麻倉怜士の大閻魔帳

第53回

マランツ「AV 10」は映画館に勝つための武器。'23年印象的だったAV製品10選 後編

マランツ「AV 10」

2023年も残りわずか。今年もハード・ソフトを問わず、さまざまな新製品、新技術が発表された。今回も麻倉怜士氏が実際に体験したもののなかから、特に印象に残ったもの10選を前後編に分けて紹介する。

イングリッシュレクトリック「EE1」

イングリッシュレクトリック「EE1」

――後編はテレビなどの映像機器やSACDなどコンテンツ関連がラインナップされました。まずはイングリッシュエレクトリックの「EE1」。LANケーブル間に挟むことで、ケーブル内の高周波ノイズを減衰させるというネットワーク・フィルターです。

麻倉:イギリスの老舗ケーブルメーカー、コードカンパニーのサブブランドでネットワークAV機器専門の「イングリッシュエレクトリック」第2弾製品です。

手のひらに乗るコンパクトサイズの製品

音楽を聴く際、ネットワークプレーヤーはとても便利なアイテムですが、ネットワークオーディオでは、あまり細かな抑揚が出ず、確かに音は綺麗だけど、なんとなく薄っぺらい、美しいけど奥行きがない、という印象を受けることが多いんです。なので、私は基本的にPCオーディオをメインに使っています。

PCオーディオとネットワークオーディオを比べると、PCオーディオは自分が関与できる領域が多いのです。ネットワークオーディオでは、ネットワークプレーヤーよりも前の段階、つまりケーブルなどネットワーク周りをいじることはできますが、ネットワークプレーヤーの中身にユーザーが手を加えることはできません。

PULSHUTのシート
麻倉氏がPCオーディオに使っているノートPC。上下をPULSHUTのシートでサンドイッチしている

PCオーディオの場合、例えば音に不満があれば再生プレーヤーソフトウェアを変えることができます。私の場合はPCのメインメモリにPULSHUT(パルシャット/旭化成が開発した高機能不織布)を使ったノイズ抑制テープを貼っていて、PC自体もPULSHUTのシートで上下をサンドイッチしています。

ほかにも電源ケーブルをALLEGROに変えていますし、USB DACやコンポーネントなど、PCオーディオはいろいろな部分を自分好みに変えられますが、ネットワークオーディオは製品として完結していて、そういった部分に手を加えられない。その上、音が薄っぺらいわけです。これはネットワークのノイズが多く入ってきてしまうからです。

端子に挿す機器用ノイズポンプ「グラウンドアレイ」
EE1は左右にLANポートを装備。スイッチングハブとネットワークプレーヤーの間に使用すると特に有効だという

そこで活躍するのがEE1です。コードカンパニーの製品としては、端子に挿す機器用ノイズポンプ「グラウンドアレイ」を、私も使っていて感心させられましたが、グラウンドアレイでも使われていた、ノイズを吸収し、熱に変換して発散させる技術を応用している製品です。

実際使ってみると、EE1のあるなしでは音楽はまったく違う表情になりました。音楽としての情報量が格段に増えるのです。「情家みえ/エトレーヌ」CDの「チーク・トウ・チーク」では、冒頭のベースのキレやスピード感、情家みえの歌の伸びと勢い、潤い感、ビブラート感、息づき感、ニュアンスの豊潤さ……が、断然違います。ひとことで言えば“音楽に生命感が圧倒的に付与された”印象です。スピーカーと聴き手の間に何の障害物もないようなダイレクトな表現力で、濃密に伝わってきました。

しかも、このEE1はネットワークストリーミングだけでなく、音楽ファイルのダウンロード時にも効果があって、EE1のあるなしで音が変わるんだそうです。私も実際に試してみました。

ノイズ対策が施されたコードカンパニーのLANケーブル

普段使っている、どこにでもあるようなLANケーブルと、コードカンパニーのケーブル+EE1を使って、おなじ音楽ファイルをダウンロードして比較してみると、ネットワーク環境で聴くほどの違いではありませんが、音のディテール感、スピード感、生命感、ワクワク感のようなものが違って聴こえました。ただ、ネットワークストリーミング時にEE1を使った際の効果を100とすると、ダウンロード時の効果は40くらい。それでも細かいところまで聴くと確かに違いがあるのです。

またネットワークオーディオで、もっともダメなポイントは“コンテンツが相手任せ”なところ。この前まであった音楽が急に聴けなくなったりするわけです。

――先日も、引退した安室奈美恵さんの楽曲配信が突如停止されてニュースになりました。

麻倉:ネットワークストリーミングサービスではありませんが、e-onkyo MusicもQobuzへのサービス切り替え準備のタイミングで、WAVやMQA、DXDなどのフォーマット配信がなくなりましたよね。私も慌ててMQAをダウンロードしましたよ。

音楽も映像も、サブスクで視聴していると、もともとあまりクオリティは高くないし、突然なくなってしまう可能性もあるわけで、どちらも(ディスクやダウンロード購入で)手元に置いておくことが大事だなと改めて思いました。

クラシック専門音楽レーベル「ART INFINI」

――続いては製品ではなく、クラシック専門の音楽レーベル「ART INFINI(アールアンフィニ)」を選ばれています。「一切の妥協を許さないクオリティ至上主義」がレーベル・ポリシーだそうですね。

麻倉:今取材を進めているもののひとつに「日本のアクティブなクラシックインディー」というものがあります。今3社ほど取材していて、そのなかの1社がアールアンフィニでした。

取材したレーベルのひとつで、妙音舎が運営する「MClassics」

取材した3社は、どこも音がとても良いのです。みなさんインディーズ・レーベルなので、特にクオリティにこだわり、すごく品質の高い音源をハイレゾで制作しています。

興味深かったのは、元音源をDSDで録音するか、DXDで録音するかという点。最初に録音するファイル形式を尋ねると、アールアンフィニ以外の2社はDXDなのです。384kHz/24bitとか352kHz/24bitなどですね。ところがアールアンフィニはDSDで録っているんです。

DSDのほうが音が良いとよく言われていますが、DSDは編集ができないフォーマット。なので、編集作業のために一度DXDに変換し、もしDSDフォーマットで販売するなら、再変換が必要になります。つまり、DSDで販売するにしても“大元”はDXDになるわけです。

世界的にもハイレゾにこだわるプロデューサーは、ほとんどがDXDで録音していて、それは「DSD11.2MHzで録音すると、編集するときにDSDからDXDに一度変換しないといけないから、その時に変換ミスがあるかもしれないと考えると、DXDで録音をした方がいい」と考えているから。これは論理的な考え方だと思います。

しかし、私は音楽には論理を超えたところがあると思っています。そして「やはり最初の録音をDSDフォーマットにしたほうが音がいいぞ」というのが、アールアンフィニの思想なのです。

もちろん、一度DSDからDXDに変換して編集し、もう一度DSDに変換し直すという作業工程には、「音的にどうなの?」という見方も当然ありますが、どんな編集・変換をしても、大元の音源が持っている味というものは出てきます。

つまり大元をDSDにすれば、DSD的な音のフレーバーというものはDXDやリニアPCMに変換しても残っている。そして、アールアンフィニの場合、その音が本当に素晴らしいのです。

リニアPCMとDSDの違いは、CDとハイレゾの違いに似ているところがあって、DSDには少し人間っぽい温かい感じであるのに対し、リニアPCMは少しクールで客観的、そっけないというか……。クリアで、透明な雰囲気が、DSDとは違いますね。

アールアンフィニは、そのDSDならではの音を、とてもリッチに使っていて、響きが綺麗で、音に透明感があります。なにより演奏家の熱量も伝わってくるのです。

代表の武藤敏樹さんに話を聞くと、演奏家に対して「あなたが通常弾いている状態を100とすると、この収録では120で弾いてください」とオーダーするそうです。なぜなら「音楽的なエネルギー感は、マイクを通すと100が80以下になってしまうので、はじめから120で弾いてもらえると、マイクを通しても100になりますから」と。その“120で弾いているエネルギー感”や“熱量感”が、DSDで録ったものを聴くと伝わってくるのです。

UAレコード「情家みえ/エトレーヌ」SACD

ジャズシンガー情家みえ初となるSACD「エトレーヌ」

――続いては、麻倉さんとオーディオ評論家・潮晴男氏が手掛ける高音質音源専門レーベル「ウルトラアートレコード(UAレコード)」で初となるSACD「情家みえ/エトレーヌ」。なにやら、ここには盤面の色が違うディスクがありますが……。

麻倉:8月に発売した、UAレコード初のSACDです。これをアジア圏では最大級のオーディオ・ビジュアル展示会「香港AVショー」でお披露目したところ、3日間で200枚以上売れました。この200枚という数字は、事前に香港に送っていた枚数だったので、もっと在庫を用意できていれば、さらに売れたはずです。

「エトレーヌ」自体はCD版とSACD版がありますが、それぞれ出自が異なります。CDはProToolsを使っていて、SACDはSTUDER A-800で録音した2インチ/76rpmのアナログマスターテープから作りました。なぜSTUDER A-800で録音していたかというと、LP盤を制作するからで、そのアナログマスターからSACDを作ったのです。

なぜ今回SACDに挑戦したのかというと、CD版が3,000枚ほど売れて在庫がなくなってしまったから。次にディスクを作るならSACDを作ってみようということで、SACD版をリリースしました。とても良いものができたのですが、その制作過程で貴重な体験ができました。

当初はデザイン優先で、ディスク盤面を赤色に塗っていたのですが、CD製版を行なうソニー・ミュージックソリューションズに持っていったら「緑のほうが良いですよ」と言われたのです。

どういうことかというと、CDプレーヤーがディスクを読み込む際、盤面下からレーザーが当たりますよね。すると、その反射光が横に散らばって迷光になります。その時、盤面が赤色だと迷光がそのまま反射され、読み取り口に迷光が戻ってしまいますが、補色の緑色だと迷光が吸収されるので、音質が上がるのです。

そこで、今回はディスクの色違いを数種類作ってみました。具体的には「デザイン優先で赤地にロゴをのせたもの」「音匠仕様レーベルコートなどと同じ緑色を地に白いロゴ文字をのせたもの」、そして「白い地の上にロゴの部分を抜いた緑色をのせたもの」の3種類です。それぞれ試聴した結果、「白い地の上にロゴの部分を抜いた緑色をのせたもの」がもっとも迷光の吸収率が高くなり、いちばんアナログ的な香りがしました。

そして「それなら盤面をすべて緑色にしてしまえば良いのでは?」と、実験をしてみました。ひとつはCDの隅や中央に薄くタイトルなどを印刷したもの、もうひとつはそういった表記を一切せず、ただ緑に塗ったものです。聴き比べてみると、元は同じなのにこんなに違うの?という印象ですよ。

――聴かせてもらいましたが、これは盤面すべてを緑に塗ったほうが断然良いですね。

麻倉:そうなんですよ。ただ、全面緑にしてしまうと、誰の、どのディスクなのか、さっぱり分からなくなっちゃう(笑)。利便性というか、ユーザビリティを考えると緑一色にはできません。これからの増プレスでは、どのように色と文字印刷の関係を最適にするかもう一度、考えたいと思います。こういったトライができることが、ディスクメディアの面白さだと思うのです。

配信では基本的に同じものしか聴けませんが、パッケージという要素が加わると、それが予想以上に最終的な音に影響してくるのです。1980年代には、高音質化のために、CDの端を緑のペンで塗るという人もいましたよね。

そもそもSACDの「音匠仕様レーベルコート」も、ソニーがDVDを使って、7色に塗り分けて試験した結果、緑が一番(迷光の吸収率が)良かったから生まれたもの。それを徹底的にやってみたら、やはり音質もすごかったわけです。

逆に言えば、大衆的にはサブスクが主流で、ディスクはよりこだわる人がたどり着くメディアになったことで、こういったトライができるようになったなと思います。

先にも述べたようにネットワークオーディオは音が細いなと思ったときに、改めてディスクを聴くと、魂のこもった音楽のエネルギー熱量が伝わってきて、音が太いなと感じます。そういったこだわりが、2024年もトレンドになってくれたらいいなと思いますね。

シャープ「FS1ライン」

QD-OLEDを採用したシャープの65型4K有機ELテレビ「4T-C65FS1」

――次は映像機器。シャープのQD-OLEDを採用した4K有機ELテレビ「FS1ライン」です。

麻倉:シャープは2020年、LGのWOLEDパネルを使って有機ELテレビ市場へ参入しましたが、先発メーカーの壁が厚かった。特にパナソニックを追い越せなかったなという印象です。営業成績自体は良かったのですが、世間的なイメージがどうしても向上しませんでした。そこでサムスンの第2世代QD-OLEDパネルを使うことで勝負に出たわけです。

そんなQD-OLEDを採用したFS1シリーズは、最終製品を見てみたら、ものすごく良くなっていました。以前の連載でも話しましたが、私にとってシャープの絵作りで印象的なのは、2008年頃にリリースされたRGBのLEDバックライトを採用したXS1。強烈な赤色で当時「地獄のお釜色」と表現しました。それくらい“ハデハデな赤色”だったのです。

シャープはひとつ色にこだわると、徹底的に行くところまで行くようなところがあって、(FS1の)試作機を見たときも「かなりすごい色だな」と思いました。WOLEDとQD-OLEDでは色に違いがあって、色の彩度感やカラーボリュームが大きいことがQD-OLEDの強みなので、それに則った絵作りでした。

それが最終的な製品では、バランスがうまく整ってきて、過剰な色の強さ、激しさよりも、色の階調感が増えるなど、気品が出てきた印象でした。原色もきれいですが、特に肌色などの中間色のクオリティが高かった。またWOLEDを使っていては、どうしても表現できない領域というものがあって、そこも綺麗に表現していて、色で差別化できているなという印象です。

QD-OLEDを国内メーカーでいち早く採用したのはソニーで、海外では第2世代のQD-OLEDパネルを使ったモデルも発売していますが、日本にはまだ導入されていません。QD-OLEDの第1世代と第2世代で大きく違っているのは輝度です。

またQD-OLEDが抱える問題に、外光反射が悪影響して、黒が浮く、暗部がノイジーになってしまう点があります。これは第1世代から指摘されていて、この問題がある限り、QD-OLEDを手放しで褒めることはできませんが、(シャープが使っている)第2世代パネルではある程度対策されています。

パネルが持っている色の力をうまく引き出して、トータルとして高性能な有機ELテレビになっていると思います。先発メーカーと違う方向性、切り口が入ってきたことでシャープの独自性が生まれてきた点が良いですね。

そもそも液晶テレビが生まれる前は、どのメーカーも自社でCRTから作っていました。完全に垂直統合で、他社とは素材から違う製品が出ていましたが、液晶、有機ELと経て、基本的には使っているパネルが各社同じになり、違いが絵作りだけになってきました。

そうすると差別化の余地が少なくなってくるので、どのメーカーからも似たような製品が出てきます。そうしてテレビがつまらない市場になりつつあったところに、QD-OLEDという新しいパネルを使って、差別化を図る動きがようやく出てきました。

この流れは2024年も続くと思います。他にもQD-OLEDを採用するメーカーが出てくるかもしれませんし、(WOLEDパネルを製造する)LGも新しい方向として、色周りに力を入れてくるはず。(QD-OLEDを製造する)サムスンが色で攻めているわけですから。

WOLEDは、サブピクセルにホワイトがあることで輝度が大きく上がるのですが、逆にカラーボリュームを低くする原因にもなっています。実は最新のMETAパネルでは、ある輝度以下ではホワイトを使っていないそう。これでカラーボリュームが下がるのを防いでいるわけです。

今後はより明るい映像でもなるべくホワイトを使わないような方向性に行くのではないか、というのが私の予想です。つまり、有機ELのトレンドは従来の輝度から色に移行すると思います。輝度はある程度の水準まで来たので、パネルメーカー2社は色に対して力を入れてくるのではないでしょうか。

マランツ「AV 10」&「AMP 10」

「AV 10」

――最後はマランツの15.4ch AVプリアンプ「AV 10」と、パワーアンプ「AMP 10」。麻倉さんが自宅に導入し、前回の連載で比較試聴やインプレッションをお届けしました。

麻倉:特にAV 10は革命的とも言える製品です。CD、つまり映像のないコンテンツが、とてもビビットに、高級なCDプレーヤーをアナログ接続で、高級なプリアンプで聴いているような音で再生でき、映像付きコンテンツでも“聴こえない音が聴こえてくる”ような仕上がりでした。

映画といえば、先日Dolby Cinemaで映画「ゴジラ-1.0」を観に行って、音の凄さに驚きました。

映画の音には「台詞」「音楽」「サウンドエフェクト」の3要素があります。Dolby Cinemaで観た「ゴジラ-1.0」では、まず台詞がしっかりスクリーンの中央に定位していて、音像感がとてもしっかりしていました。当然SEも素晴らしく、ゴジラ映画ですから、破壊音や咆哮などの迫力が凄まじかった。

そしてなかでも感心したのが音楽。やはり観客は「いつ、あのゴジラのテーマが流れるのか」とワクワクしているわけです。それが「ここぞ」というタイミング、ゴジラがもっとも暴れまわる場面で流れるわけです。しかもチェロとコントラバスがベースになって、その上にメロディが乗っている、かなり厚みのあるハーモニーで流れてくるのです。感情的に盛り上がるなと感心しました。

そして映画における音の価値観について、さらに衝撃を受けた出来事もありました。というのも、最近は劇場の音響設備も良くなっています。先日109シネマの音響を体験する機会があったので、先程語った「情家みえ/エトレーヌ」のCD版を持ち込んで再生してもらったところ、まったく“普通の音”で驚かされました。

映画館の音響というと「クセっぽくて、膨らみがあって、強調感があって、いかにも作ったような音」というイメージがありました、だからこそ、ホームシアターを作るならピュアオーディオ、Hi-Fiオーディオにしましょうと言ってたわけです。

ところが、今は映画館の音が良い。「エトレーヌ」も普段、自宅で聴いているのと遜色ないクオリティでした。フラットな特性で、変なイコライジングもかかっておらず、なおかつ音のキレなどのバランスも良かった。

これまで音質という点では、ホームシアターのほうが映画館よりも上でした。「映画館の音はイマイチだから、ホームシアターで本格的な音の環境を整えましょう」と言ってきたわけです。それが今は映画館のほうがホームシアターにチャレンジしてきている。これは当然、大元である映画自体の音が良くなっていることに加え、映画館の機材も良くなっているからです。

109シネマに関しては、スピーカーだけでなく、パワーアンプも吟味して選んだそう。ハイパワーのアンプを使っていて、これも「質」を基準に選定したそうです。

そうなってくると、ホームシアターのほうも音をパワーアップさせる必要があります。先日、雑誌「HiVi」で“最強ホームシアター環境”で映画を観るという企画があり、ソナス・ファベールの「Stradivari G2 Anniversary」を4台、Soulutionのパワーアンプも複数用意して、総額5,000万円前後の環境で「ウエスト・サイド・ストーリー」を観ました。

そこで「私が今まで聴いていた音は何だったんだろう」と驚かされました。それくらいディスクの中に情報が詰まっていることがわかりました。音としてもバランスも良いですし、圧倒的に質も高い。次元を超えた映画サウンドを味わえました。まだホームシアターにも、やるべきことがいっぱいあります。個々のスピーカーを超ハイエンドに変えれば景色が変わってきます。

「AMP 10」

それはアンプも同じで、AV10とAMP10は、これまでのAVアンプにおける水準を1段も2段も上げてくれました。デノンのフラッグシップ機「AVC-A1H」と比べると、AV 10はピュア志向で質感の良さも味わえます。これまで使っていたマランツの「AV-8805」でも結構良いと思っていましたが、やはり上には上がありました。

またディスクでしか味わえない楽しみは「同じディスクから、どれだけ情報を引き出せるか」というところ。SACDの色塗りのように、ディスクの方もこれだけ頑張っているわけですから、再生装置のほうもそれを引き出す方向に行くべきという点で、AV10とAMP10は重要な製品ですね。

AV 10とAMP 10は今年の最高傑作であり、これから映画館の音響設備と戦わなければならないホームシアターにおいて、強力な武器になると思います。それと同時に、ハイクオリティを目指すホームシアターのひとつの星として輝く存在になるのではないかと思います。

麻倉怜士氏。UAレコードのアナログ盤「エトレーヌ/情家みえ」とともに
麻倉怜士

オーディオ・ビジュアル評論家/津田塾大学・早稲田大学エクステンションセンター講師(音楽)/UAレコード副代表