
音を聴いてみる。新世代ドライバー「MEMS」にも迫る高音質
ケースはファブリックを使った高級感ある仕上がりで、これも初代MTWから受け継がれている特徴。イヤフォンの形状はMTW3でリファインされたものを継承しつつ、アクセントとしてメタリックカラーがあしらわれた。
デザインが変更される前の「MOMENTUM True Wireless 2」('20年発売)と比べると、装着時に耳と当たる部分が減ったことで、よりストレスなく装着できるようになった。
またアプリ「Smart Control」からはイヤーピースのフィットテストが可能で、自分の耳にあったサイズのイヤーピースを選ぶことができる。付属するイヤーピースはXS/S/M/Lの4サイズ。またS/M/Lのイヤーフィンも付属する。
さっそく音質をチェック。今回はiPhone 13 Proとペアリングして、音源にはApple Musicを使用した。まず印象的なのが、解像感の高さ。「宇多田ヒカル/BADモード」では、宇多田の透き通るようなボーカルがスッと耳に飛び込んでくる。さまざまな音が混じり合う間奏部分でも、ひとつひとつの音をしっかり聴き取れるので、より音楽の世界に没入できる。
この解像感の高さはダイナミックドライバー1基で鳴らしているとは思えないもので、最新のMEMSドライバーを採用したNoble Audio「FALCON MAX」と比べても、ほとんど遜色ない解像感と繊細な描写力に、思わず「7mmのダイナミックドライバーで、ここまでの音を引き出せるのか」と唸らされた。
低域も「ズンッ! ズンッ!」と、しっかり締まりがありつつ量感も感じられ、気持ちよく音楽を楽しめる。アニメ「マッシュル-MASHLE- 神覚者候補選抜試験編」第2期オープニング曲で、世界的ヒットとなっている「Creepy Nuts/Bling-Bang-Bang-Born」のようなヒップホップとも相性バツグンで、思わず体を動かしたくなってしまうほど。量感がありつつタイトなので、低域にボーカルが埋もれてしまうこともなかった。
「米津玄師/地球儀 - Spinning Globe」のような音数の少ない楽曲でも、クリアなボーカルとタイトで量感のある低域は健在。曲中に聞こえる小さなギシギシと軋み音もしっかりと再現してくれる。ただサウンドステージは、競合製品と比べても一段コンパクトに感じられた。
ソニー、アップルと聴き比べてみた
MTW4は約5万円のハイエンドモデルということで、比較的価格が近く、人気も高いソニー「WF-1000XM5」(直販価格41,800円)」、アップル「AirPods Pro(第2世代)」(直販価格39,800円)とも聴き比べてみた。
WF-1000XM5で「宇多田ヒカル/BADモード」を聴いてみると、MTW4よりも一段深い低域が耳に飛び込んでくるが、少しリバーブが効いているような“滲み”を感じる。宇多田のボーカルも同様で、ホールのような会場に音が響いているような印象を感じる反面、MTW4と比べると解像感が少し下がったような印象だった。
「Creepy Nuts/Bling-Bang-Bang-Born」も同様で、MTW4と比べると全体的にリバーブ感が強く、特に低域が少しボワボワとしてしまい、ボーカルが埋もれてしまう印象を受けた。
AirPods Pro(第2世代)で「宇多田ヒカル/BADモード」を聞くと、音の解像感はMTW4・WF-1000XM5よりも1~2段大人しくなり、宇多田のボーカルにも少しザラつきを感じる。低域も沈み込み、タイトさともに、もう一歩踏み込んだ強さが欲しくなってしまう。
一方で音の広がり、サウンドステージの広さはAirPods Pro(第2世代)が一歩抜きん出ており、そこまで強力ではない低域感と相まって、聴き疲れしにくい印象だった。
ANCについても電車内で試してみたところ、ひときわ騒音の大きい連結部付近でも走行音などのノイズはほとんど聴こえず快適で日常使用で不満は感じられず、このあたりはノイズキャンセリングに定評のあるWF-1000XM5やAirPods Pro(第2世代)にも引けを取っていない。
外音を取り込むトランスペアレントモードは、アプリから取り込み量をコントロールでき、「中」程度の取り込み量だと「サーッ」というホワイトノイズが少し聞こえる程度で、自然に周囲の音を確認できた。
市場には、ANCとトランスペアレントモードを切り替えると音質が変化するものもあるが、このMTW4ではそういったこともなく、どちらのモードでもクリアなボーカルやタイトで深みのある低域を味わえる。
ちなみに、ケースはMTW4が前述のとおりファブリック仕上げで、WF-1000XM5は梨地のようなサラサラとした仕上げ、AirPods Pro(第2世代)はツルツルとした光沢感ある仕上げ。どれに高級感を感じるかは個人差があるところだが、個人的にはファブリック仕上げMTW4が手触りもよく、所有欲を満たしてくれるデザインに感じられた。
“音にこだわるゼンハイザー”最上位にふさわしい仕上がり。気になるのは「割高感」
約2年ぶりに登場したゼンハイザーの最上位完全ワイヤレスイヤフォンのMTW4。伝統のダイナミックドライバー1基のみで新世代ドライバーに迫る音質を実現しているあたりは、さすが“音にこだわるゼンハイザー”といったところ。またANCも日常使用で大きな不満を感じることはほとんどないレベルに達しており、イヤフォンやケースの質感も含め、最上位モデルにふさわしいものに感じられた。
一方で気になるのは、ほぼ5万円の実売49,940円前後という価格の高さ。比較したWF-1000XM5やAirPods Pro(第2世代)と比べても割高感は強い。
またMEMSドライバーを採用したNoble Audio「FALCON MAX」(直販価格39,600円)や、充電ケースに液晶ディスプレイを搭載したJBL「TOUR PRO2」(直販価格33,000円)のように、競合他社から挑戦的なイヤフォンが登場している状況を踏まえると、これまでと同じドライバー、外観を突き詰めた“正当進化型”であるMTW4は、どうしても真新しさに欠けてしまい、より割高感を強く感じてしまう。
音質については「ドライバーを変えずに、よくここまで突き詰めたな」と唸ってしまうほどの完成度の高さなので、オーディオ好きにとっては“悩ましい魅力”を抱えた1台と言えるかもしれない。